落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について 作:緑茶山
私たちはライプツィヒ・ハレ空港の駐車場にて、クリントたちと合流した。
「キャプテン」
「悪いな、出来れば呼び出したくなかったんだが。君にしか頼めなくて」
「水臭いこと言うな。それに、ユーリとシロには借りがある」
車から降りて、スティーブとクリントが握手を交わす。クリントに貸付なんてあったっけ? と思い返して、多分ソコヴィアでのことを言っているのだろうと思った。多分ね。
「シロも、協力ありがとう」
「俺はマスターの進む道に従うだけだ」
「それでもだよ」
礼を言うスティーブに、シロは分かりにくいが笑みを浮かべた。そしてこちらへと向かってくる。
「マスター、無事で良かった」
「シロさんも」
腰を屈めてシロの首元をひとなで。笑みを交わし合えば再会の挨拶はそれで充分だった。
「例の新人は?」
「乗り気だったよ。眠気覚ましが必要だけどな」
クリントが乗ってきたバンのスライドドアを開く。開ききったときの大きな音に反応して、後部座席で横になっていた男がビクリと起き上がった。
「――ここ、何州?」
「……いいから、行け」
クリントがため息交じりに、明らかに寝起きの顔をした男――アントマンことスコット・ラングの肩を押した。
ラングは改めて前を見て、そこに立つ人物を認識した。目を丸くし、息を飲む音が微かに響く。
「――キャプテン・アメリカ」
感極まったように言って、ラングは握手を求めるように右手を出す。
「やあ、ラング」
スティーブはそれに快く応じて、差し出された手を握った。ラングは興奮した様子で、めっちゃ腕を揺らしている。
「光栄です。……あー、俺、手を握りすぎ? わぁ、スゲェ。キャプテン・アメリカだ。あ、君も知ってるよ」
嬉しそうに笑うラングは、ふと目のあった私のことを示して言った。アベンジャーズとして戦ってきたし、国連の騒ぎのことでもメディアにさらされたのかもしれないな。
「あの……いやぁ、あなた
逆じゃね? というツッコミは誰一人しない。緊張と興奮が嫌でも伝わってくる。
ラングはふとサムを見た。
「あ、どうも」
「元気か、蟻さん」
挨拶を交わす二人。そう言えば、この二人は知り合いだったか。
「あー、久しぶり。あの、この前のことはほんと……」
「メンバー入りのオーディションだ。二度は負けないぞ」
ちょっと気まずそうにするラングへ、サムは気にするなと言うように返した。
「何と戦うか、聞いたか?」
「超イカれた、暗殺者集団?」
スティーブが本題に入ると、ラングは真面目な顔になった。
「法を破ることになる。君もお尋ね者になる」
「別に。慣れてるよ」
軽い口調で答えるラング。その姿に、キャプテンの頼み以上の理由はないと言った、いつかのサムの姿を思い出した。
「急ごう」
「ヘリを用意してある」
バーンズの言葉に、クリントが言った。それに続くように、おそらくドイツ語であろう構内放送が空港内に響き渡った。
「空港から避難しろって」
バーンズが言う。
「トニーかな」
「トニー? って、トニー・スターク?」
私がつぶやいた言葉に、ラングが反応した。この対立のことまではさすがに話に聞いていないか。
「準備しろ」
戸惑うラングに、すでに覚悟を決めていた他の面々に、キャップは確固たる意志を持って指示を出した。
◇
準備を整えると、まずはキャップと私とシロ、そして小さくなってキャップの盾に待機するラングが、飛行場へと出て行った。飛行場にクリントが用意していたヘリへと私たちは駆け寄るが、目の前で壊された。そしてその壊れたヘリを背に、キャップの前にアイアンマンとウォーマシンが降り立つ。
「〔奇遇だな。空港で知り合いと会うなんて。そう思わないか?〕」
「〔奇遇だな〕」
アイアンマンのマスクを外しながらトニーが言うと、ウォーマシンは頷く。
「聞いてくれ。すべてあの精神科医が仕組んだことなんだ」
キャップはまずは穏便に、状況を説明しようとする。しかしティ・チャラことブラックパンサーもその場に加わったことで、話の腰が折られてしまった。
「とにかく、ロスから三十六時間貰った。あと十二時間だ。引き渡してくれ」
「じゃあ十二時間後にまた来てよ。私たちその前に行くところがあってさ。それとも、みんなも一緒に行く?」
トニーの要求に対して、私が軽い口調で提案する。これに乗ってくれれば楽なことないのに。トニーは眉間にしわを寄せこちらを見る。
「ユーリ。君たちがそっちにつくとはな」
「つくも何も。私は正しいと思うことをやってるだけ。あの時も、今も」
「はっ、じゃあ、僕たちが間違ってるって? 法を犯しているのは君たちだぞ」
鼻で笑うトニー。聞く耳を持つ気のない彼に、ちょっぴり苛立つ。
「その法が、誰かを助けた人間を問答無用で牢屋に入れる法でも、間違っていないと言えるのか?」
キャップが横から口を挟んだ。トニーは痛いところを突かれた様子で唇を引き結んだ。
「バッキーは犯人じゃない。追う相手が違う」
「お前は目が曇ってる。お前の親友は昨日、人を殺したんだぞ」
目が曇ってることに関しては、今はどっちもどっちだと思うけどな、と私は一人考える。トニーとスティーブ、どちらも頑なすぎる。
「聞け。彼と同じ超人兵士があと五人いる。あの医者が接触するのを止めないと」
「スティーブ」
ナターシャがスティーブに歩み寄り、名前を呼んだ。一縷の望みを掛けた声音だった。
「どうなるか予想は付いてるでしょ? それでも強行突破するつもり?」
スティーブはナターシャの言葉に黙ったまま何も言わなかったが、ナターシャはスティーブの意志が変わらないことを悟った様子だった。
「……そろそろ我慢も限界だ。レオタード君!」
トニーがかぶりを振り、手を口に当てそう呼びかける。
颯爽登場した〝レオタード君〟ことスパイダーマンが
「スパイダーマンじゃーん。動画で上がってるの見たことあるよ。動画のスーツも手作り感がむしろ良かったけど、それもカッコいいね」
「あ、どうも! 僕もあなたのこと知ってます! レディ&テディでしょ! えっと、これスタークさんが作ってくれたやつで……」
「写真いい?」
「はい、どうぞ!」
「交流会は後でやってもらえるか?」
トニーはため息を吐きながら言う。私は盾を構えたスパイダーマンの写真を手に入れた。多少の時間稼ぎは出来ただろう。
「随分と若そうだな」
スパイダーマンの声を聞いたキャップが、トニーに言った。言外に、子供を巻き込むなと言っているようだ。
「クリントを引きずり込んで、シロを安全な場所から無理矢理引っ張り出しておいて何を言っている」
「俺は安全な場所に行かせてくれと頼んだ覚えはないが」
私の傍で黙っていたシロがトニーの言葉に口を開く。微かにシロの怒りが私にも伝わってくる。存外、私と引き離されたことに腹を立てているのかもしれない。
トニーはシロを見て口を噤み、それからこちらをキッと睨んだ。
「――もういい、バーンズを引き渡し一緒に来るんだ! 僕たちのほうがまだマシだぞ。特殊部隊はこんなに丁重に接してくれはしない」
トニーは言う。けれど、いつも人の目を見てしっかりと話を聞くキャップが、今はその顔をそむけている。そもそも聞く気がないから。この人根本的に時間稼ぎとか演技とか向いてないよね。
「――頼む」
振り絞るように懇願するトニーの声。しかしそれに被さるように、サムから無線が入った。
「〔見つけたぞ。クインジェットは第五格納庫。北だ〕」
私たちの役割は、サムのレッド・ウィングがクインジェットを見つけるまでの時間稼ぎ。けどそれももう終わりだ。
次は駐車場に待機するクリントの出番。協定賛成派のメンバーを少しでも分断するため。
そして間もなく、遠くで大爆発が起こった。爆炎がここからでも見える。クリントが空港の燃料タンクを積んだトラックに、スターク製の強力な爆弾を設置しておいたのだ。
「じゃ、キャップ。私たちクリントのフォローに行くから。ここはよろしく」
「ああ、後でな」
「〔待て、ユーリ!〕」
キャップの肩を叩く。頷くキャップを横目に、こちらに手を伸ばそうとするトニーに向けてひらりと私は手を振った。そしてキャップの腕の拘束を魔法で外しつつ、シロとともにその場から消える。
「本当にスタークがこっちに来ると思うか?」
隣に現れた私へ、クリントは驚くこともなく尋ねた。
「来るよ。今のところワンダとヴィジョンもいない。なら向こうの中で私とシロの戦闘パターンを一番
「まるで自分が一番強いみたいな言い方だな」
「だって強いもん」
「可愛くないぞクソガキ」
立体駐車場の北側へ向かいながら、私たちは言い合う。まあさすがに〝もん〟はきついな、と我ながら思った。
クリントとともにシロの背に乗って、立体駐車場の最上階から地上へとひとっ飛びする。そして北の格納庫へと向かって走っていけば、その途中で進路を妨害するように爆撃が私たちを襲った。
「お出ましだな」
上空をちらりと見やってシロがつぶやき、足を止める。シロがそのまま小さくなると、自然に彼に乗っていた私とクリントは地上に立つこととなる。
そこへ、アイアンマンがやってきて、立体駐車場を背に宙へ浮いた。予定通り。まずは向こうのチームの司令塔であるアイアンマンをどうにかするのが作戦である。
「〔ユーリ、
「協定がなければ、泣くこともなかったんじゃない?」
子供のことを持ち出すトニーの意地の悪い言葉に、私もそもそもの原因は誰だよと言わんばかりに意地の悪い言葉で答える。
傷付けてすまないと思っているけれど、ジモが犯人でないなら、本当にウィンター・ソルジャーたちが世界に放たれる可能性もある。ジモの言う〝帝国〟はアベンジャーズであったけど、この世界線での黒幕が、全く同じことを考えているとは限らない。
だからつまり、トニーには申し訳ないがさっさとどいてくれって思ってる。
「〔アベンジャーズを守るためだ〕」
まあ、そういう答えになるよね、と思った私は肩を竦める。
「〔やあ、クリント〕」
「どうも」
道端で出会ったときのような挨拶をしているが、クリントは弓を構えているし、アイアンマンは手のリパルサーをいつでも放てるようにこちらへ向けている。
「〔隠居生活は性に合わなかったか。ゴルフに飽きた?〕」
「十八ホール十八打で回った。的を外せなくて」
ホールインワンしか出せない男ことホークアイは、アイアンマンの言葉に答えて三本の矢を放った。アイアンマンは真正面から射られたそれを、リパルサーで冷静に撃ち落とす。
「〔初めて外した〕」
「どうかな」
不敵に笑い返すクリント。彼が生み出したアイアンマンの隙は、私がシロの力を使って何かをやるには丁度いい時間だった。
映画の中でワンダがやったように、立体駐車場に停められた車を次々にアイアンマンへ向けて落としていく。アイアンマンはリパルサーで何台か撃ち落とすが、物量差で攻めればあっという間にアイアンマンは車の下敷きになった。
普通の人間なら死んでいるが、トニーはアイアンスーツを着ている。打撲くらいはしても命には関わらない。
「急ごう、二人共」
再び大きいサイズへ戻ったシロに飛び乗って、私たちは手はず通り、格納庫へと走り出した。