落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第六章-9「悲劇の回避」

 視界の中ではアイアンマンとウォーマシンが逃走するクインジェットを追っている。その後ろにファルコンが付いて、レッド・ウィングを使って二人の追跡を妨害していた。

「――上に避けろ、マスター!」

 シロの鋭い声に、私は咄嗟に言われた通り上へと避ける。思わず目を向けた下方を、見覚えのある光の軌跡が通り過ぎた。

 どうやらヴィジョンは、〝檻〟を抜け出したらしい。ファルコンは背後から迫るそれに気が付いて避ける。しかしその先にいた彼は。

「ああ、クソっ」

 悪態を吐く私の目の前で、光線はウォーマシンのアークリアクターを直撃した。

 やっぱりこうなるのね!

 落下を始めるウォーマシン。機体の重さと重力により、ウォーマシンの落下速度は見る間に上がっていく。ファルコンとアイアンマンがそれを追うが、間に合いそうもない。

 私はウォーマシンの傍にテレポートをした。彼の腕を掴んだ瞬間に私も引っ張られ、下へと落ちていく。

 魔術を展開してパラシュートを広げれば、急激に落下速度は落ちた。それが充分なのかどうかは知らないが、それでもただ落ちるよりは数段良い状況で、私たちの体は地面に近付いたと思う。

 更に、落下の衝撃をなくす魔法の術式も展開する。落下の直前にふわりと身体が浮いて、私たちは地面にゆるりと降りる。

「大丈夫か、マスター」

「平気。ローディは?」

「息をしている。気を失ってはいるようだが、怪我はない」

 シロに声を掛けられて私は頷き、倒れたままのウォーマシンを見ながら起き上がった。

「ローディ! ユーリ! 大丈夫か!?」

 着地したアイアンマンはヘルメットを外し、こちらに駆け寄ってくる。起き上がっている私を見て、彼は動かないウォーマシンのマスクを取り外した。ローディは目を閉じて、意識を失っている。

「ローディ、ローディ! F.R.I.D.A.Y.、バイタルを――」

「……っ、……あまり耳元で、騒ぐなって……」

 焦った様子でトニーが声を掛けると、微かだが声が返ってきた。私はそれに改めてほっとして、静かに立ち上がる。

 遅れて追いついたサムが走ってきた。

「ユーリ、シロ。無事か?」

「大丈夫。二人を追うから、後は任せるよ」

「ああ、キャップたちを頼む」

 サムに肩を叩かれて、私は頷く。

 実はタイミングを見てキャップの装備にマーキングをしてきたので、彼の周辺数メートルくらいの範囲にテレポート出来る。量子魔術はそんなことも可能なのだ。へへん。ま、服を洗濯するとマーキングが消えるけど。

 キャップたちの元へ向かおうと足を踏み出そうとした、その時。

「ユーリ!」

 トニーに呼び止められて、私は振り向く。

「ローディを助けてくれて、ありがとう。僕では間に合わなかった」

 どこかすがるような、行くなと言うような瞳でトニーは言った。トニーのその言葉にだけ頷いた私は、トニーの後ろからやって来るヴィジョンの姿に目を細める。

「ヴィジョンに、あまり気にしないように伝えて。やるべきことをやったんだから」

 そう言い残して、私はテレポートをした。

 トニーはたぶん、シベリアまで追ってくるだろうし、すぐにまた会えるだろ。

 

 ◇

 

 瞬きを一度。私たちが現れたのはクインジェットの中だ。バーンズがちょっと驚いた顔をして振り向いていた。

「おまたせ」

「ユーリ、シロ。ローディは?」

「命に別状は無いよ」

「気を失っていただけだ。検査入院くらいはするかもしれないが」

 どうやら一部始終を見ていたらしい。私とシロの答えに、スティーブはほっと息を吐いた。

「君たちが味方で良かった。ありがとう」

「スタバの新作でいいよ」

「俺はタコスがいい。以前、アベンジャーズタワーの近くで買ったやつだ」

「ああ、あれウマいよね。安いし。じゃあ私はそれも」

「ずるいぞマスター。なら俺もスタバのフラペとタコスだ」

 礼を言うスティーブにあれこれ要求する。その言葉に、スティーブは呆れたように笑いながらも頷いた。

「分かったよ、今度な」

「イェーイ、やったぜ」

 喜んでみせるが、今この状況でニューヨークの街中を闊歩できるとは思っていない。

 ましてやスタバで新作フラペをテイクアウトして、近所の屋台でホットドッグを買い食い出来るなんて思わない。アメリカに足を踏み入れた瞬間、ロス長官率いる特殊部隊に周りを囲まれることだろう。

「他の、お前の仲間はどうなる?」

 クインジェットの座席に座る私の横で、バーンズが尋ねた。その言葉で、私はキャップ側に付いたみんなを思い浮かべる。

 サムに任せると言ったけれど、あそこから逃げることは難しいだろう。逃げたとしても、一生逃亡の身だ。家族がいる人は、家族も危険にさらされるかもしれない。ちなみに私は、空港での戦いの前に叔父と連絡をとって、今後のことを謝っておいた。

「……分からないが、なんとかする」

 沈黙を挟み、スティーブは答えた。空気は重くなる。

「俺なんかのためにそこまで……」

「お前がしてきたことはお前の意志じゃない。仕方なかったんだ」

「分かってる。……でも俺がやった」

 掛ける言葉が見当たらず、私は視線を落とす。

「バーンズ」

 沈黙の落ちた機内で口を開いたのは意外なことにシロだった。私の膝の上にいるシロは、バーンズを真っ直ぐに見上げる。

「自分の意志でなく人を傷付け、あるいは殺した。その苦しみを分かってやることは俺には出来ないから、何も言うことは出来ない。だが、俺〝なんか〟と言うのは止めろ。それは、お前のために力を尽くした者たちへの冒涜だ」

 バーンズはシロの言葉に、ぐっと言葉を詰まらせた。

「俺たちは、お前〝なんか〟と言われて然るべき者のために手を貸した覚えはない」

「……けど、」

「……あなたの価値は、あなた一人で勝手に決められるほど、安くはないってことだよ、バーンズ軍曹」

 シロの言葉に、それでも反論しようとしたバーンズに、私はここぞとばかりに言葉を重ねた。

 そしてうっかり軍曹呼びをしてしまった私である。うるせえ、セピア色のモノクロ写真を見て心臓高鳴ったときから軍曹呼びしてんだよ馬鹿察しろ。

「……バッキーでいい」

 バーンズは不器用に微笑んで、短くそう言った。

 やめろよ。何十年も凍らされて笑い方忘れてたみたいな笑い方するなよ。オタクはそういうの弱いんだよ。

 えっ、ていうか今バッキーって呼んで良いって言った? 私含めて私たちに言った?

「……ありがとう、シロ、ユーリ」

「……イエ……」

 色々とキャパシティオーバーして、私はさっきまでの威勢は何だったのかと言われそうなほど恐縮しながら短く答えた。そんな私を見て、バーンズは首を傾げる。

「バッキー、ユーリは緊張してるんだ。〝バーンズ軍曹〟のファンだからな」

「違う! ハウリング・コマンドーズ箱推しなんだよ!」

「まあ、よく分からないけど、そんな感じらしい」

 私たちのやり取りに、バーンズ……改めバッキーはキョトンとした表情をする。

「キャプテン・アメリカのファンじゃなくて?」

「そ、その話は良いから。ほら、二人共ご飯! シベリアで行き倒れたら死ぬんだからね!」

 私はポーチに仕舞っていた十秒チャージのゼリーを取り出して二人に突き付ける。スティーブが微笑ましげに口元を緩める気配を感じながら、私は自分のゼリーのパウチを取り出して食べ始めた。

 そうして、私たちの乗るクインジェットは、一路シベリアまで飛んだ。

 

 ◇

 

 私たちがシベリアの雪原にぽつんと存在するヒドラ基地へ辿り着くと、そこには既に履帯式の雪上車が停まっていた。雪は薄っすらとしか被っていないが、フロントガラスは白く凍っている。

 基地の扉は開かれている。しかし足跡は見えない。

「奴が来て数時間ってとこか」

「目覚めさせるには充分だ」

 スティーブの言葉にバッキーが答える。エレベーターで地下に降りて、警戒しながら奥へと進む。バッキーが小銃を持って先頭を進み、私とシロが真ん中、最後尾をスティーブが行くという隊列だ。

 階段を上っている途中で背後から物音が響き、全員が一斉に背後を振り向いた。スティーブは盾を構え、バッキーも銃を向ける。私も一応いつでも魔法を展開できるように準備した。

 重そうな扉がゆっくりと開く。その隙間から、見覚えのある光が漏れた。扉の向こうから現れたのは、アイアンマンだった。スティーブがはっと息を飲んだ音が微かに聞こえた。

 マスクを外してこちらに歩いてくるトニーに、スティーブは盾を構えたまま近付いた。

「随分警戒してるな」

「色々あったからな」

 わざとらしく白々しいトニーの言葉に、スティーブは少し棘のある声音で答えた。

「楽にしてろ。捕まえるため来たんじゃない」

「じゃあ何しに来た?」

 盾を構えたまま、スティーブはトニーに尋ねる。

「なんというか……君が正しかったのかも。多分な。ロスには内緒で来た。でないと、自分を逮捕することになる」

「事務処理が面倒だろうな」

 スティーブはジョークで答え、トニーはそれに対して小さく笑みを浮かべる。張り詰めていた空気が少し和らぎ、スティーブは盾を下ろした。

「分かってくれて良かった」

「僕もだ。……なあ、影なき狙撃者君。それ引っ込めてくれ。今は休戦中だ」

 トニーの言葉とスティーブのハンドサインで、バッキーも構えていた銃を下ろした。

 再び基地の奥へと歩を進めようとする一行。トニーはその前に、私に目を向けた。

「君の息子がへこんでる」

「ああ……まあ、仕方ないでしょ。ローディは?」

「命に別状なし。後遺症の心配はおろか怪我もない」

 シロの見立て通りの返答に、私は改めて安堵する。

「なら私がどうこう言うより、ローディに任せたほうが良いと思う」

「……だな」

 私の言葉に、トニーは納得した様子で頷いた。

「……息子?」

 それらの話を聞いていたバッキーが怪訝そうに首を傾げる。

 バッキーから見て私が何歳くらいに見えているのかは分からないが、少なくともあの場に私の子供と呼べそうな子供はいなかった。

 事情を知らないのだから困惑するもの無理はない。見た目だけならヴィジョンは私より年上だ。

「色々と事情があるの」

 苦笑いで、私は肩を竦めた。バッキーは一応納得したように頷く。

 そうして、私たちはウィンター・ソルジャーたちが眠るであろう基地の奥へと再び足を向けた。

 

 

 

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