落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第六章-8「空港での戦い・後編」

「急げ!」

 クインジェットが格納された第五格納庫の見える場所までやってきて、キャップチームはそれに向けて飛行場を駆け抜ける。

 その行く手を阻むように、光線が地面を抉り、線を引いていく。私たちは足を止めた。

「キャプテン・ロジャース。あなたは正しいと信じてなさっているのでしょうが、大勢の利益のために投降してください」

 宙に浮いて現れたのはヴィジョン。マントをたなびかせ、彼は音もなく地面に降り立った。

 その間にもアイアンマンチームが集合した。先程まで姿の見えなかったワンダとピエトロも到着したらしい。両陣営が向かい合う形となる。

「どうする、キャプテン?」

「……戦う」

 ファルコンの問いかけにそう答えて、キャップが一歩踏み出した。

 キャップに続くように歩き出せば、相手もこちらへと前進を始める。どちらも止まる気はなかった。やがて両者の歩みは速度を増し、走り出す。

 距離は縮まり、両軍はついに激突した。

 キャップはアイアンマンの拳を盾で防ぎ、バーンズはブラック・パンサーの攻撃を避けて一撃を加える。機関銃を起動させて狙いを定めようとするウォーマシンを、ファルコンは機動力で攪乱し、スパイダーマンが放ったウェブをアントマンは小さくなって躱す。ホークアイはブラック・ウィドウを矢で狙おうとするが、その前に距離を詰められて近接戦闘を余儀なくされた。

 そして私とシロはと言えば。

「母上様……」

 立ちはだかる三人の前で、足を止めていた。微かに悲しげな表情を浮かべるヴィジョン。

「退く気はないのかよ、ユーリ、シロ」

 ピエトロが口を開く。まどろっこしい問答など苦手な彼がそれでも尋ねるところを見るに、私はちゃんと仲間として慕われていたようだ。胸が痛まないわけじゃないけれど、それでも、もう引くことなんて出来ない。

「もう決めたんだ」

 私はきっぱりと言った。シロの背を降りて、シロの首筋を撫でる。

「シロはピエトロを頼むよ」

「分かった」

 肉弾戦タイプはシロに頼み、私は魔法使いタイプが相手だ。

「ワンダ、ヴィジョン。来なさい。訓練の時間だ」

 よーし、姑として頑張っちゃうぞ。不敵に笑った私に、二人は苦渋の顔をして向かってきた。

 まず仕掛けてきたのはワンダだ。赤い煙に似た彼女の力は私の体に近付きまとわり、動きを封じようとする。そこへヴィジョンが攻撃を仕掛けようという作戦だろう。

 精神操作を得意とするワンダなら、私とシロの繋がりを一時的に断つことも可能だろう。しかし私は『ワンダヴィジョン』を履修済みのMCUオタク。彼女の魔術が石の力により開花した自前の魔術であることは知っている。

 目には目を、歯には歯を、魔術には魔術を。

 ルーン魔術の組み合わせで、一定の空間内で自分以外の魔術を封じることも出来れば、自分が魔術の影響を受けないようにすることも出来る。そしてルーン魔術がイマジェンの魔法とは別の物だとは、実はみんなには伝えていなかったりする。

 赤い煙がまとわりついた私は、ワンダの意図に反して動き出す。動きを止めると思って拳を突き出したヴィジョンは、目の前で私が消えたことで空振ってしまう。

「手札を増やしなさい。魔術に頼りすぎるな」

 量子魔術でワンダの背後に現れた私はそう助言をしながら魔法術式を展開する。ワンダの足元をすくったそれは、そのままワンダを浮き上がらせて、ヴィジョン目掛けて放り上げる。

「ワンダ!」

 ヴィジョンはワンダを受け止めた。

「仲が良いのは結構。だけどそれで視野が狭くなってしまってはいけないよ」

 と言いつつ私も、二人に怪我をさせるのは嫌なんだよな。

 もう決めたとか、覚悟したとか言いつつも、やっぱり仲間を傷付けるのは嫌だし、本音を言うなら戦いたくはない。スーツを着ているアイアンマンには結構手加減なしでいけるんだけどなぁ。スーツの有る無しって重要だな。

 その逡巡をほんの一瞬。私は魔法で二人の周囲にルーンを刻んだ。彼らの周りに透明なドームが出来て、彼らを閉じ込める。

 ルーン魔術は使い勝手がよくてとても便利だ。

 コンピューターのプログラミングみたいに文字を並べて、電力と言う名の魔力を流し、後はプログラムした通りのスイッチとなるきっかけを与えるだけ、というのはイマジェンの魔法と同じ。しかしイマジェンの魔法とは違い、文字自体に意味が含まれているから、術式の組み立てが単純で簡単だ。

 魔力が切れるか、刻んだルーン自体を消されたり、その魔術を上回るパワーを与えられて壊されでもしない限り、ルーン魔術の効果が消えることはない。

 だから今も、逆結界みたいなドームの中にいる二人が少年漫画の主人公みたいに戦いの中で成長したりしない限り、ドームから出てくることは不可能になる。

 ヴィジョンが額の石から光線を放ったけど、ドームを破ることは出来ない。

「頑張って破ってみなさい。話はそれからだ」

 そう言い残して、ピエトロと戦うシロを見る。超高速でぶつかってくるピエトロを、シロは自在に変化する体で受け止めて、そのまま地面に叩き付けている。うん、心配なさそう。

 それらを横目に私が向かうのはホークアイとブラック・ウィドウのところである。戦いがほぼ映画通りに進むのであれば、ホークアイは押されているはずだ。

 ……私の思った通りで、ホークアイはブラック・ウィドウから蹴りを食らわされる寸前だ。その美脚がホークアイの顔へと届く前に私は魔法の見えない手でそれを止める。近くに見えるトラックへ……ぶつけるなんてことは出来なかった。私は地面に投げ飛ばした彼女の片腕を、細く丸めてU字クランプみたいな形にしたトラックの荷台のドアで、地面に固定させる。

「本気出してよ、クリント」

「お前のあれも本気か?」

 返ってきた呆れたような声に、私は誤魔化すように肩を竦める。うるせえ、私がナターシャと戦える訳ないだろ。マジでやりにくい。ほんと無理。

 私が映画でのワンダポジにいるなら、この後すべきなのは、ええっと。戦場全体に目を向けて、手助けが必要そうな人を探す。

 今にもブラックパンサーの爪で喉を掻っ切られそうなバーンズを見つけて、既の所でブラックパンサーの手を止めて、そのままその体を放り投げる。ブラックパンサーのスーツはヴィブラニウム製の頑丈なやつだから平気だな、と思って、ちょっと離れた搭乗橋のところまで吹っ飛ばした。

 それを見送って、私は倒れているバーンズへと駆け寄る。

「大丈夫?」

「ああ、すまない」

 手を差し出せば、バーンズはメタルじゃない方の手で私の手を掴んで立ち上がった。ワァー! 私今バーンズ軍曹に手を貸しちゃった! これはもはや握手してもらったのと同じことでは?

「マスター」

「シロさん」

 そこへやって来たシロ。私の心内を読み取ったらしく、少々呆れた顔をしている。またくだらないこと考えてる……とでも言いたそうな顔である。

「ピエトロは?」

「うっかり〝檻〟に投げたらあいつも閉じ込められてしまった。どういうルーンを組んだのだ」

「あー、講義はまた今度。時間無いしね」

 行こう、とシロとバーンズに示して、私たちは戦場の合間を縫って再び走り出した。石の能力者が戦闘不能となれば、向こうは大幅な戦力ダウンだ。

 時折仲間に手を貸しつつ、私たちは少しずつ第五格納庫へと近付いていた。

「〔急がないと。今頃あいつはシベリアだ〕」

 無線機からバーンズの焦った声が響く。

「〔飛べるやつらを止める。ユーリ、聞いてるな。手伝ってくれ。バッキー、君はジェットを奪え〕」

「〔待て。キャップ、バーンズ、ユーリ、シロ。お前らはジェットへ行け。一緒に行くんだ。後は俺たちが引き受ける〕」

 キャップの指示に、サムが反対した。つまり、俺たちを置いて先に行け、ということ。

「〔認めるのは癪だが、戦いに勝つためには俺たちが犠牲になるべきだ〕」

「〔本当の敵はこいつらじゃない〕」

 クリントがサムの言葉に賛同し、サムは更に私たちを促す。

「〔……分かった。どうする気だ?〕」

「〔何か派手なヤツで気を逸らす〕」

 キャップとサムが作戦のやり取りをする。そこに加わったのはアントマンだった。

「〔それなら任せて! でも長くはもたない。合図したら猛ダッシュで走れ! 俺が真っ二つに裂けても助けに戻るなよ〕」

「〔真っ二つになる気か?〕」

「〔いいのか、スコット?〕」

 バーンズが困惑した声でつぶやき、キャップが確認をする。しかしアントマンの方はもう覚悟を決めているようだった。

「〔いつもやってる! ……って言うか、ラボで一回だけ。その時は気絶した〕」

 不安の残る自己申告の後、アントマンは「俺は大丈夫」とブツブツつぶやく。

 そして数秒後、飛行機の向こうにガリバーのように大きくなったアントマンが現れた。ウォーマシンの足を掴んで笑い声を上げるアントマン。

「……あれが合図のようだな。マスター、行こう。黒幕を確かめる」

「うん」

 こちらも〝ジャイアントマン〟ほどではないが大きくなったシロに飛び乗って、第五格納庫へと駆け出した。

 

 ◇

 

 アイアンマンチームがジャイアントマンに気を取られている隙に、私たちは第五格納庫を目前にした。しかし直前で管制塔に遠くからミサイルが打ち込まれ、管制塔は見る間に崩れていく。

「あーっと、マジか」

 私はすぐさま術式を展開して、管制塔が崩壊して格納庫の入り口を塞ぐのを防いだ。

「キャップ、私たちのことは気にせず行って。こっちに敵を引き付けるから」

「〔追いつけるのか?〕」

「私たちの能力忘れてない?」

 確認するキャップに、私はからかうような軽い口ぶりで答える。管制塔にはルーンを刻む。キャップたちが通るまではしっかり崩落を止めるだろう。

 しかし、能力を使っているかのように腕を伸ばすポーズはそのまま。私たちが今ここで崩壊を止めているのだと勘違いさせた方が、都合がいい。そして私はすぐに背後を振り向く。

 手足のジェットを噴射させて空中で停止し、私に超音波を出すアーマーの手を突き出したのはウォーマシンだ。私は管制塔に向けた腕とは反対の腕をそちらに向けて、超音波を防ぐバリアを作る。

「〔背中に目でも付いてるのか?〕」

「アーマーの駆動音結構大きいの、気付いてない?」

 ウォーマシンと私は、戦場で相対しているようには思えない軽口を叩き合う。

「〔君ら相手なら、手加減しなくて平気そうだな〕」

「えぇ? 私は弱味噌だから手加減して貰うの大好きなんだけど」

「〔片手間に相手してよく言うな!〕」

 ウォーマシンはガチャガチャと音を立てて肩から小型ミサイルの銃口をこちらに向けた。そしてミサイルが次々に撃ち込まれ、バリアの向こうは弾幕状態だ。

 火力でバリアを崩そうとしているか、あるいは――と視線を横へと動かせば、その先にウォーマシンが現れた。弾幕は囮。再びアーマーに覆われた手をこちらに向けるウォーマシン。

 超音波が放たれるが、バリアは何も手の周辺だけではない。自分の周囲全面に張られている。それに気が付いたウォーマシンは、クソ、と悪態を付いた。

 格納庫の入り口が塞がれていくのが見えた。二人は無事格納庫へと入れたらしい。崩れ落ちた管制塔を見てやっとそちらに向けていた片手を下ろした私に、ウォーマシンが首を傾げたあと、はっとする。

「〔……おい、まさか〕」

「片手間じゃないよ」

「〔嘘だろ、騙したな! 性格悪いぞ!〕」

「人聞きの悪い。こういうブラフの掛け方もあるんだよ」

 私は私を〝いい性格〟だと思ってるぜ。私はニヤニヤと笑う。

「〔ユーリ、本当に追いつけるんだな? 僕たちは先に出るぞ〕」

「どうぞどうぞ」

 無線機に届くスティーブの声。視界の向こうで、ジャイアントマンの倒される姿が見えた。そしてクインジェットも飛び立つ。

「〔ああ、ったく〕」

 ウォーマシンはこちらに一度牽制でミサイルを撃ち込み、クインジェットを追って飛び立った。

「マスター、俺たちも行こう」

 シロはそう言いながら飛ぶ時に丁度いい小さいサイズとなり、私の肩に捕まった。それを肩に感じつつ、私はウォーマシンたちを追って地上を飛び立った。

 

 

 

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