落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について 作:緑茶山
第六章-1「燻ぶる火種」
「ユーリ、シットウェルを覚えてる?」
ラムロウを含むヒドラ残党の捕縛のため、アベンジャーズを乗せたクインジェットはラゴスへと向かっていた。その機内で、ナターシャは口を開いた。
「ん? うん。高速道路でウィンター・ソルジャーに投げられてた」
「ええ。あいつ死んだらしいわ」
ナターシャから寄越された端末を受け取り、シロと共に覗き込む。映っているのはシットウェルらしき人物の死体の写真だ。ウゥ、グロ画像。
……と言うか、投げられた時に確かに私が〝手助け〟してやったが、あの後ちゃんと生き残れていたんだな。いや、今は死んでいるらしいが。
「右腿、左手、左腕、右目、それから眉間に銃創が。今朝、ハーレムの路地裏で発見されたそうよ」
「ギャングに喧嘩でも売った?」
「
端末を覗き見たサムが口を挟む。生き延びたシットウェルが逃亡を図り、それをヒドラが裏切りと見たなら確かにそれもあり得るけど。なんだか腑に落ちない。
「ヒドラがやったにしては、なんか……雑じゃない?」
「そうね」
私の言葉にナターシャは頷く。何度も撃っているのに、しっかりと眉間を狙ってとどめを刺している。玄人の怨恨と計画性あっての一発か、素人の不測の事態ゆえに焦って何発も撃ったか、よく分からない。他の銃痕が眉間の銃痕の先なのか後なのかは分からないが……なんというか、色々と不可解な点が多い。ヒドラがわざとそれを狙ってるという可能性も否定はできないが。
「お喋りはやめだ。そろそろ着くぞ」
キャップの言葉に顔を上げて、私はナターシャに端末を返した。今はシットウェルのことをあれこれ考えていても仕方がない。死んだ悪人はそれで終わりだが、生きている悪党は悪さをする。ならば優先順位は決まってる。
頭を切り替えた私は、ラゴスの街を見下ろした。脳裏に記憶が蘇る。ラゴスの街の上空で爆発する男。フロアごと吹き飛ぶビル。目を見開き口元を押さえるワンダ。
そうだ、私にはやるべきことがある。今はそちらに集中だ。
ラゴスでの戦いは、ほぼ映画通りに事が進んだ。ゴミ収集車にカモフラージュしたラムロウの部下の車が感染症研究所に突っ込み、それを合図として次々に武装したラムロウを始めとするヒドラ構成員たちを乗せたトラックが研究所へと押し入った。
映画のニューアベンジャーズに私たちを加えたヒーローたちは、協力してラムロウたちと戦ったが、原作通り研究所にあった生物兵器が盗まれた。装甲車に乗って研究所の北へと向かうラムロウたちを追って、私たちは市場での戦闘を繰り広げた。
ナターシャがサム(というかレッド・ウィング)の力を借りて生物兵器を奪還。キャップと互角の戦闘を繰り広げていたラムロウは、最終的に自爆装置のスイッチを押して、キャップを道連れにしようとした。そこに駆けつけたワンダが爆弾となりつつあるラムロウを抑え込んだ。
映画通りならば、ワンダが爆弾を飛ばした先には一般市民の残るビルが隣接しており、今もそこには同じようにビルがある。ほぼ直撃を受けたフロアは破壊され、多くの犠牲が出ることになる。
しかし、ここには超能力者と言える人間がワンダの他にもいる。
「ワンダ!」
市場のトタン屋根にシロとともに降り立った私は、爆発を抑え込んだワンダに呼びかける。
「ユーリ!」
ワンダは応えるように名を呼んで、爆発を抑え込んだまま私へと人間爆弾を投げた。私はこちらに向かってくる爆弾に対し、練習に練習を重ねた量子魔術を展開した。
片手を広げて向ければ、空間に歪みが起こる。爆弾はその歪みを通って、そのまま跡形もなく消え去った。量子世界を通って、安全確認済みの宇宙の片隅へと捨てたのだ。
手を下ろせば歪みは消える。爆発の危機が去り、静寂が街を包む。市民の誰もが安堵の息を吐いた。少々空気の読めない市民が一瞬歓声を上げて、周囲の人々に白い目を向けられ、上げかけた腕を下ろした。
私はそれらを眺めつつ、息を吐く。一瞬でもタイミングが合わなければ、映画で見たよりも犠牲が増えるところだった。
「やったな、マスター」
「……うん」
ラムロウ追跡作戦の成功を喜ぶようでいて、その裏にあった私の目的を達成出来たことに対して、シロが言って、私は頷く。
ワンダを見れば、彼女も私を見て、口角を持ち上げて頷いた。それに対して、私も笑みで応えた。
◇
そうして私たちはアベンジャーズ基地へと帰還した。
今回の任務で留守番になったピエトロは少し拗ねており、ワンダが呆れた顔をしていた。生まれた時間的にワンダが妹らしいのだけど、こういうところはワンダの方がお姉さんみたいに見える。ワンダがピエトロに先を譲った説。
テレビでは早くもラゴスでのアベンジャーズの活躍を報道していた。
映画通りならば報道される内容は批判的なものが多く、特に失態を犯してしまったワンダへの非難が目立っていた。しかし民間人への被害は最小限に抑えたことで、世論はどちらかと言えばアベンジャーズを称賛する方に傾いている。
まあ、批評家の類は超人や超能力者を野放しにしていることに対して批判をしているが。
そんな中、私はシットウェルのことについて探りを入れていた。なんとなく引っかかっているのだ。
本来死ぬ運命にあった人物を助けた。その後、その人物が死んだ。いわゆる修正ペンの仕業か、それともただの偶然か。それに犯人は誰なのか。
電脳世界に潜って、情報の入った箱の中身を出して見ては戻す作業を繰り返していれば、ヴィジョンがやってきた。
「ヴィジョン、どうしたの?」
「スターク氏がいらしたので、知らせに参りました」
「トニーが? 分かった。行くよ」
ヴィジョンの言葉に頷いて、私は見ていた情報を戻す。
「それと、客人がご一緒です」
「客? 知り合いか?」
ヴィジョンが付け足した言葉に、シロが反応した。どれだけ力を尽くしても、大筋は変わらない。エンシェント・ワンの言葉が私の頭をよぎる。
ヴィジョン、次に君は「国務長官です」と言う。
「国務長官です」
ほらね。
◇
アベンジャーズ基地の会議室に、アベンジャーズの面々が揃う。アベンジャーズの面々と言っても、ソーはアスガルドだし、バナーはカマー・タージにいるので不在だが。
メンバー全員が席に着いたのを確認すると、国務長官サディアス・〝サンダーボルト〟・ロスが話を始めた。
ロス長官は、五年前のゴルフの最中に心臓発作で倒れて、十三時間に及ぶバイパス手術を受けたとかなんとか前置きを入れる。
「その手術で、四十年の軍隊生活では学べなかったことを私は学んだ。大いなる視点だ。世界はアベンジャーズに返しきれないほどの借りがある。君たちは我々を守るため、命を懸けて戦ってくれている」
ロス長官はアベンジャーズを称賛する一方で、「だが」と言葉を続けた。
「君たちを〝ヒーロー〟だと言う者もいれば、ヒーローではなくただの〝自警団〟だと言う者もいる」
「長官は、どちらの呼び名を使いたいんですか?」
結論をさっさと言えと言うような少しの嫌味を含み、ナターシャが尋ねた。
「〝危険な集団〟かな? 君たちはどう呼ぶ? アメリカを拠点とする超人集団が、国境などまるでお構いなしに自分たちの正義を振りかざす――自分たちが暴れた後のことなど、知ったことではないという顔をしてな」
そう言いながら、ロス長官はスクリーンに映像を映した。ニューヨーク、ワシントンD.C.、ソコヴィア、ラゴス。アベンジャーズが〝活動〟をしたそれぞれの街の惨状が流れる。思わず目を逸らすメンバーもいる中で、私はじっと映像を見つめた。
「……もういい、充分だ」
スティーブの言葉で、映像は消える。
「この四年、君たちは誰の管理も受けずに好き放題やってきた。だがそんなやり方ではもう世界各国の政府が黙っていない。そこで、これが対応策だ」
そう言って、ロス長官は分厚い文書をテーブルの上に置く。一番近くにいたワンダがそれを手にした。
「ソコヴィア協定。すでに世界の百十七か国が同意した。これによりアベンジャーズはもはや民間のいち組織ではなくなる」
ロス長官が話す中、表紙を見たワンダは向かいのローディに手を出されて、その手に文書を差し出す。
「これからは、君たちは国連委員会による監視のもとで動く。委員会が必要と認めた場合のみ、出動を許可する」
「アベンジャーズの目的は世界を守ることだ。その役目は果たしている」
スティーブが反論する。
「では聞くが、ソーとバナーの二人がどこにいるか分かっているのか? 普通、三十メガトン級の核弾頭が二つも所在不明になったら大問題――」
「ロス長官」
ロス長官の何気ない言葉に、私は思わず口を開いてしまう。その話をすることは分かってはいたが、黙ってはいられなかった。
ロス長官は話に割り込まれて片眉を上げつつ、私を見た。
「
怒りの色は出さずにロス長官の目を見据えて静かに忠告をする。人の仲間を核弾頭扱いしてんじゃねーよ、と。
ロス長官はその言葉に多少たじろいだ様子を見せた。しかし大きく咳払いをして話を戻した。
「――とにかく。歩み寄りと安心の保証。世界はそれを求めている。受け入れろ。これが一番良い着地点だ」
「つまり、この協定に従えと」
ローディが協定の文書を示しつつ、ロス長官の言葉を要約する。
「三日後にウィーンで正式承認のための国連会議がある。検討してくれ」
そう話をまとめると、ロス長官は足早に出口へと歩き出した。着いてきていた秘書らしき男も、彼に続く。
「私たちの返事が、もし長官の望まないものだったら?」
ナターシャの問いに、ロス長官は足をゆっくりと止めて、こちらを振り向いた。
「引退してもらう」
問いを投げかけたナターシャを見据えて、ロス長官はきっぱりと告げ、今度こそ会議室を後にした。