落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について 作:緑茶山
「ウルトロンは待ち構えている。激しい攻撃をしてくるだろう」
全員が乗り込んだクインジェットの中、キャプテン・アメリカが口を開いた。
「我々は覚悟の上だが、ソコヴィアの人々はそうじゃない。だから優先すべきは市民の避難だ。彼らは平和に暮らしたいだけ。しかし今は、それは叶わない。だからせめて、彼らを守ろう。力の限り。大量のヴィブラニウムが何に使われたか突き止め、ロマノフを見つけ、市民を逃がし、奴と我々だけで戦う」
キャップの言葉に、ソコヴィア出身の双子たちの顔つきが変わった。
「ウルトロンは我々が怪物だと言う。世界のためにならないと。奴が正しいかは、この戦いで分かる」
キャップはスタークと視線を交えた。その演説で、アベンジャーズの面々は各々覚悟を固めた。
クインジェットは、やがてソコヴィア上空へと辿り着く。
アベンジャーズはまず、市民の避難を促した。ピエトロは警察署に走り危機を伝え、ワンダはマインドコントロールで市民を動かした。バートンは高いところから街全体の物見をして、キャップはその報告を元に市民の誘導、私とシロはその手伝い。
その間に、ソーとバナーは地下へと向かった。ソーはヴィブラニウムの使い道を探るため、バナーはナターシャを助けに。
ウルトロンの足止めはスタークだ。
ウルトロンが待っているのはスタークと私だが、ソコヴィア市民の数を考えると、避難のための人手が圧倒的に足りない。足止めのために人数を割くのは得策ではなかった。ウルトロン軍団の邪魔が入らないともないし。
夜明け前の白んだ空の下、避難の状況に変化が起きた。
「うわ、貞子かよ」
「サダコ? 何だそれ」
「日本のホラー映画に出てくるキャラクター。あんな感じでテレビから出てくんの。まあ、貞子は髪の長い女の人だけどね」
地面から、川から、あらゆる場所からウルトロン軍団が這い上がってきた。私がつぶやいた言葉に反応したのは、近くにいたピエトロだ。彼は私の指差したセントリーたちを見て、顔を顰めた。想像したらしい。
ウルトロン・セントリーは見つけ次第倒す。キャップが盾を投げ、私は市民への攻撃を見えないシールドを張って防ぎ、ピエトロは超高速で突進して次々とセントリーを破壊する。
疑似シャンブルズで街の外へ移動させることも出来ることは出来るが、ソコヴィア市民全員をやるのはさすがに私の体力が持たない。出来ないことを嘆いている暇はない。
とにかくウルトロン軍団の攻撃から市民を守りつつ、避難させる。それが仕事だ。
「数が多いなぁ」
「空飛ぶ巨大な魚がいないだけ、ニューヨークよりはマシだろう」
「チョコレートバー食べなくて済むし?」
ぼやいた私に、ホッキョクグマサイズでセントリーをちぎり捨てたシロが答える。いまだにチョコレートに良い顔をしない彼を揶揄いながら、私は防御壁を張りつつ地面から槍を生やし、救助と敵の破壊を同時に行った。
ウルトロン軍団が現れてしばらくして、地面が大きく揺れ始めた。
「結構大きいし長いな。震源近そうだし、震度五か六くらい?」
「〔言ってる場合か、地震ソムリエ〕」
私のつぶやきにバートンのツッコミが入る。日本と違い耐震性に難があるらしいソコヴィアの建物は看板が落ちたり、傾いたりと忙しい。建物の崩落から市民たちを守り、逃がす。
「〔地震じゃない、ウルトロンの仕業だ〕」
無線の向こうから、スタークの真面目な声が届く。街が浮き始めたのだとスタークは言う。
「〔ウルトロンがどこかへ行った。気を付けろ!〕」
スタークの真面目な声。それと同時に、ほど近くで空気が変わるのを感じた。産毛が逆立つような感覚。
「〔やっと見つけた、母さん〕」
その声に反射的に振り向く。振り向いたその先に、ウルトロンがいた。静かな登場は私に似たんだろうな。スタークに似たなら音楽を掛けて現れるはずだ。
私の傍では、空中に出現したウルトロンを見て、恐怖し悲鳴を上げたり、その場に立ち竦む人が大勢いた。仕方がない、と私はその人たちだけはシャンブルズもどきで少し離れた場所へと移動させる。一度くらいならそこまでの消耗にはならない。
「ウルトロン、一つ、あなたに聞きたいことがあってね」
「〔母さんも時間稼ぎか? もう無駄だろうが……まあいい、何でも答えよう、聞いてくれ〕」
私の言葉にウルトロンは歓迎するように両手を広げる。
「あなたは、私の中の
抽象的で漠然とした問い。しかしその言葉の意味するところを理解したらしいウルトロンは、〝手慰み〟を止めた。
映画と同じ理由で人類を滅ぼそうとするならば、私に対しての執着心はここまでではないだろう。だから、ヴィジョンが私の中に様々な感情を見たように、ウルトロンもまた、私の中の何かを見たのではないだろうか。そう思っての問いだったが、やはりその勘は間違っていなかったらしい。
「〔――絶望の記憶だ。母さん、あなたはいつでも敗者だった。幾度も後悔を繰り返したというのに、あなたはまだ
ウルトロンは忌々し気に言った。それは確かな、人類への憎しみだった。ウルトロンに愛は無いと思っていたけれど、それは違ったらしい。ウルトロンに愛はあった。
「〔だから私が終わらせる。母さん、あなたの絶望を〕」
「ウルトロン、あなたは間違ってる」
ウルトロンの言葉に私は反射的に、しかし心の底からの想いを口にした。
「〔私はあなたに安らぎを与える。その絶望の連鎖に引導を渡そう。もう、世界に悲しみなど存在しない〕」
悲しみのない世界、どこかで聞いた台詞だ。イマジェンを集め宇宙を支配しようとした彼も、似たようなことを言ってたっけ。
私はウルトロンを睨み据えた。
「〝イマジェンの力は、正しい道のためのもの〟。――ウルトロン、これが、あなたにとっての正しい道なの?」
「〔そうだ、母さん。あなたを絶望から解放する〕」
それは狂気でも、何でもない。自分の心を信じて疑わない、そんな想いが読み取れた。ウルトロンはただ、
純粋で残酷で、健気な子供。
だから私は、彼を
浮かんだ憐憫の情を飲み込んで、私はウルトロンを見上げて口を開く。
「あなたの考えは分かった。だけど、私の希望も、絶望も、すべて私のもの。終わらせる時は、自分で決める」
そもそも、解放される必要なんて、ない。絶望が希望を紡ぐこともあるのだと、私は知っているのだから。
「〔――ああ、わからず屋だな、母さんは〕」
ウルトロンは交渉決裂と分かるやいなや、片手を挙げた。どこからか現れるセントリーたちが突っ込んできて、私は魔法の光弾を射出して倒す。土煙が去ったときには、ウルトロンは姿を消していた。
「逃げられた」
「まだ
通信の向こうからキャップの呼ぶ声が聞こえ、私はシロとともに敵のいる場所へと向かった。
◇
街を下ろす方法はなく、残された市民や街ごと吹き飛ばす案を前に決断を迫られたアベンジャーズのもとに、フューリーがヘリキャリアを飛ばしてやってきた。
ヘリキャリアから放出された空飛ぶ救命ボートに市民を乗せるべく、アベンジャーズは救助を再開させる。
そしてアイアンマンが解決策を思い付き、私たちは教会へと集まった。
「コアを守るんだ。ウルトロンが手を触れたらこっちの負け」
アイアンマンが指示を出し、私たちは教会の中心に突き出した金属の機械を見やる。それぞれ襲いかかってくるウルトロン軍団をあしらっていれば、ウルトロンが教会の外に姿を現した。
「それがお前の全力か!?」
ソーが挑発すると、ウルトロンが片手を上げた。後ろからぞろぞろと、無数の分身が現れた。
「……言わなきゃいいのに」
キャップが呆れたようにつぶやいた。ウルトロンは紹介するように両手を広げる。
「〔これが、私の全力だ。願ってもない戦いだ。お前達全員対私全員。その数でどうやって私を止める?〕」
「そりゃ、古い人が言ったように――」
アイアンマンはキャップをちらりと見ながら答える。
「団結して」
その言葉を皮切りに、ウルトロン軍団が攻撃を開始した。アベンジャーズはコアを中心に背を向けて円形の陣を組み、次々と襲いくるウルトロンたちとの戦いを始める。
数の差は圧倒的に不利だが、コアを死守するという目的の前に、新人三人を加えたアベンジャーズは文字通り団結し、チームワークでウルトロン軍団を圧倒していた。
ウルトロンがヴィジョンに飛びかかり、攻撃を加えようとするが、ワンダのパワーがそれを防いだ。そこにヴィジョンが額からビームを放出させる。
ウルトロンは教会の外へと押し戻され、更にそこにアイアンマンとソーが駆けつけて、リパルサーと稲妻を食らわせた。
「〔……くっ!〕」
力を合わせた攻撃に防戦一方のウルトロンに、援軍のウルトロン軍団がやってきてアイアンマンたちを狙おうとする。しかし、教会の外に出た私が、魔法で作り出した剣や槍を射出して、援軍のウルトロン軍団を残らず串刺しにした。
三人分の攻撃を受けて大きなダメージを負ったウルトロンは、攻撃が止んでよろめく。
「〔全員相手は……失敗だったか……〕」
苦し紛れに言うウルトロン。そこへハルクがやってきて、とどめと言わんばかりにウルトロンを殴った。ウルトロンの体はギャグ漫画のように遥か遠くへ吹っ飛び、分身たちも一斉に逃げ始める。
空へと逃げていくウルトロン軍団はウォーマシンに、コアはワンダに任せ、私たちも避難し遅れた民間人がいないか確認しつつ、脱出を始めた。