落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第五章-4「船上にて」

 多少の仮眠を取ったりと交互に休憩を取りつつ、私たちは襲撃から夜を明かし夕刻まで情報集めに奔走していた。

 ヘレンは彼女自身の研究所があるソウルへ。ローディは自身の勤める基地に戻って、そちらから各方面で対策・支援を行ってくれる。

 ウルトロンは自身の情報がネットで閲覧されるたび、ご丁寧に情報を消して、追跡を逃れようとしている。映画のウルトロンってここまで周到だったっけ?

「J.A.R.V.I.S.氏に痕跡を消してもらった事があっただろう。あれをトレースしているのかもしれないな」

「わー、それって最高」

 シロの言葉に、私は皮肉を返す。

 そんな話をしていれば、やってきたスティーブからストラッカー暗殺の報が入った。タブレットに映った画像では独房のベッドでストラッカーが死んでおり、壁には血文字で〝PEACE〟と書かれていた。

 わざわざストラッカーを殺したのは、ストラッカーからアベンジャーズへと情報が流れるのを防ぐためだ。ナターシャが調べると、ストラッカーの電子データは案の定消されていた。

「ストラッカーから繋がる何かがあるってことかな。データはこれだけ?」

「いいや、ここにも」

 私の言葉に、スタークが箱を持ってきて机に置いた。

「紙媒体が廃れないわけだ」

 誰かがつぶやき、全員が総出で紙の資料を当たる。バナーが一つの資料をめくっていたところで、スタークがそれに待ったをかけた。

「そいつ知ってる。アフリカの闇市場で武器商人をやってる男だ」

 スタークの言葉に、スティーブが険しい目をした。何故そんなやつを知っているんだと言いたげな目に、スタークは肩を竦める。

「見本市で会っただけだ。武器を売ってたわけじゃない。世界を変える品物があるとか……イカれた奴だった」

 その人物に全員の注目が集まった。名前はユリシーズ・クロウ。ソーが写真の首元を指差した。

「タトゥーか? こんなの入れてたっけな?」

「そっちじゃない。焼き印の方だ」

 ソーの言葉に、バナーがすぐさまパソコンに向かい、焼き印を照合分析した。

「分かったぞ。アフリカの方言で、〝泥棒〟って意味の言葉だ。もっときつい表現だが」

「どこの言葉だ?」

 スティーブが問うと、バナーは再びパソコンを見る。

「ワカナダ……いや、ワ……ワカンダ」

 バナーの言った国名に、スティーブとスタークが顔を見合わせた。

「こいつがワカンダで()()を手に入れたとしたら?」

「君の父親だけじゃなかったのか」

「何の話だ。何を手に入れたって?」

 二人にしか分からない会話に、バナーが困惑したように問いかける。

「地上最強の金属」

 全員の視線が、キャプテンの盾へと注がれた。

 

 ◇

 

「〔スタークだと!? その名前を聞くだけでイライラする!〕」

 アフリカ海岸の廃船場のとある一隻が、クロウの事務所であり倉庫の一つであった。

 クインジェットで待つバナーを除き船へと侵入したアベンジャーズの面々は、船内に響き渡るウルトロンのそんな声を聞くことになった。

「〔悲しいなあ、息子よ〕」

 バートンとナターシャは物陰で待機し、表に出てきたのはいわゆるビッグ・スリーと、おまけで私とシロだ。スタークの言葉に、ウルトロンたちがこちらを振り向く。

「〔パパのハートは割れそうだ〕」

「〔お望みなら割ってやろうか。……ああ、母さん、ここで再会出来るとは。喜ばしいな〕」

 スタークに冷たく返したウルトロンだが、私に話しかける声は多少柔らかかった。

「ママって呼ぶ割に君は私を電脳世界から弾き出したからね。直接会いに来ざるを得なかったの」

「〔向こうで捕まえたとしても、貴女はすぐに逃げ出してしまうだろう。肉体を捕まえなければ意味がない。貴女は私の母であり、そして来る平和な世界の母となるのだ〕」

 肩を竦めて見せた私に、ウルトロンが答える。捕まえることが目的の一つ。母となるとかはよく知らんが。

「〔おいおい、エディプス・コンプレックスか? 随分情緒が発達したんだな〕」

「〔それは母親に性的関係を求める心理だろう。貴様と一緒にするなよトニー・スターク〕」

「そうだよ、スターク。さすがに失礼だと思う」

「〔君はどっちの味方だ、ユーリ!?〕」

 私へとツッコミを入れるスタークの姿を、双子が鼻で笑う。

「ワンダ、ピエトロ、手を引くなら今の内だぞ」

「よく言うわ」

 口を開いたキャップの言葉に、ワンダが冷たく言い返した。

「辛い過去は知ってる」

「〔ハハっ! キャプテン・アメリカ、正義の権化みたいな顔をして、戦争が無ければ生きていけないくせに。反吐が出そうだ。まあ実際には出せないが……〕」

 キャップがいたわる様に言ったが、ウルトロンは一笑に付した。

「平和を守りたいなら我々に任せろ」

「〔お前らの言う〝平和〟とは〝静けさ〟のことか?〕」

 ソーがさらに説得を試みようとするが、無駄そうだ。

「〔ヴィブラニウムを何に使う?〕」

「〔よくぞ聞いてくれました、などと言って、滔々と作戦を披露すると思うか?〕」

 切り口を変え、スタークは目的を尋ねた。しかし答えの代わりにウルトロンのアーマーが現れる。それを皮切りに、ワンダは赤いエネルギー弾を放ち、ピエトロは姿を消す。

 おまけにクロウの部下たちもアベンジャーズ、ウルトロンと構うことなく銃弾を浴びせてきた。

 三つ巴の、戦いの火蓋が切られた。

 

 ◇

 

 戦いはアベンジャーズ優勢に運んでいた。その戦闘中。それは予想通り、しかし唐突に起こった。

 奇妙な感覚が私の頭に流れ込み、視界の景色が歪む。

 流れ出すのは見知った〝記憶〟だ。いくつもの、前世の記憶。

 ある〝誰か(わたし)〟はコールソンを庇って死に、ある〝誰か(わたし)〟はエンシェント・ワンと共に高所から落ちた。

 ピエトロを死なせないため動いて、バートンを失った。バーンズ軍曹を人知れずS.H.I.E.L.D.に引き渡そうと動いてヒドラに捕らえられ、拷問の末殺された。ロキを生かそうと、サノスに頭蓋を潰された。

 ――ああ、サノスに殺された記憶は一番多い。腹を貫かれ、手足をもがれ、首を刎ねられ、上半身と下半身を真っ二つにちぎられた記憶も。原型一つ残さず潰されたこともあった。

 目まぐるしく記憶が流れ、気付いた時には私の体は映画館にあった。青白い光を浴びながら、私は大きなスクリーンを見上げる。

 〝だったら――私はアイアンマンだ〟

 スクリーンの向こう側で、〝私の知る彼〟とよく似た役者がそう言った。ぱちんと、スナップの音が響く。

 はっ、と目を見開いた。瞬間的に、代謝を極限まで上げて〝それ〟を掴む。揺らめく赤を纏った女の手。その先で、手の持ち主であるワンダは目を瞠った。

()()()()()悪夢のつもりか?」

 答えを求めていない問いを投げかけ、私はその腹に掌底を叩きこもうと拳を握る。

 しかしその腕を振るう前に、別の気配を察知した。瞬時に攻撃を止め、視覚と身体の強化をし、ピエトロの動きに合わせてワンダの手を離して身を躱す。

 双子の驚いた視線と私の視線が交わるのも束の間。ワンダを抱えたピエトロは超高速で姿を消した。逃げ足の速いこって。

「マスター、何かを見たな?」

「〝昔〟の記憶をちょっとね」

 シロの言葉に軽い口調で答えるが、正直に言って気分は悪い。傍の壁に肩を寄りかからせ、私は大きく息を吐く。嫌な記憶の数々に少々吐き気が残るが、まあ何とか動けるだろう。

 フロアを見下ろす。見える限り、ソーとキャップがワンダの精神操作にやられている。姿は見えないがナターシャもだろう。

 バナーのシャツにこっそり守りのルーンを刻んできたが、マインドコントロールの類に効果があるのかは分からない。どうなっているだろうか。

「〔おい、応答しろ、誰か〕」

「バートン? 魔女が来た?」

「〔ああ。動けるか?〕」

「なんとかね」

 無線の向こうからバートンの声。とりあえず目に入ったキャップのところへ向かう。呻いて、焦点が合っていない。現実と悪夢の狭間にいる。

「〔ナターシャ、至急子守唄を頼む〕」

「〔ちょっとそれは無理そうだ。ユーリたちなら動ける〕」

「すぐ応援に向かう。バートン、みんなをお願い」

 スタークの応援要請。やっぱりあのルーンはマインドコントロールには効かなかったか。ナターシャを介抱しているバートンを見ると、頷き返される。

 小さくなりながら肩に飛び乗ったシロとともにふわりと浮き上がり、天井に開いた穴から街へと猛スピードで飛ぶ。視界の中、空を大きなアーマーが飛んでいくのが見えた。ハルクバスターだ。

 街へ近付いていくと、拡声機能でハルクに呼びかけるアイアンマンの声が聞こえてくる。

 街はハルクの通った後がよく分かる。通った道では車の装甲が剥がされていたり、潰されていたり、地面が抉れていたり、怪我した人が救護されていたり。

 私たちがアイアンマンの声を追って二人の戦う路地に来たときには、説得が失敗して、アイアンマンはハルクに車を投げ付けられていた。

「説得失敗?」

「〔バナーって言ったら怒った〕」

「それNGワード。仕方ない、とっておきの場所に連れてこう。目ぇ回さないでよ、スターク」

 私の言葉に、は? と首を傾げるアイアンマンを無視し、私はハルクとアイアンマンの間にヒーロー着地した。別に格好つけたわけではない。

 着地時に地面へ付けた手の部分から魔力が広がり、空間を変えていく。アイアンマンとハルク、そして空中に待機するヴェロニカを包み、その場の景色を一変させた。

 固有結界みたいなものだ。術式を組んで作り上げた魔法だ。この空間にいる限り、現実世界には干渉することも、されることもない。暴れるにはもってこいである。

 ……ただまあ、結界内に入れられる人数や範囲は限定されるので、マジでハルクが思う存分暴れる用の魔法って感じだけど。

 私が立ち上がった頃には、アフリカのとある街は私が今適当に想像した日本の街中の風景に変わる。しかしその様子はどこか可笑しく、奇抜で珍妙な格好をした人形たちがパレードを行っている――アニメ映画『パプリカ』みたいな世界だ。

 ハルクは突然切り替わった風景に、驚いたように辺りを見回している。

「〔何だこれ〕」

「魔法だよ。この中なら暴れ放題」

「〔後で解析……〕」

「キャップが許したらね」

「〔くそ……〕」

「お口が悪いよ、スターク」

 何はともあれ、これで市民への被害を減らせる。しばらく周囲を見回していたハルクだが、やがてどんちゃん騒ぎのパレードへと目を向けた。

 たくさんの人形がカタカタと動き、何か訳の分からない言葉を喚きながら歩いている。オセアニアじゃ常識とかなんとか。我ながら狂気を感じる。正直こっちのほうが悪夢である。

「〔アレは本物じゃないんだよな?〕」

「この中のものすべて、現実じゃないって思って良い。どうする?」

「〔なら、とにかく怒らせて、博士に発散させよう。援護を〕」

 私たちが作戦を立てている間に、パレードをしていた人形たちはハルクに蹴散らされた。

 ハルクはどうやら動くものを狙うようで、次は私たちの方を見て、こちらに向かってくる。私の手前でジャンプしたハルクは、頭上で両手を固めて、そのまま体重を乗せた一撃で潰しにかかってきた。

 シロは熊の姿からより俊敏な狼へと変わり、私を乗せて地面を蹴る。なにもない地面に拳を叩きつけたハルクは、そのタイミングを狙ったアイアンマンの一撃を受ける。

 仰向けに倒れたハルクへ、アイアンマンが連続で攻撃を加えるが、それがより怒りに繋がったらしい。反撃はもっと強烈なものになる。

 体勢を崩すアイアンマンから視線を逸らすために私たちが攻撃を加え、またアイアンマンが力強い攻撃を与え、ハルクが反撃し――を何度か繰り返す。

 アイアンマンがそろそろスクラップマンに変わりそうな頃、映画のようにアイアンマンが上空にハルクを連れていき、高層ビルを上から突き破って落下させた。

 さすがにその衝撃で頭が冷えたということだろうか、瓦礫の中で叫び声を上げたハルクは、微かにその目に理性を取り戻したように見えた。

 ハルクは何度も頭を振り、バナーとハルクとで綱引きをしているようだった。やがて緑の体が少しずつ小さくなって、元のバナーの肌色へと戻っていく。

 その様子を見て、私とスタークは、ほっと息を吐いた。

 

 

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