落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第七章-2「古巣にて」

 

 ニューヨーク州北部。森に囲まれた湖の畔に、ぽっかりと開けた緑の土地がある。

 そこには白い近未来的デザインの建物が建っていて、上空から見た建物の屋根に、アベンジャーズのマークが大きく飾られていた。

 バナーとは道すがら、互いに情報共有を行った。

 バナーはエンシェント・ワンに修行と称して他星――惑星サカールに飛ばされていたそうで、そこからここまでの経緯を簡単に教えてくれた。

 そして私は彼に、ざっくりと最近のアベンジャーズに関する状況を説明しておいた。ソコヴィア協定のこととか、それに絡んで起きた、対外的なアベンジャーズ解散の件とか。

 複雑そうな表情でそれらを聞いていたバナーは最後に、「ナターシャは無事なのか」と尋ねた。

「無事だよ。でも本人に直接確認したほうがいい。話を聞いてあげて」

 言うまでもないことだろうけど、と思いながら私は言う。

「ああ、勿論」

 バナーは頷き答えた。

 芝生の上に船を着陸させ、船を降りて建物の本棟へ。入口に向かえば、連絡を受けたローディが待っていた。

「宇宙旅行楽しんだみたいだな、ユーリ、シロ」

「ああ」

「今度宇宙船の操縦させてあげるよ」

「そりゃ楽しみだ」

 約二年前に空港を舞台にやり合った者同士とは思えない穏やかさで、私たちは挨拶を交わす。ローディはそれから、バナーを見た。

「バナー博士も、久しぶり。しばらく見なかったけど……変わりないようで何よりだ」

「ああ。こっちは随分変わったみたいだけど」

 苦笑いを浮かべるバナーに、ローディは肩を竦める。そしてローディは、私たちの後ろについてきていた人影を見つけた。

「なあ、そいつは……見間違いと記憶違いじゃなきゃ……見たことあるんだが」

「彼はロキ。ソーの弟。オーディンの息子で、ヨトゥンヘイムの王……で合ってるっけ?」

「悪戯の神も付け足しておけ」

「はいはい。……まあ、そんな感じだよ、ローディ」

 ローディは笑顔を引きつらせた。ニューヨークでの戦いに参加していなくとも、ロキのことは知っているだろう。

「一緒にいるってことは味方なんだよな?」

「今のところは」

「おいおい、不安になること言うなよ」

 苦笑しながらも、ローディは私たちを(ロキ含めて)本部の中へと招き入れた。

 アベンジャーズのメンバーが集まる談話室であり、会議室のようにも使われている部屋(サロン)へ向かう途中。本部全体のAIコンシェルジュがローディに通信が入っていることを伝えた。

「〔ロス長官です〕」

「君たちは隠れてたほうがいいだろうな」

「そうさせてもらうよ」

 説明を聞いた上で色々と察したらしいバナーは、疑問を投げることもなく頷いた。

「部屋はそのままにしてある。そいつは着替えたほうがいい」

 ローディはバナーが着ているボロボロのジャケットを示して言いながら、隣室のラボへ向かい、ロス長官との通話を始めた。

 

 ◇

 

 バナーは着替えのために自室へ向かい、私とシロとロキの三人がその場に残された。ラボにローディの様子が見えるが、少し離れているので声は聞こえない。

「ねえ、あのお守り――君を生き返らせたあの魔法具。あれはフリッガ様が君に? あの魔法は、フリッガ様がマレキスってやつにやられたとき使われて、効果が切れたと思ってたんだけど」

 後回しにしていた質問を投げかける。ロキは「ああ」と頷いた。

「母上が亡くなった時、母上から譲られたのだ。母上が改めて、魔法を掛け直したのだろう……」

「フリッガ様が……? 亡くなられたって、」

 ロキが私を見やる。その目は優しげだった。同じ悲しみを分かち合うような、いたわりがあった。

「アスガルド人の寿命だ。父上とともに逝かれた」

「そう……」

 てっきり、サノスの襲撃の際にやられたのかと思った私は、ロキの言葉に少しホッとした。

 亡くなられたことは悲しい。それでも納得のいく死だと思う。映画での描かれ方から、アスガルド人の寿命での最期の時は、自ら選んでいるように見えたから。

「残念だ。もう一度お会いしたかった」

 シロが代弁するように言って、私は頷いた。

 ロキは口元に微笑を浮かべた。随分と優しい表情をするようになったな、と少し感心してしまう。

「……ロキ」

 私が呼びかけると、「ん?」と緑色の目が向けられる。

「アスガルドの人たちが大変な目に遭って、ソーも行方が分からなくて、大変な状況であるってのは分かるけど。でも、なんていうかその……君が無事で良かった」

 前世の人生のいくつかで、〝私〟はアスガルド人だった記憶がある。この言葉は高村優李(わたし)と、ロキと親しくなり、ロキを助けようとしたいつだったかの前世の〝私〟の、心からの言葉だ。

 ロキは小さく目を瞠り。ややあって口を開いた。

「……一度死んだのを無事と言うなら、だがな」

 その言葉に、私はくすっと笑う。そして「だね」と頷いた。

「なあ、ユーリ。二年で流行が変わったとか、ないよな。いや、流行なんて二年前から追ってはいなかったけど、変じゃ……すまない、邪魔したかな」

 二人突っ立ったまま、向かい合って話していた私とロキの元へ、着替えてきたバナーがジャケットの裾を引っ張りながらやってきた。

 私に話しかけながらやってきたバナーは、私とロキを見て何を思ったか謝罪する。私は笑みを返す。

「邪魔じゃないよ。私もしばらく地球を離れてたから、今どきの流行なんてわからないけど、変じゃないと思う」

 今のバナーの服装がどうかは置いておいて、多少野暮ったくても、ナターシャはその野暮ったいところも好きそうだから構わないだろう……という言葉は黙っておく。

 ちなみに今のバナーはTシャツにスラックス、ジャケットというごく普通の服装だ。

「そうか。ならいいんだ」

 どちらへの「ならいいんだ」なのかは判然としなかったが、バナーは頷く。

 そしてバナーは、私の背後を見てはっとした。それに気付いた私は、バナーの視線の先を振り向く。ロス長官のホログラムを相手にお話し中のローディの向こうに、数人の人影が見えた。

 見紛うことはない。

 先頭に立つのは、口周りにヒゲこそ蓄えているものの、スティーブ・ロジャースその人だ。その脇にナターシャがいて、更にその後ろに負傷した様子のヴィジョンがいて、サムとピエトロが脇を支え、ワンダが寄り添っている。

 ロス長官にもスティーブたちの姿は見えているようで、突然現れた指名手配犯たちはロス長官と一言二言話をしたようだった。

 その後、ローディがロス長官のホログラムを消して通話を切ってしまう。電話で言うガチャ切りみたいなものか。

「話が終わったようだ。俺たちも行こう」

 シロに声を掛けられて、私たちは談話室から隣室のラボへ向かう。

 ローディとの再会を喜んでいたスティーブたちが、こちらに気付いた。スティーブとナターシャが一度笑みを浮かべ、そしてすぐに表情を固まらせる。

 その視線の先にいるのはロキだ。かつてニューヨークを襲撃し、地球を支配しようとした男その人。

「どういうこと?」

 ナターシャが訝しげに眉を寄せ、私とバナーを見る。

「久しぶりだな、兵士、暗殺者。私がここにいるのは、目的が同じだからだ」

 答えたのはロキ本人である。素直じゃない言い回しに、私は苦笑する。

「目的というのは……ストーンのことか?」

 ちらりとヴィジョンの額のマインド・ストーンを見やりながら、スティーブが問う。「ああ」とロキは頷いた。

「どうしてもそれを、渡したくない相手がいてね。まあ……私怨ってやつさ」

 ロキのその言葉を聞いて、スティーブはロキをしばらく見つめていた。それからややあって、私を見る。

「信用できるのか?」

 短い問い。私は私に聞くとは思わなかったから少し驚きつつも、ためらわず頷いた。

「私は信じてる」

 その答えに、スティーブは納得したようだった。

「話を聞かせてくれ」

 

 ◇

 

「また襲ってくるのか?」

 私とバナー、ロキの話を聞き終えて、ローディが尋ねた。

 信じられない、信じたくない、そんな真意が見え隠れするその言葉に、ワンダが「きっとすぐ見つかってしまう」と返す。

「全員出動だ。クリントは?」

 バナーが言って、ナターシャを振り向く。

「彼とスコットはソコヴィア協定を呑んだの。家族のためにね。今は自宅で軟禁状態」

「スコット?」

「アントマンだ」

 新しく出てきた名前に首を傾げたバナーに、スティーブが答える。バナーは片眉を上げた。

「アリとクモもいるのか?」

「もともとクマだっていたし」

 驚いたような声を上げるバナーに、私は傍らのシロを示しながら言う。シロが、俺はクマではない、という視線で私を見上げた。これは失礼、と肩を竦めて視線に返しておく。

 バナーははっとこちらを見て、咳払いを一つ。「とにかく」と話を戻した。

「サノスは宇宙一強大な軍隊を抱えている。目的を果たすまで後には引かない。狙いは……ヴィジョンのストーン」

「じゃあ守らなきゃ」

 ナターシャがすかさず言った。それに対して待ったを掛けたのはヴィジョン本人だ。窓に寄りかかり、怪我を負った腹部を押さえながら「破壊すべきだ」と言った。

「私の頭にあるこれについて長い事調べ、考えてきました。その性質や組成について。充分なエネルギーを――それも、このストーン自体の性質に似た強力なエネルギーを照射すれば、おそらく分子の結合が崩れ崩壊する」

「あなたも一緒に滅びる。この話はここまでよ」

 ワンダは目の前にやってきて、自身を見つめるヴィジョンを見つめ返してきっぱりと断った。

「ストーンをサノスに絶対渡さないためには、破壊するのが一番です」

「でも代償が大きすぎる」

「その代償を背負えるのはあなただけだ」

 ヴィジョンは両手をワンダの頬に当てるが、ワンダは逃げるようにその手を逃れた。

「サノスを倒すためなら一人の命など取るに足らない」

「どの命も――重さは同じだ」

 ヴィジョンの言葉に、スティーブが反論する。

「キャプテン。七十年前、あなたは大勢の命を救うために自分の命を投げ出した。それとどこが違うのです?」

「選択肢の有無だよ、ヴィジョン。そこが違う」

 私は仲間として、そして母親として、口を挟んだ。「母上様」とヴィジョンはこちらを向く。

「君、頭が良いせいで視野が狭くなるのウルトロン(お兄ちゃん)に似たの? なんで破壊することしか考えないんだ。ここには天才がいるのに」

「つまりマスターにアイディアがあるわけではない、と」

「生物有機化学は専門じゃないんでね」

 バナーを示して言った私をシロが茶化し、私は肩を竦める。

「ユーリの言う通りだ。君の頭は、いろいろなものが混じり合って出来ている。例えばJ.A.R.V.I.S.やウルトロン、トニー、ユーリ、僕、そしてストーン。すべてが混じり合って、お互いから学び合っているんだ」

「ヴィジョンとストーンはイコールじゃないってこと?」

 ワンダがバナーに尋ねた。バナーは頷く。

「もし――ストーンを、取り出すことが出来たら、純粋なヴィジョンそのものの人格が残るだろう」

「取り出せるの?」

「ここでは無理だ」

 ナターシャの問いに、バナーは首を振る。

「じゃあ、急いで場所を探したほうがいいな。昔の設備は長官の手が回ってるぞ」

 ローディの言葉に、スティーブが決意した様子で顔を上げた。

「いいところがある」

 

 

 

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