落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第四章-6「東海道中」

「闇の手?」

 オウム返しで尋ねた私に、原田は「ああ」と頷いた。

 忍者の襲撃を退けた私たちは、原田に促されて車に乗り、東連会本部を出発した。

 車に乗っているのは私とシロ、原田、叔父、そして運転手である原田の部下だ。祖母は足手まといになるだろうと言って本部に残り、若中たちを指揮して本部の片付けをしている。

 目的地へと車を走らせる途上、助手席の原田は流れる景色を見つめながら、忍者たちの正体を語った。それが〝闇の手〟である。

「一言で言うなら、忍者組織だ。暗殺やら工作やら、まあなんだ、日本版のスパイ稼業ってやつだな。日本の裏社会はもちろん、海外にも手を伸ばしている連中だ。あんたは知ってるだろう、高村さん」

「噂程度ならな。実在するのかは、正直半信半疑だったが」

「テン・リングスみたいな?」

「そっちは知ってるのか?」

 叔父の言葉に思わず原作(MCU)知識で反応してしまったら、原田に半笑いを返された。私も半笑いで返し、「噂程度に」と誤魔化す。

 原田は大して気に留めていない様子で、話を戻した。

「闇の手の始まりは、戦国時代にまで遡る」

 元々は徳川家に仕えていた、伊賀流の忍者能岡(ヨシオカ)景延(カゲノブ)が祖であると原田は語った。

 戦国期の徳川家の下で暗躍したが、江戸時代になると主家である徳川幕府からその力を疎まれ、能岡は追放されたらしい。

 徳川家――家康にずっと仕えていたならば、江戸時代になった頃はもう随分高齢だっただろう。そんな年になってから、忠義を尽くしてきた主家に裏切られる形となった能岡は、鈴鹿山脈辺りの谷へと逃げ、亡くなったという。

 能岡は徳川家への恨みを抱えて怨霊となり、部下たちによって神として祀られたという。そして能岡は、部下たちへ妖術を授けた。

「髙村のお嬢を抑えたのも、妖術(それ)だろうな」

「随分詳しいな」

 叔父が聞く。原田は微かに笑った。

「俺の母は、闇の手の忍びで、俺も子供の頃は忍者になるための教育を受けていたからな」

 思ってもみない原田の返答に、私たちは驚く。つまり、昔は敵方の人間だったと告白したようなものだ。

 今更これが罠だったのでは、なんて疑いはしないし、疑ったところですでに高速道路に乗っている状況である。ここで降りるか降りないかの問答はしたくないが、それでも疑問はある。その疑問は、私の代わりに叔父が尋ねた。

「その忍びが、なんでヤクザに?」

「母は昔、任務の一環として、東京のスナックで働いていた。そこで俺の親父と出会い、恋に落ちた。しかし母は任務を優先し、父の元を去った。去った後に、腹に子が宿っていると判明してな。まあしかし、あの場所でそういう女は珍しいものじゃない。そうして生まれた子は、闇の手の子として、忍びとして育てられる。俺もそうだった」

 だが俺が十六の時、事情が変わった。と原田は淡々とした声で言った。

「親父がな、俺のことを嗅ぎつけたんだ。当時すでに病に侵されていた親父は、どうにか自分の築いてきたモンを自分の血を分けた人間に渡したかったらしい。妻との間には娘しかいないからな。女はヤクザになれない。病の所為で新しい子供も望めなかった」

「……待て。お前の言う親父ってのは――」

 叔父が驚いた様子で声を上げる。原田は「ああ」と頷いた。

「矢志田組初代組長、矢志田信玄だ」

 原田が組長をする矢志田組の先代組長である。原田が殺したのではないかと疑われているその人。原田にとって〝親父〟は渡世の親であると同時に実の親でもあったのだ。

「なるほどな……いくら有能だと言え、その若さで跡目を継ぐのは異例すぎると思っていたが、そういうことだったのか」

「親殺しと思っていたか?」

 納得したように頷く叔父に、原田はニヤリと笑う。自分の噂を、ちゃんと把握していたらしい。

 叔父は苦虫を潰したような表情をして、原田はバックミラー越しにその表情を見て、笑い声を上げた。

「あの……、お祖父ちゃんの遺体を盗んだのも、闇の手って考えていいんですか?」

 私は話を戻し、尋ねた。原田は「ああ、恐らく」と頷く。

「昔、聞いたことがあってな。怨霊となった能岡が授けた妖術の一つに、死者を蘇らせる術があるらしい。それには死体が要るって話だ」

「じゃあ、お祖父ちゃんを蘇らせようとしている?」

「さてな。俺が聞いたのは、蘇らせるのに必要な死体は、本人か、あるいは血族のものらしいが」

 血族、と私は口の中で呟く。

 祖父自身ではなく、祖父と同じ血を引く誰かを生き返らせようとしている可能性もあるってことだ。私は叔父を見る。その人物に心当たりはあるか、と聞くように。叔父は首を振った。

「聞く限り、闇の手が志ヶ野の親父を生き返らせる理由はねぇように思える」

「同感だ。そこは向こうに着いてから聞こう。詳しいヤツを知ってるんでね」

「信用出来るのか」

 叔父の問いに、原田は首だけ私たちを振り向き、口角を上げた。

「いつもそうじゃあないが、今回の件に関しては、そうだな。出来る」

 

 ◇

 

 行き先は三重県だ。高速道路に乗った私たち一行だが、四、五時間は掛かるらしく、途中静岡県内のサービスエリアで休憩を取ることとなった。

 シロが車の中で待っている間、私はトイレに行って水を買い、車に戻った。

 叔父はすでに戻っていた。車のボンネットに座り、海の方を見ている。サービスエリアの名前にも入ってるし、多分あれが駿河湾なのだろう。

「そこ、座って平気なの?」

「原田は座ってたし、いいって言ってたぜ」

「ならいっか。……原田さんは?」

「ソフトクリーム買ってくるってよ。サービスエリアに寄ったら買うって決めてるそうだ」

「なんか不思議な人だね」

 前も言った感想をもう一度呟けば、叔父は小さく笑った。私はその隣に腰掛ける。

「あの雉村って女が、姉さんの仇か」

 叔父は海を見ながら確信を持った声で尋ねた。「うん」と私は頷く。

「……もしもあの時、能力を使えていたなら、お前はあの女を殺していたか?」

 叔父の問いに、私は叔父の顔を見上げた。私を見下ろす叔父の目は凪いでいて、叱るというわけでもなく、ただ事実を確認しているだけのようだった。

「……分からない」

 私は正直に答える。あの時の私は、後先など考えていなかった。

「母さんが死んだときの光景がよぎったんだ。そうしたら、もう、周りは見えなくなってた」

「……そうか」

 叔父は私の言葉に頷いて、私の頭に手を置いた。少し乱暴に撫でるその手は温かだ。

「優李、お前はヒーローってやつなんだろう?」

「……」

 叔父は私に尋ねた。私は黙り込む。

 ヒーロー。正義の味方。人が〝そうあるべき〟と思うような、そんな心を持つ者。

 あの時の私は、ヒーローではなかった。そんな自責の念が、私の心に渦巻く。

「説教しようってわけじゃない。ヤクザの分際で、人を殺すななんて御高説を垂れる気もない。だが、覚えておけ」

 私を見下ろした叔父の眉間には、微かにシワが寄っていた。

「一人殺そうと、百人殺そうと、殺しは殺しだ。相手が屑だろうと、聖人だろうと、それは変わらねえ」

 それは暗に、いつか私がヒーローとして、もっと大勢を助けるために少数を犠牲にするかもしれない、そんな日のことを言っているように思えた。

「一度でも人を殺したやつってのは、覚悟の据わりが違うもんだ。咄嗟の時の判断が、早くなる。いざってとき、躊躇いがなくなる」

 忍者集団との戦いで、躊躇いなく刀を振り下ろしていた叔父の姿を思い出す。

 状況が状況だったとは言え、今更ながら、私はその殺しに加担したのだと思った。私はあの時確かに、叔父に人を殺傷し得る武器を与えたのだから。

 口の中に苦いものを感じる。でもそれは、後悔ではなかった。

「こんな仕事をしてるとな、それが役に立つ。ヒーローとヤクザ。正反対だが、もしかしたらおんなじ覚悟がいるかもしれねぇ。……けどまぁ」

 叔父が、苦しげに笑った。

「姪っ子に、そんな覚悟は持ってほしくはねぇもんだな」

 ヒーローとしての覚悟。人を殺す覚悟。

 私は、どれだけ覚悟して足を踏み入れただろう。あの映画の、あの結末を変えるために、私はどこまで出来るだろう。

 コールソンを見殺しにした。それだけじゃあない。『アベンジャーズ』一作目で起こった一連の騒動で、死んだのがコールソンだけなはずはない。

 S.H.I.E.L.D.が崩壊した時だって、きっと人が死んでる。私を殺そうとしたあの男も、きっとあの爆風の中死んだだろう。

 きっとヒーローというものは、自分の目には映っていない、けれど確かにそこにいる人々をも救おうとする人だ。自らに向けられた殺意も、受け止めてなお生かそうとする人。

「……私は多分、ヒーローにはなれない……」

 ポツリと呟いた。私の顔を見つめていた叔父が、それを聞いて何を思ったのかは、私には分からない。

「おーい、高村さん。お嬢さん。ソフトクリーム買ってきたよ。一緒に食べよう」

 建物の方から、原田が両手にソフトクリームを持ってのんきな声を上げてやってきた。

 運転手として同行する彼の子分は、器用に三つのソフトクリームを持って、慌てた様子で後ろに付き従っている。

「あいつは、今の状況が分かってるのか?」

 叔父が呆れたような声を上げて、私は笑いながらボンネットを降りる。

「シロさん、ソフトクリームだってさ。原田さんが買ってきてくれたって」

 後部座席で丸まっていたシロを呼べば、シロはぱっと顔を上げた。

 

 ◇

 

 ――ついにこの時が来た。

 雉村は部下の運転する車の後部座席で、膝に置いたケースを撫でた。

 ケースの中には一振りの刀が入っている。やっと手に入れた。雉村がこの世界に身を投じて十年が経っていた。悲願が成就しようとしていた。

「(お姉ちゃん、ようやくだよ)」

 雉村は顔を上げ、窓の外へと目を向ける。複雑なジャンクションをいくつか超えて、見える景色はすっかりのどかな田園風景だ。

 雉村は子供の頃を思い出した。姉と二人、後部座席の窓に窮屈に並んで景色を見ていた。父は運転をし、母は助手席から、ちゃんと座りなさいと二人を叱った。

 あの頃から、随分といろいろなことが変わってしまった。

 雉村はあの頃の純粋さは失くしていたし、母はすっかり病んで二人目の娘のことなど忘れてしまったようだ。父はそんな母を残して出かけたまま、帰ってはこない。

 姉が、自らビルを飛び降りて、目を覚まさなくなった時。あの時、彼女はまだ少女と言える年だった。姉が着ていたものと同じ制服を着ていた頃だ。

 姉がビルから落ちて、眠ったまま霊安室で家族を迎えたときから、彼女の家族は家族としての歯車を狂わせてしまった。

 一つのパーツも欠けてはならなかったのに、その一つが動きを止めてしまって、他のパーツも上手く動かなくなってしまった。

 だから少女だった彼女は、戻したいと願った。自分はそのパーツの代わりになれない。パーツが、元に戻れば、と。

 少女だった彼女の前に、男が現れ、言った。

「お姉さんを蘇らせる方法がある」

 そりゃあ最初は疑った。

 けれど男の見せる不思議な力は本物だった。不思議な文言の書かれた紙を使えば、不思議なことが起きた。CGなどではなく、目の前で、たしかに。

 信じざるを得なかった。だから信じて、ついて行くことにした。

 いつか姉を蘇らせる。そうすればきっと、元通りになる。母は笑顔を取り戻し、父は家に帰ってくる。

 きっと。

 必ず。

 ――きっと。

 

 




今更かもしれませんが、シルバー・サムライこと原田剣一郎や、ヤミノテなどの設定に関しては、原作コミックスでの設定を参考にしつつ、オリジナルです。
ザ・ディフェンダーズ・サーガがこの世界線でどうなってるのかは、私にもよく分からない。
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