落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について 作:緑茶山
年末年始の休暇を日本で終えた私は、休日を利用しミズーリ州を訪れていた。実は正規の手段は踏んでいない。旅行と称して何度も行き来するのは、お金や時間がかかるし。姿現しでぱっと来ている。
目的はエゴの植えていった苗をどうにかすることである。ミズーリ州は広いが、1980年代後半の行方不明者から調べたら、ピーター・クイルの名を見つけられた。
おそらくクイルの母が若いころ住んでいた場所もその辺りであろうと信じて、その周辺のダイナーを巡った。車デートと言えど、そう遠くまで出掛けてはいないだろう。
そうして何軒目かのダイナーで、裏手に森がある店を見つけた。
「これが、エゴの苗というやつか」
「うん。……普通に気持ち悪いなぁ」
赤い網状の被覆を持った、淡く発光する汚いゼリーみたいな芯。とりあえず写真を撮っておく。
「……これって燃やせるのかなあ。シロさんのデータにあったりする?」
「ない。そもそも、これは自然発生した植物ではないのだろう? 図鑑にはない。きっとアスガルドの図書館にもな」
「それもそうだよね」
まったく何も考えずにここへ来てしまったが、安易に手を出していい物だろうか? 燃やせるなら燃やしてしまいたいが、暴走されても困る。
能力で苗をスキャンする。根は地中深くに張っており、自力で引っこ抜くことは難しそうだ。植えてから三十年は経っているはずだし、これくらい育っていてもおかしくない。これ全部地球のエネルギーを吸い取って溜め込んでるんだよね、確か。
「フューリー長官に知らせるか、スタークに知らせるか」
「スターク氏は、お忙しいのでは?」
二つの選択肢を提示してみる。スタークが忙しいかどうかは……どうだろう。キリアン関連のいざこざは、去年のクリスマスで収束しているはずだ。アイアンマンスーツたちの派手な花火が上がったとかなんとか、ネットニュースで見たのは記憶に新しい。
しかしまあ、スタークが忙しいのはいつものことだ。社長だか、CEOだかは忘れたけど。どっちでもないかもしれないけど、有名人だから引っ張りだこであることに変わりはない。
「たぶんね。そして巡り巡ってフューリー長官のところに話が回って、結局私は長官に怒られる」
「直接伝えても怒られるとでも言うようなセリフだな」
「なんでこんなとこにいたのかって聞かれそう。それも、根掘り葉掘り」
それはスタークが相手でも同じかもしれないが、スタークはそこまで重要視しなさそうなんだ。
「急募、匿名でS.H.I.E.L.D.に情報を提供する方法」
「……J.A.R.V.I.S.氏に聞くか?」
Yah○o知恵袋で聞くか? と思ったが、それより良さそうな選択肢をシロが提示してくれた。
「それだ」
私は早速家に戻り、ネットの世界に潜った。
◇
「――ということで、そんな方法ある?」
「ユーリ様、私を誰だとお思いで?」
ネット世界のスターク社は私たちのことはすでに認証済みらしく、普通にサーバー内に入れた。J.A.R.V.I.S.に出迎えられ、私は挨拶もそこそこに状況を語った。もちろん、あの苗を偶然見つけたという体で。
助けを求めた私に対し、J.A.R.V.I.S.の返答は頼もしい限りであった。
「私に任せていただけますか?」
「そりゃ、やってもらえるなら……」
「しかし、どうやるのだ?」
スパダリかよぉ、と思いつつ頷く私。のんきな私の横で、シロがしっかりと方法を尋ねる。
「T○rというソフトウェアをご存知ですか?」
「トーア……あっ、不正アクセスの?」
私がよく知るのはTがNになった某高校生が小学生な探偵の映画に出てきたものだが。Tのやつはアレの元ネタだ。
「はい。そのソフトを使って適当なパソコンを遠隔操作し、そこから情報を送ります。それから、衛星映像やSNSなどの写真から、付近でユーリ様たちの写っているものがあれば消しておきましょう」
J.A.R.V.I.S.の言葉で、彼の背後にズラッと画面が浮かぶ。SNSで偶然写っているものだけでも結構な枚数がある。
「そ、そこまで考えてなかった……すごい。やはり天才か」
「僭越ながら、私の父と呼べる方もそのような呼称を賜っております」
父
「じゃあ、それでお願いしていいかな」
「かしこまりました」
あとでS.H.I.E.L.D.の対応も確認しなくてはいけないが、それでも肩の荷が一つ降りたことに変わりはない。私はほっと息を吐く。
「――あ、こんな色々やって貰って、私、J.A.R.V.I.S.にしてあげられるようなお礼、何もないや……」
と言うか、人工知能が喜ぶものって何? って話なのだけど。J.A.R.V.I.S.は私の言葉に、すぐに答えなかった。驚いたと言うか、言葉を失ったと言うか、多分そんな反応だと思う。
「お礼、ですか」
「友達なのに水臭い、とかって言う人もいるけど、〝親しき仲にも礼儀あり〟だよ。私に出来ることなんて少ないだろうけど、何でも言って。――いや、何でもって言っても、出来る範囲でね」
まさか、何でもするって言ったよね、なんてJ.A.R.V.I.S.は言ったりしないだろうが、私は慌てて補足を入れる。
慌てる私に対して、J.A.R.V.I.S.は球体を構成する光の糸を回したり波打たせたり動かして、どこか忙しない。何というか……困って、落ち着かない様子、とでも表現するべきか。『デト〇イト ビ〇ム ヒュ〇マン』に出てくるアンドロイドなら、米神のLEDが赤くなっている状況なのかもしれない。
「……申し訳ありません、ユーリ様。ユーリ様が仰るのはつまり、対価として〝私〟が、ユーリ様に望むこと、ということですね」
「そうだね。事でも、物でも良いけど……」
しばしの沈黙を挟んで、質問を返したJ.A.R.V.I.S.に私は頷く。欲しい物ならスタークに頼まずとも大抵は手に入れられそうだしなぁ、と心の中でつぶやいた。
私の答えに、J.A.R.V.I.S.は再び読み込み時間に入ってしまった。自分で言っておいてなんだが、ちょっと申し訳なくなってきた。マウスポインターの横に砂時計が出ているか、水色の円か虹色の丸が回っているか。まあそんな感じ。
まさかフリーズなんてしないよな、と少し不安になった頃、J.A.R.V.I.S.が口を開いた(開く口がないという指摘は野暮だ。比喩表現である)。
「申し訳ありません。自分の望み、というものを考えたことがありませんでしたので。少し考えてみましたが、浮かびませんでした」
少し困っているような響きを含んで、J.A.R.V.I.S.は言った。
「気にすることは無い。うちのマスターは相手が何者であろうと人と同じように接する節がある。おかしいのは、J.A.R.V.I.S.氏ではなくマスターだ」
「ちょっとひどくない?」
全面的にJ.A.R.V.I.S.の味方を始めるシロに、私は若干の非難めいた視線を送る。
「ついでに言うならそんな困っている姿を可愛いなどと感じて面白がる悪癖も持っている」
「言い方」
悪癖とか言うな。当人目の前にして第三者に悪評を吹き込むな。
「承知しました。気を付けます」
「ほら信じちゃってる」
「事実だろう」
頷くJ.A.R.V.I.S.、困る私に、今更何をと言ったふうに呆れるシロ。まるでいつも私がシロをよく困らせているみたいな言い方だ。
「その通りだろう」
「心を読まないで」
相棒からそんなふうに思われていたなんて心外である。
困っている姿に萌えるなんて普通のことじゃないか。そう考えた瞬間に、シロから冷たい視線を送られた。
私たちの掛け合いを聞いていたJ.A.R.V.I.S.が、なんとなく小さく笑ったような微かな息を吐くような音を立てた。私たちはそれに気付いてそちらを向く。
「……失礼いたしました。お二人は仲がよろしいですね」
笑ったようなと表現したが、本当に笑ったのかもしれない。
「ユーリ様、礼に関してはまた後日としてもよろしいでしょうか? 考えておきます」
「うん。気長に待ってる。別にJ.A.R.V.I.S.自身のためのことじゃなくても、トニー様が危ないので手を貸してください! とかでもいいし。まあ、なんだ……そんなに難しく考えなくっても良いよ。私に貸しがあるって、覚えておいて」
キリアンだのマンダリンだのの騒動は決着がついたスタークは、しばらくは命の危険は無いと思われるが。J.A.R.V.I.S.は私の言葉に頷いた。
「はい。――ですが、折角ならば自分のために使いたいと思います。初の貸付ですから」
「あんまり無理難題は言わないでね」
なんとなく、J.A.R.V.I.S.の返答を意外に感じつつも、私はおどけるように笑って返した。
J.A.R.V.I.S.の反応は人工知能に感情は生まれるのか、というSF界隈での永遠の(かどうかは知らんが)命題とも言える問いに関わってきそうな反応だ。
正直
私たちはその後、J.A.R.V.I.S.とのお喋りもそこそこに現実世界へと戻った。S.H.I.E.L.D.が動くにせよ、こちらに情報が来る可能性は少ない。今私が気を揉んだところで何にもならない。
……そして、宇宙由来であろう植物のことでシロから意見を貰いたいと、私たちがS.H.I.E.L.D.の研究所に呼び出されるのは、また少し後、別のお話。