落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第四章-9「魔術対決」

「なあ、円谷さん。あの先には何がある?」

迦具土(カグツチ)の釜と呼ばれる、火山の火口さ。大響はそこの火を使って打たれたとも聞く」

 叔父の問いに、松緒が答える。その手は腰元の暗器に添えられているようだった。

 それにしても大響直嗣、どこぞの指輪のような設定だ。

「ここはあたしが引き受ける。あんたらは能岡を追いな」

「でも、このくらいならさっきみたいに……」

「こいつらだけじゃない。さっきの指笛で仲間が呼ばれたはずさ。能岡とやり合う時、こいつらはお呼びじゃないだろう?」

 雑魚を引き付ける役を請け負おうとする松緒。待ったをかけた私に、松緒は首を振った。

「ここは任せな。こいつらに、あたしがなぜ頭領と認められたかを教えてやる」

「俺も残ろう」

 ニヤリと口角を上げた松緒。そこへ原田が加勢を申し出る。松緒はむっと顔をしかめた。

「あたし一人で充分さ」

「頼むよ、松緒。お嬢を困らせたくないんだ。……なあ高村さん。俺ぁ、アンタを結構買ってるんだぜ」

 私を困らせる? と突然水を向けられた私は首を傾げた。原田は腰に差していた刀を抜く。

「アンタが会長ってんなら、俺はついていく。文句はねぇ。だからお嬢と一緒に能岡を追え。……で、しっかりとここでケリをつけてくれよ」

 そう言えば、祖父は私に大響の次の主人を選んでくれと手紙に書いていた。あれはいわゆる、遺言状だ。正式な印鑑とかがあったわけではないからそこまでの効力はないだろうけど、大響を託し大響に選ばれたなら、その人が次の東連会の会長になるのだと思う。

 ここまでの候補は叔父と原田の二人だった。そして今、原田が辞退した。

 大響は叔父を選ばないかもしれない。もしかしたら叔父は、最悪の結末を遂げるかもしれない。――それでも。祖父は……お祖父ちゃんは、私に託したのだ。

「……行こう、叔父さん」

 叔父に声を掛ける。叔父が私を見る。

「ああ」

 叔父は確かに、頷いた。

 

 ◇

 

 道は松緒と原田が切り開いた。松緒が腰元から取り出したのは鞭で、松緒はそれを手足のように巧みに操って、能岡たちが去っていった道を守る忍者たちをあっという間に退かしてしまった。

 再び道が塞がれる前に、私とシロ、そして叔父は洞窟の更に深部へと駆け出した。洞窟は斜め下へ向けてずっと続く。道が途切れると、代わりに深淵とも言えるような深い穴があった。灯火の呪文で照らすが、底は見えない。

「叔父さん、シロさん」

「頼むぜ優李」

「行こう、マスター」

 叔父とシロに声をかければ、叔父は私の肩に手を置き、シロさんは体を小さく変えて私のもう片方の肩に乗った。

 その二つそれぞれに手を添えて、私は「行くよ」と穴へ飛び降りた。

 展開した魔法の術式は〝落下時の衝撃をなくす魔法〟だ。

 灯火の呪文でかろうじて自分たちの姿と目の前を通り過ぎる岩壁だけが見える、そんな暗闇の中を、私たちは落ちていく。

 おそらくものすごいスピードだったのだと思う。髪はバタバタと視界の端で揺れていた。しかしゆっくりと落ちている気がして、体感では数分の後、私たちの体は地面に降り立つ寸前でふわりと停止し、穴の底に着地した。

 底に降りてみると、更に奥から熱気が湧き出していることに気付いた。落ちてきた穴に対して垂直に続く洞穴の先から、赤い光が差し込んでいる。

「急ぐぞ」

 叔父が言って、私たちは誰ともなく走り出した。

 大響が火口へ投げ込まれたら、能岡を封じるのだか、倒すのだか――、ともかくそういう手段が無くなるということだ。そうなれば、一からその方法を探すことになる。それは避けるべきだ。

 闇と混沌とやらで世界を支配なんて、そんなことさせない。

 洞穴を駆け抜ける。広い場所に出た。

 肌を焼く熱。岩壁は赤く照らし出されていた。天井は高い。奥行もかなりある。地面はしかし、その奥行の半ばで止まり、その先は崖となっていた。

 赤い光はその下から差しているのだと分かる。おそらくその崖の下が、火口になっているのだろう。

 能岡と三木部は火口までの距離の半分ほどの位置にいる。

「待てッ!」

 叔父が鋭く叫んだ。能岡たちは足を止め、こちらを振り向く。

「しつこい奴らだ。能岡様、ここは私に――」

「アンタは寝てろ」

 立ちはだかろうとする三木部を、見えざる手で放り投げる。三木部は岩壁にぶつかり、気絶した。もう邪魔は入らない。

「大響と親父の体、返してもらう」

 叔父は言って、刀を抜いた。私もシロとの魔力の繋がりを確かめ、即座に術式を展開出来るよう準備をする。

 能岡はちらと三木部を見やり、小さくため息を吐いた。

「仕方がない。我直々に、相手をしてやろう」

 能岡の足元で、影が蠢いた。影は能岡を中心に八方へ広がり、体積を持って水のように湧き上がった。槍のように細く鋭利な姿へと形を変えた影が、私たちへと射出される。

「マスター!」

「分かってる!」

 私はすぐさま叔父の前に出て、花弁のような盾を出して防御した。影は金属のような甲高い音を立てて盾にぶつかる。そしてそのまま盾の表面を滑って、横へと回り込もうとしてきた。

 こちらを狙う影の槍だが、花弁の姿はブラフだ。球体状に私たちを包み込んだシールドが、影の槍を防いでくれる。

 そして防御をしているから攻撃が出来ないなんて事はあるはずない。

 狙うは本体。私たちの魔力は能岡の背後の地面を変形させた。土の手がガバっと能岡に襲いかかる。能岡を捕まえようとした手はしかし、能岡が寸前で身を捩ったことで避けられてしまう。

 が、それも織り込み済み。そこから私は怒涛の攻撃を仕掛ける。能岡の頭上に魔法術式がいくつか現れ、そこから光弾が発せられる。

 元は忍者というだけあって、能岡は軽々とその攻撃を避けていく。それでいい。私は攻撃で能岡を火口から離れさせていく。

 一定の距離まで離したところで、私は能岡を魔法術式で四方八方から囲み、至近距離で一斉に光弾を放った。能岡を中心に、閃光弾のように球体状に光りが湧く。土煙も上がった。

 やったか!? と言いたくなるシチュエーションだ。

 ややあって、晴れる土煙の中から笑い声が響き出した。悪役必修の三段笑いである。

「娘、名はなんという」

「……レディ。こっちは相棒のテディ」

 アベンジャーズとしてのコードネームを名乗れば、能岡は愉快そうに笑った。

「用心深さも良い。魔術の才もなかなかだ。ますます欲しい。そなたの体に我が魂が宿ったならば、恐れるものなどこの世にないだろう」

「いいや、あるよ」

 即答で言い切った私に、能岡は「ほう?」と興味深げに首を傾げる。

「アベンジャーズだ。たとえ私たちが負けても、地球には彼ら(ヒーロー)がいる」

「意味が分からぬ」

 半笑いで能岡は私の言葉を嘲笑った。私はそれに対して、嗤い返す。

「世界はアンタが思うよりずっと広いんだよ、じいさん。アンタ解凍されたてのキャップより物を知らないね。この世を支配だの言う前に、この世の勉強し直してきたらどう?」

「小娘が。我は黄泉路にて闇の経典を読み、それを修めた。たとえ何人(なんぴと)たりとも、この魔術があれば恐るるに足らぬわッ!」

 悪役然としたセリフを吐いて、能岡は自身の背後に魔術の術式を展開した。紫がかった黒い炎がゆらりと立ち上り、梵字のような文字がいくつも、能岡を中心に球体を描き巡っている。

「そなたの魔術を正面から打ち破り、その肉体を奪う。その先に、我が悲願の成就はある」

「さっさと黄泉へ帰れよ、じいさん。黄泉竈食(しょくじ)の時間だぞ」

「今のうちに吠えておけ、小娘」

 互いに一歩も引かずに、好戦的な笑みを浮かべた。私も能岡に対抗して魔法術式を展開する。展開された魔法の〝砲台〟は、鎮座するように私の合図を待つ。

 剣士が間合いを読み合うような、長く短い睨み合いの末、私と能岡はほぼ同時に攻撃を開始した。私が放つ白い光弾と、能岡の放つ黒い光弾がぶつかり合っては弾ける。

 浮き上がり、崖へと近付こうとする能岡に対し、私もその場を浮き上がって行き手を阻むように飛ぶ。

「このままでは互角だぞ、マスター」

「なら手数を増やす」

 私は〝砲台〟の数を増やす。光弾が更に増えて、攻撃の厚みも増す。弾幕が厚くなる。ブライトさんもにっこりだ。

 能岡が「ぐぅッ!?」と慌てた声を上げた。光弾だけでは対処しきれず、能岡は防御の術式も使い出す。私はそこへ更に砲台を追加し、物量差で圧倒する。

 え? 物量を過信するのは愚か者? 過信はしてないって。

 先程までの互角な状況からあっという間に劣勢にやられた能岡は、防戦一方となる。自身の周囲に術式を展開して、私の怒涛の集中砲火を防ぐのにやっとだ。

 さて、どう出るかな。

「この――小娘がッ!」

 怒号と共に、衝撃波のように力が解き放たれた。重く激しいその力に、私の術式が砕かれて消える。やるじゃん。

「図に乗りおって……」

「年取ると気が短くなるってほんとなんだね」

「貴様ぁ……!」

「あれ、小娘って呼ぶのやめちゃったの、おじいちゃん?」

 黒い肌にも血管の浮かび上がるのが分かった。挑発がよく効くこと。だけどずーっと叔父が何もしてないの、気付いてないのかしら。

 私は再び術式を出して、光弾をいくつか放つ。先程に比べれば屁でもないだろうその攻撃を、能岡は紫がかった黒い炎を纏う腕で払いのけた。

「何だ、もうあの砲撃はせんのか」

「しないよ。必要ない」

「なにを――」

 勝ち誇った笑みを浮かべた能岡は、しかし言葉の先を失った。それより先に、能岡の大響を持っていた腕が、背後から切り落とされたからである。

 黒い肌の中、怪しい光を纏う瞳が、驚愕に見開かれたのが分かった。

「お前はッ――!」

 腕を切り落としたのは他でもない、叔父・アキヒコである。大上段から真っ直ぐ下へと振り下ろされた刀が、能岡の腕を骨まで綺麗に断ち切った。

 叔父は私とシロ対能岡の戦いが始まって、能岡の意識が私へと向いている間に隠れて貰っていた。

 隠形系の魔法術式で姿を隠し、叔父にだけ見える透明な足場を駆け抜けて今、叔父は能岡を切ったのだ。

 後は私が能岡をどうにかして、叔父が大響を回収するだけ――だったのだが。

「この……愚か者共がァッ!」

 能岡は魔力を爆発的に放出した。

 私は肩に乗ったシロごと吹き飛ばされ、壁に叩き付けられた。叔父はどうなったか分からない。

 私はそのまま軽くバウンドして、落ちる。下に見えるのは火口。そして体に見えるのは紫色の炎に似た揺らめきを持つ、梵字のような術式。帯のように連なった術式が、私の体に纏わりついてる。

「マスター! これはやばいぞ!」

「分かってる!」

「あと、上を見ろ!」

「ハァ?」

 どうにか空中で体を捩れば、落ちてくる一振りの刀。見覚えのある拵え。

 大響直嗣。

 そして今の私は、能岡の魔術で魔力を封じられてしまった。

「ピンチじゃないっすかァ!」

「だからやばいと言っただろう!」

 誰か! 空飛べる人呼んで!

 

 

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