落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第四章-8「蘇生の儀」

 来た時とは別のゴンドラに乗って、私たちは地下の更に深い場所へと向かっていった。やがて着いたのは、篝火に紫がかった炎が灯る怪しい雰囲気の洞窟だった。

「こっちだ」

 先導する松緒の前に、音もなく忍者が現れた。

「サカキ様は儀式の最中です。邪魔することは許されません」

退()きな。これは頭領としての命令だ」

 松緒は有無を言わさぬ態度で命じたが、その忍者は道を開けようとはしない。

「聞こえなかったか。退けと言っている」

「主君の命です。お通しすることは出来ません」

「へえ?」

 松緒は片眉を上げた。その忍者の言葉は、松緒は主君ではないと言っているのと同じだった。つまり、今まで表立ってしていなかった三木部派の旗を、掲げたということである。

「その言葉の意味、理解(わか)って言ってるんだね?」

「……」

 松緒が凄んでも、忍者は言葉を撤回することはなかった。むしろ、これが答えであるとでも言うように、他に現れた忍者たちが私たちを囲んだ。

 背中を預け合うようにして武器に手をやる松緒たちを横目に、私はシロと自分の中を行き交う魔力を感じて確かめる。

「松緒さん、こいつら敵でいいんですよね?」

「――ああ」

 頷いた声を聞いた瞬間、私は頭上に魔法を展開した。ミラーボールのような光る球体が現れて、あっという間にそこから放たれた光が、私たちを囲んでいた忍者たちに突き刺さる。

 ……実際に突き刺さったわけではない。ちょっと意識を失うだけだ。閃光手榴弾のちょっとすごいバージョンみたいなものだ。最近ラシューカ星にあった魔法書から見つけた魔法の一つである。

 まあ何はともあれ、その光を受けた忍者たちはドサドサとその場に倒れ伏していく。

 呆気に取られている三人を見る。

「行こ」

「やるね、アンタ」

 声をかけた私に、松緒は至極楽しそうに笑った。

 

 ◇

 

 洞窟の中に灯りはなかった。私は灯火の魔法で目に痛くない程度の明かりをつけ、足元を照らした。

 洞窟を奥へと進んでいくと、奥から声が響いてくるのが聞き取れた。段々とそれが人の声だと分かる。低く、一定の調子で読み上げるような声。お経を思い起こすその声に、松緒が顔をしかめるのが見えた。

「もう始まってる」

 どうやら死者を蘇らせる儀式がすでに始まっているようだ。私たちの歩調が上がる。

 やがて洞窟の先に明かりが見えてきた。視線で魔法の灯火を消すように松緒から指示を受け、私は明かりを消す。洞窟の先の儀式の場から漏れてくる青白い光が、私たちの足元を薄っすらと照らした。

「儀式をやめな! ……そこまでにしてもらうよ、叔父御」

 松緒が飛び込み、声を張り上げる。

 声は響いた。しかし儀式の手を止めたのは中央の棺の前にいた男――三木部のみだ。丸く広くなった洞窟内の広場で、中央の棺を中心に忍者たちがなにかの呪文を諳んじている。儀式の声は、三木部が中断してもなお続いている。

 私は再びミラーボールを出した。先ほどと同じように光が放たれて、呪文を諳んじていた忍者たちが倒れ伏す。

 三木部はこちらを振り向いた。味方の忍者たちは倒れたのに、口元には笑みが浮かんでいた。以前見た人の好さそうな笑みとは、同じようでいて何かが違った。

「松緒。それに若頭補佐のお二人に、スーパーヒーローまでお越しとは」

 三木部は言う。儀式を邪魔されたのに、何も気にしていない様子だった。

「原田。お前が(ここ)出身であることをもう少し早く知るべきだったよ。そうすりゃあ事は滞りなく進んだだろうに」

「それはどうだろう。こっちにいるのはスーパーヒーロー様だ。よく言うだろう、正義は勝つってやつだ。お前の目論見が何であれ、きっと失敗したよ」

 悔しがるふうでもなく――むしろ余裕のある口ぶりで言った三木部に、原田は泰然自若とした様子で返した。

 私のこと買いかぶりすぎでは? ハッタリのための言葉かもしれないから、一応黙ってはおくが。

「叔父御、一体誰を蘇らせるつもりだい?」

「我らが望むお方など、決まっているじゃあないか、我が姪よ」

 目を細めて笑う三木部。松緒がはっと顔色を変える。

「――まさか。……でも、それじゃあ、」

 松緒の困惑した顔が、私へと向けられる。

 私は志ヶ野の孫娘だ。生き返らせるには本人か血族の死体が必要、という条件を志ヶ野が満たしているなら、私も満たしていることになる。しかし、そんな表情を向けられるという事は、三木部はよっぽどの相手を蘇らせようとしていることになる。

「そう。教えよう。我らの悲願。私が蘇生を試みているのは、他でもない、闇の手の祖。能岡景延である」

「何?」

 三木部の言葉にシロが声を上げ、私は息を呑んだ。

 私とシロだけじゃない、叔父や原田も驚いている。そんな私たちの様子を見て、三木部は嗤った。

「何だ、不思議に思わなかったのか? 最も厄介な魔法使いを、方法があるのにわざわざ殺さずにいたことを。お前は保険だ、志ヶ野の孫娘。能岡様が志ヶ野の老いぼれの体では満足されなかった時には、お前がスペアとなるのだ」

 勝手なこと言いやがって、と私は顔をしかめた。何かしら言ってやろうと口を開きかけたところで、別の方向から声が上がる。

「――お待ち下さい」

 洞窟の影から、人影が現れた。

 頭巾は被っていないが、忍装束を着ている。体つきは女で、見覚えがあった。声も聞き覚えがある。

「雉村……?」

 ポツリ、私は呟くように言った。

 もはや驚くこともないが、雉村は三木部の部下なのだ。しかしそれはそれとして、雉村のその姿に、これまでの余裕綽々といった様子は見えず、私は疑問を抱く。

 雉村が顔を上げる。その表情は、困惑と、どこか縋るような懇願が伺えた。

「蘇生のための死体に必要なのは、死体だとあなたは仰った」

「その通りだ。死体と大響。そして儀式。その三つ」

 雉村の問いに、三木部は頷く。気分が高揚しているのか、部下が話に割り込んできても怒る様子はない。

「その死体は、血が繋がっている者の死体なのですか」

 確信を持った声音で雉村は問う。困惑と懇願に、微かな怒りが交じる。三木部はそれを見ても、顔色一つ変えない。

「そうだ。死者の魂は血によって向こう側から呼び戻される。贄がいるのだ」

「では――それなら、姉を生き返らせるには……!」

「お前の血族は……ああ、親戚はいないと言っていたな。なぁに、父親か母親を贄とすればいい。お前を捨てた父親か、お前を忘れた母親だ。ためらうことはないだろう」

 詳しい話は分からない。だが、雉村はどうやら自身の姉を生き返らせるために、三木部に従っていたらしい。

 雉村は握った拳をブルブルと震わせて、三木部を睨んだ。

「それでは意味がない! 父と母と私、それにお姉ちゃん! 全員が揃わなきゃ、意味がない!」

 叫んだ雉村に対して、三木部は呆れと失望が混じったような顔をした。

「だからどうした。お前が訊かなかっただけだろう」

 三木部の言葉に雉村が激高し、血生臭い展開になるかと思われたその瞬間。

 洞窟の中に、獣の低く唸るような音が響き始めた。怒りで熱くなっていた雉村も、その声に反応して周囲を見回す。

 その声は、空気をビリビリと震えさせた。振動で、洞窟の壁や天井から細かな石がこぼれ落ちる。

 地震が起きても魔術のお陰で大丈夫だと原田は言っていたが、本当に大丈夫か心配になる。落盤でも起きたら洒落にならんぞ。

 儀式をしていた忍者たちは全員倒れたはずなのに、どこからか、再び呪文が響き始める。

 ぞわっと、体中を何か嫌なものが這い回る感覚。毛が逆立ち、私の目はその元凶に、釘付けにされた。

 洞窟の中央。棺の中から、何かおぞましい気配がする。

 何か、まずい。

 魔法を使おうとした瞬間、強い衝撃波とも言える激しい風が私たちに襲いかかった。目も開けていられない突風。私は腕で顔を庇う。

 突風が止み、静寂が洞窟内を支配する。静寂を破り、笑い声が響き始める。私は腕を下ろし、顔を上げた。

 棺は蓋が無くなって、百合の花が無惨に地面に散っていた。

 そこに老人が一人、立っていた。

 暗がりでも分かるほど、その肌はどす黒く。白髪交じりだった黒髪は逆立ち、紫色の炎を纏ったように揺らめいていた。瞳は黒目と白目の区別が分からない。ただ、光源の少ない洞窟内でも爛々と怪しい光を灯していた。総じて、そこに志ヶ野の面影はない。

「まさか、黄泉より現世へ、舞い戻る日が来ようとは」

 喜色をあらわにした声で、老人が言った。低く響く声。やはり志ヶ野のそれとは違う。

「お待ちしておりました、能岡様。我らの呼びかけに応じてくださいましたこと、この三木部、望外の喜びにございます」

 三木部が前に出て、跪く。老人――能岡はそれを見下ろし、満足気に笑った。

「影に生きる者。闇の子らよ。感謝するぞ。我が魂を容れる器を用意したこと。黄泉平坂の道のりは長く、案内がなければ迷ってしまう。そなたらの灯火、そして声が、この現世へ我を導いたのだ」

 尊大な言葉を聞き、三木部を始めとする忍者たちが深々と頭を下げる。能岡はそれから、つと私に視線を向けた。

「何やら混じりと変質はある。しかし、そなたは確かに我が血脈のものだな。女だが、何より若く、魔力が優れている。良い。こちらへ。この老いさらばえた体は仮宿に過ぎぬ。そなたを使おう」

「オェ、キモッ」

 こちらへ手を差し出す能岡に対して、私は思わず呟いてしまった。シロから少々呆れたような視線を頂いた気がするが、気付かないふりをする。

 対する能岡は、私の呟きに対して無言を返した。固まったのか、おじいちゃんだからキモいの意味が分からないのか。どちらでも、どうでもいいが。

「小娘が。能岡様になんという口を……!」

「良い。仮宿でも今は充分。先にやるべきことがあるだろう」

 額に青筋を立てる三木部を制し、能岡はそばに落ちていた刀――大響を拾い上げた。

「かつて我を封じるため使われた刀……だがこうして鞘に収められていれば、恐れるに足らず。三木部よ。地獄の釜は開いておるな? 案内せよ。これを葬ることからまずは始めよう。闇と混沌でこの世を支配するは、その先よ」

「待てッ!」

 能岡の言葉に、私たちより先に声を上げた者がいた。

 その声の主は雉村だ。拳銃を構え、その銃口は能岡へと向けている。能岡はそれを見ても、顔色一つ変える様子はない。――最も、肌は黒々としているため、実際の顔色なんて分かりようがないのだが。

「大響を渡せ! さもなくば……!」

「さもなくば、何だ」

 撃鉄を起こしながら脅迫する雉村に、能岡は冷静に返した。その冷静さと迫力に、呑まれたように雉村は言葉を失う。

「やめておけ。脅しというのは、強者がやるものだろう」

「う……、うわああああッ!」

 雉村の叫び声と銃声が響く。

 雉村はスパイだったとは言えS.H.I.E.L.D.のエージェントだ。銃の腕前もあるだろう。その予想通り、銃弾は確かに能岡の体に当たった。

 ――当たった、だけだった。

「騒がしい」

「うっ」

 能岡が手をひと振り。黒い闇が姿を現し、鞭のようにしなって雉村を吹き飛ばした。雉村の体は洞窟の壁にぶつかって、地面に落ちる。

「三木部。案内を」

「は。こちらへ。お前たち、そこの客人のことは頼んだぞ」

 洞窟の広場から、更に奥へと続く道へ、三木部は能岡を促して行く。

 追おうと足を踏み出す私たちの前に、新手の忍者たちがどこからともなく現れて立ち塞がった。

 ピィ――と指笛が鳴る。洞窟内に響き渡る。おそらく、洞窟の外へも。

 

 

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