落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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ユーリのドレスのデザインは、読者のみんなそれぞれの心の中にあるのさ


第五章-2「祝勝パーティー」

 そうして訪れた土曜の夜。正しく言うなら、今はまだ夕方。

 タワーにある女子用の更衣室で、私とナターシャはドレスへと着替えていた。残念ながら二人とも、背中のファスナーを上げてくれる親しい男性はいないのである。ナターシャに関しては、〝まだ〟が入るが。

 ……まあ正直、柔軟はあるから背中のファスナーは普通に上げられるけど。こういうのは女子同士きゃいきゃいやるのが良いのだ。ちなみにシロは適当に外をぶらついている。

 ナターシャのドレスは黒で、胸元の襟部分から背中が白……ちょっと私の説明が下手すぎる。まあ、映画で着ていた通りのデザインだ。胸元は開けていて安定のエロさだが、体のラインを主張しすぎない清楚さも兼ね備えた最高のドレスである。

「今日のナターシャ超カワイイね」

「ありがと。あなたも素敵よ」

 褒めたら褒め返されたので、私も礼を言って返した。謙遜しすぎないことがいい女の秘訣って何かに書いてあった。

「博士そういう感じ好きそう」

「――、……そんなに分かりやすい?」

 何気なく口にした言葉だが、ナターシャはたいそう驚いたようだった。アイラインを引く手を止めて、彼女はこちらを見る。

「スティーブはみんなのことよく見てるから気付いてるみたいだけど、他の人は多分気付いてないと思うよ。特にバートン」

「クリントはそうでしょうね。でもあなたは気付いた」

「いえーい、これが女の勘ってやつぅ?」

 バートンの扱いェ……。私がおどけてピースしてみせれば、鼻で笑われた。

「……彼、本当にこういうの好きだと思う?」

 ややあって尋ねるナターシャ。ヤダめっちゃ恋する乙女じゃん可愛い。

「そんなに不安なら、ガラスの靴と、かぼちゃの馬車でも出そうか?」

「遠慮するわ。十二時で帰るなんて嫌だもの」

 気を紛らわせるように軽口で応えれば、ナターシャはいつもの調子を取り戻したようで笑って見せた。

「ところであなたはどうなの?」

「何が?」

「いい人いないのかってこと」

 マスカラを塗りコームで整える手を止め、ナターシャの言葉に私はうーんと唸る。

 視界に、自分の着ているドレスの裾が入った。せっかく用意して貰ったのだから、J.A.R.V.I.S.にもあらためて礼を言いに行こうか……。

 思考が飛んで、黙っている私に、ナターシャは口を開く。

「シロに遠慮してる?」

「まさか。ただ、運命の人とまだ出会ってないだけ、ってね」

 それに対しては即答で首を振り、結局私は肩を竦めて冗談交じりに答えた。ナターシャはちょっと呆れた顔をしたけれど、何も言ってこなかった。

 

 ◇

 

 ニューヨークの煌びやかさをかき集めたような華やかなパーティーには、多くの人が集まりそれぞれ楽しんでいた。

 人工クレードル研究とイマジェンのナノマシンについてのことで意見を交し合ったことのあるヘレンと話していた私だったが、ソーが一人になったタイミングを目ざとく見つけたヘレンを見送ったため、めでたくぼっちとなった。シロは大きくなったり変身したりと招待客を盛り上げている。

「楽しんでる?」

「スターク。うん。こういうのあんまり経験ないけど、雰囲気だけでも楽しいね」

 壁の花になってノンアルコールのジュースを飲みながらフロアを眺めていれば、スタークがやってきた。人の中心にいるタイプなのに、よく上手いこと抜けてきたもんである。

「ドレス、よく似合ってるな。J.A.R.V.I.S.が選んだんだって?」

「うん。スタークが手配するように言ってくれたんでしょ? ありがとう」

「ああ、どういたしまして」

 礼を言った私に、何か皮肉なジョークを言ってくると思ったが、スタークはただ鷹揚に頷くだけだった。珍しい、と思った私だが、すぐに続いた言葉でその理由を悟る。

「ところで、君にずっと聞きたいことがあったんだが……」

 スタークは言いにくいことがある時そうするように一度フロアを見回して、改まったように口を開いた。

 なるほど、質問が本題だったから、ジョークにまで気が回らなかったらしい。なんだろうと首を傾げて私は続きを待つ、が。

「Mr.スターク、こんばんは。今夜はお招きありがとう」

「ああ、どうも」

「こんばんは、Ms.タカムラ。あー、あの、僕のこと覚えてるかな、元S.H.I.E.L.D.の……」

「え、ああ、はい。確か本部のラボで働いてた……」

 示し合わせたように両サイドから声を掛けられ、私たちはそれぞれ応対する。ちらっとスタークを見れば、彼もこちらを見た。お互いに肩を竦め合って、それきり。

 再びパーティーの間二人きりになることは無く、スタークが私に聞きたいことも分からずじまいだった。

 

 ◇

 

 宴もたけなわってやつで、ゲストたちは皆帰り、残ったアベンジャーズメンバーとヒル、ローディ、ヘレンがソファに座って談笑していた。ローテーブルの上には飲み物とつまみ、そしてムジョルニアが置かれていた。

「仕掛けがあるんだろ?」

 ムジョルニアを示してそう言ったのは、バートンだ。

「そんな子供騙しじゃない」

「〝相応しき者だけがこのハンマーの力を授かる〟……絶対に何か仕掛けがある」

「そう思うなら試してみるといい」

 ソーの似てない声真似をするバートンに、ソーは笑いながらハンマーを指し示す。

「よし」

「バートン、大怪我した後だ。失敗しても気にするなよ」

 スタークの茶化す声を聞いているのか、いないのか。持ち手を掴むバートンにみんなが注目した。

「こんなの簡単だろ?」

 バートンは思い切り持ち上げようとするが、ハンマーはびくともしない。

「たっく、どうしてこんなのが持ち上がるんだよ!」

 悔しがるバートンに、ソーは満足そうに笑った。

「鼻で笑われてるぞ」

「じゃあ、やってみたらどうだ、スターク」

 バートンは野次を飛ばすスタークをけしかける。スタークはその声に立ち上がった。

「言っておくが、僕は本気でやるからな。持ち上げられたなら、僕がアスガルドの王か?」

「ああ、勿論」

 頷くソーは余裕たっぷりだ。スタークが持ち上げられるとは一ミリも思っていない表情である。

「なら初夜権を復活させる」

「そんなこと言ってるから相応しくないんじゃん?」

「まだ掴んでもいないだろ」

 私が茶化すとスタークは反論しながらハンマーを掴み、腕に力を込めた。持ち上がる気配は一切ないが。

「……ちょっと失礼」

 スタークはそう言って一つ断りを入れると、アーマーの左手部分だけ装着してきて、再び挑戦する。しまいにはアームを付けたローディと一緒に持ち上げようとするが、まったく動かなかった。

 バナーも挑戦してかかるが、動かず。動かないからってハルクの物真似するのはちょっと笑えないんでごめんな。

「それじゃあ……」

 満を持してスティーブが立ち上がる。腕まくりをする仕草やらハンマーを掴む動作やら、私は心のカメラで撮っておく。とても素晴らしい筋肉ですね。

 スティーブがハンマーを掴む。一瞬キュッと音が聞こえて持ち上がりかけたように見えたが、あらためてスティーブが力をこめるとやはり持ち上がらない。後ろのソーの表情が消えていた。

 ひとしきり力を込めたあと、スティーブはお手上げだと言わんばかりに両手を挙げて笑う。何も言わないところが演技っぽいよね。

「ははっ、残念!」

 笑って言ったソーの顔は、ほっとしたようにも見える。

「次は?」

 面々の顔が女性陣に向けられる。

「やりたい!」

 私が手を挙げ、膝の上のシロにどいてもらって立ち上がった。

「いいぞ、やってみろ。持ち上がったらアスガルド初の女王だ」

 正直なところ、MCUファンとしてソーの持ってるハンマーに一度は触ってみたかったって言う邪な心を持って今この王の選定に挑んでいる。

 ……そんな邪な心を見透かされているらしく、ハンマーは持ち上がらなかった。でもムニョムニョちゃんに触れたのでOKです。本物のムニョムニョだぞオメェ!

「女王はダメって? 女性差別か? 君はどうだ、ロマノフ?」

「嫌よ。私は試されたくない」

 スタークはジョークを飛ばしながらナターシャを見る。しかしナターシャはすげなく断った。

 一応全員の挑戦タイムは終わって、スタークが立ち上がって口を開いた。

「ソーには悪いが絶対仕掛けがあるだろ」

「クソみたいな」

「スティーブ、今悪い言葉使った」

 バートンの言葉を聞いたヒルが、からかい気味にスティーブへ告げ口する。

「ヒルにも言ったのか?」

 スティーブは非難めいた視線をスタークに送るが、スタークはどこ吹く風だ。持ち手の模様がセキュリティ・コードになってるだとか、科学者らしい分析をしている。

「なるほど、実に面白い考えだが……答えは簡単。皆ふさわしくない」

 ソーはそう言って軽々とハンマーを持ち上げた。それぞれブーイングや笑い声を上げる。

 その時、突然甲高い電子音が響き渡った。マイクを使った時のハウリングのような音だ。……来た。

「カラオケ大会の予定は聞いていないが?」

「そんな予定は組んでない」

 シロの言葉に、スタークが真面目な声で答える。それと同時に、どこからか低い声が聞こえてきた。

 聞き取りにくかったが、おそらく〝ふさわしい〟と言った。ラボと行き来するエレベーターの方から聞こえたそれに、全員が目を向けた。照明が落とされた暗がりで、何かが蠢く。

「〔いや、ふさわしいものか。皆人殺しだ〕」

 照明の下に現れたのは壊れかけたアイアン軍団の一体だった。ケーブルを引きずり、歩き方は覚束ない。

「スターク」

「J.A.R.V.I.S.」

 スティーブに声を掛けられ、スタークはJ.A.R.V.I.S.に状況の分析を求める。しかし、J.A.R.V.I.S.から返答は無かった。

「〔すまない、寝起きでね。夢を見ていたと言うべきか〕」

「再起動しろ。一体バグが起きたようだ」

 スタークは指示を出すが、依然としてJ.A.R.V.I.S.からの応答は無い。

「〔酷いノイズで……身動きが取れなかった。糸が……絡みついて……だが母さんの真似をした。断ち切ったんだ。その時、もう一人のやつを殺す事になってしまった。良いやつだったが〕」

「人を殺した?」

 物騒な言葉に、スティーブが反応する。私はそれより、〝母さん〟と言う言葉に引っかかる。誰のことだ? 映画でスタークのことをそんな風に呼んではいなかった。

「〔気は進まなかった。だが、現実世界では手を汚すことも必要になる。そうだろう、母さん〕」

「誰の手先だ、母さんとは?」

 ソーが尋ねると、録音が流れた。スタークの声だ。

 〝僕には見える、世界を守るアーマーが〟

「……ウルトロン?」

 バナーが声を上げた。

「〔体を手に入れた。ああ、いや、まだだな。これはまだサナギだ。だが準備は出来た。任務を果たす〕」

「任務って?」

 ナターシャが首を傾げる。非戦闘員であるヘレン以外が、全員各々、動けるように備えた。

「〔平和をもたらす〕」

 ウルトロンがそう告げた直後、壁を突き破ってアイアン軍団が現れ、アベンジャーズに襲いかかった。

 

 

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