落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第五章幕間-2「1991年12月16日」

 あ……ありのまま今起こったことを話すぜ! おれは昼間、部屋で量子魔術を使う練習をしていたと思ったら、いつのまにか夜の森の中にいた。

 な……何を言っているかわからねーと思うが、おれも何をされたのか……。

「自分でしたことだろう、茶番はそのくらいにしておけ、マスター」

「ウス」

 いつの間にか心を読んでいたシロに冷たいツッコミを入れられ、私は大人しく頷く。

 いやしかし、困ったことになっているのは確かだ。私が量子魔術で行おうとしたのは、十分前の部屋のクローゼットへの移動だ。だが、今の私がいるのは見知らぬ森の中。量子魔術を使おうと明確にイメージを浮かばせてみているのだが、何故か魔術は使えない。

「ここどこよ……今回に関しては私のせいじゃないよね?」

「そうだな。明確にクローゼットをイメージしていたはずだ。もしやクローゼット繋がりで『ナル○ア国物語』が潜在意識に上ったか?」

「潜在意識まで拾われちゃったらもう私、対策しようがないよ。あとナ○ニアって洋服箪笥じゃなかったっけ? ワードローブ?」

「そこは今、どうでもいいだろう。早くどうにか戻らないと、凍死しかねない」

 一応魔力製のコートを着たが、雪が降っていないのが逆に不思議なほど、空気が冷えている。

 最悪すぐに帰れなくとも、森の小屋なんかがあると非常に助かるのだが。いっそ魔法でそのへんに建てるか?

「……む、マスター。道がある。ついでに、その道路脇には監視カメラまで設置されている。車通りの多い道かもしれない」

「おお、一筋の光明が」

 前を進みながら透視能力(インサイト)で先を見てくれていたシロが口を開いた。少しホッとしながらその監視カメラが設置された外灯の真下に立つ。

 白い息を吐きながら、私はその景色に妙な既視感を覚えた。両脇に木立のある、それほど道幅の広くない道路。目の前の景色に、俯瞰したその道が重なった。

「……この道、知ってる」

「――アーニム・ゾラ」

 つぶやいた私を一度見上げ、再び道を見て、シロが言った。そういえばゾラの見せた映像の一つにもあったか、と頭の片隅で思った。私が思い出したのは映画で見た映像だったが、まあ、大して変わらない。

「……いや! よく似てるだけかもしれないしな。待て待て、落ち着け。まだあわわ慌てるような時間じゃない」

「君が落ち着け」

 別に慌ててるわけではない。寒くて舌が回らないのだ。そういうことにしてくれ。

 そもそもこの場所があの場所だったとしても、今ここで彼が殺されることになるわけでもあるまい。慌てる必要もないのだ。自分の知っている気がする場所だったからつい勘ぐってしまった。

 そんな考えがフラグになったのだろうか。道の向こうから車の音が聞こえてきた。私は思わず草陰に隠れ、夜目が利くように視界を切り替える。

 走ってきた車は私からするとレトロな車だった。車種は知らないが、当時は高かったんじゃなかろうか。多分現代でもプレミアついてたりしてなんだかんだ高いやつ。そんなデザインのセダンだ。乗っているのは二人。男女、恐らく夫婦。嫌な汗がこめかみを伝った。

 その車にバイクが並走したかと思うと、バイクに乗っていた男が車の窓を叩くような動作をした。車が唐突に制御を失って、木立の木に突っ込む。バイクに乗っている男は、銀の腕を持っている。

 私は無我夢中で魔法術式を展開した。その場に作り出した夫婦そっくりの人型を、車に乗っていた二人と入れ替える。傍に現れた本物の方の夫婦は事故に遭ったと思ったら視界が切り替わって、頭が追い付いていない様子で目を白黒させている。声が漏れたりしないように二人の周囲をシャットアウトして、私は道路の方を見た。

 バイクから降りた男は運転席へと歩み寄った。ドアを開ける音。私が先ほど作り出した魔力製の運転手人形が短い悲鳴を上げる。

「妻は助けてくれ……頼む、どうか……バーンズ軍曹――」

 ハワード・スタークの声で力なく懇願する運転手に、男――ウィンター・ソルジャーは容赦なく拳を振り下ろして、運転手を殺した。

「あなた……ハワード……!」

 助手席で怯える女の声に、ウィンター・ソルジャーは顔を上げる。急ぐでもなく淡々とした足取りで助手席へと回り込んだウィンター・ソルジャーは女の首を絞めて殺害した。

 二人の目撃者を始末した彼は、監視カメラを撃って破壊。車のトランクからケースを取り出して、バイクに乗って走り去っていった。そのエンジンの音が遠ざかって、私は静かに息を吐く。

「マスター、二人が」

「えっ、ああ」

 やっと頭が追いついたらしい女性――マリアは怯えた様子で男性――ハワードにしがみつき、ハワードはマリアの肩を抱いて周囲に私が張った見えない壁を叩いている。私は叫んでいる様子のハワードにジェスチャーで静かにと示した。彼が頷くのを見て壁を消す。

「怪我はないですか?」

「あ、ああ……君は誰だ? さっきの男は……いや、それより、ケースが取られた。あの中には大切なものが入っているんだ。誰かの手に渡らせるわけにはいかない」

 混乱しているらしい。話は飛び飛びでまとまりがない。私は小さくため息を吐いて口を開いた。

「質問に一つずつ答えます。一つ目、私は未来から来た者です。二つ目、あの男はヒドラに洗脳されて、あなたの暗殺を命じられたバーンズ軍曹。三つ目、あのケースは、取られるべくして取られました。今は諦めて下さい」

 指を一本ずつ立てて簡潔に答える。夫婦はぽかんとした様子で私を見ている。

「み、未来人……?」

「そうなりますかね。とりあえず安全な場所に移動しましょう。ここは監視カメラもありますし」

 ちらっと上を見て、夫婦に視線を向ける。ここはカメラの死角に入っているから、二人が生きているとヒドラに知られることは無いだろう。

「ねえ、あの私たちに似た二人は……?」

「魔法で作ったお二人そっくりの人形です。本物の人間ではないので、ご安心を」

 不安げに指を差すマリアに私が答えると、彼女は少しほっとしたように息を吐いた。

 安全な場所と言ったはいいが、ハワード・スターク暗殺時点で安全な場所なんて知らない。そもそも私、この時まだ生まれてすらいない。でもとりあえず、暖を取れるような場所に行くべきだろう。車は……事故が原因で爆発ってことにすれば、中身の魔力製人形含め平気かな……。時限付きで爆破のルーンを刻んで、と。

「失礼、お二人とも。少し揺れます」

 時代が違っても、カマー・タージなら――エンシェント・ワンなら置いてくれるだろうと考えて二人の手を取り、瞬間移動をした。

 移動したんだけどさ。

 あのさぁ。

 そりゃ元の場所に? 元の時間に? 戻りたいって思ってさっきまで必死こいてたよ? だからって今するか? 二人を連れた状態で。

 私たちが移動したのは、元いたアベンジャーズ基地の私の部屋……ではなく。S.H.I.E.L.D.が無くなってからフューリーがこっそり譲ってくれた家の中だった。西海岸の街から離れた場所に位置する一軒家。時々私が掃除をしに来ており、おそらくフューリーも時々立ち寄っている。まあ、私が管理を任された、フューリーと共用のセーフティハウスだ。

 棚の上に置かれたデジタル時計は、私が部屋にいた時間から十分程経った時刻を示している。

「……ここは? それに、日付がおかしい」

 ハワードが首を傾げる。私は一人こめかみを押さえた。どないしよ……。

「ようこそ未来へ」

 私の代わりに、シロが口を開いた。

 

 ◇

 

 その後のことを話そうか。

 私はとりあえず夫妻に、ここが未来であること説明した。そして、量子魔術の扱いが完全ではないから元の時代に戻すことは出来ないかもしれないと平謝りした。まあ、元の時代に戻ったところでハワード・スタークが生きていると知られたらヒドラがすぐにやってくることになるから、戻ることは得策ではないという説明もした。

 ハワードは未来の技術に興奮して、むしろ感謝カンゲキ雨嵐という様子だった。マリアは困惑した様子こそ見せたものの、困ったように笑って受け入れた。この寛大さがあったからあのハワード・スタークの妻であれたのかもしれない。彼女こそ聖母マリア。

 私はこっそりとフューリーに連絡を取り、二人の委細を話した。しこたま怒られたが、それでも生きるのに必要となる二人の戸籍やら何やらを全部用意してくれた。フューリーはツンデレ眼帯ハゲに昇格した。

 家に関しては西海岸の町外れにあるこの家を家とする。設定としては、別宅にほとんど帰れない私が雇った住み込みの管理人ということになっている。

 夫婦ともになんやかんや未来に適応して、第二の人生をエンジョイしてるので、結構似た者夫婦な部分もあるのかもしれない。

 それから、もう一つフューリーに頼んで送ってもらった映像には、夫妻がウィンター・ソルジャーに殺される姿が映っていた。そして映像の最後には、車が爆発する。

 それから、トニーにも会わせた。『シビル・ウォー』で話がこじれたのは、ひとえにハワードとマリアをバッキーが殺したという事実が露見したため、なおかつそれらを知っていたスティーブがトニーに隠していたからだと思う。

 トニーさえ、二人が生きていることを知っていれば、『シビル・ウォー』が、あそこまで話がこじれることは無いと思われる。ジモの妻子を助けている今、あの展開がちゃんと起こるかは分からないが。

 スターク家族の再会は……なんというか、驚きと、ぎこちない会話とぎこちないハグでなんとかなったみたい。

 ちなみに、私が戸惑っているトニーにしたアドバイスは一つ。「親がいつ死ぬかなんて分かんねーんだからとりあえず喜んでおけば?」である。それに対してトニーは「君がそれを言うのはずるくないか? あと重い」と返した。そうだね。

 よし、これでウルトロンのときの貸しは返してもらったな!

 何はともあれ。私は思ってもみない形で、ハワード・スタークとマリア・スタークを助けることが出来たというわけだ。

 






ご都合主義すぎる気がしたけど今更だな。




次回
『オーディンとフリッガの愉快痛快老人ホーム生活』
『ロキのウキウキ王様生活』
『ハワード・スタークとおっさんになった息子』
の三本です(嘘)


 
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