落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第三章-4「ヒドラの目的」

 突然聞こえてきた怪しい声に、私たちははっとして辺りを見回した。

「〔ロジャース・スティーブン、1918年生まれ。ロマノフ・ナタリア・アリアノヴナ、1984年生まれ。タカムラ・ユーリ、1995年生まれ〕」

「録音、みたいね」

 ナターシャが謎の声に対してつぶやいた。天井を見れば、カメラが動いているのが見えて、まるでこちらを分析しているようだった。

「〔私は録音ではないぞ、お嬢さん。1945年にキャプテン・アメリカによって捕虜にされたときとは随分違うが――私は私だ〕」

 ナターシャのつぶやきに、謎の声は即座に反応した。私たちの目の前にあったメインモニターには、男の顔のようなものが浮かぶ。その隣の小さなモニターには、眼鏡の男の写真が映し出された。

 ナターシャはスティーブを見る。スティーブはさっきまでの明るい表情を消して、モニターの男を険しい顔で睨んでいた。

「こいつのこと知ってるの?」

「アーニム・ゾラ。レッド・スカルに仕えていたドイツの科学者だ。何年も前に死んだ」

「〔修正一、私はスイス人だ。修正二、よく見てみるがいい。私はこうして、ここに生きている〕」

 〝私〟は映画で見たから知っているけれど、史実としての彼はそこまで大層な科学者ではない。S.H.I.E.L.D.から受け取ったスティーブ・ロジャースの資料に、ちょっとだけ記述があった程度だ。

 もし私に前世の記憶がなければ、せいぜいそんな人書いてあったような気もする、程度の認識だっただろう。

 私たちのことは気に留めず、ゾラは自分の話を続ける。

「〔1972年、不治の病を宣告された私は最終的な結論に達した。科学は私の肉体を救ってはくれない。だが、二十万フィートものデータバンクに精神を残すことは出来た。今、君たちは、私の脳の中に立っている〕」

「……〝われ思う、故に我あり〟。思考することが出来る限り、お前は永遠を生きるという事か」

 ゾラの言葉に、シロがつぶやくように言った。それに対して、ゾラが笑う。

「〔その通り。哲学を説くシロクマに出会えるとは。()()()はしてみるものだな〕」

 そうしてゾラは語り始めた。

 第二次大戦後、S.H.I.E.L.D.が戦術的な目的のためにドイツ人科学者を雇った時、ゾラも同様にこの場所にやって来たらしい。そこでゾラはS.H.I.E.L.D.の仕事の傍ら、この〝脳〟を作り出したそうだ。

 ゾラの話は、やがてヒドラが生まれた理由、それが大きくなっていった背景に及ぶ。私たちは口を出さずにそれを聞いた。

 元々、人類は自由を持つに値しないという信念から、ヒドラは設立された。ヒドラが予想しなかったのは、その自由を人類から奪おうとすれば、人類は抵抗するということだ。人類が自ら自由を引き渡そうとしなければならないと、ヒドラは大戦で学んだ。

 そして大戦後、S.H.I.E.L.D.に雇われたゾラは、その中でヒドラの意思を育て始めた。S.H.I.E.L.D.の中に、ヒドラの意思は寄生虫のように広がった。

 七十年もの間、ヒドラは秘密裏に犯罪の種を蒔き、戦争を引き起こし、歴史がそれに適応しなければ歴史を修正してきたのだと、ゾラはモニターに映像を映し出しながら語る。

「不可能だわ。S.H.I.E.L.D.があなたを止めるはず」

「〔何事にも()()は付き物だ〕」

「……確かに、止められてたなら、そもそもこの状況になっていない」

 私は不本意ながらもゾラに同意する。画面のゾラが、その答えを望んでいたというように笑った気がして、私は思わず眉間にしわを寄せた。

 画面が再び別の映像を映し出す。交通事故の映像だ。スタークの両親の。それが暗示しているのは、その交通事故は交通事故に見せかけた暗殺だったという事だ。

 これがもたらすいつかの未来を思い、私は右手で左腕を強く掴む。

 ゾラはさらに話を続ける。ヒドラは人類が自由を犠牲にして、安全を得る世界を創り出した。スティーブの七十年前の死の価値はゼロにも等しいものだとゾラが言い切った瞬間、スティーブが自身の盾をモニターに突き刺した。その大きな音に、私は思わず肩を跳ねさせる。

 液晶に蜘蛛の巣が張るが、データとなったゾラには何の効果もない。代わりに別のモニターにゾラの顔が映るだけだ。

「〔インサイト計画、驚くべき計画だ。私はそのアルゴリズムを構築した〕」

「それは一体何なの? 何をするの?」

「〔その答えはとても興味深い。だが残念ながら、それを聞く前に君たちは死ぬだろう〕」

 ゾラの言葉で、全員が下りてきたエレベーターの方を振り向いた。ゾラが言い終わったと同時に閉まり出し、スティーブが盾を投げて止めようとするが、わずかに遅かった。

 盾は跳ね返って、スティーブの元へ戻ってくる。私も魔法を使い開けようとするが、向こうの力が強すぎて無理だった。

「メモリの接続が発信器作動になってた。未確認の飛行体が来るわ」

「誰が撃ったんだ!」

 スティーブの問いに、ナターシャは厳しい顔で口を開く。

「S.H.I.E.L.D.よ」

 答えながら、ナターシャはメモリを抜き取った。ゾラがなにやら言っているが、最早どうでもいい。飛行体――ミサイルはもう、すぐそこまで迫っている。

 スティーブが床の金網を外して放り投げた。その床の穴に、私たちは飛び込む。

「キャップ、盾構えて!」

 焦りに語気が荒くなりながら、私は言う。言われずともと言うように上に向けて構えられたキャプテンの盾に、私は手を添え、魔法を展開した。

 脳裏に描くのは私が知る中で最高峰と言える盾の一つを模した術式。――いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)

 キャプテンの丸い盾を中心に、それを強化するように十字架が重なる。その範囲は私たちを包むように広がり、やがてそれは小さくも堅固な城壁と化した。

 強化されたとはいえ、少なからず衝撃が、支える私だけでなく、持ち手のキャプテンにも掛かっているらしい。キャプテンが少し顔をしかめる。でもさすがは四倍ソルジャー。いつかの私のように、衝撃で体勢を崩す様子も無い。

 容赦なく掛かってくる圧力。透明に輝く城壁の向こうは爆風による砂埃で何も見えない。徐々に体力は失われていく。昨夜の戦闘からロクに食事してないし、仮眠は二時間もとってない。以前よりずっと燃費が良くなったとはいえ、正直ジリ貧だった。

 やがて衝撃が終わる。ナターシャは気を失ってしまい、私も体力的に限界だった。しかしここで私まで気を失えばスティーブが困るだろう。なんとか瓦礫を押し上げたスティーブは気を失ったナターシャを抱き上げて瓦礫の外へと出る。

「マスター、大丈夫か」

「そのサイズ感可愛いね、シロさん」

 肩に乗ったシロは、省エネのために子猫くらいのシロクマからさらに小さくなって、手乗りサイズにまでなっていた。

 魔法核であるシロは、いわば魔力の塊。自身の体を構成する魔力を、能力展開の方へと割いてくれたのだ。そんなシロに、私は力なく笑いかける。

 瓦礫を手すり代わりに這い出した私は、軍事基地の見る影も無い残骸の上、煙と炎に染まった空をクインジェットが飛んでいく姿を見た。お誂え向きにサーチライトまで使っている。

「S.T.R.I.K.E.チームだ。ユーリ、歩けるか」

「なんとか」

「きつかったら言え。もう一人くらいは担げる」

 吐きそうな声で答えれば、ちょっぴり優しい言葉が返ってきた。でも今ナターシャをお姫様抱っこしてて、それで私も担ぐってなると、お米様抱っこになりそうなので頑張る。

 瓦礫の間を、時々スティーブの手を借りながら歩いた。

「これからどうするの?」

「一人だけ、アテがある」

 短く答える、煤に汚れた横顔を眺め、私はそれ以上口を開かず黙ってついていく。展開を知っていても、実際に身に降りかかるのは違うものだとしみじみ思った。

 

 ◇

 

 借りていたシボレーは爆撃でミジンコになり、私たちは再び車を()()()移動を始めた。ナターシャもその頃には目を覚まし、私はそれを見届けると限界だったらしく、車内で気を失った。

 目を覚ましたときには、どこかの家のベッドの上だった。なるほど、知らない天井じゃねーの。

「お、目が覚めたみたいだな」

 次いで視界に入ったのは黒人の男。ヒゲがイケてる。

「キャプテンが女連れで、君を担いでやってきたんだ。意識はどうだ?」

「バッチリはっきり……とは言い難いかな。お腹すいた……」

「生きてる証拠だ。二人に伝えてくるよ。動けるようなら来てくれ。朝食も用意してある」

 黒人の男はそう言って部屋を出て行こうとするが、私は上半身を起こしながらそれを呼び止める。

「私、ユーリ・タカムラ。あなたは?」

「サム・ウィルソン。そういやあんた、時々公園で走ってたな。歩くくらいのスピードだったけど」

 想像通りの名前を、男は名乗った。それと同時にこちらとしては思い出さなくてもいい記憶を思い出したサムに、私は小さく笑う。

「助けてくれてありがとう、サム」

「どういたしまして、ユーリ」

 お礼と第一印象は大事だ。

 エネルギー切れで力の出にくい体を何とか動かして私は立ち上がる。

「マスター。キャプテンを呼ぶか?」

「いや、大丈夫だよ。シロさんもありがとう。その体じゃ不便でしょ」

「肩に乗って移動出来るから、意外と便利だ」

 枕元にいたシロへ手を差し出す。彼はその手から腕、肩へと上った。

 湯気の立つ朝食が用意されたダイニングキッチンに行けば、丁度スティーブたちも集まってきていた。

「大丈夫か、ユーリ」

 スティーブの問いに「ご飯食べれば」と頷きかけた瞬間、腹の虫が代わりに鳴った。ヤダ恥ずかしい。

「……ごめん。昨日……一昨日の夜からロクなもん食ってないから。上野公園のハトの方がオレより飯食ってる」

「ウ、エノ? ハト?」

「何でもない、気にしないで」

 首を傾げるスティーブに、私は手を振りながら椅子に掛けた。お腹すいてるせいで頭おかしくなってる。

「おかしいのはいつもだろう」

「シロさん?」

 こんな状況でも相棒が辛辣で毒舌。ていうかさりげなく心を読まないで。

 サムが目を丸くさせてシロと私を見ながら、私にオレンジジュースの注がれたコップを差し出す。

「なあ、えっと、そいつ、ぬいぐるみじゃないのか?」

「俺はシロ。イマジェンとも呼ばれる地球外高度知的生命体だ。銀河座標〝M32BB 18538259 + 751372〟に位置するラシューカ星で、マンドルと言う魔法使いの魔法核として生み出された」

「あ、ああ……?」

「わざと小難しく言ってるだけだから、あんまり気にしないで。ニューヨークの戦いは動画とかで見た?」

 からかい気味のシロの説明に、サムは首を傾げる。私は苦笑して助け船を出した。空きっ腹に入れるオレンジジュースめっちゃ美味い。

「そりゃ、見たけど……」

 サムは困惑した様子で頷く。私はニューヨークの時そうしていたようにパーカーのフードを被り、空中から出した黒い腕でオレンジジュースのボトルを取って、持っていたコップに注がせる。

「えっ、あっ、あんた、もしかして……!」

 目を白黒させるサムに、私はフードを脱ぎながらぱちんとウインクを返した。

「よし、いただきます!」

 サムが無事私たちの正体に気づいたところで、テーブルに乗ったザ・アメリカンな朝食へ、私はぱちんと手を合わせて食事を始めた。

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