落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第六章-2「賛成か拒否か」

 ロス長官が去って、みんなは場所を移した。アベンジャーズメンバー共有のリビングルーム。それぞれソファに座ったり、立っていたり。

 私はみんなが集まっているローテーブルやらソファやらから少し離れた椅子に座って、みんなの話を聞いていた。

「ロス長官は議会名誉勲章を持っている。お前より上だぞ」

 高圧的な態度だったロス長官への愚痴まじりの反対意見をこぼしたサムに、ローディがそう言った。

「もしこれに同意したら、政府が俺たちを犯罪者みたいに監視することになる」

「百十七か国が協定に賛成だ。百十七か国だぞ。はいって言うしかないだろ」

「あんたはどっちの味方なんだ?」

 サムとローディが言い合いをしている。そんな中、ヴィジョンが口を開いた。

「私が分析したところ……」

「おお、何か答えが出るぞ」

 サムはヴィジョンの言葉を少し茶化しつつ、先を促した。

「スターク氏が自分こそアイアンマンであると宣言してから八年、超人と言われる者の数は急激に増加しました。そしてその間に、世界を滅ぼす程の事件も同等の割合で増えています」

「我々のせいだと?」

 ヴィジョンの言葉に、スティーブが眉を寄せる。

「因果関係はあるかと。我々の力が敵を呼び寄せる。敵が来れば争いが生じる。争えば……悲劇が。つまり、国連の管理下に入ることも、検討すべきです」

 ヴィジョンの出した結論に、ローディがほら、と小さく言ってサムを見た。

「トニー、どうしたの? 珍しく無口ね?」

「もう決めてるからだろ」

「よくお分かりで」

 ナターシャの問いに、スティーブが代わって答える。トニーは頷きながら寝そべっていたカウチから立ち上がった。

「B.A.R.F.を使ったせいで頭痛がしてたんだよ。黙ってたのはそのせいだ」

 B.A.R.F.はトニーが映画でプレゼンしていたホログラフィック技術だったか。

 トニーはメリオールを手にしながら、キッチンカウンターの上に携帯端末を置いて小さな映像を出した。一人の青年が映っている。

 それはチャールズ・スペンサーではない。名前も違う。それでも彼もまた、ソコヴィアでのボランティア活動に参加して、命を落とした。私が人知れず救ったチャールズ・スペンサーの代わりに、犠牲となった。

 あのソコヴィア事件で、ひとり残らず民間人を救えない限り、これは変わることのない犠牲なのだろう。

「彼には夢があったんだろう。今となっては分からないが。僕らが彼をビルの下敷きにしてしまった」

 トニーはそこまで一息に言うと、何かサプリメントのようなものを口に放り、水を飲む。そうして、カップを置いてこちらの面々に体を向けながら言葉を続けた。

「……ここには意思決定の方法論がない。監査を受けるべきだ。僕は受け入れる。枠に嵌められたくない、野放しでいたいって言うなら、悪党と同じだ」

「自分のせいで誰かが死んだからって怖気づくな」

「怖気づいてない」

 スティーブの言葉に、トニーは食い気味に言い返した。

「自分の行動に責任を持たなくなるってことだろ。責任を転嫁するだけだ」

「悪いけどスティーブ、その物言いは傲慢すぎる。国連が監督するって言ってるんだ。世界安全保障委員会でもない。S.H.I.E.L.D.や、ヒドラでもない」

 ローディの反論に、スティーブは頷きこそしたが、異議を唱える。

「ああ、だが組織なんてものは状況によって変化して――」

「いいじゃないか。僕だって変わった。自分の造った武器が悪用されかねないと知って、武器の製造から手を引いた」

「トニー、君は自分の意志で選んだが、我々には選ぶ権利すらなくなるんだぞ。行くべきでないところにいけと命じられたら? 逆に、行くべきところに行くのを禁じられたら? 僕ら自身で判断したほうがまだ安全だと思う」

 S.H.I.E.L.D.とヒドラのこともあり、スティーブの根底には組織への不信が強く根付いている。それは仕方のないことだった。

 正直に言えば、スティーブの気持ちはよく分かる。私だって、腐った組織のせいで追われた経験のある身だ。

 それに、組織が命令を出すまで待機するしか出来ないのならば、助けを求める声にすぐ駆け付けられないならば、そんなのヒーローではないと思う。……私にとっての〝正しい〟ことではない。

「私は……、私たちは、賛成するわ」

 ワンダがピエトロと顔を見合わせながら言った。ワンダの視線に、ピエトロが頷く。

「私たちは力を授かって、普通であることを捨てて、故郷も失くした」

「ここが俺たちの居場所だ。だから……もう失いたくはない」

 双子は互いに手を握りながら、そう言った。

 ラゴスでの失態が無くなったから、ワンダが罪に問われる心配もない。だから同意するという考えに至ったのだろう。

 双子の意見を聞き、トニーはスティーブに改めて視線を向けた。

「今サインに応じなければ、後で強要される。結局はな。それよりマシだろ?」

「トニーの言う通りかも。ハンドルを手放しさえしなければ、運転はできる」

 ナターシャが賛成の意見を出すと、サムだけでなくトニーまで驚いた顔をする。まさか彼女がトニー・スタークに賛同するとは思っていなかったのか。

 全員が協定に賛成さえすれば、今後もヒーローチームとして活動を続けていく事ができる。そんなことはスティーブも承知だろう。でもそれには、国連の命令に従うと言う義務も付いてくる。しがらみが増える。

 私はずっと黙って、それらを聞いていた。沈黙を保つ私の横で、シロもまた黙っていた。シロからは、ただ、私の考えに従うと言われていた。賛同するでも、拒否するでも、引退するでも。私のやりたいようにやればいい、と。自分は着いていくから、と。

 トニー優勢で議論が進んでいた中で、スティーブのスマホにメッセージが入った。スティーブはそれを見て、「行かないと」と言い残し、足早に立ち去った。

 それを見送っていれば、ふとトニーの視線がこちらに向いていることに気が付いた。

「……何?」

「さっきからずっと黙ってるだろ。意見はないのかと」

 首を傾げた私に、トニーが言う。その言葉で、みんなの視線までこちらに向いた。

 余計な気を回しやがって、と心内で毒を吐く。

「……どっちの意見も分かるけど、まあ、強いて言うなら協定に同意するよ」

「マジかよ、あんたはこっちだと思ってた」

 私の言葉にサムが言う。私は苦く笑い返す。

「組織への不信がないわけじゃないけど、それはS.H.I.E.L.D.にいたときも同じだったから。……ナターシャの言う通りだと思うしね。ハンドルを握ってさえいれば、行くべき道は決められる。サイドブレーキのほうは自由に出来ないみたいだけどさ」

 サイドブレーキがかかっていても、進もうと思えば進めるし、とは言わないでおこう。

 私の意見に、特に反論の声は上がらない。

「でも、すぐに形骸化しそうだけどね、この協定」

「おい、そんなこと言ってロスに聞かれてたらどうする」

 私の言葉に、トニーは眉を寄せる。ヴィジョンやワンダ、ピエトロが首を傾げた。

「どうしてそう思うのですか、母上様」

「散歩中に宇宙人がやってきて、人々を襲い始めたとして。それを〝国連の命令がないから〟なんて言って何もしない奴は、そもそもここにはいないでしょ」

 ソコヴィア協定の文書を読んだが、緊急時に止む無くスーパーパワーで民間人の救助を行った場合の明確な規定はなかった。

 ……いや、あるといえばあるんだけど、法律らしい、難解でどうとも解釈できる言い回しで書かれている。ケースバイケースなのか、問答無用でラフト刑務所行きになるのか。

 ロス長官なら後者を推しそうだけど。けれど、その時の世論はどうだろうか。

 私の言葉に、全員が顔を見合わせた。その様子を見つつ私は、話は終わったと言うように椅子を立って、シロと共に部屋を後にした。

 

 ◇

 

 リビングルームでの話し合いを終えた翌日。

「ユーリ、シロ。あなたたちは私と一緒に、署名式に参加よ」

 キッチンで料理をしている最中に、私はナターシャからそう告げられた。

「え? なんで?」

 ぽかんとした顔で尋ねれば、ナターシャは呆れた、と言わんばかりの顔をして見せる。

「トニーは今、一応アベンジャーズを脱退している身だし、スティーブは多分……気持ちが変わることはないでしょ。ソーとブルースも今は不在。つまり、協定に賛同する中でアベンジャーズの古株は私たちだけってこと」

 ナターシャの言葉を聞いて、今更ながら思う。ソコヴィア協定が正式調印され、このままシビルウォーが起これば、アベンジャーズ基地に残る古株はトニーと私たちになる。トニーがアベンジャーズに復帰するのかは分からない。そうなったら、私がチームの実質的なリーダーになりかねないのではないか。

「ユーリ?」

「あ、うん。そうだね。分かった。準備しておく」

 私は頷く。ナターシャはその様子を少し訝しんだ様子だったが、特に何も言わなかった。

 今後、私たちが――レディ&テディがアベンジャーズの代表として前に出る時が来るのだろうか。そう考えるとなんだか気が重い。

 じゃあよろしくね、と言って立ち去ろうとするナターシャ。

 顔にも、口にも出さないけど、ナターシャもまた、アベンジャーズにしか居場所のない人だった。それが今揺るがされて、辛いはずだった。

「ナターシャ」

「なに?」

 豊かな赤髪をなびかせて振り向いたナターシャはいつも通りだ。私がここで、「大丈夫か」などと尋ねても、きっと流されるか、誤魔化されるだけだろう。

 私は少し言葉を詰まらせて、ちらっと茹でている途中のパスタを見やる。少し多めに茹でたそれは、ナターシャの分を取り分けても問題ない。

「……一緒にご飯、どう?」

 ナターシャは私の取って付けたような誘い文句に、小さく笑みを浮かべた。

「じゃあ、お言葉に甘えるわ。今日のメニューは?」

「干し芋パスタ」

「……なんて?」

 先日茨城へ行ったとかで、叔父がお土産に送ってきた干し芋を大量消費するためのメニュー。日本語そのままに答えた私に、ナターシャは眉を寄せて首を傾げる。

 干したサツマイモを入れたペペロンチーノだよ、と言ったら、よく分からないと言った様子でナターシャはやっぱり首を傾げた。

「あなた、時々妙な物作るわよね。……大抵は美味しいけど」

「これぞ日本人って感じでしょ?」

 少しだけ緩んだナターシャの表情に私は微笑んで、丁度鳴りだしたタイマーを切った。

 

 

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