落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について 作:緑茶山
関東一円の極道たちを束ねる巨大暴力団組織・東連会。その五代目会長である志ヶ野が何者かの襲撃を受け、搬送先の病院で亡くなった――。
そんな連絡が入ったのは、私たちが料亭で食事をした日の翌朝のことだった。その日の夜に通夜が行われ、更に翌日、東連会本部を会場として葬儀が行われることとなった。
冠婚葬祭の万能装備である学生服を着る権利を数ヶ月前に失効した私は、急ぎ用意した喪服を身に纏い、葬儀に参列した。シロは例のごとく体を小さくして、バッグの中に入っている。
受付で記帳を済ませた私は、あらかじめ連絡を取っていた叔父の元へと向かう。
志ヶ野の死を知らせてくれたのは叔父だが、志ヶ野とともに若頭も亡くなったそうだ。そのせいでどうやら役職についているらしい叔父は忙しく、それ以上の連絡を取るには時間がなかった。
本部の建物内に入ると、広いロビーがあった。床はふかふかの絨毯で、葬儀の会場となる広間につながる両開きの大きな扉を中心に、左右に階段があった。吹き抜けになっていて、二階が見える。天井からはシャンデリアが吊られていた。
私がロビーで叔父の姿を見つけた時、叔父は子分の人と話している最中だった。私を見つけると一言二言何か言って子分と別れ、こちらへやってくる。
「叔父さん」
「優李。――ああ、そういや、もう制服じゃないんだったな」
叔父は言いながら、険しく硬い表情をそっと和らげた。
「忙しそうだけど、大丈夫?」
「少しくらいは平気だ。それに、会長代行は姐さんだからな。俺たちは準備するだけだよ」
心配する私に叔父は笑みを返すが、少しくたびれている様子が伺えた。
夜中に事件が起き、一日待つことなく通夜を行って、明けて今日が葬儀だ。亡くなったのは志ヶ野だけではなく、若頭もだ。東連会と言う組織のトップ二人を一夜にして失ったことになる。心労があって当然だ。
姐さんというのは、志ヶ野の妻のことだ。志ヶ野ともども、私に良くしてくれていた。
志ヶ野自身をおじいちゃんと呼ぶのに合わせる形で〝おばあちゃん〟と呼ばせてもらっているが、見た目は〝お姉さま〟あるいは〝おばさま〟って感じの女性だ。
背筋がピンとして、着物が似合っている。私も初めて会った時は(姐さんをお姉さんの意味だと思っていたから)お姉ちゃんと呼んだ。しかし本人から「おばあちゃんと呼んで」と言われて、そうしている。
「おばあちゃんは、大丈夫?」
「気丈な人だからな、しっかり仕切ってる。でも、後で顔を見せてやるといい。お前が行けば、気も少しは晴れるだろう」
「うん、分かった」
私は頷き、二人が並んでいた姿を少しだけ思い出した。
傍目に見ても、仲の良い夫婦だったと思う。おばあちゃんはおじいちゃんのことをよく
何十年も前の、シマ争いのときにおばあちゃんが敵組織にさらわれて、それをおじいちゃんが助けに来たのが馴れ初めなんだって、よく話してくれたっけ。どこまで嘘で、どこまで本当か分からないけど、その話をしているときの、二人の目が好きだった。
「……なんなら、先に姐さんと会ってくるか?」
暗い顔をしていたのだろう。叔父が気遣う様子でそう言ってきたが、私は首を振った。
寂しいし、悲しいけれど、浸るのは後でいい。
「それで――志ヶ野のおじいちゃんが殺されたのは、抗争が原因だってニュースで見たけど……」
「殺しってよりは暗殺だな……心臓を刃物でひと刺し。相当な腕がなきゃ出来ないそうだ」
「ここ、現代日本だったと思ったんだけど」
「今や宇宙から宇宙人が攻めてくる時代だぞ?」
「そうだったね」
私は苦笑する。アメコミ映画に、〝現代日本〟の常識は通用しない。ここは腐ってもアメコミ映画内の日本だ。
「忍者による暗殺?」
「あり得ない、とは言い切れないな」
叔父は言いながら、クイッと首を動かして私を促した。私は歩き出した叔父に続いて、階段を上る。二階に行くと、一階の様子がよく見えた。
「親父が殺された後、盗まれたものがあってな」
「……実はただの強盗ってわけじゃないよね?」
「ケチな盗人が、わざわざ警備の厳重な極道組織の本部に入ってくると思うか?」
叔父の問いに、私は無言で肩を竦ませる。
「何を盗まれたの?」
「刀だ」
「刀?」
「代々東連会の会長が受け継ぐ刀だ。銘を
おおひびきただつぐ。
「それ、どこかで……」
言いかけて、はっとする。脳裏に光景が浮かぶ。船。甲板。撃たれた肩の熱さと、倒れていく母。
「マスター」
バッグから聞こえたシロの声で、私は我に返った。提げたバッグを見下ろした後、叔父を見れば、心配そうな眼差しでこちらを見ていた。
「どうした?」
「その刀、欲しがってた奴を一人知ってる。……そいつがお母さんを殺した」
「姉さんを? ……そうだったか」
労るように、肩に手を置かれる。
母を殺した雉村という女は、自分の後ろにいる組織のことを口にしなかった。もしかしたら、志ヶ野と若頭を殺した犯人を辿れば、雉村の所属していた組織について分かるのかもしれない――。
「叔父さん、志ヶ野のおじいちゃんたちを殺した犯人について、目星は付いているの?」
切り替えるように、私は顔を上げて尋ねた。叔父は私を見下ろしていた顔を、階下に向けた。
「親父とカシラを殺した犯人――と言うより、黒幕の候補は三人。……今入ってきた男が見えるか?」
叔父の視線を追うように、階下に見える入り口へと目を向ける。部下らしき男たちを数人引き連れて、五十代くらいの男が入ってきたところだった。
「あの男は、直系三木部組組長の三木部。五代目東連会の本部長だ。金回りが良くて、警察とも上手くやり合う、底の知れねぇ男さ」
「インテリヤクザってやつ?」
叔父は小さく笑って、頷いた。
「ああ。愛想も良くて口も上手い。……が、腹ん中じゃあ何考えてるのか分からねぇ。噂じゃ、妙な宗教にハマってるとかって話だ」
「カルトの教祖をやって献金せしめてるって話じゃなくて?」
「その手のシノギをやってるって話は聞いてねぇな」
改めて、三木部を見る。にこやかに談笑する姿は、一見するとヤクザには見えなかった。せいぜい、少し強面な会社員とか、そんなところだろう。
「で、なんで疑われているの?」
「……本部長ってのは、執行三役って言う三つの役職の一つでな。本部長以外に若頭と舎弟頭がそれに当たる。で、会長が亡くなった場合、次期会長となるのが若頭だ。だが……」
「若頭も一緒に亡くなった」
私の言葉に、叔父は「そうだ」と頷く。
「次期若頭の候補となるのが若頭補佐だが、若頭補佐ってのは大抵複数人選ばれるもんでな。うちの組でもそれは同じ。これから跡目争いが起こるのは間違いねぇ」
「本部長は、若頭補佐より上の立場?」
「同格、とは言えねぇな。なにせ三木部は実務の経験が豊富だ。年々、暴対法が厳しくなっている今、こうして東連会が羽振りよくいられるのもあの人の手腕が大きい。内外から認められる、縁の下の力持ちってやつだ」
叔父のその言葉から、叔父は疑いを持ちながらも三木部のその実力は認めているのだと察せられた。だから私は、あえて口を開いた。
「でも、会長候補には数えられない……。……あの人は、若頭も殺す理由があった。跡目争いが起これば、自分が会長になれる可能性があるから」
「そうだな。ま、動機だけじゃあ、証拠としては弱いがな」
叔父はそう締めくくって、すっと視線を動かした。「二人目の黒幕候補だ」と言う叔父の視線を追う。
踊り場から正面に入り口を見て、ロビーの右手側。壁際に飾ってある高そうな壺の横に、若い男が壁に背を預けて立っていた。
「直系矢志田組二代目組長の原田剣一郎。若頭補佐の一人だ」
「や……、」
ヤシダに、ハラダ・ケンイチロウって、シルバー・サムライやんけ。
……いや、MCUとX-MENは利権の都合で、ゴニョゴニョでゴニョって感じだったから、名前がおんなじなだけの別人かもしれないけど。『ウルヴァ◯ン:サムライ』のときのハラダはホーク・アイみたいな弓使いとして出てきたし、記憶の限りでは同じ設定の人物には見えない。
「東連会きっての武闘派でな。若くして初代矢志田組の若頭になり、組長が亡くなってその跡目を継いだ。だがその継承に、ケチがついててな」
「ケチ?」
「原田が若頭になったのは、先代の矢志田組長が亡くなる直前……結構な荒っぽい手段を使ったって噂だ。そしてトントン拍子で矢志田組のトップに立った」
三十になったばかりの若造がな、と叔父は続ける。
「それで噂が立った……自分の親父である組長を、殺したんじゃないかってな」
「親殺し……」
極道の世界で、自分の〝親〟を殺すというのは重罪だと聞いた。真実がどうであれ、そんな噂が立っていると言う事が今は重要なのだろう。
「それまでうだつの上がらない弱小組織だった矢志田組を直系まで上らせたのも、原田によるところが大きいって話だ。野心があるってのは事実だな」
私は叔父の説明を聞き、改めて原田の方へと視線を向ける。原田はそのタイミングでこちらを見た。私と原田の目は多分合っていない。原田が見たのは恐らく叔父だ。
原田は数秒の間、こちらを見ていた後、壁に背中を預けるのをやめて葬儀会場の方へと去っていった。
「……見てたね」
「まぁ、さっき俺の言った話が事実で奴が黒幕なら、次に奴が狙うのは俺だろうからな」
「え」
私はぱっと叔父を見上げる。
原田が会長の座を狙っているとして、殺す必要があるのは志ヶ野と若頭、そして原田以外の若頭補佐だ。原田以外の若頭補佐が私の想像通りなら……。
「三人目の黒幕候補って……」
「ああ」
叔父は頷く。私を静かな瞳で見下ろす。
「俺だ」