落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第五章 幕間
第五章幕間-1「カマー・タージにて」


 ナターシャと結婚したと言えども、バナーのハルクに豹変問題がなくなったわけではない。『シビル・ウォー』の前兆とも言える動きは既に社会全体にあって、ソコヴィア事件をはじめとするヒーローたちの活動の是非、アフリカで暴走したハルクの問題等々。様々なメディアで議論が交わされている。

 ……まあ、それと同時にヒーローをモチーフにしたアイスとか、グッズとかも展開されて収益が出ているところを見るに、文字通り〝賛否両論〟ってやつなんだろう。

 ハルクの問題は、当事者であるバナーが一番悩んでいることである。その解決法となりそうな鍵を私は提示して、ナターシャも同意の下バナーをそこへ連れて来た。

「お久しぶりですね、ユーリ、シロ。そして初めまして、ブルース・バナー博士」

 柔らかな笑みで私たちを迎えたのは我らが師匠エンシェント・ワン。そう、火花みたいな魔術のゲートをくぐり、私がバナーを連れて来たのは、エンシェント・ワンのいるネパールの首都・カトマンズにある修行場、カマー・タージである。

「ああ……あの、初めまして。ええと……あなたが、エンシェント・ワン?」

「ええ、その通り」

 異国情緒あふれる石畳とか、自然素材の建物をきょろきょろと見回して、落ち着きのない様子でバナーは挨拶をする。そんな反応には慣れっこであろうエンシェント・ワンは、鷹揚に頷いた。

「ユーリ。〝彼〟が現れました。挨拶に行っては?」

「あー、じゃあ、行ってきます。博士、後はまあ、頑張って」

「えっ、ちょ、ユーリ?」

「帰るときは声掛けるよ」

「ああ、そう。なら……置いてかないでくれよ」

 エンシェント・ワンから言外にちょっと向こう言ってろと言われたので、私はバナーに手を振ってその場を去った。バナーはどんな修行するんだろう。気になるけど、もっと気になるものがある……じゃなくて、人がいる。

 修練場に向かう廊下で、その〝彼〟を見つけた。ベネ〇ィクト・カン〇ーバッチ似の男。

「こんにちは、ドクター・ストレンジ」

「は……? あー、お嬢さん、失礼だが、どこかで会ったかな?」

 声を掛ければ、ストレンジは訝し気に首を傾げた。

「別の時間軸(バース)では会ったことがあるけれど、それは私だけど私じゃないから。まあ、初めましてってところかな」

「……」

 ますます眉をひそめるストレンジ。まだマルチバースとかの勉強はしてないみたい。握手を求めるように私は手を差し出す。

「ユーリ・タカムラです。こっちは相棒のシロ」

「シロだ。よろしく、ドクター・スティーブン・ストレンジ」

 ストレンジは握手に応じようと手を出しかけたが、私の傍らにいたシロの言葉に目を丸くした。

「熊が喋った!?」

「わあ、最近そういう反応無かったから新鮮!」

 驚いている彼には悪いが、ちょっと嬉しくなってしまう。サムも驚いてはいたが、静かな驚きだったし。新人の双子やヴィジョンも、特に驚いてなかったし。

「ちなみにでかくもなれるぞ」

「なっ……はっ……? な、何かの魔術か……?」

「魔術ってか、魔法かな。シロさんを構成しているのは魔力だから。魔力を膨張させることで自在に身体の大きさを変えられるんだよ」

「冗談だろ……あんた何者だ?」

 シロがヒグマ程度の大きさになってみせれば、もっと驚いた顔を見せてくれるストレンジ。面白いなぁ。

「ユーリ」

「はい、エンシェント・ワン」

 ストレンジの問いに何と答えようか悩んでいたところに、お呼びが掛かる。

「挨拶をしてきてはどうかと言いましたが、いじめてこいとは言ってませんよ」

「人聞きが悪い。いじめてなんていませんよ。自己紹介してただけです」

 それに、先に悪ノリしたのはシロである。エンシェント・ワンは微かにため息を吐き、ストレンジを見た。

「どうぞ行って、ストレンジ」

「あ、はあ、失礼します」

 エンシェント・ワンに言われて、ストレンジは立ち去った。私はそれを見送って、彼女を再び見た。

「バナー博士はどうですか?」

「〝きっかけ〟は与えました。あとは彼次第です。少し話をしましょう。あなたも、あるようですしね」

 どうやらお見通しらしい。微笑んで踵を返す彼女に、私は大人しく従った。

 エンシェント・ワンに連れられて来たのは、カマー・タージの一室だ。窓の外には自然豊かなネパールの景色が見える。

「まずは、あなたの用件を聞きましょうか」

「じゃあ、お言葉に甘えて。これを、受け取ってもらえませんか」

 私が差し出したのはお守りだ。アスガルドの王妃・フリッガに渡したものと同じもの。エンシェント・ワンはそれを静かに見下ろした。

「言ったはずです。私は十分すぎるほど生きたと」

「はい。聞きました。でも、私はやっぱり、私に出来る限りのことはしたい。お願いします、エンシェント・ワン。私は、あなたを諦めたくない」

 お守りを差し出したまま、私はエンシェント・ワンを見つめた。その静謐で深い瞳を。

 フリッガを救えたことで調子に乗っていると言われれば、そうかもしれない。ロキの死が、映画通りのまやかしなのかも分かっていない。私が誰かを生かすことで、他の誰かを死なせることになるのかもしれない。

 救った先で変わるものがあると考えれば、やはりそれは怖い。それでも。何もしないよりはきっと、後悔は少ない。

 随分と長い時間、見つめ合っていた気がする。先に折れたのは、エンシェント・ワンの方だった。

「持つだけですよ」

「はい。それでいいです」

 差し出されたお守りを手に取って、彼女はそっけなく言った。私は笑顔で頷く。

 そっけなくされた程度、ツンデレと捉えるだけなのでなんの問題もありませんね。

 エンシェント・ワンは私のお守りを服の中に仕舞い、話を切り替えた。

「私からの話、というのは、あなたの力のことです」

「私、の? 私たちではなく?」

 ただの言い間違いの可能性も視野に入れて聞き返すと、エンシェント・ワンは頷いて「あなたの、です」と念押しした。

 その様子に、私は思わずシロと顔を見合わせる。

「量子魔術と言うものを知っていますか?」

「まあ……聞いたこと程度なら」

 たしか、〝メイガス〟ことアダム・ウォーロックが使うテレポートやエネルギー操作が量子魔術によるものだったっけ。

 アダム・ウォーロックは私の知る時点でMCUには出てきていなかったが、存在自体は二作目の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』で示唆されていた。

「それが一体どういう……」

「あなたは、無意識のうちに量子魔術を使っています」

「なるほど」

 首を傾げた私、答えたエンシェント・ワン、納得したように頷くのはシロだ。私はえっ、とシロを振り向く。

「なんで……何に納得してるの!?」

「瞬間移動の術式は俺の中になかった。ある地点から別の地点へと行く、という魔法は言葉にするのは簡単だが実際にやるのは複雑な術式がいるだろう。簡単ならば魔法術式が刻まれていないはずないからな。それをマスターは簡単にやってのけていた。あれが俺由来ではなくマスター由来だと言うなら、納得が行く」

 驚く私に対して、シロは冷静に答えた。

「初めてテレポートを使った時、気分が悪くなったそうですね」

「ああ、はい。最近はそうでもないですけど」

 エンシェント・ワンの問いに私は頷く。

 あの時想像した魔法の元ネタは『ハリ◯タ』に出てくる姿くらまし術で、姿くらましは作中でも慣れないと()()ことがあるってあった。そこまで再現してしまったって思っていたけれど、違うのだろうか。

「その推測もあり得るかもしれませんが……あなたの中にある量子魔術の因子に魔力を急激に通したゆえの反動、という可能性も考えられますね」

「……絶食した後に油っこい物を食べると胸焼けする、みたいなことですか?」

「……まあ、それでいいでしょう」

 エンシェント・ワンは私の比喩になんとも言えない様子で頷いた。

「でも、量子魔術の使い方なんて知りませんでしたよ、私。それがどうして……?」

「元々量子魔術の素養を持っていたのでしょう。それがシロと上手く噛み合って、眠っていたものが目覚めたのかもしれません」

 首を傾げた私に、エンシェント・ワンは予測を示す。原因は分からないが、私が量子魔術を使えることは確かなようだった。

「書庫へ行き、番人に量子魔術について尋ねなさい。知識を増やし、さらなる力を得れば、あなたの目指す場所により近付けるかもしれません」

「あっ、はい! ありがとうございます、師匠」

「お守りの礼です」

 立ち上がって頭を下げる私に、エンシェント・ワンは微かな笑みを浮かべて、少しそっけなく答えた。

 帰る時は声を掛けると言ったものの。バナーはしばらくカマー・タージでの残留が決定した。修行にはいくつかの工程があるとかないとか。新婚早々旦那が出張状態ではあるが、ここにはWi-Fiもあるから、嫁との連絡は問題ないだろう。

 シビルウォーまでには戻るだろうか? と思ったが、戻らないほうがバナー的には良さそうだとも思う。

 私は自分の調べ物を済ませて、シロと二人アベンジャーズ基地へと帰還した。

 

 

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