落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第六章-11「明日は明日の、」

 

 大気中を見えない手が蠢いて、シベリア基地の建材の一部を引っ剥がす。それは勢いよくソルジェフへと飛んでいき、ソルジェフの口を塞ぎ、腕の動きを封じる拘束具へと変わった。

 ソルジェフは体を拘束された反動で膝を突き、小さく呻き声を上げながら私を見上げる。

「お前を裁くのは私じゃない。司法だ」

 淡々とした言葉をソルジェフに投げる。

 そうして私は、それらを見ていたティ・チャラを振り向いた。

「……それか、あなたか」

 私の言葉に、ティ・チャラは一度目を伏せて、しかしすぐにこちらを向いた。真っ直ぐな、真摯な瞳だ。

「いや、司法だ。復讐に駆られ人を殺したとなれば、きっと父に叱られる」

「お父上……ティ・チャカ陛下はお目覚めに?」

 私の問いに、ティ・チャラは頷く。重傷で意識不明だと聞いていた。峠は越えたと見ても、きっと間違いではないだろう。

 私は小さく安堵の息を吐く。ソルジェフの暴走の一因は私でもある。

「だが、輸血が遅れたために麻痺が残ると医者が」

「……そうですか」

 どれだけ手を尽くしても、確定した犠牲があるのかもしれない。

 国連会議の場で、ティ・チャラが復讐のために動く理由が出来ること。これが本流へと戻ろうとする力なら、ティ・チャラはこの後間もなく、ティ・チャカに譲位されて王位を継ぐことになるのかもしれない。

「ともかく、この男を連れて戻ろう。さすがの彼らも五人の超人兵士を相手にするのは分が悪いだろう」

「ですね」

 ティ・チャラは外していたマスクを被り、拘束されたソルジェフを担ぎ上げた。そうされながらも私へと視線を向け続けるソルジェフを無視して、私たちは基地へと踵を返した。

 

 ◇

 

 そうして、この世界でのシビル・ウォーは、私が映画で見たそれよりも随分と平和的に収束をした。

 トニーとスティーブは喧嘩別れではない状態で、円満に別れた。……こう書くとカップルの別れのようだけど、この世界線の彼らはあくまでただの友人同士。薄い本は厚くならない。

 頻繁に連絡を取ることは出来ないが、おそらく映画であったように、『インフィニティ・ウォー』でトニーがスティーブに連絡するのを渋るようなことはないと思われる。

 ソルジェフはティ・チャラとトニーによって国連に引き渡され、おそらく今頃はロス副司令によって尋問を受けていることだろう。

 五人のウィンター・ソルジャーたちは、あの後私とティ・チャラの加勢もあってすぐに気絶・拘束されて、ワカンダへ。バッキーと共に、洗脳を解く方法を見つけるまで冷凍され眠らされることになった。

 バッキーとは違い、洗脳が解けたところで彼らがヒドラの人間であることは変わらないだろう。その後の処遇については追々考えることになるが、それはその時考えることにした。

 洗脳を解いたのちに、国連へ引き渡すことになるのだろうか? どうだろう。

 彼ら五人を国連に引き渡さなかったのは、どこに潜んでいるか分からないヒドラの残党を警戒してのことだ。ティ・チャラはスティーブの懸念に賛同し、自身の国で預かることに頷いてくれた。

 何から何まで協力して貰って申し訳ない。ティ・チャラは迷惑をかけたことへの詫びだと言っていたが、それ以上のことをしてくれているのは間違いなかった。

 

 ◇

 

 白を基調にした清潔感あふれる部屋――ワカンダの研究施設にて、バッキーは再び冷凍されて眠ることになった。スティーブ、そして私とシロも、その凍結される日に立ち会う。

 専用のベッドの前で点滴を打つバッキーのもとに、私たちはやってきた。

「本当にいいのか?」

 スティーブはこれからバッキーが眠りにつくカプセルのようなベッドを一瞥し、バッキーに最後の確認をする。

「自分が信用できないんだ。だから洗脳を解く方法が見つかるまで眠りにつく。それが一番だ。――みんなのために」

 微かな不安を隠すように、バッキーは笑みを作りながら答えた。スティーブは頷いて、バッキーの肩を叩く。言葉の要らない関係なのだと、それだけでよく分かる。

 二人を眺めていた私に、バッキーがふと視線を向けた。

「君たちはこれからどうするんだ?」

 その問いに私は一瞬キョトンとする。深く考えてはいなかったけれど。

「……一度里帰りかな。叔父に顔見せて……後は適当に政府から逃げつつ、ゆっくり旅行でもするかな」

 地球旅行か宇宙旅行かは決めていないが。

「まあ、〝Tomorrow is another day.〟ってね」

「『風と共に去りぬ』?」

 バッキーは私の言葉に首を傾げる。私は頷いた。どうやらバッキーも知っていたらしい。

 『風と共に去りぬ』は、小説は戦前、映画は戦時中に発表されたものだ。バッキーも読んだり見に行ったりしたのかもしれない。ちなみに日本で映画が公開されたのは戦後だ。

「……なら、俺が目を覚ますときにはここにいなさそうだな」

 ふと漏れてしまったかのようなバッキーの小さなつぶやきに、私は面食らってまばたきを一つ。他意があるのかは分からないが、なんというか、そういうとこやぞってやつ。

「……じゃあ、バッキーが目を覚ますときには呼んでもらうよ。きっとスティーブは立ち会うんだろうし」

 ちらっとスティーブに視線を向ければ、彼はちょっとにやにやして私たちを見ていた。さてはシャロンとのキスシーンを見てたの、根に持ってるな。

「親友の頼みだ。彼女を一番に呼ぶよ」

「スティーブ」

 からかい混じりのスティーブの言葉に、私とバッキーはほぼ同時に、窘めるようにスティーブの名を呼んだ。

 バッキーは笑みを浮かべた後、一つ息を吐いて再び私を見た。

「スティーブを頼む。馬鹿やらないように見張ってくれ」

「お前がいなきゃ出来ない」

 バッキーの言葉に口を挟むスティーブ。名台詞の不意打ちに動揺するが、なんとか心の中だけで抑え込んで、私は黙って微笑んだ。

 そうして、バッキーは眠りについた。

 洗脳を解く方法については、ワカンダが全面的に協力してくれるそうだ。まだ私は会ったことがないが、ワカンダにはトニーに匹敵する頭脳の持ち主、シュリがいる。安心して任せていいだろう。

「ユーリ、シロ。日本へ戻る前に、ちょっと散歩に行かないか?」

 ワカンダの研究所の長い廊下を歩きながら、スティーブがそう言った。

 珍しい誘いもあるものだと思ったが、その響きはどこか悪戯っぽいものを含んでいて、彼が何かを企んでいることが伺えた。

「どこへ行くの?」

 私の問いは、スティーブにとって望んでいた問いだったようだ。彼はにやっと口の端を持ち上げる。

「――ラフト刑務所」

 常に荒れた海域に浮かぶ、凶悪犯を入れるために作られた場所。

 今そこには、ライプツィヒ・ハレ空港でキャップに味方した三人――サム、クリント、スコットが収容されている。

「ナターシャから連絡があって、彼女も一緒だ」

 顔を見合わせる私とシロに、スティーブはそう付け加えた。どうやらあっちはあっちで『ブラック・ウィドウ』が無事収束したらしい。

「散歩にしては距離があるな」

「ここから日本まで行くのとそう変わらないんじゃない? 寄り道程度よ」

 シロの言葉に私は返す。

「……で、どうする?」

 スティーブはきっと、私たちの答えが分かりきっているだろうに質問を重ねる。

 私は彼がそうしたように、にやっと口角を上げて答えた。

「ぜひとも」

 

 

 








「ラフト刑務所編」? 「サムたち救出編」のことですか?
そんなもの、ウチにはないよ……


 
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