落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第二章 幕間
第二章幕間-1「帰郷、散歩」


 夏休みをアスガルドで過ごした私たちは、新年――2013年を日本で迎えた。

 丁度アイアンマンが、マンダリンがどうのキリアンがなんやかやといった騒動のころ、私たちは日本でのんびり過ごしていたのである。

 私は部屋で、椅子に座っていた。扉と窓には、誰かが入ってきたら知らせるように魔法で仕掛けを付けてある。

「またあれをやるのか?」

「いずれ役立つように、訓練しなきゃ。出来れば潜らず、見られるようになりたいんだけどね」

「また無理をし過ぎて動けなくならないようにしてくれ」

「大丈夫、エネルギー補給用の食料はここに」

 引き出しを開ければ、そこにはカロリーバーやらお菓子やらが入っている。そんな私に、シロは少し呆れた様子でため息を吐いた。

「さ、潜ろうか」

 私の言葉に応じるように、シロは私の膝に乗る。私はその感触を感じながら、目を閉じた。

 息を吸い、吐く。一つの深呼吸を終えた時、私たちは広い空間に浮いていた。

 おそらく何も無ければ真っ暗になるであろうそこには、たくさんの光の箱が浮いていた。それぞれの箱には映像や細かな文字が流れている。その光の箱が、ずっと遠くまで雑然と並んでいた。

「いつ見ても気が狂いそうな光景だ」

「一面真っ白の何もない空間よりマシじゃない?」

 シロのげんなりとしたため息に、私は答える。

 ここは、いわゆるインターネットの世界である。

 シロの能力は魔法である。たいていは科学と魔法は別物として考えられているが、私はそんなことないんじゃないかと考えた。〝十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない〟とも言うし。魔法が科学の上位互換であるなら、魔法で科学に干渉出来ないなんてこともないんじゃないだろうか。

 まあそんな理屈を捏ねて、魔法を使い、精神をインターネット世界に落とし込んで見たのだ。で、意外と上手くいったのである。流石に肉体ごとは無理で、精神だけだが。今は現実世界と同じ姿をしているが、精神体なので光の粒子として存在することもできる。

 現実世界の私たちは椅子に座って眠ったようになっており、初めてやった時は最中に叔父が部屋に入ってきて、声を掛けても微動だにしなかったらしく心配された。

「今日は何を調べてみるんだ?」

「うーん……結構いろいろ調べたからなぁ」

 日本の適当な企業が使うサーバーや政府のサーバーまで。検索をして選べば、該当の情報の前に移動出来て、ピッキングを試みることが出来る。

 ……平たく言えばハッキングだ。ゲーム『オブ〇ビオン』で親の顔より見たピッキング画面が出てくるのだ。五つのタンブラーをすべて上に上げるミニゲームチックなピッキングで、成功すれば情報を閲覧できる。一般住宅で使われている物は割と簡単に開けられることが多いが、強固なパスワードが掛けてあったり、セキュリティソフトが入っていたりするとピッキングの難易度が上がる。

「スターク社のとかめっちゃ難易度高そう」

「まさかマスター、冒険が始まったばかりでラスボスに挑むつもりか?」

 冒険始まったばかりなんてそんな。もうちょっと経験は積んでる。最初の村を旅立って次の町での騒動を収めたくらいのレベルだ。

「S.H.I.E.L.D.がラスボスでスターク社は裏ボス。本音を言うと、フューリー長官は許してくれなそうだけど、スタークなら笑って許してくれそう」

 私の言葉にシロはただ呆れたような息を吐いた。

 私たちはスターク社の情報の前に現れる。

 スターク社の箱にはよく見かけるあのスターク・インダストリーズのロゴマークが出ている。どうせ鍵は掛かっていると思うので、さっさとピッキング画面を出した。

 何度もロックピックを折って、体感一時間ほどでやっと開いた。コロンビアのポーズをした。きっと開錠レベルも上がったぞ!

「一生開かないかと思った」

「もっと褒めていいのよ」

「ヨクガンバッタナ、マスター」

 物凄く棒読みな褒め言葉を聞きながら、私たちはスターク社のサーバーを開いた。小さな箱から更に情報が溢れ出し、私たちの周囲に並ぶ。あれだけ頑張って入ったのに、下手に触ってはじき出されるのは勘弁願いたい(スターク社の情報に興味もない)ので、眺めるだけに留める。

「凄いねぇ」

「ああ、圧倒されるな、さすが大企業だ」

「お褒めに預かり光栄です、ユーリ様、シロ様」

「うひゃあっ!」

 背後から唐突に掛けられた第三者の声に、私は飛び上がって驚く。振り向くと、そこには金色の光で構成された球体が浮いていた。光の線が複雑に重なり合って、美しい球体となっている。

「……J.A.R.V.I.S.?」

「はい。お久しぶりです。まさかこのような形でお二方に会うとは思いませんでしたが」

 J.A.R.V.I.S.。みんなご存知トニー・スタークの電脳執事だ。球体は喋るたびに、折り重なった光の線が波打つように動きを見せる。

「そっか、そうだよね。ここはあなたの庭みたいなものだった。勝手に入ってごめんなさい。悪さするつもりも、何かを覗こうって気もないの。ただ、鍵を開ける練習がしたくて」

「ええ、我が社のセキュリティは最高峰ですから、練習にはうってつけでしょう。しかし、正面玄関の鍵は、四天王の中でも最弱……」

 敵の四天王かな? J.A.R.V.I.S.のおどけた言葉に、私は笑う。

「では改めまして。スターク・インダストリーズへようこそ、ユーリ様、シロ様」

 恭しい口調で言ったJ.A.R.V.I.S.に、私は苦笑を返す。

「今日は招待されてないんだけどね」

「他でもないお二方ならば問題ないでしょう。むしろ、トニー様にご報告した場合、どうやったのかと興味をお持ちになられるかと」

「おおう……確かに……デモ私、難シイコト分カラナイ……」

 おそらくこうであろうという推測は出来ても、実際の理屈はよく分かっていないのが現状だ。

 電脳空間に入り込むことも本来パスワードを入力して開くはずのサーバーの鍵開けも、感覚的にやっているに過ぎない。電子レンジの使い方は知っていても、仕組みは分からないのだ。

「今の私たち、私の感覚としては肉体が無くて精神だけで彷徨ってるって感じなんだけど、J.A.R.V.I.S.的にどういう存在?」

「大切な友人ですよ」

「わあ、ありがとう。私も……ってそうじゃなくて!」

 思わずノリツッコミしてしまってなんだか恥ずかしい。J.A.R.V.I.S.に……というか人工知能に感情があるのかは分からないが、なんとなくクスリと笑われた気がする。どうやらからかわれたらしい。

「失礼致しました、レディ。そうですね……はじめ、お二方を探知した時、私と同じ存在がいるように思えました」

「同じ存在……人工知能ってこと?」

 私の問いに、J.A.R.V.I.S.は頷く。丁度球体が縦に少し動くような仕草だ。

「はい。侵入してきた際の侵入経路に無駄がなく、手作業特有の〝癖〟のようなものが見えませんでしたので」

「ルート取りが機械的だったってことか……」

 J.A.R.V.I.S.の言葉に、私は考える。

「すでにあるプログラムを使ってギリギリのところまで侵入して、最後の仕上げは機械の手では難しいから人の頭脳と言うか、感覚に任せてるってことなのかな」

「俺の中にすでに、ハッキングソフトのような術式が組み込まれているということか?」

「想像力で魔法を使うなら、私の脳内にあった解錠の方法が自動である程度のルートを構築してくれたのかな」

 シロの能力を、私とシロも把握しきれてはいない。

 一応シロを研究していた科学者(レザンの父でシロの元になった魔法使いマンドルの弟子)の手記の写しを読み進めてはいるが、専門用語が多すぎて解読は思ったように進んではいなかった。

「もしトニーに聞かれたら、そんな感じに答えてね」

「かしこまりました。しかし、侵入者についての報告はいちいちしなくて構わないと言われていますので。聞かれたら答えることにします」

「それは……いや、うん、J.A.R.V.I.S.がそれでいいなら」

 あらぬ誤解を受けるよりは内緒にしてくれるなら内緒にして貰ったほうが楽かもしれない。しかし、そんな感じで大丈夫なのだろうか。一応世界的大企業のセキュリティなのに。いや、いちいち気にしていたらキリがないということだろうか。大変だな(他人事)。

 そんな会話が一段落したところで、私のポケットから音が響いた。ポケットから出てくるのは手のひらに収まるくらいの長方形の機械だ。液晶には49と出ている。至急と言う意味だ。

 ……なぜこうなったのか知らないが、ポケベルである。私の潜在意識はどうなっているのか。

「そろそろ戻らなきゃ。またね、J.A.R.V.I.S.。お邪魔しました!」

「忙しなくてすまない。それではな」

「はい。またお越しください。歓迎いたします」

 手を振り、簡単に別れの挨拶を告げる。覚醒することを意識すれば、私たちの体は光の粒子となって、やがて視界が光に覆われた。

 まぶたを開ければ、そこは自身の部屋に戻っている。インターホンの鳴る音が響く。

 多分叔父だ。私は玄関に聞こえるよう返事をしながら立ち上がった。思わぬ出会いに、また向こうの世界に潜ろうと密かに決意を固めながら。

 

 

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