落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第五章-5「バートンの隠れ家」

 映画よりも被害は少なかったとは言え、ハルクはニュースで大人気だという情報が、ヒルから入れられた。

 実質的にウルトロンに負けたアベンジャーズ。クインジェットの中はお通夜状態だった。

 そうして、バートンの操縦するクインジェットは、都市から少し離れた場所に位置する農場のような場所に着陸した。S.H.I.E.L.D.の資料にも記載されていなかった、バートンとその家族がひっそりと暮らす家だった。

 バートンの妻・ローラは突然尋ねてきたアベンジャーズを快く受け入れてくれて、私たちは祝勝パーティーの後からやっと、息をつくことが出来た。

 シャワーを浴びさせて貰ったものの、じっとしているのは忍びなくて、私は家事を手伝っていた。丁度切らしていた保存食の仕込みであったり、食器洗いだったり。シロはその間、子供たちの遊び相手をしていた。

「ユーリ、ちょっといいか」

 バートンに呼ばれて私は顔を上げる。ローラを見れば、行ってとジェスチャーで返された。

 バートンのところに向かうと、彼は外を指差す。見るとスタークとスティーブが薪割りをしていた。あ、今スティーブが薪を素手で引き裂いた。

「薪って裂けるんだ」

「超人には出来るみたいだな。随分たくさんやってくれたからな。運ぶの手伝ってやってくれ。ついでに、スタークに故障したトラクターを見てくれって頼んでくれ。倉庫にある」

「分かった。シロさん、行こう」

 バートンの言葉に頷いて、シロを呼ぶ。子供たちに転がされていたシロは、一言断りを入れて駆け寄ってきた。不満げな声を上げた子供たちの元には、シロの代わりにパパが向かう。

 トラクターの故障がどうとかって、映画ならローラが頼むシーンだよな、と何となく考えつつ、にらみ合う二人のところに歩み寄った。

「スターク。バートンが倉庫のトラクターを見て欲しいって。故障したみたい」

「ああ、お安い御用だ。キャプテン、僕の薪を取るなよ」

 捨て台詞のように言い残し、スタークは私が指差した倉庫の方へと去って行った。私はそれを見送り、それから足元で山になった薪を見る。

「バートンに、運ぶのを手伝ってやれって言われたんだけど、スタークのあれは、自分で運ぶってことかな?」

 スティーブが作った山よりも小さな山とは言え、スタークが作った山も普通なら何往復かしなくてはならない量だ。首を傾げる私に、スティーブが小さく笑みを浮かべた。

「いや、運んでやらないと拗ねるぞ、きっと」

「はは、そうだね」

 見えざる手を動かして、薪を薪棚に次々と飛んでいかせる。山になっていた薪はあっという間に数を減らした。

「……君は平気だったのか?」

 ややあって、スティーブが口を開いた。私は一度、見えざる手を動かすのを止めて、スティーブを見る。

「見せられたんだろう。君も」

 けれど平気そうだ、と続くような口ぶりだ。私は一度視線を落とし、口を開いた。

「死を、見たよ」

「誰の?」

「たくさんの誰か。自分だったり……あとは、まあ、いろいろ。死因の見本市みたいな夢。でも、そんなの夢でよく見るから、慣れてる」

 何でも無いように笑って見せれば、スティーブは何か痛ましいものを見るような目をした。

「スティーブは?」

 言いたくないなら無理に聞くつもりもなかったが、それはあえて言わないことにした。

 私の問いに、スティーブは少しの間黙っていた。

「……ダンスホール」

 長い静寂に、そろそろ諦めた方が良いかと思った時、スティーブが沈黙を破った。

「ダンスホールに、立っていた。ペギーが現れて、ダンスを申し込まれて……戦争は、終わった、と」

 あのマインドコントロールがその人の恐怖を見せる物なら。スティーブが恐れているのは、戦争が終わること――いや、自分が必要とされなくなること、だろうか。

 平和な世に、超人兵士は要らない。キャプテン・アメリカが要らなくなったら、スティーブ・ロジャースを必要としてくれる人間は。

 スティーブがそう考える気持ちは分からんでもないけれど。でも、それでも、それはあまりにいろいろなものを無視している気がして、なんだか悲しかった。

「ねえ、私たちやサムが、あなたと一緒に映画を見る理由、あなたがキャプテン・アメリカだからだと思ってない?」

 私の問いに、スティーブは戸惑ったような顔をした。

「きっかけは確かに、〝キャプテン・アメリカ〟だったかもしれない。でも、結局はあなたが〝スティーブ・ロジャース〟だからなんだってこと、忘れないでよ」

「けど、」

 スティーブが反論する前に、私は彼に大股で近付いて、高い位置にあるその首を引き寄せた。どいつもこいつも背が高いから、抱き締めるのにもひと苦労だわ。

「あなたはキャプテン・アメリカである前に、スティーブ・ロジャースでいていいの。戸籍上が何歳でも、実質の生きた年齢は三十歳前後でしょ。つまり青二才ってこと。悩んで当然。踏ん切りつかなくて当たり前なの。あなたはスティーブ・ロジャースとして、望みを持っていいし、それを追っていいし、叶えていいってこと。それに文句言う奴がいたらぶっ殺せ」

「それは物騒すぎる」

「そうかも。でもそんな感じで良いんだよ。……だからさ。例え世界が平和になって、キャプテン・アメリカが必要なくなっても。一緒に映画見て、感想言い合える友達(スティーブ)が必要だって思う人がここにいること、忘れないでよ」

 スティーブは私の一方的な言葉に、少し柔らかくなった声で頷いた。そうして、抱き締める私の体を抱き締め返した。

「……ごめん、スティーブ、さすがに足がつりそう……」

「え? ああ、すまない。小さいんだったな、君は」

「うるせー。血清打つ前のスティーブだったら楽にハグ出来たのに」

「あの頃でも君よりは高かった」

「数センチでしょ」

 えいっと硬い腹筋にパンチを入れる。スティーブは痛がるふりをしたが、一ミリも効いてなさそうだった。

「……君は、本当に平気か?」

 笑っていたスティーブは、ふと真面目な顔に戻って、私を見つめる。

「よく考えたら、僕は君に相談してばかりで、君の相談に乗ったことは少ないと思って。たまには年上らしいことをしたくてね」

「食事のメニューの相談はよく乗ってくれるじゃん。そうじゃなくて?」

「そうじゃなくて」

 とぼけて返してみれば、スティーブは小さく笑って頷く。私は一度目を伏せて、それから、ちょっとくらい弱音を吐いても良いのかもしれないと思って、口を開いた。

「……いつも怖いんだ。誰かが死ぬのも、私が死ぬのも。戦えば死ぬかもしれない。そんなの当たり前だけど、でも……、死ぬのは嫌でしょ?」

「……ああ。嫌だな」

 スティーブは頷いた。

「でも、怖いけど、取り返しのつかないことになるのはもっと嫌だから、頑張らなきゃって……」

 私が一番恐れているのは、きっとあの悪夢の最後だ。

 トニー・スタークが、他の全てを捨ててアイアンマン(ヒーロー)であることを選んだ、何より美しいあの瞬間。あの瞬間に行きついてしまうことが、きっと何より、私が恐れていることだ。

 でもそれと同時に、自分が死ぬことも、他の誰かが死ぬことも、私は恐れている。

「頑張らなきゃ、って、思うんだけど……」

「恐れないことが良いこととは限らない。君はいつだって、自分のやるべき最善をやっている。自信を持っていい。それでも恐怖に足が竦んで、出来ないことがあるなら、シロや僕たちを頼ればいい。僕たちはチームなんだから」

 いつの間にか足元にやってきていたシロが、私の足に体をすり寄せた。私はそれを見下ろして、スティーブを見上げ、微笑んで、頷いた。

 ヒーローの言葉は、思った以上に私へ効果覿面だった。

 

 ◇

 

 いつの間にかやってきていたフューリーも交え、ソーを除いたアベンジャーズの面々は食事を済ませた後、ダイニングルームで話し合いをしていた。

 フューリーが持ってきた情報は、ウルトロンは時間稼ぎをして、何かを大量に造っていること。ねずみ算式にコピーを増やし、本当の狙いが読めないこと。核ミサイルのコードも狙っているが、誰かがそれを阻止していること――であった。

 正直あまり多くも無ければ、核心に迫るような情報もない。

「ボス、いつもみたいに戦う手段を持ってきてくれてないの?」

「あるぞ。君たちだ」

 ナターシャが不満そうに言えば、フューリーはそう答えた。S.H.I.E.L.D.無き今、世界を救う武器は自分の知恵と信念だけであると。

「あのプラチナ野郎を出し抜くため、ヤツの目的を探るべきだ」

「口が悪いとスティーブに怒られるわよ」

「ロマノフ」

 フューリーの言葉に茶々を入れるナターシャに、スティーブがため息を吐く。

 フューリーはそれから、私へと目を向けた。

「ウルトロンの母親である君はどう思う? ウルトロンの目的は?」

 私はちょっとだけ口をへの字にしたが、自分がもしヴィランだったらと考えてみた。

「……私が、」

 口を開いた私に、全員の視線が集まる。

「私がもし、極端なやり方で〝世界平和〟を成し遂げるなら。いったん全人類を滅ぼして、また新しい人類を生み出す」

 私はそう言って、魔法によって人型を作ってみせた。それを見て、数人が呻くような声を上げる。

「間違いなくウルトロンの母親だ」

「本当の黒幕(ヴィラン)はお前だったか?」

 バートンとスタークが口々に言う。でもスタークに言われるのは心外。

「だから、〝もし〟の極端なやり方だってば」

「それで?」

 言い返す私に、スティーブが続きを促す。

「完璧な世界を作るにはまず、完璧な存在になる。今の人類が守るに値しないなら、進化した人類を作り、それを守る」

 想像出来得る限りの極端な考えを口にする私を、今度は誰も茶化さずに聞く。

「ウルトロンは、私を捕まえるって言ってた。そして、私が平和な世界の母になるって。けど、今の所本気で捕まえようとはしてないし、今も放置されている。つまり、私……というかイマジェン(シロさん)の能力は、あったら欲しいけど、他に替えがきくってこと。この推測を繋ぎ合わせて必要と思われる技術が……」

「人工クレードル」

 私の言葉を引き継いで、バナーが言った。私は頷く。

「誰か、ヘレン・チョと連絡を取っているか?」

 バナーがみんなを見回して、尋ねた。

 

 ◇

 

 休息と、準備。それぞれが必要なことを終える頃には、夜明けが近付いていた。

 私とシロは、スティーブ、ナターシャ、バートンとともにソウルへと向かう。スタークはネクサスで核の発射コードを守っている人を探りに行き、バナーはタワーで待機となる。

「ユーリ、シロ」

 クインジェットへと向かう私たちへ掛けられた声に振り向けば、バナーが立っていた。

「タイミングが無くて遅くなったが、礼を言いたくて……」

「礼?」

 バナーの言葉に見当が付かず、私は首を傾げる。

「君たちの力のおかげで、被害が少なくなったと。……まあ、ゼロだったわけではないけど。それでも少し、救われたよ。ありがとう」

 そんな言葉に、思わず目を瞬いた。一度シロと顔を見合わせる。

「チームなんだから、当然のことだよ」

「ああ。もう少し早く駆けつけていれば、もっと良かったのだが。申し訳ない」

 何でもないことのように答える私たちに、バナーは苦笑いのような笑みを浮かべた。

 バナーはハルクのこと、全くの別人格のように思っているけれど、きっとハルクはバナーのどこかにずっと在った、癇癪持ちの小さな子供なのだろう。それを、バナーが認めていないだけで。

 でも今それらを突き詰めて話すには、時間が足りない。

「もしまた暴れたくなったら言ってよ。こっそりあの空間に招待してあげる」

「あの狂気じみた人形たちをまた出す気か」

「クレイジーな人形?」

 正気かと言わんばかりの声を上げたシロに、ハルクの時の記憶がないバナーは首を傾げる。

「あー、オセアニアじゃあ常識とかなんとか叫びながら神輿に乗った人形がパレードしてたの」

「それは……君の頭の中が気になるところだね」

 ある意味で怒るとハルクになっちゃうバナーよりもヤバいかもしれない私の精神性(なかみ)が露見したところで、私はスティーブに呼ばれた。

「じゃあ、そっちは頼むよ。気を付けて」

「うん。博士も」

「お気を付けて」

 バナーに手を振って、私とシロはクインジェットに乗り込んだ。

 そうして東の空が白む夜明け前、私たちはソウルへと出発した。

 

 

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