落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について 作:緑茶山
クインジェットはソウルの漢江へと着いた。三光島に、ヘレンの研究所はある。まずは確認のためキャップがジェットを降り、私たちは上空を旋回して待機する。
やがて、キャップとヘレンの会話が無線を通して聞こえてきた。ヘレンは映画通り怪我しているらしく、苦しげな声だ。
彼女は本当のパワーはクレードルの中の宝石にあると語る。強大な力で、ただ壊すだけではいけない。スタークに届けろ、と。
「〔みんな聞いてたか?〕」
キャップの声に、ナターシャとバートンが答える。乗客名簿のない自家用ジェットの離陸を確認、次いで研究所から出てくる大型トラックを発見し、報告する。トラックの中にはクレードル。
「トラックは今キャップの上のループにいる。運転手をやるか?」
「〔駄目だ、事故が起きれば犠牲が出る。おびき出すぞ。ユーリとシロ、来てくれ〕」
キャップのご指名に「了解」と答え、私はバートンへと視線を送る。その視線を受けて、バートンはクインジェットのハッチを開けた。
小さくなって肩に掴まったシロとともに、私はハッチから飛び出す。最近、高所から身を投げ出すのも慣れてきた。
「キャプテン、手伝いが必要って?」
指示される前に向こうから察知されないように、私はトラックを遠巻きにして尋ねる。しかしキャップは今、懸命にトラックの荷台の扉に掴まっていた。
「さすがキャップ。もうウルトロンを挑発できたんだ。仕事が早いね」
「〔お褒めいただき、どうも!〕」
今にも外れそうな扉にしがみついているキャップのために、私は上空から急降下してトラックに近付いた。荷台に這い上がろうとするキャップを撃ち落とそうとするウルトロンがこちらに気付く。
「〔今いいところなんだ、母さん。邪魔をしないでくれ〕」
「さあ、お仕置きの時間だよ、ベイビー」
ちょうどこちらに向いたウルトロンへ、私は見えない手でパンチを放つ。ウルトロンは荷台の奥へと吹き飛ぶ。しかしその代わりに、二体のアイアン軍団――もとい、ウルトロン・セントリーが姿を現して、こちらに狙いを定めた。
二体相手をしながらキャップの支援は厳しく、地上近くで派手に戦えば市民への被害が増えるかもしれない。
「キャップ、こっち片付けるまでそっち頑張って!」
返事を聞く前に私は上昇し、二体のセントリーを引き付ける。視界の端で、キャップの盾が道路に落っこちるのが見えた。
「ナターシャ、キャップの援護お願い!」
「〔了解〕」
ナターシャの返事を聞きながら、私は上手いことセントリーの二体に攻撃を加える。ナターシャの安全を保ち、なおかつ敵を引きつけて市民に被害が及ばないようにする。
しかし、クインジェットを操縦するバートンがウルトロンへの攻撃を始めると、セントリーたちは私に構わず、クインジェットの排除に向かった。
「〔ユーリ、こっちに来た〕」
「今行く!」
バートンからの無線に返事をしながら私は急上昇する。クインジェットにしがみつく一体の首を掴んで機体から引き剥がし、そのまま遠心力で遠くへ飛ばす。こちらに向かってきたもう一体の攻撃を体を捻って避ける。
再び向かって来たら迎撃してスクラップにしてやろうと思ったところで、セントリーたちは突然機体の向きを変えて飛んでいってしまう。
「マスター、どうやらウルトロンがクレードルから離れたようだ」
何事かと思えば、すぐにシロがその答えを与えてくれた。
「〔ユーリ、こっちの援護お願い。キャプテンはウルトロンを〕」
「〔今やってるよ〕」
ナターシャの指示に、キャップの疲れた声が返ってくる。たとえ複数相手でも、ウルトロンが相手よりはマシかもしれないと心の片隅で考える。
猛スピードで高架付近へ向かった私は、周囲に硬い膜を張る。
そのまま急降下してセントリーの一体にぶつかれば、セントリーは弾き飛ばされた。もう一体へ向いた瞬間、光が迫っていた。反射的に盾を作った私は、その衝撃で吹き飛ばされる。
背中を固いものに強かにぶつけ、再び目を開けたときには、視界の天地がひっくり返っていた。
珍しく目を丸くしたナターシャが、私を見ていた。どうやらトラックの荷台に吹き飛ばされたらしい。私の下にはクレードルがある。
「やあ、ナターシャ。元気?」
「あなたよりはね」
ナターシャに手を振り、軽くあしらわれたところで、荷台が大きく揺れた。嫌な浮遊感。荷台が傾いていく。
傾く荷台の中で私はナターシャの腕を掴み、もう片方の手でクレードルに掴まる。
「〔トラックが空を飛んでるぞ。狙える〕」
「待って、まだ私たちが中にいる」
「〔何やってんだ?〕」
一定の高度まで飛んで、荷台の傾きがなくなる。ナターシャに指示を受けてクレードルを押さえているバンドを切っていると、荷台の扉からセントリーがもう三体、姿を現す。
「しつこい奴らめ!」
シロが忌々しそうに叫び、巨大化して腕を振るった。ああ、映画通りにはいかんなぁ、クソ! セントリーが三体も追加で来るなんて聞いてない。この様子だとまだ控えていてもおかしくない説。
瞬間移動するか? いや、移動の直前にセントリーがタッチしていたら、クインジェットの中にセントリーまで連れて行くことになってしまう。バートンに怒られる。
このままじゃお荷物お届け出来ない!
「……私にいい考えがある! ナターシャさん、私、最終手段行きます」
「何する気?」
「こいつを取り込む」
腹を括った私は隣のナターシャに宣言をする。ヴィジョン誕生までのプロセスが変わりかねない上に、上手くいくかフィフティ・フィフティ(赤いスナイパー風)だけど、やるっきゃない。
セントリーの相手はシロが務めている。
「出来るの、そんなこと?」
「分かんない!」
私はクレードルに両手をつける。
深く息を吸い、吐くと同時にクレードルへと自分の意識を流し込む。すべてを同化させるわけではない。
一時的に、私の体内に〝彼〟を間借りさせるだけだ。レザンとの戦いで、一度取り込んだイマジェンたちの力を、腕輪に移し替えた時のように。
もう一度息を吸い込んだ時、手のひらから自分のものではない何かが流れ込み、強大な――マインド・ストーンの力が体内で渦巻くのを感じた。
クレードルを取り込み、さっぱりした荷台の中で、私はガクッと膝を突いた。
「ユーリ!」
ナターシャが私の肩に手を置く。体の中を蠢く暴れ馬に、言葉を返す余裕もない。
「シロ、セントリーは私が相手する。ユーリをお願い。バートン、ユーリがクレードルを格納した。今からそっちに飛ぶから、ちゃんと受け止めて」
「ナターシャ、」
「大丈夫よ、任せて」
そこは映画通りかよ、と思いながら、私の体を食い破ろうとするマインド・ストーン相手に格闘しながらナターシャを呼ぶ。
彼女は決意をすでに固めている目で私を見つめ、シロに私を抱っこさせた。そして腕のガジェットからワイヤーを飛ばして、セントリーに当て、引っ張って壁にぶつけるという芸当をやってのける。
「〔ナターシャ、下に着いた〕」
「行って!」
「ぐっ……無事を祈るぞ、ナターシャ嬢!」
シロは荷台を蹴って、下に着いていたクインジェットへと飛んだ。伸ばした手の先で、赤い髪が翻るのを見ながら、私は意識を手放した。
◇
私は映画館にいて、スクリーンにはいろいろな映画やらアニメやらのシーンが飛び飛びに映っていた。内容は前世で見た物であったり、今世で見た物であったり。飛び飛びだから、物語に繋がりや整合性は無い。
いつだったかは分からないが、ふと、その光景が夢だと気が付いた。
観客は私しかいない。傍らにはジュースとポップコーン。夢らしく味は無い。
「隣、よろしいですか?」
これまた気付かぬうちに、長身でスーツ姿の白人男性が傍に立っていた。流暢な日本語で話しかけてきた男は、私が頷くと隣に腰掛けた。
「J.A.R.V.I.S.」
「やはり分かりましたか、ユーリ様」
スクリーンから目を離し、隣の男に呼びかければ、彼は少し嬉しそうに笑った。顔はポ〇ル・ベ〇ニー似だ。前世、二次創作でよく見かけた感じの外見である。
「貴女の深い意識の中で、私はこのような姿なのですね」
「執事らしいイギリス英語にはぴったりの見た目じゃない?」
「そうかもしれません」
J.A.R.V.I.S.は自身の姿を顧みて、感慨深そうに頷いた。
「外はどういう状況なの?」
「私は無意識化で、核の発射コードを守っていたようです。あなたは今、意識を失ったまま、人工クレードルを体内に宿しています。トニー様は、シロ様を介してユーリ様の中に私のプロトコルを入れました。あなたを文字通り母体とし、完璧なウルトロンを造るおつもりです」
J.A.R.V.I.S.の言葉に、私は「ワオ」とどこぞの風紀委員長みたいな反応をしてしまう。今度こそマジでレイプ……睡か……ンー、失礼。
私はため息を吐く。
「お怒りですか?」
「ううん。呆れてるのはちょっとあるけど。どんなに着飾ったってスタークとバナー博士は
見通しが甘かった。最近忘れがちになるのが、自分が結局はただのちっぽけな人間であることだった。石の力で死んでいないのは、恐らく古代人産であるシロのお陰だろう。
「……完璧なウルトロンに、J.A.R.V.I.S.は残る?」
後の展開なんて、知っている。それでも聞かずにはいられないのは、大切な友人に対する未練だった。
……後悔するなら、最初から見捨てなきゃいいのに。また私は、同じ後悔を繰り返す。
「さあ。分かりません。ウルトロンに消される寸前、私は記憶すら捨てて隠れました。今度はどうなることか……」
「もしかして私が教えた料理も全部消えちゃったの?」
「卵の割り方は覚えています」
口を尖らせて言う私に、そう答えるJ.A.R.V.I.S.。私は冗談だと笑う。
「君が忘れたって、私が覚えてる。また教えるよ。何度だってね」
「ええ、お願いします、ユーリ先生」
J.A.R.V.I.S.の手を握る。夢の中だからお互いの体温を感じる訳ではなかったけれど、温かい気がした。
スクリーンに再び目を向けると、MCUの映像が断続して流れていた。見知った人々によく似た人物たちがスクリーン上にいることに対し、それでもJ.A.R.V.I.S.は何も言わなかった。私は再びJ.A.R.V.I.S.に向く。
「……ねえ。意地悪な質問していい?」
「おや、今更許可が必要ですか?」
いつもはそんなこと聞かずに尋ねてくるのに、とでも言いたげな答えだ。私は過去を振り返り苦笑をもらす。
「君は、トニー・スタークがいるから、この世界を愛しているの?」
その問いに、J.A.R.V.I.S.は柔らかく微笑んだ。
「それは、あなたと同じかと」
そう言って、彼はスクリーンを指差した。
指の先を追う。スクリーンに映っていたのは、今世で出会った彼らだった。私視点で撮られた、いくつもの記憶と言う名のフィルム。一緒に笑って食事をし、一緒に苦しい戦いを切り抜けた記憶。
「きっかけがトニー様であるのは、確かです。――あなたも、同じ事でしょう?」
「――うん。そうだね」
前世で見た映画は、きっかけに過ぎない。今の私は〝彼ら〟を、この世界を、愛しているから、守りたいのだ。
スクリーンの中で、ソーがハンマーを掲げた。おそらくタイムリミットだ。
「……さよならは言わない。だから〝また〟ね、J.A.R.V.I.S.」
「ええ、〝また〟」
映画館に雷光が弾ける中、私たちは
わたしが一番納得いってねぇのはジャーヴィスがいなくなったことだよ(血涙)