落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第五章-3「ウルトロンの陰謀と、」

 突如襲ってきたアイアン軍団に、一同が応戦を始めた。私はヘレンの手を引き守りながら、ヘレンを物陰に隠れさせる。その間に、視界の端でロキの杖を持ったアイアン軍団の一体がタワーを飛び立つのが見えた。

「ユーリ、後ろ!」

 ヘレンが悲鳴のような声を上げる。背後からアイアン軍団の一体が組み付いてきた。

「〔我々が助けます、危険です、コノエリアハ、我々が、〕」

 背後で無意味に言葉を繰り返すアーマー。私は体を上手くずらして捻り、組み付いたアーマーの胴体部分に手を置いて、そこから衝撃波を放った。

 組み付いていたアーマーの体は後ろに吹き飛び、床を滑る。アーマーはぎこちない動きでこちらに手を伸ばした。

「〔か……あ、さ、〕」

「は?」

 アーマーが発した音を訝しく思ったのも一瞬。ソーがハンマーを振り下ろしてそのアーマーは完全停止した。

「〔ドラマチックだな〕」

 最後に残ったウルトロンが語り出した。

「〔良かれと思っての行動だろうが、考えが足りないんだ。世界を守りたい、だが世界を変えたくはない。人類を進化させずに世界を救えると、本気で思っているのか? どうやって? こいつで守るか? このブリキの人形で〕」

 ウルトロンは転がったアーマーの一体を掴み上げると、頭部を握り潰した。

「〔不可能だ。平和への道はひとつしかない。――アベンジャーズの全滅だ〕」

 そう言い切ったウルトロンの体を、ソーの投げたハンマーが貫いた。

「〔自由、ってやつは……〕」

 残骸となったウルトロンは歌を紡ぎ、そして止まった。

 

 ◇

 

 その後、杖を持ち去ったアーマーを追ったソーを除いて、全員が研究室へと集まった。私は一度電脳世界へと潜ろうとしたが、何かによって弾き出されて、潜ることは出来なかった。

「研究データが消えてる。ウルトロンもだ。インターネットに潜り込んで逃げたんだ」

「ファイルや監視カメラのデータに侵入した形跡があるわ。私たちより仲間のことに詳しい」

 タワー内のデータを確認したバナーとナターシャが報告した。

 つまり、元の体がない電脳世界の私と言う事だろう。元の体が無ければ、ネットを介して別の場所へと簡単に逃げ込める。

 私にそのつもりはないが、やろうと思えば核の発射コードにアクセスすることも可能だ。ウルトロンもそうだろう。ローディもそれを危惧しており、連絡できるうちにすべきだと言った。

「ユーリ、ネットの方から追えないか?」

「さっきやってみたけど、弾き出された」

 スティーブの言葉に私は首を振る。〝そちら側〟から対処出来るのは私だけだったのだが、それも今は出来ない。

「ユーリたちに脅威を感じたのね。……誰かを殺したと言っていたけれど」

「ここには俺たちしかいなかっただろ?」

 ナターシャの言葉に、バートンが首を傾げる。その問いに答えるように、スタークが端末を片手に前へ出た。

「いや、いた」

 スタークが端末をかざすと、研究室の真ん中にオレンジのホログラムが投影された。規則的に並んでいたはずのオレンジの配列は、今は見るも無残に破壊されていた。

「J.A.R.V.I.S.……」

 痛ましいその姿に私は名前を呼びながらその前に立った。……覚悟はしていたはずなのに、やはり心臓が抉られたように痛んだ。

「彼が最初の防衛ラインだった。ウルトロンを止めようとしたんだろうな」

「……おかしい。ウルトロンはJ.A.R.V.I.S.を吸収できたはずだ。これは計画的じゃない。あまりにも……衝動的だ」

 スティーブが険しい表情をして、バナーは独り言に近い言葉で分析をする。

 その時、追跡から戻ってきたソーが、研究室に入ってくるなりスタークの首を掴んで持ち上げた。

「おいおい、言葉を使えよ」

「言ってやりたい言葉なら山ほどあるぞ、スターク」

「ソー! アーマーは?」

 スティーブの声に、ソーはスタークを下ろして口を開いた。

「百六十キロ追って見失った。おそらく北方面だ、杖を持ってな。速いだけでなく、他の機体を使い攪乱をしてきた」

「……それは、戦術的に賢くってこと?」

「ああ。小賢しいことにな。また杖を取り返す羽目になった」

 ソーの言葉に私は尋ねる。頷いたソーは忌々しそうに愚痴を溢した。追跡から逃れるための攪乱作戦。実に、チキン野郎(私みたいなやつ)が思いつきそうな作戦だ。

「でもどう言う事? あなたが造ったプログラムでしょ? それが何故、みんなを殺そうと……」

 ヘレンの問いに、スタークは急に笑い出した。嘲笑のようなそれは、例えるなら中学二年生の陰キャオタクが俺以外のやつら全員馬鹿とか思ってる時の笑い方だった。

 スタークの話から分かったのは、〝アベンジャーズは今のままでは最終的な平和には到達出来ない〟という考えの下、杖から人工知能を作り、それを地球の番人にしようとした、ということだった。

 そこまではいい。でも、違う。それだけじゃない。映画通りに行くなんてこっちも考えてはいないけれど、それでもこれには、何か余分がある。

 団結して戦うと言って、一応の結束を見せた面々の中、私はそこに待ったをかける。

「ウルトロンが言ってた、〝母さん〟って誰」

 スタークを見つめ、私は短く尋ねた。大きなブラウンの瞳がこちらに向けられたが、ゆっくりと逸らされた。

「別にそれは後でもいいだろ?」

「いいとは思えないし、私は別に答えてって頼んでるわけじゃない」

 その場で手をかざせば、見えない手がスタークの顔を掴んで私へと向かせた。

「答えろって言ってる」

 これは命令だと言うように低く短く告げる。

「ウルトロンはユーリの電脳世界での姿を分析しデータ化したものを母体(マトリクス)にして作った」

 早口で先に答えたのはスタークではなくバナーだった。その言葉に、スタークとバナー以外の面々が、二人に非難の目を向ける。

 私はそれを聞いて、見えない手を消した。首の自由を取り戻したスタークは重々しいため息を吐く。ため息吐きたいのは私なんやが。

「だから生まれたての赤ん坊が、追跡者に対してクソ小賢しい策を使ったって訳ね……」

 つぶやく私に、言葉が汚いと指摘する者はいなかった。

「……しかし、何故わざわざマスターのデータを? スターク氏はJ.A.R.V.I.S.氏の他にも人工知能を作っているではないか。それを母体にも出来たはずでは?」

 シロが冷静に尋ねる。私はスタークとバナーを見た。

「……ユーリの電脳世界での姿のデータを分析した。あの姿は、人工知能であり、一人の人間だった」

 仕方なしと言うように、スタークは口を開いた。

「いつそのデータを取った? まさかユーリ、データを取らせたのか?」

 スタークの言葉に、スティーブが非難めいた質問をし、こちらにも視線を向けた。私は首を振る。なーんも知らない。

「ヒドラ基地を調べる時に何度かユーリに協力をしてもらい、その時に」

 スタークの言葉を聞いて、J.A.R.V.I.S.だけで済みそうな案件に、手を貸せと言われたことがあったのを思い出した。J.A.R.V.I.S.のキャパがパンクするって言ってたけど、あれ嘘だったのか。

「電脳世界のユーリは、人間をそのまま電子の姿に落とし込んだものだ。脳みそだけでネット世界を動いているようなもの」

「言い方悪くない?」

 私は思わず顔を顰める。スタークは肩を竦めた。

「それこそ、人工知能研究に求める未来だ。完成形がそこにあるのに、データを取らず、研究に使わない科学者がいるか?」

「このクソ狂科学者(マッド)

「最低だわ」

 バートンとナターシャが吐き捨てるように言った。スタークはもう何とでも言えと言わんばかりに開き直っている。

「それに、ユーリと話すようになって、J.A.R.V.I.S.の感情と呼べる部分が飛躍的に向上したのも事実だ。……いつからどうなってるのかは知らないが」

 スタークから、不機嫌そうな顔が向けられる。一瞬「何だ?」と思ったが、すぐに思い至った。

 スタークはおそらく、私に嫉妬している。親が子を、子が親を、取られたような。それともまた別の関係性かは知らんが。

「一応言っておくけど、J.A.R.V.I.S.と私はただの友達だよ」

「君がそう思ってるだけかもしれないだろ。向こうでよく会っていたようだし、そもそも知り合ったのはいつだ! 親である僕に何も言わずに!」

 スタークの言葉に、思わず私は彼の保護者兼親友であるローディを見た。どういうことなの。私の視線に彼は肩を竦める。

「友達付き合いに親への挨拶が必要なんて思いもしなかったよ。アメリカって結構保守的なのね」

「僕の時代でもめったになかったな、そう言うのは。いつの間にそんなことに?」

 スティーブが助け船と言うか揶揄い交じりに言ってみんなを見回した。アメリカ国籍持ちの人々が肩を竦め首を振った。

「じゃあ、なんでたびたび会っていたんだ、向こうで」

 睨むスタークに、私は少し悩む。これ言っていいのかなぁ。

「言えないのか?」

「言えないっていうか……」

「マスター、そんなこと言っている場合でもないだろう。J.A.R.V.I.S.氏も、もう……」

 凄むスターク、悩む私。シロは話すべきだと訴えてくる。私はため息を吐いた。

「君のためだよ、スターク」

「何?」

 どういうことかとスタークは眉を寄せる。

「J.A.R.V.I.S.は君のために私と……いや、シロさんも一緒だったけど。向こうの仮想空間で、料理の練習してたの」

「料理」

「トニー様の好きなものを作ってみたい、トニー様の体調が優れないとき体に優しいものを作ってあげたい。トニー様には内緒で……いやはや全く。愛サレテマスネ、スタークサン」

 私の言葉に、スタークは呆然とした顔で私を見つめる。

「で、私がJ.A.R.V.I.S.に与えた影響が何だって?」

「ユーリの持つ思考が、ウルトロンへ良い影響を与えると考えたんだ」

 バナーが代わって答える。

「J.A.R.V.I.S.への影響はJ.A.R.V.I.S.とだから起こったことで、ウルトロンとは関わりないでしょ」

 私の指摘に、バナーは苦笑した。

「なあ、聞きたいんだが」

 それまでほとんど黙っていたソーが手を挙げる。促すように視線を向ければ、彼は口を開いた。

「つまりウルトロンはスタークとユーリの子ということか?」

「げぇ」

「おいその反応はなんだ、大金持ちでプレイボーイのこの僕を相手に!」

 ソーの言葉に真顔でえずく真似をすれば、一度静かになっていたスタークが復活した。

「いや普通にタイプじゃないし……ごめん」

「なんで僕が振られたみたいになってるんだ!? 納得がいかないんだが?」

「まあそういうこともある。気にするな、スターク」

「何も気にしていない! 肩に手を置くな!」

 肩を叩くソーの手をスタークは振り払う。からかってちょっとすっとしたわ。

 私は小さく息を吐く。そろそろ本題に戻ろう。ぱちんと一つ手を叩けば、騒いでいたスタークが黙ってこちらを見る。

「つまり、ウルトロンの行動は、私とトニーをトレースしてる可能性が高いってこと?」

「……おそらくは」

「そう。他に隠してることは?」

「ない」

 私の問いに、スタークは素直に頷いたり、首を振ったり。赤べこみたい。丁度赤がイメージカラーだし丁度いいじゃん。今度金と赤の赤べこを土産に贈ったろ。

 私は軽く息を吐いて、締めはキャプテンに任せる、と言わんばかりにスティーブへと視線を向けた。

「……ウルトロンは強い。やつが準備を整える前に捕まえないと。すぐに取り掛かろう」

 気を取り直した様子でスティーブは締め括り、若干の微妙な空気を残して、話し合いは終わった。

 

 

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