落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第七章 インフィニティ・ウォー編
第七章-1「予期せぬ再会」


 

 

 こうなることを、君は最初から分かっていたのか?

 

 

 ◇

 

 いわゆる『シビル・ウォー』から、二年近くの月日が経った。私たちは時折地球へ帰ったりしながら、宇宙旅行を続けていた。

 そうして地球の暦で2018年の三月中旬頃のこと。

 救難信号を受けて現場に向かった私たちは、どこか既視感のある宇宙船の残骸を見つけたのち、宇宙船の窓に見知った顔がへばりつく光景を目にした。

 急いで船内に担ぎ込んだ男は、間違えようもない。ウェーブがかった黒髪と、細身な長身に黒と緑の衣装。以前見たときよりもずっと、ボロ切れみたいに汚れているのは、激しい戦闘があったからだろう。

 死んでいる。以前から白い肌だと思っていたが、白皙とかそういうのじゃない。完全に血の気を失って、蝋のような肌になっていた。

「ロキ……」

 映画で見た通り、アスガルド人の乗った宇宙船がサノスに襲撃され、そこでロキも死んだのだろう。全て映画の通りに。

 すべて救えるなど、思ってはいなかった。でも、ロキとの間にはたしかに、奇妙な友情が生まれていたと、私は思っていた。それが私の心に影を落とす。

 本当に何も出来なかったのだろうか。何か方法があったのではないだろうか。

「マスター、せめて弔ってやろう」

「……うん」

 気遣わしげに言うシロに頷き、私はロキの遺体を入れる棺を魔法で作ろうとした――が。

 その時、ロキの胸元の衣服の隙間から、ぽうっと光の漏れ出す様子が見えた。胸元に何か入っているのだろうか。触れようとすると、心地よい温かさを感じる。

 やがてその光が淡く、ロキの全身を包み込む。薄い光のヴェールには、見知った文字が揺らめいた。ルーン文字。その文字の意味を、私は知っていた。

 光が消える頃には、ロキの肌に生気が戻っている。

「これ、って」

「ルーン文字だ」

 驚き言葉を失う私に、シロが冷静に返した。たしかにルーン文字だ。アスガルド人で魔術を修めているなら知っていてもおかしくはない。

 けど、今こうして息を吹き返しているなら、映画でのロキはどうしてそうしなかったんだって話になる。

 本当に生き返ったのか? 生気が戻ったように見えるだけなのではないか? と私はロキの首元に手を添えた。

 指先が、血管の脈打つさまを感じ取った。

 生きてる、と確認したところで、ロキがぱちっと目を開いた。緑色と目が合って、私は思わず手を引っ込める。

「……やあ、ロキ。久しぶりだね」

 顔の横まで引いた手を、私はごまかすように振る。

 ロキは寝かせられていた簡易ベンチから跳ねるように半身を起き上がらせた。自身の首を触り、周囲に目を滑らせ、ひどく困惑した様子だ。

「一体……何があった? 私は死んだはずだ」

「私もそう思ってた。でも、君の胸元が突然光りだして、全身が光に包まれたと思ったら、君が目を覚ましたんだ」

 私が説明すると、ロキは胸元に手をやった。彼が取り出したのは、見覚えのあるお守りだった。

 私がフリッガに渡したお守り。でもこれに込めた魔法は一回きりだったはずだ。

「これは、お前が母上に贈ったそうだな」

 お守りを見つめ、ロキが言う。うん、と私は頷いた。

 ロキは数秒、黙ってお守りを見つめていたが、やがて小さくため息を漏らした。

「まさかお前に助けられるとはな、小娘。アスガルドの船はどうなった。何故ここにいる」

 ロキは簡易ベンチの上に乗っていた長い脚を床に下ろすと、立ち上がって忙しない様子で操縦席の方へと歩いていった。

「私たちはラシューカの魔導書を探して旅をしていたところ。その途中で救難信号を受けて、向かった先で君を見つけた」

「……アスガルドの船、らしきものは大破していた。お前が俺たちの船の窓に貼り付いたんだ」

 私の説明を、シロが引き継いで言った。言いにくいところを引き継いでくれた形になる。

 ロキはその説明を聞いて、沈んだ様子で視線を落とした。

「一体何があったのだ? あのように船が破壊されるなど、尋常ではない」

 シロが尋ねる。

「……サノスという男を知っているか?」

 ロキは感情を抑え込んだ様子で聞いた。私は頷く。

 転生の記憶がなくとも、宇宙を飛び回っていれば、サノス軍の話は嫌でも耳に入ってきた。

「奴はストーンを狙って我々を襲った。私の持っていたキューブ――スペース・ストーンを狙って」

「奪われたのか?」

 シロの問いに、ロキが頷く。

「兄上は……、兄上は船の残骸の中にいなかったか? 兄上も船に乗っていた。私が殺されたときには、まだ生きていた」

「いいや、見てないよ。けど、他の宇宙船も救難信号を受けて来ている形跡があった。もしかしたら、それに拾われているって可能性もある」

 一応近辺のスキャンを、と私は傍のパネルを操作して、宇宙船を動かした。その間に、シロがロキへの質問を続ける。

「サノスはどうした?」

「おそらく、他のストーンを狙っているだろう」

「マインド・ストーンとタイム・ストーンは地球にある」

 スキャンされる画像を横目に、私は口を挟む。

 マインド・ストーンはヴィジョンの額だし、タイム・ストーンはドクター・ストレンジのネックレスだ。

 エンシェント・ワンは生きているが、長年ダークディメンションの力を借りていたため体にガタが来ているそうで、往時の力は失っており、ストレンジにほとんど後を譲っている。

「リアリティー・ストーンはノーウェアにある。パワー・ストーンはすでにサノスの手の中。ソウル・ストーンは行方知れず」

 ロキは言った。そして、宇宙船の外をスキャンする私の手を掴んで止めた。私はロキを見上げる。

「兄上の捜索はいい」

「いいの?」

 ではどうするのか、とロキを見つめる私に、ロキは言った。

「サノスを止める」

 真剣味を帯びた眼差しで、ロキは私を見下ろす。

 そこにあるのは本心だった。裏切りの神で、信用するなと彼本人から言われたことすらあるけど、今向けられているその瞳が嘘をついていないことは確かだった。

 私が応えようとしたその時、機械音が鳴り響いた。ポケットの中から響いた音に、私は入っていたポケベルを取り出す。

『助けがいる。バナー』

 トニーに渡したポケベルからの連絡だった。だが記された名前はバナー。

 ニューヨークに、すでにサノス軍の尖兵がやってきたということだろう。そしてトニーたちは、敵の宇宙船に乗り込んでタイタン星へと不時着するはず。

「バナー? ハルクと連絡を取れるのか?」

 横からポケベルを覗き込んだロキが尋ねる。

 ……そういえば結局バナーは惑星サカールへ飛ばされてチャンピオンになったのだろうか? いや、チャンピオンになったのはバナーじゃなくてハルクだが。

「トニーに渡した通信機器を使っているみたい。すぐに地球へ行こう。多分もう、襲撃を受けてるんだ」

「ここからでは遠い」

「大丈夫。忘れた? 私たちも、魔法使いなんだよ」

 言いながら、操縦席のパネルに手を置いた。

 宇宙船は改造済みで、移動用の魔法術式が組み込んである。場所を指定し魔力を流し込めば作動する仕組みだ。

 ポケベルにつけたマーキングを移動先にセットして魔力を流せば、パネルがぼうっと光る。宇宙船全体がぎゅるりと歪む感覚のあと、瞬きの間に外の景色は変わっていた。

 ニューヨークの街のど真ん中。まるでロキがチタウリとともに攻めてきたときを彷彿とさせるような混乱が、船の窓越しに広がっていた。

 その光景の真ん中にバナーが立っていて、目をまん丸にしてこちらを見上げている。私は手を振った。

「さ、行こう。博士に挨拶しなきゃ」

「これが魔術? 邪道すぎる。魔法の崇高さを分かっていない」

「邪神のくせに邪道とか言うの?」

 何が反感を買ったのか分からないが、信じられない、とでも言うように顔を歪めるロキに肩を竦めながら、私は船を降りるよう促す。

「ユーリ、シロ! 驚いたよ。でも良かった、通信が届いたんだな」

「博士」

 船を降りた私たちに、バナーがホッとした様子で足早に駆け寄ってきた。バナーは私とシロを見た後、ふとその後ろに目をやって、その目を見開く。

「ロキ! 生きてたのか?」

「まあな。お前の方は、ハルクは引っ込んだらしいな」

 ロキが言うと、バナーは苦笑いのような、複雑そうな表情を浮かべた。

「……親しげだな?」

 二人の様子に、シロが首を傾げる。バナーは今度こそ、困ったような、いつもの笑みを見せた。

「エンシェント・ワンに、修行の一環で別の惑星に放り出されてね。そこで、まあ、色々あったんだ」

 バナーは肩を竦める。

 何もしなければ、世界は本流に沿って流れていく。私は、かつてエンシェント・ワンが言っていた言葉を思い出した。どうやらこの世界の惑星サカールでも、ハルクはチャンピオンになったようだ。

「とにかく、今の状況を説明しないとな。ロキからある程度は聞いてるといいんだが」

「サノスがインフィニティ・ストーンを集めようとしていて、ロキたちの乗っていた船を襲撃したってことなら」

「ああ、充分だ。さっきニューヨークにもサノスの手先がやってきたんだ。まあ、この状況で察しはつくだろうけど……」

 バナーは両腕を広げて辺りに目をやる。その時、その右手に折りたたみの携帯電話が握られているのが見えた。

「ずいぶん古めかしいね」

「ポケベルよりは新しいさ」

 携帯電話を示しながら茶化すように言えば、バナーはポケットに入っているのだろう私への連絡用ポケベルを示して笑う。

「スティーブに連絡したんだ。ヴィジョンを守って貰うために」

「ならとりあえずは安心だね」

 バナーの言葉に私は頷いた。

 ヴィジョンの負傷がなければ、物語は序盤で終わっていただろうと言う記述を読んだ覚えがあるが、だからといって彼の負傷を防ぐには彼らをずっと監視してなければならない。それはちょっと、向こうも嫌だろうし私も嫌だ。

 だからヴィジョンの負傷の有無は運次第ってところだ。運が良ければ、『エンド・ゲーム』はなしで、石を巡る戦い(インフィニティ・ウォー)は終わる。

「スティーブは、ヴィジョンを保護したらアベンジャーズ本部へ行くって言ってたよ。本部はまだマンハッタンにあるのかい? それとも、ニューヨーク州の北部にスタークが作った、新しい方? 僕が離れている間に、色々起きたみたいだけど」

「マスター、警察が近付いてるぞ」

 バナーの質問へ答える前に、シロが口を挟んだ。遠くからサイレンの音が聞こえてくる。

「とりあえず乗って。アベンジャーズの本部に行こう」

「なんだ、警察はまずいのか?」

 事情を知らないバナーは、困惑した様子で尋ねた。私は苦笑を返す。

「国際指名手配中でね」

 バナーが口をぽかんと開けた。

 

 

 







ユーリ「そう言えばタットは?」
ロキ「避難用ポッドに放り込んだ」
シロ「きっと無事だろう。タットだしな」
ユーリ「まあ、タットだしね」
ロキ「ああ、タットだからな」



 
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