落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第三章-8「因縁」

 キャプテン・アメリカの激アツ演説によって、〝S.H.I.E.L.D.の〟エージェントたちはその指示に従って行動を始めたらしい。

 私はキャップたちと共に離陸本部へ侵入。放送室を占拠。キャップの隣で演説を聞いて、外に出た。ヒルはそのまま放送室にて、〝椅子の人〟をやっている。

 格納庫が開き、ヘリキャリアが起動を始める。飛び立ち始めてしまったヘリキャリアを追いかけ全力ダッシュである。まあ、私はヒグマサイズまで大きくなったシロに乗っているだけだが。

「キャプテン、敵の見分け方は?」

「撃ってきたら敵だ」

 サムの問いにキャップが答える。とっても分かりやすい説明だ。

「S.H.I.E.L.D.最後の任務だ。派手に行こう!」

 私とシロは自身が担当するヘリキャリアへ向けて大きくジャンプをした。

 

 ◇

 

 ヘリキャリアの甲板に降り立った私たちは、まずは内部に侵入するため、入り口へと駆け出した。

 その最中にやってくるヒドラの構成員たちは、無いはずの磁場によって自ら撃った弾で倒れるか、シロに薙ぎ払われた。

「シロさん、ちょっと楽しんでない?」

「正直言って、癖になりつつある」

 威嚇するように吠える様は本物の熊である。私たち、やっぱりスタークの言う通りライラとイオレクって感じかも。

 ともあれ、私たちは難なくコントロールルームへと辿り着いた。サーバーのプレートを交換して、任務は完了だ。首元に着けたマイクへ手をやり、口を開く。

「こちらレディ&テディ。C機完了したよ」

「〔OK、レディ。他の二機はまだよ。作戦を悟られないように行動して〕」

「了解」

 どうやら私たちが一番乗りらしい。通信中だろうと構わず襲いかかってくるヒドラは、シロが猫パンチならぬ熊パンチで倒してくれる。

「〔……待ってレディ、聞こえてる?〕」

「うん。聞いてます」

 通信を切ろうとした私だが、その前にヒルが声を掛けた。その声音がいつになく緊張感を醸していて、私は首を傾げ、ヒルの言葉の続きを待つ。

「〔トリスケリオンの三十五階で、人質が取られてる。――ソルジェフが、貴女をご指名よ〕」

 その言葉で、私にも緊張が走る。しつこいやつだ。何故そこまで執着されているのか理解が出来ないが、人質が取られているとなると、私が行かないといけない。こういう状況で犯人を刺激するのは悪手だ。

「四十秒で支度して向かいます」

 言って通信を切った私は、シロとヘリキャリア内を駆け抜けながら、あちこちにルーン魔術の罠を仕掛けた。サーバー付近にも刻もうかと一瞬思ったが、罠を張ると逆に怪しくなりそうなので止めた。廊下に書いた文字の大体は〝ソーン〟だ。

 ソーンは「巨人」や「雷神トール(つまりソー)」「棘や茨」など、様々な解釈・意味を持つルーンだが、結局の所「停滞」……つまり邪魔が入る事を意味する。罠にはピッタリのルーンというわけだ。

 宣言した通り、四十秒であちこちに罠を掛けた私たちは甲板に出て、発進しようとしているヒドラの飛行部隊をあらかた倒して姿くらましをした。シロはその瞬間に、いつもの子熊サイズになる。

 私たちが姿現ししたのはトリスケリオンのエレベーターの中だ。丁度乗っていた黒い装備のヒドラ兵たちが、すぐさまこちらに銃を向ける。

「オロロンチョチョパァ」

 魔法の呪文を唱え、私は床を消した。私たちは浮いていられるので問題ないが、敵たちは全員、エレベーターから落ちて行った。全員ボッシュートだ。

「ちゃーらっちゃらっずーん」

 あのメロディーを口ずさみながら、消した床を戻す。私は元々押されていた階数をキャンセルして、三十五階のボタンを押した。

 数秒でエレベーターは三十五階に辿り着く。

「ヒルさん、三十五階に来ました。ソルジェフがいる部屋は?」

「〔北西側のオフィスよ。気を付けて。それから、サムがB機の交換完了したわ〕」

「了解」

 他の階がどうだか知らないが、やけに静かだった。

 私はヒルの指示通り、廊下を進んで壁の向こうを透視する。人質は十名ほど。全員ガムテープで口を塞がれ、後ろ手に縛られている。

 ソルジェフはと言えば、おそらく監視カメラの方向であろう天井の角に向けて、文字の書かれた大きな紙を掲げていた。

 ――俺は待ってるぞ、ユーリ・タカムラ。

 一体私の何があの男の琴線に触れ、このような状況下での凶行に至ったのか。

 私にはさっぱり理解出来ないが、何はともあれ透視した結果、罠を仕掛けている様子は無いようだった。だからこそ考えが読めない。正面から行く方が良いか。

 私はドアを開け、オフィスに足を踏み入れた。

 ソルジェフはカメラを向いていた顔をこちらに向ける。私の姿を認めると、猟奇的とも言える笑みを浮かべた。持っていた紙を投げ捨て、歓迎するように両手を広げる。

「待っていたよ、ユーリ。俺に会うため来てくれたのか、それとも人質を助けに?」

「人質を助けるために決まってんだろ。何なんだよお前マジで」

 幸い、今の所フューリーの語っていた私たちの魔法を封じる装置はどこにも使われていないようだった。

 ソルジェフは人質たちを背後に……と言うより、もはや人質に興味はない様子だった。ならば私たちで注意を引いている内に、人質たちには逃げてもらおう。

 ……魔法で瞬間移動という選択肢も一瞬考えたが、向こう側の状況が分からないのにやるのってリスキーじゃないかとも思う。特に今、どこに敵がいるか分からないし。人質全員、非戦闘員っぽいし。

 私はソルジェフに悟られないよう、能力を使って人質の周辺に守護のルーンを刻み、比較的落ち着いている様子の人質の手に魔法で構築したナイフを握らせた。ナイフが手の中に現れた人質は、はっと目を丸めて私を見たあと、すぐに行動を開始した。さすがS.H.I.E.L.D.の職員。

「なんで私に会いたがったの?」

「好意を持つ異性に会いたがるのは当たり前のことだろう?」

 薄ら笑いを浮かべて、さも当然のように答えるソルジェフ。瞬間嫌な鳥肌が立って、思わず顔をしかめてしまった。その表情に、ソルジェフはその反応を期待していたかのように笑みを浮かべた。

「キャプテンたちがインサイト計画を止めれば、俺たちヒドラは事実上の壊滅。俺は逃亡の身になるか、豚箱行き。それじゃあ、中々会うことも難しくなるだろう。逆に俺たちが計画を成功させたなら、俺は君を殺さなければならなくなる。上に掛け合えば君を生かしてもらうことも出来るかもしれないが、それでは駄目だ。意味がない」

 心底困ったと言うように、ソルジェフは語る。

「俺にとって、君が君でなくては意味がない。君のその冷たい視線が好きだ。睨むような目も筆舌に尽くしがたい。俺という個人に一切の興味を持っていないところが好きだ。俺を心底嫌悪していると分かるその声を聞くと、胸が高鳴る。俺を殴ることに一切の容赦を持たないところが好きだ。あの感覚を思い出すだけで、絶頂を覚える」

 息継ぎも最小限に、ソルジェフが恍惚とした表情で言い募った。そのテントを張った下半身が嫌でも目に入って、私の眉間のしわが深くなる。

 ソルジェフのあまりの異様さに、はたから聞いていた人質の面々はドン引きした様子でソルジェフを見ているし、シロは本能的になのか、私を守るように前に出た。

「君はアベンジャーズで、ヒーロー。俺はヒドラで、ヴィラン。俺たちは互いを殺し合う運命にある。なあ、それは素敵なことだろう? 君が俺に興味がなくても、それでも俺たちは固く、運命で結ばれているんだ」

「オエッ」

 その気色の悪さに、私は舌を出す。その反応すら、ソルジェフを喜ばせているようで、不快感が募る。

「君は今、俺が背を向けているのを良いことに人質を解放させているんだろう。君の考えは分かるよ。君はヒーローだからな。正義の味方がやることは、みな同じだ。それで良い。君の一番は俺ではない。そこが良いんだ」

 こっちの考えを読んでいるなら、隙を見せているのにも頷けた。まあ、何一つ罠を仕掛けず、考えなしに隙を与えるとはこっちだって思っちゃいない。

「なあ、俺は君と殺し合いがしたいんだ。けれど君のテディの力があれば、殺し合いにすらならずに終わってしまう。悲しいことに、俺はただの人間だからな。俺は君に痛みを刻み、君もまた、俺に痛みを刻んでほしい。だから、これを使うしか無い。――やれ」

 ソルジェフが短く言った。

 感覚で、シロとのリンクを妨害されたのが分かった。端末で操作したり装置を使う素振りを見せたなら対処のしようがあったのだが――そこまで馬鹿ではなかったらしい。

 通信機でどこかに待機した仲間に命令を出し、どこかに隠した装置を遠隔操作させた、といったところだろうか。

「これで、君はテディの力は扱えない」

 ソルジェフは素早くホルスターの拳銃を抜き取り、狙いもそこそこに人質に向けて撃った。

 銃声に人質たちから悲鳴が上がり、全員頭を抱えたり隣の同僚を庇ったり、それぞれの行動をとるが、その銃弾が人質の誰かを傷つけることは無かった。銃弾は透明な壁に止められて、やがて床に転がり落ちる。

 透明な壁にはかすかに、守護を意味するルーン文字の羅列が浮かんでいた。

 ソルジェフはその様を人質たちと同じようにぽかんと見つめ、やがて心底嬉しそうに笑い出した。

「は、ははっ、最高だ! どこまでも君は俺の思い通りにはならない! 人質を殺せば君は心を痛めると思ってやったのに! 何をやった? 君が使えるのはテディの力だけじゃないのか? いや、そんなことはどうでもいい! 君も俺の心が分かっていたんだな! だからこうして先んじて対処していた! 一心同体、以心伝心! 俺たちは! 最高に! 相性がいい!」

 もう何も言い返す気にならない。何を言っても無駄としか思えないそれらの発言に、私は頭をリセットすることにした。

 今やるべきこと。人質の救出。よし。

「なあ、ソルジェフ」

「随分他人行儀だな。ヴァージャと呼んでくれ。ハニーやスウィーティーでもいいが、個人的な好みでね」

「……お前の目的は私なんだろ。なら、人質を逃がしてもいいってことだよな」

 呼び方に関しては無視して、私は続ける。ソルジェフは私が何を言おうとしているのか興味深げに首を傾けた。

「シロさんに人質を運ばせる。その後は私たち二人で殺し合い、だ。そう言うのが好きなんだろ?」

「何を言っている、マスター!」

 私との繋がりを妨害されても、シロはシロ自身の意思で身体のサイズを変えることは出来る。私の提案にシロが声を上げるが、私はそちらを見ずにソルジェフを見つめた。

 早く人質を解放させなければ、ヘリキャリアがトリスケリオンに突っ込んでくる。守護のルーンも、さすがにそれには耐えられない。

 つまりいまだに人質が取られている状況に変わりはなく、ソルジェフが隠し玉を持っている可能性も捨てきれない。ホッキョクグマサイズになったシロをけしかけるより、安全かつ手っ取り早く人質を解放させるには、恐らくこれしかない。

「随分と積極的じゃないか、ユーリ。いいだろう。その条件で人質は解放だ。連れて行くと良い、テディ」

「マスター、君は……本気で言ってるのか!」

 道を開けるソルジェフ。シロはこちらを見て怒鳴った。私はそれを冷静に見下ろした。

「本気だよ、シロさん。頼むから行ってくれ」

 時間がないんだ、と心の中で続ける。

 他のヒドラ構成員に聞かれているかもしれない。作戦を悟られるような発言は控える。魔法の繋がりなど無くても、私の考えは伝わったらしい。シロは黙り込んだ。

「死ぬなよ、マスター」

「うん。そっちも」

 シロはすべてを飲み込んだ声でそう言って、人質たちに駆け寄った。

 彼らの前で……猫型バスになったシロは、全員を乗せてこちらを見た。その視線に頷けば、シロは私とソルジェフの頭上を飛び越え、廊下へと走り去って行く。

 もし逃げ遅れたS.H.I.E.L.D.の人を見つけたら、その人たちも救助してくれるだろう。

「やっと二人きりになれたな」

 人の居なくなったオフィスで、ソルジェフが恍惚とした笑みを浮かべた。……この台詞、ほんとに言うやついるんだ。

 

 

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