落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について 作:緑茶山
第五章-1「ヒドラ基地襲撃」
雪の積もったソコヴィアの森の中を、アベンジャーズは襲いかかる敵を倒しながら疾駆していた。
ナターシャが運転する車の上からバートンが矢で敵を射抜き、その傍らを駆けるソーがハンマーで敵を吹っ飛ばす。アイアンマンは低空を飛びながらリパルサーを放ち、キャップはバイクを転がしつつ片手で兵士を引きずり放り投げた。唸りを上げるハルクにひっくり返された戦車は爆発し、炎上する。
私たちレディ&テディは、ヒグマサイズまで大きくなったシロに私が乗って、みんなと同じように敵を倒しつつ駆けていた。
アイアンマンが森を抜け、その先にある古城へと飛んでいく。
「〔クソッ〕」
アイアンマンが古城の屋根をぶち破るかと思われたが、障壁に阻まれた。無線越しに聞こえるアイアンマンの悪態。
「〔口が悪いぞ。――J.A.R.V.I.S.、何か分かったことは?〕」
キャップが思わずと言った様子でアイアンマンに小言を言いつつ、J.A.R.V.I.S.に尋ねた。
「中央の建物はエネルギー障壁で守られています。ストラッカーは他のヒドラの基地より進んだテクノロジーを使っています」
キャプテンの質問に、J.A.R.V.I.S.は衛星から得た情報を分析して答える。
「私が〝中〟に潜って解除する」
「〔出来るか?〕」
私が言うと、スティーブが聞き返した。電脳世界に潜ってハッキングだのなんだの出来ることは、仲間内には知らせてある。
「んー、三分待って」
「〔一分だ〕」
「キャップはカップラーメン待てないタイプだね。……ちょっとの間、頼むよシロさん」
「承知した」
能力を使って作り出したベルトでシロと私の体を落ちないように繋げ、私は単独で電脳世界へと潜った。
「J.A.R.V.I.S.」
「ユーリ様」
呼びかければ、暗闇に浮かび上がるオレンジの光の球体。
「場所は?」
「こちらです」
J.A.R.V.I.S.が言うと、空間に白い線が引かれた。いくつも重なった線はヒドラの基地となっている古城の形をしている。情報がいくつかの箇所に集中していた。
「障壁の動力源は北棟に」
「分かった。ありがとう」
北の棟にある情報のファイルに手をかざす。出てきた鍵を数秒足らずで解除して、引っ張り出した。ずらっと広がるデータの中から、障壁の動力に関わるものを見つける。
「みーつけた」
にっこり笑みを浮かべて、動力の繋がりを破壊する。システムを再構築しない限り、障壁は使えない。
「協力ありがとう、J.A.R.V.I.S.。戻るね」
「どういたしまして、ユーリ様。お気をつけて」
視界が光に覆われ、私はまぶたを開く。聴覚が戻り、銃撃と砲撃の音が鼓膜を叩いた。
「終わったよ」
「〔ああ。今スタークが向かった〕」
報告すれば、キャプテンから返答がくる。森の木々を透視し古城の方に目を向ければ、赤い粒がちょっと見えた。
しばらくそのまま森の中で戦っている内に、バートンが被弾したり、キャップが強化人間に出会ったり。
ソーが負傷したバートンをクインジェットまで運ぶことになり、キャプテンは杖を探すという。私はシロの背に乗ったまま、キャプテンの前で止まった。
「乗ってく?」
私が親指で後ろを指し示すと、キャップは口の端を片方持ち上げた。飛び乗ったキャップがしっかり掴まったのを確認して、シロが走り出した。
「キャップ、またバイク壊したでしょ」
「現代のマシンは壊れやすくてね」
◇
ヒドラの幹部・ストラッカーを捕らえ、ロキの杖を回収した私たちは、クインジェットに乗り込みアベンジャーズタワーへと帰還した。
バートンは人工クレードル研究の第一人者、ヘレン・チョ博士の治療を受け、抉れた皮膚も元通りだ。
ガラスの向こうでスタークが杖の研究に精を出している間、私たちはナターシャとともに治療室でホークアイに付き添っていた。
「ねえ、彼は大丈夫? 彼を案じるふりをしてチームがまとまっているの」
「大丈夫。悪化する可能性は無いわ。模造細胞だとは彼自身も気付かない。ナノ分子が機能しているおかげよ」
ナターシャの言葉に、ヘレンは安心させるように答える。
「人工細胞を造っているんだ」
やってきたバナーがヘレンの説明に付け足した。
「私の研究所ならもっと早く終わるわ。細胞再生クレードルなら二十分もあれば充分」
「お、死亡したか? 時間記録する?」
時間の話をしていたのを聞いていたのか、スタークは軽口を叩きながら入ってくる。治療台に横たわったバートンは低く笑った。
「俺は永遠に生きるぞ。プラスチックの体で」
「あなたの細胞を使ってるから、恋人が見たって気付かないわ」
「恋人はいないよ」
「それは医学じゃ治せないわね」
ヘレンは肩を竦めて見せて、スタークと私たちへと顔を向けた。
「これは最新技術よ、トニー。……地球上では、だけど。メタル・スーツなんてすぐに時代遅れになるわ」
ヘレンの言葉をスタークは鼻で笑いあしらった。
「それは望むところだね。じゃ、ヘレン。土曜日のパーティーでまた会おう」
「あなたと違ってパーティーに出てる暇ないの。……それって、ソーも、来る?」
一度は断ろうとした様子のヘレンは、ややあって尋ねた。いじらしくて可愛いなぁ。
微笑ましくその姿を眺めていれば、私のスマホに着信が入る。
「ちょっと電話してくる」
「なんだ恋人か?」
「だったら良いんだけどね」
もたれていた壁から体を起こし、私は治療室の外へと歩き出す。からかうバートンに肩を竦めて答えながら部屋を出た。
人通りの少ない階段の方へと向かいながら、私は電話に出た。相手は日本人なので、日本語で。
「もしもし?」
「〔優李、俺だ〕」
「オレオレ詐欺みたいだよ、叔父さん」
電話の相手――母方の叔父・アキヒコをからかってみれば、電話越しに鼻で笑われた。
「〔例の件は上手くいったぞ。対象ヒトマルは今、日本でバカンス。フタマルは別の国でボランティアだ〕」
「日本? 大変だったでしょ、あの国は今戦時下みたいなものなのに。ほら、ビザとか」
「〔そこは上手いことコネを使ってな。代わりにヒトマルは安心して出国したよ、日本は平和な国だからな〕」
日本語と言えども一応用心して、キーワードとなる固有名詞は控えめに話す。J.A.R.V.I.S.に翻訳されたら一発だし。
「ごめんね。こんな訳分かんないお願い、理由も聞かずにやってだなんて……本当にありがとう」
「〔姪っ子の頼みだ。それに気合入れてやんなきゃ、親父に顔向けできねぇよ〕」
これは礼も兼ねてるんだしな、と叔父は言った。私は一年ほど前に巻き込まれたヤクザや忍者やらの戦いを思い起こしながらかすかな笑みを頬に乗せる。
叔父に頼んだのは、ヘルムート・ジモの妻子とチャールズ・スペンサーをソコヴィアから離すことだった。このまま何事もなく私の目論見通りに展開すれば、一人のヴィランが生まれなくなる。それが今後にどう影響するかは分からないが、減らせる犠牲は減らしたい。
多重転生した私のいくつかの〝記憶〟の中では、ジモの妻子を救っても必ずソコヴィア協定は結ばれ、顛末が多少変わるだけでシビル・ウォーは起きていた。……その場合、のちのバキ
チャールズ・スペンサーに関しても、同様のこと。まあ、どちらも自己満足に過ぎないけど。
ならばそもそも『エイジ・オブ・ウルトロン』でのスタークの暴走を止めるために動けば、と思うかもしれない。しかし、それもまた多重転生の記憶の中で止めようとしたが、結局どうやってもスタークはウルトロンを作る。
科学者の狂気を止められるやつは今すぐ止めて見せてくれ。私には無理だ。
何はともあれ、足が付かないように念には念を入れてやってもらった。これで大丈夫なはずだ。
そうして、近況の話もそこそこに、私は電話を切った。こちらでは昼だが、日本は今深夜帯のはずだ。色々やって貰ったのだから、ゆっくり休んでほしい。
「マスター、叔父御はなんと?」
「上手くいったって」
足元に来ていたシロの言葉に、笑みを浮かべ答える。やることは話してあった。成功を聞いて、シロもホッとした表情を浮かべる。
「何が上手くいったんだ?」
割り込んだ第三者の声に、私は少し驚いた。階段からスティーブが上ってきていた。
「ああ――叔父さんの、恋人へのサプライズ。相談に乗ってたの」
とっさに口から滑り出た嘘は、それなりに上手いものだったと思う。嘘が上手いというのもあまり喜べはしないが。スティーブは特に不審がることなく頷いて、治療室の方へと向かった。
その背中を見送って、私は一人小さくため息を吐く。叔父さんに恋人がいることになってしまった。
「……そう言えば、土曜日にパーティーをするんだろう。着る服はあるのか」
こちらを気遣い話を変えたシロに、私は視線を泳がせる。
「無いのか……振袖はどうだ? 母君のお下がりだっただろう」
「動きづらいからちょっと……」
パーティーだけなら良いかもしれないが、その後のことを考えるともう少し動きやすい服装が良い。
着物は慣れれば、なんて言う人いるかもしれんが、少なくとも私は慣れてないので。
……いや、慣れてたとしてもアイアン軍団と戦う時に着物はきついだろ……。いや、振袖の袖に小石入れて遠心力で……? 何を言っているんだろう、私は。
「ナターシャかヒルさんにでも相談しようかなぁ」
そんな話をしながら階段の方からメインフロアへ戻る。そう言えばシロはパーティー用に蝶ネクタイくらいさせたほうが良いのだろうか。ピクサー映画に出てくるキャラクターみたいになりそうだけど。
「〔ユーリ様、土曜日のパーティーですが、ドレスの用意はございますか?〕」
「ございませんね。用意してもらえる?」
噂をすれば、とでも言うかのように、先程話していた話題をJ.A.R.V.I.S.から持ちかけられた。
「〔トニー様より承っております。デザインもこちらで決めることも出来ますが〕」
「あー、そうだね。やってもらえるなら、全部お願いしていい?」
「〔かしこまりました〕」
悩んでいた問題は一瞬で解決した。
「電脳執事付きのお家とか立てたりしないのかな、スターク建設とかで」
「ア○クサのJ.A.R.V.I.S.氏バージョンでもスターク氏にねだってみたらどうだ?」
おそらく冗談だったのだろうけれど、シロの言葉に私はそこそこ本気で「なるほど」と頷いてしまった。