落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について 作:緑茶山
単独映画をイメージしているなら、ちょっとスパンが短すぎると思います。アベンジャーズ集合作品ごとに一作ずつが妥当ではないでしょうか。
現在の私へ
話の構成上ここしかないって決めたじゃないですか。そんなこと言うなら『レディ&テディ+ロキ/宇宙人VSニンジャVSヤクザ』のシナリオを考えてください。
(読者の皆さんへ。感想・評価・誤字報告ありがとうございます。このまま毎日更新頑張ります)
第四章-1「日本にて」
卒業間近に起きた、S.H.I.E.L.D.崩壊という世界に衝撃が走る事件に巻き込まれながらも、私は何とか高校を卒業し、予定していた通信制の大学にも入学することが出来た。
バーンズ軍曹の行方を追っているスティーブや、アベンジャーズタワーを切り盛りするトニーと連絡を取りつつ、私とシロは基本的に日本を生活の拠点としていた。
一時期居候させて貰っていた叔父の家を出て、再びシロとの二人(?)暮らしの生活だ。場所は都内の分譲マンション。叔父が世話している物件らしい。
故郷に引き続き暮らしたいという気持ちが多少はあったが、住んでいた家はマスコミに張られているような状況だ。あの町に住み続けるのは大変だろうと思って、故郷を離れることを決断した。
ちなみに前の家の荷物は魔法やら魔術やらを駆使して運んだので、引っ越し業者がマスコミに囲まれる、なんてことにはなっていない。引っ越しの料金が浮いたのはありがたいと思うことにした。
「中身はフツーの一般人なのに、なんでこんな注目すんだろ」
黒塗りの高級車の後部座席で、私は置いてあった新聞を眺めながら呟いた。
一目で目に入る大きな見出しには、『日本出身スーパーヒロイン! その素顔に迫る!』と迫真がかった文字が掲げられている。流し読みすれば、どうやら私の同級生の何人かにインタビューしたらしい。見覚えのあるイニシャルも見える。
「そりゃ、世界を救ったヒーロー様だからな」
「端っこにいただけだよ」
私の声に答えたのは、L字型になった座席の奥側に座る叔父のアキヒコである。からかいとか皮肉を混ぜた叔父の言葉に、私は苦笑しながら新聞を折りたたんだ。
暴対法が厳しくなっている近年には珍しく、羽振りの良いヤクザである叔父は、後部座席にソファとか冷蔵庫があるリムジンを所有していた。その姪っ子という立場を存分に生かし、私は革張りのソファに体を預けている。
S.H.I.E.L.D.崩壊事件からすでにひと月以上経っているが、それでもまだマスコミはレディ&テディ本人への直接の取材を諦めていないようだった。顔が割れているため、道を歩いていると声を掛けられることもある。
純粋なファン相手にはにこやかに対応するが、マスコミの場合は速攻逃げるのが私のスタイルであった。瞬間移動持ち能力者はいろんな意味で強い。はっきりわかんだね。
「俺のことは相変わらず、人形か本物かとしか議論されてないな」
「地球外生命体なのにね」
元は普通の人間であった私より、よっぽど話題性があるだろうに、シロのことが単独で話題に登っていることは少ない。
フューリーいわく、シロの情報に関しては組織内でも慎重に扱われていたから、らしいけど。詳しいことはよく分からない。
「まあ、俺としてはマスターがスケープゴートになってくれている方が楽だがな」
「ちょっとぉ」
さらっと生贄代わりにしてくるシロに、笑いながらツッコミを入れていれば、車が静かに停車した。
「親父、到着しました」
「おう」
運転席から間仕切りの窓を開けて、叔父の子分が声を掛けてくる。叔父が頷き返す。
運転席のドアの開閉音が聞こえ、程なくして後部座席のドアが開けられた。叔父が顎をしゃくり、私はシロに続いて先に車を降りる。
私たちがやってきたのは、都会の中にぽんと置かれたような、日本家屋然とした店構えの料亭だ。叔父の渡世の親であるシガノ――志ヶ野に呼ばれたのだ。
車を降りた叔父の後ろにくっついて、店の中へ入る。着物姿の女性従業員に案内され、奥まった場所にある個室へ通された。
「おう。よく来たね、優李ちゃん」
「おじいちゃん」
部屋の戸が開かれて、部屋の上座に座っていた着物姿の男が私を目にするなり微笑んだ。貫禄のある顔つきが綻ぶ。
初対面だった十年以上前の頃に比べれば、随分と皺が増えたはずだが、その優しげな表情は、記憶の中のそれと変わることはない。厚みのある身体は、ともすれば威圧感を与えそうなところ、むしろ彼を親しげに見せるのに一役買っていた。
ずいぶん前のことに思えるが、シロと出会ったばかりの私を誘拐した雉村という女が、私に殺させようとした人だ。
「さ、入んな。おお、そっちが噂の、〝シロさん〟か」
「はじめまして」
「ほんとに喋るんだなあ」
志ヶ野はシロを見て、感心した様子で白髪交じりの顎髭を撫でた。
「元気そうで良かったよ。ニュースで見たけど、随分大変だったみたいじゃないか」
「私はあんまり……審問会に出た私の仲間とか、それこそ私の住んでた家の処理をしてくれた叔父さんの方が大変だったんじゃないかな」
私が席について開口一番の志ヶ野の言葉に、私は肩を竦め、ちらりと叔父を見た。隣に座っていた叔父は、何も言うまいとでも言うように顔を背ける。
「アキヒコなら心配ねぇさ。愚痴言いながら、しっかりきっかり休みを取るような、抜け目ないヤツだからね。俺の親父が死んでてんやわんやだったときも、こいつ、俺に隠れて……」
「親父」
昔話か、暴露話か、いたずらっぽく話し始めた志ヶ野を、叔父が嗜める。志ヶ野は声を上げて笑った。
「悪い、悪い。年寄りはつい話が長くなっちまう」
「今度聞かせて」
「おい、優李」
「えへへ」
叔父の若い頃の話、興味があった。叔父の様子を見るに、おもしろ失敗談系の話と見える。志ヶ野は「今度な」と笑う。
「今日呼んだのはね、これ」
志ヶ野は脇に置いていた紙袋をテーブルの上に置いた。乳白色の、上品なデザインの紙袋には、見たことのある文具メーカーのロゴが入っている。
「高校卒業と、大学の入学祝い。おめでとう、優李ちゃん」
微笑んだ志ヶ野に対して、私は驚き、志ヶ野の顔と紙袋とを交互に見比べてしまう。
「あ……ありがとうございます。でも、こんな贈り物なんて」
「いつも年寄りの話に付き合ってもらってるからね。そのお礼も兼ねてんだ。貰ってくれないと困る。ジジイが使うには可愛すぎるからさ」
遠慮する私へ、志ヶ野はそう言って、紙袋を押して寄越した。私は「そういうことなら、」と袋を受け取る。今か今かと、開けるのを待つようにそわそわこちらを見る志ヶ野に、私は紙袋から中身を取り出した。
リボンが掛けられ、きれいな包装紙に包まれた箱。シロさんが興味津々といった様子で私の太ももに前足を乗せた。リボンを解き、包装紙を留めているセロテープを、爪をペーパーナイフ代わりに切る。
包装紙の中には、大きさの違う箱が二つ。一つは細長く、もう一つは平たい。
箱を開けて、中身を出す。細長い方には万年筆、平たい方にはシステム手帳が入っていた。
「わぁ……」
どちらも大人っぽくて上品なデザインだ。システム手帳は革張りでしっかりしており、万年筆の方は、柔らかな流線を描いた金色の台座に淡い青色の石をはめ込んだペンクリップが特徴的で、高級感がある。
「……気に入ってくれたかな?」
「もちろん! ありがとう、大事に使います!」
志ヶ野の声で、プレゼントに注いでいた視線を持ち上げて、私は大きく頷いた。
「それは良かった。今どきの若い子にプレゼントなんて、何贈っていいか分からなくてさ。アキヒコがいて助かったよ」
「あんなに困り果てた親父は久々に見た」
「おい、アキヒコ」
先程の仕返しと言わんばかりにいたずらっぽく笑う叔父に、志ヶ野は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。しかしその苦い表情も、どこか楽しげだ。
「これに似合う大人を目指さねばならないな」
「シロさーん、棘なーい?」
「いいや?」
シロは含み笑いを浮かべていた。出会った頃は分からなかった表情の変化も、すっかり分かるようになった。まあ、だからといってガチモンのクマの表情を読み取れって言われても無理だけど。
「……なんかあれだなあ、歌を思い出すよな。森で熊と会うってやつ」
いつの間にか私たちの様子を見ていた志ヶ野が、そうポツリとこぼす。
「む、俺は熊に見えるだけで熊ではないのです。地球外生命体、つまり宇宙生命体です」
「宇宙人ってことか?」
「人ではないから……宇宙熊?」
「やっぱり熊なんじゃねぇか」
シロはうむむ、と心外そうに口を尖らせた。熊みたいに吠えるのはいいのに、熊と呼ばれるのは嫌なようだ。複雑だな。
◇
――数時間後、深夜。
志ヶ野は東連会本部にいた。
構成員三万人に上り、その規模と同様に広い敷地を持つ極道組織の本部と言えど、この時間はしんと静まり返っていた。本部にいるのは電話番や警備といった少ない人数で、灯す明かりも常夜灯など、最小限だった。
雲が出ているのか、月のない夜だ。志ヶ野は一番の頼みとしている若頭とともに、本部の庭に出ていた。
玉砂利が敷き詰められ、手入れの行き届いた松の木や、鯉の泳ぐ池などが見事に配置された日本庭園。いつもは月明かりを受けるそれらだが、今は遠くにある常夜灯の明かりで、かすかにその輪郭を闇の中に浮かべているだけだった。
「今日、お嬢さんと会ったんですよね? どうでした?」
若頭は思い出したように志ヶ野に声を掛けた。
若頭である彼の実年齢はそろそろ五十になろうとしているが、地黒だという褐色の肌や、スーツの上からも分かる引き締まった肉体は、その年齢を感じさせなかった。
「楽しかったよ。プレゼントも喜んでくれた」
「それは良かった」
思い返すように目を細める志ヶ野の横顔を見て、若頭は微笑んだ。志ヶ野は、優李が高校を卒業し、進学先も決まったことを聞いてからずっと、祝いの品に頭を悩ませていた。
若頭としてそばで仕えていた彼は、その様子を間近で見ていた。娘が年頃だった頃、同じようにプレゼントに悩んだ経験を持つ彼としては、志ヶ野の気持ちが手に取るようであり、感慨もひとしおだった。
「あいつの様子はどうだ?」
志ヶ野の問いに、若頭の目に微かな緊張が走った。志ヶ野はなんでもないことのように話題を変えたが、その一件は扱いの難しい案件だった。
若頭はそっと唇を舐める。
「あの件を話してから、変わりは見えません。拍子抜けするくらい、いつも通りですよ。いっそ腹が立つ」
「ははは。何も起きねぇならそれでいいさ。……だがまぁ、あいつは抜け目ないからな。俺も、お前も、腕っぷしでのし上がってきたやくざ者よ。とっくにあいつに出し抜かれてるのかもな」
「縁起でもないこと言わんでください」
顔を顰める若頭に、志ヶ野は明るく笑う。そうしてその笑みを、どこか悟ったような超然としたものに変えて、志ヶ野は空を見た。いつの間にか雲が動いて、月が顔を出していた。
――見て、おじいちゃん!
志ヶ野の脳裏に、不意にその声が鮮明に思い出された。視線を下ろすと、玉砂利の上でこちらを振り向く小さな優李の姿を見た。
――老眼鏡と虫眼鏡でね、望遠鏡が作れるんだよ。月がくっきり見えるの! ほら!
この場所での記憶ではない。優李が小学生だった頃の夏休みだ。あの子が母親と二人暮らしていた家を尋ねたときの記憶。
あの子は夏休みの自由研究に、手製の望遠鏡を作っていた。天才だ何だと褒めそやす志ヶ野に、優李は困ったような、照れたような、はにかみ笑いを浮かべていた。
「……望遠鏡でも良かったかもなぁ」
フッと息を吐くように笑う。
そうして志ヶ野は、視界の暗闇の中、影が素早く動くさまを見た。