落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第四章-11「炎の戦い」

 ――大響は持ち主を選ぶ。相応しい者には大いなる炎が宿り、相応しくない者は大いなる炎により焼かれる。

 いつだったか聞いた大響直嗣にまつわる伝説が、私の脳裏をよぎっていった。私は呆然として、燃え盛る炎の中、人の形の影となった叔父の姿を見つめる。

 叔父は、持ち主に相応しくなかったのか。

「マスター、叔父御は……」

 シロの声を聞きながら、私はぐっと奥歯を噛み締めた。何を以て相応しい、相応しくないが決まるのか、私には分からない。だが叔父がああして炎の中に沈んだ今、能岡をどうにか出来るのは私たちしかいない。

「小癪な……! 大響に新たな主を選定させるとは……先に貴様を潰させて貰うぞ、小娘!」

「……え?」

 悔しげに炎を見つめた能岡は、続いて私を睨んだ。

 その反応は、まるでまだ叔父が生きているかのような反応である。それをしているのが敵である能岡だからこそ、むしろ信用が出来た。

「叔父さんは……まだ生きている?」

 大響が持ち主を選ぶのは事実で、その選定の過程で必ずその身が炎に包まれるのならば。

「……であれば、叔父御が戻るまでの持久戦というわけだな」

 シロがニヤリと笑って言った。私も笑みを返す。魔法の燃費の良さに関して、そうやすやすと負ける気はない。

 能岡の周囲に、紫がかった黒い炎の術式が浮かぶ。と同時に、同色の光弾が矢継ぎ早に撃ち込まれた。私もそれに対応して、光弾を放ち相殺する。相殺し切れなかった弾は、盾を展開し防ぐ。

 その間に、能岡の影の魔術が私の足元へ這い上がってきていた。影は唐突に勢いをつけて、私の喉元を狙う鋭い影の槍へと変化する。

 そのまま私の喉を狙い通りに刺し貫いた、かと思われた。能岡がニヤリと口角を上げた途端、私たちの姿は塵となってかき消えて、代わりに火口の崖の上へ現れる。

「随分と嬉しそうだけど、何か良いことあった?」

 わざとらしく、白々しく尋ねる私を、能岡は睨み付ける。

「闇の魔術を修めたってわりに、大したことないじゃない?」

「その言葉、後悔しても遅いぞ」

 どうやら怒らせてしまったらしい。

 能岡は両手を大きく広げ、術式を展開した。低く響く声で、念仏を唱えるような詠唱。何か嫌な、おぞましい気配を感じた私はすぐさま光弾を放つが、それが能岡へと届く前に能岡の術式が完成した。

 世界が闇に包まれる。

「なぁんも見えない。シロさんは?」

「……ダメだ。赤外線でも見えない」

 声は聞こえた。いつも通り、先程までと同じ、私の肩の上から。適当に攻撃を放ち、叔父に当てては元も子もない。どうしたものか。

「マスターが焚き付けるから」

「仕方ないだろ……うっ!?」

 苦い表情(見えてないだろうけど)を浮かべて言い合っていれば、唐突に飛んでくる攻撃。左腕に被弾。私は顔をしかめると同時に、周囲に魔法の盾を展開した。

 次々に、盾へと攻撃がぶつかる。攻撃を見てから盾を展開して効率よく攻撃を防ぐ、と言うことが出来ないため、どうしても自分の周囲に盾を張りっぱなしにならざるを得ない。

「どうした、小娘! やり返さんのか!」

 暗闇の中から、能岡の至極愉しげな声が響く。声は全体から響いており、音で場所を特定することは出来なかった。もちろん攻撃も、全方向から襲ってくる。

 相手の光弾の威力を考えると盾を厚くせざるを得ない。魔力消費も高くなる。魔力の燃費の良さを自負したものの、この状況が続けば流石に無理。ジリ貧だ。

 灯火の呪文で闇を照らそうとするが、点けた瞬間、闇に呑まれて消えてしまった。もうこの状況、世界まるごと闇に呑まれたのか、私とシロの視界が闇に包まれたのか、よく分からん。

 どうすれば打開できる? 頭を巡らせる私の耳に、声が届いた。

「すまねぇな、優李。待たせた」

 落ち着いていて静かな、こちらを安心させる声。叔父さん、と私が発するより先に、熱く温かな突風が闇を切り裂いた。

 急速に開けていく視界の中に、真っ先に叔父の姿を見つける。

 左手に朱塗りの鞘。右手には炎を纏った一振りの刀。あれが、大響直嗣。

「遅いよ、叔父さん!」

 思わず口角が上がる。弾んだ声で可愛げのない言葉を掛ければ、不敵な笑みが返された。

 それを面白く思わない者が一人。

「忌々しい刀だ……」

 周囲の闇がすっかり晴れて、能岡の姿も崖の上に見えた。紫に妖しく光る瞳を爛々とさせて、能岡は叔父を睨みつけた。

「何故この力の素晴らしさが分からない? お前たちにも死に別れた者がいるであろう? この魔術さえあれば、それを蘇らせることも出来るのだぞ」

 形勢不利と察したから、こちらの引き込みを仕掛けて来ようとしているのか。それとも純然たる疑問からその問いをぶつけてきたのか。

 しかしどちらにせよその言葉は、私と叔父にとっては地雷である。

「そもそも、お前がいなければマスターと叔父御は大切な人と死に別れる事はなかった。お前に言われる筋合いはない」

 私と叔父の気持ちを代弁してシロが言い返す。

 シロの言う通り、志ヶ野が殺された原因も、私の母が殺された遠因も、全ては闇の手にある。ひいてはすべて能岡のせいである。その諸悪の権化が、今更何を言っているのか。

 能岡はそれを聞き、それでも引かなかった。私へと視線を向ける。

「では娘、そなたの好奇心はどうだ。この魔術をより深く知りたいとは思わんか。より強力な魔術を知りたいと、考えたことがあるだろう?」

「他人の作った魔術もそりゃあ好きだけど、自分で組んで作る方が楽しいでしょ。知りたくなったら自分で探す。その過程も好きなんでね。あんたの力は必要ない」

 能岡の誘いを素気なく断る。闇の魔術なんてヴィラン堕ちでもしない限り用はないだろうけど。

 能岡はくっと口角を上げた。

「では二人仲良く揃って、大響とともに闇に呑まれるがいい……!」

 さいごの悪あがきでもするのか、と思った途端、能岡を中心に猛烈な風が渦巻き始めた。転がり落ちていた石ころすらその風に浮き上がり、そして吸い寄せられていく。

 風の中心で、能岡は片手を掲げていた。その上に見えるは、黒い球体。石ころが吸い寄せられ、その黒に呑まれていった。

「――ブラックホール?」

 いかにも闇の魔術っぽい技である。地面を踏みしめていた足がその吸引力によってズズッと体ごと引き寄せられた。

「お前たちは、ここで仕留めてやる。必ずだ」

 ブラックホールは、能岡の掲げた手のひらの上でその大きさを増していく。大きくなるごとに、私たちの身体も上手く立っていられなくなる。とりあえず魔法で体幹を強化しバランスを取るが、魔法の盾でブラックホールを防げるかは謎である。

「下がってろ」

 頭の中で能岡を倒す方策について巡らせていた私の前に、叔父の背中が現れる。叔父は守るように私たちの前に立ち、刀を一度鞘に納めて居合の構えを見せた。

「闇に呑まれて消えよ!」

「――ッ」

 充分な大きさになったのであるブラックホールを、能岡はこちらへと投げた。叔父から、微かに短く、息を吐く音。

 斬撃は目にも留まらなかった。気付けば叔父の手は大響を抜いていて、ブラックホールは切り裂かれ、炎の渦に呑まれて消え去った。

「迦具土の釜の炎は光の魔術。お前の闇の魔術では勝てない」

「な……ぐ……っ!」

 叔父は静かな声で、しかし決然とした態度で言った。能岡はあの術が一番の頼みだったのか、驚愕した様子でうろたえている。

 私は小さく詠唱した。詠唱を必要とする魔法術式はそれなりにあって、今回のこれはそれだった。

 体の前に差し出した手のひらの上で、風が起こる。混じって白い小さな花弁が舞う。

 叔父が炎を使うなら、私は風でその火を更に大きくしよう。花弁が全て散り終えるまでと言う時間制限はあるが、対象の身体能力をサポートする。いわゆる補助系魔法だ。

 花弁は風に乗り、叔父の周囲に舞った。それを合図とするように、叔父は大響を構え直して大きく踏み込んだ。

 能岡が魔術で作り出した刀身の黒い刀が、大響を受け止めた。鍔迫り合いになることなく、お互いに刀で弾き合い、間合いを取る。

 腹を探るような睨み合いのあと、同時に踏み込んだ二人は、怒涛の攻防を繰り広げた。剣戟の音が響く。赤と紫の炎が、二人を中心に円状の軌跡を描く。

 互いの刀を避け、弾き。斬り下ろし、突き崩そうとする。炎の中を、白い花弁が散る。まるで演舞でも見ているかのようだった。

 切り結ぶ二人の腕は、互角のように見えた。焦れた能岡が魔術を展開する。

 梵字のような文字が浮かび、そこから黒い光弾が発せられた。――が、それは後方に控えていた私が魔法の光弾をぶつけることで相殺した。能岡は忌々しげに舌打ちする。

 叔父が大響の刀身に炎を纏わせると、対抗するように能岡も刀から炎を噴き出させた。

 叔父は赤い炎を、能岡は黒い炎を、互いに纏った刀を振り下ろし、二振りの刀がぶつかりあった。鍔迫り合い。膠着。そして互いに押し合って、大きく飛び退った。

 無言の睨み合いののち、二人は刀を鞘に納める。しかしそれは、戦いの終わりだったわけではない。叔父と能岡は、腰を低く落とした。居合の構えだ。

 私が叔父に纏わせた風の花弁の最後の一枚が、二人の間にはらりと落ちた。地面に、音もなく。それが合図だった。

 勝負は一瞬だった。すれ違いざまに抜く、その一撃。叔父は抜き、能岡の刀は鞘から半分で止まっていた。

「邪魔を……したな……! ただの、うつわふぜい、が、」

 能岡が、自身の手のひらを見下ろして言った。――うつわ。邪魔をした。

「……おじいちゃん?」

 まさかと思いながら私は呟いた。

 ザフ、と大量の砂が落ちたような乾いた音とともに、能岡の――志ヶ野の身体から黒い煙が抜けた。

 それは、たったの一瞬。

 もしかしたら、幻だったのかもしれない。元の志ヶ野の姿を取り戻したその顔が、一瞬の生気を宿していたように、私には見えた。ふっと満足げに微笑んで、そしてその場にくずおれて、志ヶ野の遺体は、ただの遺体に戻った。

 志ヶ野の身体から出た黒い煙は、宙空を漂おうとしていた。それを私が魔術の風で包み、さらに叔父が大響の炎で包み、そのまま火口へと叩き落した。

 その時、微かに火口から響いてきた音は、ただのマグマの音だったのか、能岡の断末魔だったのか、私には分からない。

 でも確かに、能岡の魂は消え去ったのだ。すべてを燃やし溶かし尽くす、火の神の釜の中で。

 

 

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