落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について 作:緑茶山
シロと結局分断されてしまったなぁ。ウィンター・ソルジャーに放り投げられてたけど、大丈夫かな。ナターシャも死んではいなかったけど、心配だな。
なんて悶々と考えている内に、ところ変わって薄暗い廃工場。ここまでの道中にサムとも合流した。気を失ったままのバーンズは、メタルアームを圧縮用の機械に挟んで拘束してある。
しばらくするとバーンズが目を覚まし、サムが外の様子を窺っていたスティーブを呼んだ。スティーブが戻ってくると、バーンズが顔を上げる。
「スティーブ?」
「今はどっちのバッキーだ?」
「……お前のお袋はサラ。お前はよく靴の中に新聞紙詰めてた」
バーンズの答えに、スティーブの表情が少しだけ和らいだ。
「昔のバッキーだな」
「だから仲良くしましょうって?」
サムは難色を示すが、スティーブはその返答で充分なようだった。
「俺は何をした?」
「いろいろだ」
「悪い予感が的中した。ヒドラの洗脳がまだ残ってるんだ。キーワードを言われると抵抗できない」
バーンズは自己嫌悪するようにかぶりを振った。
「やつは誰だ?」
「分からない」
「あの医者はお前と二人きりになるため、ビルの爆破を目論み、王族を傷付け、お前に罪を着せた。大勢巻き込まれた。ここにいる彼女もその一人だ。何か思い出せ」
語気を強めるスティーブ。バーンズは記憶の糸を探るように一度遠い目をして、それから再びスティーブを見る。
「……シベリアのことを、聞きたがった。俺がいた施設だ。その場所を知りたがっていた」
「それを知ってどうする?」
「……ウィンター・ソルジャーは俺だけじゃない。その施設に眠っている」
バーンズの言葉に、スティーブは厳しい顔つきで腕組をする。スティーブは話を聞きながら、バーンズのアームを挟んでいた機械を外してやる。
「どんな奴らだ?」
「暗殺部隊だ。ヒドラの精鋭中の精鋭。そいつらに血清を打ったんだ」
「お前みたいになったのか?」
サムが尋ねる。
「もっとひどい」
「あの医者が操れるのか?」
「そうだ」
つまり、バーンズより強い暗殺者たちが、一人の男に操られて動き出そうとしているってことだ。
「〝帝国の崩壊〟を
「彼らなら出来る。三十か国語を操り、どこにでも潜める。そして忍び寄り、暗殺し、政府を揺るがす。一夜にして国を滅ぼすことも可能だ」
スティーブの言葉に、バーンズは頷いた。
事態の深刻さを把握して、サムがスティーブに近寄って、二人で何やら話を始める。その間に私はバーンズへと近付いた。
「ねえ、ええと、バーンズさん」
「……君は?」
「ユーリ。ユーリ・タカムラ。スティーブの友達」
しゃがみこんでバーンズを見上げれば、彼はこっちを見た。
「あなた、私を連れ去ろうとしたの。それが任務だって言って。覚えてない?」
私が尋ねると、バーンズはじっと私を見つめ、一瞬視線を逸らしてから再びこちらを見て頷いた。
「……ああ、そうだ。写真を見せられた。君を攫えと。すまない。よく覚えてないが、手荒なことをしただろ、きっと」
「それは平気。荒事は慣れてるし。その、あなたに指示を出した医者が、なんでその指示を出したか、理由は聞いてない?」
バーンズは私の問いに、一応記憶を辿ってくれたようだが、首を振った。
「すまない、おそらく聞いてない」
「そっか、そうだよね」
ウィンター・ソルジャーは命令を遂行するだけの機械のようなもの。道具に指示を出せど、その指示の理由までを語る必要はないということだろう。
ウィンター・ソルジャーたちを起こして、私を連れ去る。点と点が繋がらない。ウルトロンのときのような、〝理由〟が見えてこない。最強の暗殺部隊と、私たちの能力……あれ?
「シロさんは?」
「シロ?」
「白熊。小さい、このくらいの。白熊を一緒に連れてこいとは言われなかった?」
「いや……、君だけだ」
戸惑ったようにバーンズは首を振った。
黒幕は、〝帝国の崩壊〟のためウィンター・ソルジャーたちを目覚めさせようとしている。でもそこに私――というかイマジェンの力を必要としているわけではない。
……じゃあなんで、黒幕は私を連れ去るようバーンズに指示を出したのだろう。
常に私とシロが一緒にいると思い込んでいたのだろうか。それとも本当に、私だけを狙っていたのだろうか。誰が、何の目的で?
「推理は終わったか、名探偵?」
「全然。スティーブこそ、医者の顔を見たんじゃないの?」
「見たが、知らない顔だった」
スティーブは首を振る。記憶力の良いスティーブが知らないと言うのだから、本当に知らないのだろう。
まあ、黒幕はバーンズの変装をしていたくらいだ。私たちの知らない顔に変装しているという可能性もある。情報があまりにも少なすぎた。
「とにかく、移動するぞ」
出口へと顎をしゃくって見せるスティーブに頷き、私は立ち上がった。
◇
シロはトニーの指示でアベンジャーズ基地へと先んじて戻された。
基地にはワンダとピエトロ、ヴィジョンが待機している。三人はシロが無事なことを喜んでくれたが、シロは気もそぞろであった。
相棒が連れ去られたのに、自分は何も出来ず、基地にいることしか出来ない。
シロがそんな無力感を噛み締める夜、基地の一角で爆発が起こった。何事かとリビングルームの窓から外を見ていたシロの背後に、誰かが立つ。
双子のように石の力で能力を持った者や石そのものを持つヴィジョンとは違い、〝力〟を感じ取れない。ほとんど足音も無い、おそらくは侵入者。
シロが振り向いた先に立っていたのは、戦闘用スーツに身を包み弓を携えたバートンだった。
「バートン、ここで何をしている。それにその恰好は……ロス長官にでも見つかったら大変なことになるぞ」
「だろうな。でもキャプテンと、お前の相棒から頼まれたんだ。行くぞ、ゆっくりしてる時間はない」
シロの言葉に、バートンは静かな口調で簡潔に答えた。簡潔だったがしかし、シロの相棒であるユーリが、スティーブたちと何かをやろうとしていることは明確に理解出来た。
首を傾けて出口を示すバートン。部屋の二箇所に矢をそれぞれ放ってから踵を返す彼に、シロは迷わずついて行こうとする。
「クリント!」
それを呼び止めたのは、壁を透過して入ってきたヴィジョンだった。
「あなたは関わるな」
「へえ? 俺が引退した途端、このザマだ」
片眉を上げたバートンはヴィジョンの制止の言葉に嫌味っぽく答える。
「その行動が生む結果を考えるべきだ」
「はいよ、考えた」
バートンがそう言うと同時に、先程放った二本の矢から電磁波のようなものが放たれて、ヴィジョンの動きを妨げる。
「こっちだ」
小走りに駆け出すバートン。シロはヴィジョンを一瞥して、だがバートンに続こうとした。
しかし、バートンがドアを開けようとすると、そのドアノブは赤い煙のようなものを纏って動かない。
「何をしようとしているの、バートン、それにシロも」
部屋の別のドアから入ってきたのはワンダとピエトロだ。二人の顔には困惑の色がある。
「さてな。でもキャプテンの頼みだ。ここを開けてくれ、ワンダ」
「……いいえ、駄目よ。クリント、シロ。私たちが今どういう立場にあるか、分かってるでしょう?」
キャプテンの名を聞いて、ワンダたちは事態を察知したらしく、説得を始める。ピエトロはワンダが抑えているドアの前に一瞬で移動してドアを背に隠した。
「弓を下ろせよ、おっさん。シロも部屋に戻れ。……俺はお前らと戦いたくはない」
ピエトロに退路を塞がれ、クリントは数歩間合いを取る。三方を塞がれた状態で、逃げ場は無いように思われた。
そんな中、シロは前々から自分の中に取り込んで保っていた、ユーリの作ったルーンを刻んだ石を手の中に集め始めた。もしもユーリと離れているとき、緊急事態が起きたならば使えと持たされていたものだ。
ヴィジョンが額の石から光線を放ち、自身を抑え込んでいた電磁波を放つ矢を壊す。
「ピエトロの言う通り。それに――二人で我々から逃れられるとお思いですか?」
「バカなことは止めて、二人とも」
ヴィジョンとワンダの言葉に、シロは一度目を伏せた。クリントは矢を番えている時間はないと悟ってか、弓を変形させて棍にする。
「……そうだな、三人とも。これは愚かなことなのだろう」
シロは手の中に生み出したルーンの石を握り、静かに口を開いた。伏せた目を上げた時には、その目には揺るぎない決意の光が宿っている。
「だが、俺にとってはこれが正しい。
シロはそう言い放ち、同時に床にルーンの石を叩き付けた。石から青味がかった光が床を這い、シロたちを囲む三人へと向かう。その光は三人の周囲を光の膜で包んだ。それは逆結界のようなもので、三人はその檻に閉じ込められる。
「行くぞ、バートン。乗れ」
体を大きくしたシロはバートンを背に乗せ、もう一つ持たされていた爆破のルーン石で壁を壊し、外へと駆け出した。
◇
体格のいい成人男性三人におまけ付きの状況で明らかに選ぶべきじゃない小さな車――ビートルに乗って、私たちはとある高架下へとやってきた。そこにはエージェント13ことシャロン・カーターが待っている。
スティーブが車を降りると、シャロンも車を降りて、二人は話を始める。シャロンが、乗ってきた車のトランクを開けた。そこに、キャプテン・アメリカの盾やファルコンの翼が入っているのが見えた。
「座席を前に出してくれ」
「断る」
スティーブとシャロンを見ながら、バーンズとサムがそんな会話をしていた。
ちらっと隣の足元を見ると、窮屈そうに折りたたまれたバーンズの長い足が目に入る。三人に比べたらかなり小柄な私ですら後部座席が狭いと思うのだから、バーンズはもっと大変だろう。
再びスティーブたちに目を向ければ、二人は見つめ合って、やがてどちらともなくお互いを引き寄せ合い、キスをした。ヒュー! 思わずニヤニヤしてしまう。
キャプテンがこちらを向いて、私たちを見て呆れた顔を見せた。どうやら全員似たような表情をしていたらしい。
「シャロンがマスターキーを持ってきてくれた。ユーリ、腕を出せ」
シャロンが立ち去ってから私を車の外へと呼んだスティーブが、そう言いながら構えたのは盾だった。丸い、いつもの、星条旗柄が輝くヴィブラニウムのシールド。
「……それ盾じゃん」
「ああ。兼用だ」
裏側のベルトを締め直して、スティーブはさっさと腕を出せと言わんばかりに構える。ヤダもうこの脳筋。
「……まあ、ショットガンよりマシだよね」
ため息交じりに言って、私は両手を差し出す。目は瞑って背けた。ガシャン、と音がして、多少の衝撃はあったものの、無傷で拘束具は外れた。
シロがいないからイマジェンの能力は使えないが、それでも格段に動きやすい。
そして再び全員が車に乗り込み、ジェット機が配備されているというライプツィヒ・ハレ空港を目指すこととなる。
「ユーリは元々向こう側だったが……いいのか?」
「今さら聞く? 戻ったって共犯として牢屋に逆戻り。この状況で正しい捜査が行われるかも分からないし、それなら真犯人とっ捕まえるしかないでしょ。それに――」
一度言葉を切った私に、スティーブは続きを促すように首を傾げる。
「……なんか君ら三人心配だし」
「一番の年下が何言ってるんだ」
私の発言にスティーブが不服そうに答えた。サムは呆れたように笑って、バーンズはなんとも言えなそうな顔。
「そう言うスティーブが一番危なっかしいんだけど。私が知らない内にみんなで仲良く捕まってるしさ」
「君たちだって捕まってたろ」
「それとこれとは別!」
そもそも、他に方法が無くて動いたのと、他に方法があったかもしれないのに動いたのでは違う。……まあ、たらればを語るつもりはないが。
「ああ、分かったよ。悪かったって」
「心がこもってない」
「悪かった、悪かった。だからそんなに揺らすな。運転中だぞ」
「いっちミリも揺れてない癖に!」
肩を掴んで揺らしてるのに全く動かないわ、この体幹おばけ。そんなことやってたらサムは勿論のことバーンズまで笑ってるし。
私だけが疲れている。クソ、人間なのは私だけか?