落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第六章-4「取り調べ」

 私たちの身柄は、ドイツはベルリンにある対テロ共同対策本部庁舎へ移送された。

 協定違反もあるが、位置づけとしてはどちらかと言うとテロの重要参考人という立場に近いらしい。各国のお偉いさんが集まる調印会議での爆発事件だ。協定違反を裁くよりそちらの詮議の方が重要とも言える。

 ベルリンのこの施設と言えば、恐らく映画内でバッキーが地下の独房に入れられた場所だろう。さすがに私はあの暗い場所に入れられることは無く、普通の取調室に案内された。

 椅子に座った私は、そのまま対テロ共同対策本部の副司令官、エヴェレット・ロスとのお喋りが始まる。ロス長官とロス副司令官、二人のロスでややこしいな。

「この男と面識は?」

 そう言ってロス副司令官は端末の画面を見せた。監視カメラの映像を拡大したものだ。映像は正直粗く、私は矯めつ眇めつ画面を見て、首を傾げる。

「バッキー・バーンズ?」

「その通り。で、面識は?」

 映った写真のバーンズは、周囲を見ながら歩いているような仕草をしている。映画内で報道されていたのは、こんな感じの映像だっただろうか。

「あー……ない、ようなあるような? ワシントンD.C.での一連の事件の時、ちょっと戦ったけど、そのくらいです。直接話したことはありません」

「なるほど」

 ロス副司令官は頷き、端末を伏せて向かいの椅子に腰掛けた。

「なんで、えっと、バーンズが?」

「さっきのは外の監視カメラの映像。爆発の前、あの中継車の周辺で目撃された。そしてもう一つ。こっちはまだ公表していない」

 端末を再び見せるロス副司令官。それは静止画ではなく動画だった。映っているのは会議場の映像だ。隅に表示された時間から見るに、私が爆発を止めている頃と同時刻くらいの出来事だろうか。

 動画には、避難を始める各国の要人の姿が映っている。その途中で、その人の波が一点だけ途絶えた。途絶えたその中心部で人がうずくまっている。そこにもう一人、人波に押され一度先へ行ったが、戻ってうずくまった人に駆け寄る誰か。

「……何が起こったんです?」

「ワカンダの国王、ティ・チャカ陛下が刺された。犯人は――彼。混乱に乗じて逃げられた。心当たりは?」

 画像からは何が起こったのか分からず尋ねた私に、ロス副司令官は淡々と答える。その視線は探るように私を覗き込んでいた。

 ロス副司令官は、少し前へと戻した動画を拡大する。画面に映っていたのは、やはりバーンズだった。

「あるわけないでしょう」

 彼の言葉に即答で否定を返し、私はさっきの質問と今の質問から、共犯を疑われているのだと悟った。

「――私が関わってるとでも? あの爆発が、自作自演だったと? そんなの……あー、もう」

 やり場のない怒りと、言葉には出来ないような悔しさに、私は大きくため息を吐く。

「とにかく。私はあの場に偶然通りかかっただけです」

 確かに一番マシな選択肢がヒーローだったってだけの、消去法で選んだ道だけど。それでも私だって、ヒーローとして戦う内に自分なりにヒーローとしてのプライドを持っていた。

 自作自演を疑われるなんて、そのプライドを傷付けられたも同然。心外だし、不快だ。

「では、なぜ会議に遅刻を?」

「国連が手配してくれた車に乗る直前で電話が掛かってきたんです」

「誰から?」

「私が雇ってる、別宅の管理人さん。どうせスマホ押収してるんだから、調べれば履歴くらい出るでしょ」

 一気に気分が急降下した私は、不機嫌そうな態度を隠すこともせずにロス副司令官の問いに答える。

「……ではもう一つ。何故協定を破ってまで、わざわざ手を出したんだ?」

「……シロと繋がっているおかげで、私は物体を透視したり、分析が出来る目を持ってる。あの時、異変に気が付いてその能力を使って、中継車の中を見たの。そうしたら、時限装置が残り数秒を示していた。どう頑張っても、爆発物処理班じゃ間に合わないって思ったから。――目の前で爆発に巻き込まれそうな人がいて、自分はそれを助けられる力を持ってる。その状況で助けない理由なんてあります?」

 最後の質問とでも言うようなロス副司令官の問い。私の答えに、彼はただ頷いた。

 端末を再び見て、何かを確認するロス副司令官。沈黙が流れる取調室に、ノックの音が響いた。ロス副司令官がどうぞと答える前に入って来たのは、トニーだった。

「ちょっと、彼女と話してもいいかな?」

「ここは面会室じゃないぞ、トニー・スターク」

「まあまあ、固いこと言いっこなし。ちゃんと上の人から許可は貰ってますよ。それに、もうそちらの話は終わったでしょう?」

 軽い口調でトニーは言って、なんやかんやでロス副司令官を追い出してしまった。流れるような手腕である。

 閉まるドアにご機嫌な様子で手を振って、トニーはこちらを見た。私は彼を見上げて口を開く。

「あのロス副司令官って、ロス長官の親戚?」

「いいや。ただの同姓」

「その割には似てたけど。なんか……鼻に付く偉そう感と、ヒーロー嫌いの感じ……」

 ロス副司令官の出て行ったドアを見ながらそう言った私に、トニーは苦笑を浮かべて、向かいの椅子に座った。

「すまない」

 腰を下ろして開口一番、トニーは謝った。私は思わず目を瞬き、苦笑いを浮かべる。

「なんでトニーが謝るのさ。私が勝手にやらかしただけだよ」

「だが……こういった場面も想定せずに協定の件を持って来たのは僕だ。君は分かっていたのに」

 髪をかき混ぜて、トニーは項垂れる。トニーは被害者遺族の声を目の当たりにしたのだから、仕方がない。

「この手錠も外させてやりたかったんだが、違反は違反だと突っぱねられてね。君はテロ未遂事件の重要参考人にもなっているから、すぐに解放ともいかない。ああ、だが、シロは解放出来た。ユーリがいない限りは無害なシロクマだって押し通してね」

「……そっか、いろいろ手を回して大変だったでしょう。ありがとう。私は大丈夫だから、気に病まないで」

 悩まし気に眉を寄せるトニーの肩を叩く。項垂れていた彼は私の言葉に私を見上げ、少しだけ笑った。

「それより、その――バッキー・バーンズが容疑者になってるの?」

「……ああ。ナターシャがキャプテンに連絡を取っているが、……さすがに、キャプテンが……そこまでの無茶をするとは……」

「思わないってほんとに思ってる?」

 茶化すように言うと、トニーはため息交じりに首を振った。

「……射殺命令が出ている」

「……殺しちゃって冤罪だったらどうするのさ」

「ウィンター・ソルジャーは世間一般では凶悪犯罪者だからな」

「あー……、そっかぁ、そうだよねぇ」

 私は机に頬をくっつけるようにして突っ伏す。

 改めて世界が本流へ戻ろうとする力に脱帽する。筋書き通りじゃないですか!

「ワカンダの王様は? 刺されたって聞いたけど」

「意識不明の重体。すぐに救急搬送されたが、年齢的な体力の問題もある。予断の許されない状況だそうだ」

「そう……」

 映画と違ってティ・チャカ陛下は亡くなっていないけれど。この事件を受けてティ・チャラはどうするだろう。

 ……いや、これまでの修正力を考えるに、ティ・チャラは映画通りバーンズを追うのではないだろうか。映画と違って、殺そうとはせずとも。それに、まだ意識不明なら、この先どう転ぶかは分からない。

 ヘルムート・ジモは闇堕ちしてないはずなのに、一体誰が後ろで糸を引いているのか。

 二人揃って重いため息を吐きそうな空間に、再びノックが響く。ドアから顔を出したのはここの職員らしき人物だった。

「スタークさん、そろそろ……」

「ああ、そうか。悪いな、あとで雑誌でも持ってこさせるよ」

「わあ、気が利くね。……ごめん、今の嫌味っぽかった」

 思わず吐いてしまった言葉を素直に謝罪すれば、良いよと言わんばかりにトニーは肩を竦めた。そうしてドアノブに手を掛けたところで、彼は思い出したように振り向く。

「ああ、ナターシャから伝言。君の助けた爆発物処理班たちが、助けてくれたことに礼を言っていたそうだよ。それじゃ」

「……うん。伝言ありがとう」

 その伝言に、少し救われた気分になった私は微笑む。一人きりになった部屋で、私は背もたれにもたれて天井を仰いだ。

 例え疑われようと、協定違反の犯罪者になろうと。人を救えたならそれでいい。一人でも涙を流す人が減ったなら、それでいい。

 ……ただ、私がこうしてここにいることで、スティーブとトニーが険悪なムードになっていないと良いのだけど。

 

 

 

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