落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第七章-3「戦端」

 

 ヴィジョンのストーンを取り出すための場所としてスティーブが提案したのは、ワカンダだ。

 すぐさま用意を整えて、私たちはクインジェットに乗り込んだ。雲の上を飛んできた私たちだが、ワカンダ上空に近付いた頃、スティーブが立ち上がって操縦席の後ろに立った。

「2600まで落とせ。方位030」

「大丈夫なんだろうな? じゃないと着陸前に、激突するぞ」

 操縦席に座っていたサムは、スティーブの指示を聞いて手動操縦で高度を落とし始める。

 クインジェットはそのまま、ワカンダの森の中へ突っ込む――かと思われたが、その寸前で目の前の透明だった障壁が歪み、景色が一瞬で切り替わった。

 森は湖へと変わり、その湖畔にはビルの立ち並ぶ近未来的な都市が見える。クインジェットはその中でもひときわ背の高いビルの前に着陸する。

 建物の中から、護衛に囲まれたワカンダ国王、ティ・チャラが出てくるのが見えた。

 クインジェットのハッチが開く。スティーブやナターシャに続いて、私たちも降りた。

「お辞儀すべき?」

「王様だからな」

 背後からバナーとローディのそんな掛け合いが聞こえてくる。

「いつも頼み事ばかりで悪いな」

 スティーブが言いながら、ティ・チャラと握手を交わす。

 その後ろでバナーが腰を低くお辞儀をして、ローディが「何やってんだ」とけしかけた本人のくせして言った。

「あ、いや、そういうのはいいから」

 ティ・チャラもそう言ってバナーを制す。ローディは楽しそうだ。

 ティ・チャラは私たちを招くように歩き出した。

「で、どれほどの攻撃が予想されるって?」

「かなり、大規模な攻撃です、陛下」

 ティ・チャラの問いに、バナーが答える。

「こっちの戦力は?」

 ナターシャが尋ねた。

「王宮の衛兵とボーダー族、ドーラ・ミラージュ、そして……」

「半分イカれた100歳の男」

 歩き去っていく衛兵たちの向こうを示したティ・チャラの視線の先から、バッキーが姿を表した。その表情は、眠りにつく前よりずっと明るい。

「元気か、バッキー?」

「ああ、まあな。この世の終わりにしては」

 スティーブとバッキーは抱き締め合って、互いに肩を叩き合う。

 二人のファンとして、眼福だと思いながらその様子を眺めていた私だったが、ふとバッキーの視線が私を捉えて、バッキーが微笑んだ。顔がいい男。心臓に悪いな。

「久しぶりだな、ユーリ、シロ」

「うん、久しぶり、バッキー」

「元気そうで何よりだ」

 私は笑みを返して、小さく手を振った。

 ナターシャとスティーブが視界の端でニヤニヤしているのを、私は視界から追いやった。

 

 ◇

 

 建物に入り、ラボへと案内された。

 清潔感のある、近未来的という言葉がピッタリの空間に、ティ・チャラの妹でありワカンダで(たぶん世界でも)最高峰の頭脳を持つシュリは待っていた。

 ヴィジョンは寝台に寝かされて、シュリは手首に着けた大きなビーズ状のブレスレットでその体をスキャンする。青い光がヴィジョンの顔を通り、額のストーンの立体画像がシュリの手の平の中に現れる。

「構造が多重になってる」

「だから核ニューロンを非連続的に取り付けるしかなかった」

「なぜシナプスが相互に作用するようにプログラムし直さなかったの?」

「なぜって……思い付かなくて」

「ベストは尽くしたようね」

 正直何言ってんのかさっぱり分からないが、ともかく解決策はあるってことだ。

「あなたできるの?」

 ワンダが心配そうな顔でシュリに尋ねる。笑みを浮かべていたシュリは、その問いに対して表情を引き締めた。

「できるけど、数にして二兆以上のニューロンがある。一つのミスでも全体に波及して崩壊してしまう。時間をちょうだい」

「どのくらいだ?」

 シュリの言葉に、スティーブが問う。

「できるだけ長く」

 シュリが答えた時、ラボの中に警報の音が鳴り響いた。その音を聞き、親衛隊隊長のオコエが手首のブレスレット――シュリのそれと同じ形――のビーズの一つを弾く。

「〔何かが大気圏に侵入〕」

 指で弾かれたビーズの一つがオコエの手の平の上に転がり、そこから地球を模した立体画像が照射される。宇宙からの招かれざる敵が、ワカンダへと近付いていた。

 ラボにいた全員が危機を察知した時、サムから無線が入る。

「〔キャプテン、まずいことになってるぞ〕」

 その言葉からほとんど間髪入れず、上空で何か大きいものの衝突するような音が響いた。窓の外を見る。

 空から飛来した何かがワカンダの街に落ちようとしていたのを、ドーム状に張られた強力なバリアが阻んだのだ。

「〔さすが。いいねぇ、ここは〕」

「〔喜ぶのは早い。バリアの外から次々に来るぞ〕」

 バッキーの呟く声に、ローディが返す。

 バリアの張られていない、郊外の森や草原や湖に、宇宙からの飛来物が次々と落下する。

 土埃が立ち昇り、水柱が高く聳える。衝撃波が草木を揺らして、水面に波を起こした。

 その衝撃波すらも、ワカンダの障壁は遮った。が、その障壁も、永遠に保つわけではないだろう。

 スティーブとティ・チャラが顔を見合わせる。

「……手遅れだ。今すぐストーンを破壊しよう」

 傷の痛みを堪えながら、ヴィジョンが起き上がって言う。

「ヴィジョン、勝手に動かないで」

 ナターシャは冷静に言って、すぐさまラボの出口へと向かって行った。

「なんとか食い止める」

 ティ・チャラも部下に指示を出し、自身もまたブラックパンサーとして戦うため、歩き出す。

「ワンダ、ストーンを取り出したらすぐ――破壊しろ」

「任せて」

 スティーブの指示に、ワンダは決意のこもった瞳で頷いた。

「国民を避難させろ。防御を固めるんだ。――彼には盾を頼む」

 ティ・チャラは足を止め、スティーブを示して部下に命じる。私はそれらを見た後、ワンダの肩を叩く。

「ワンダ、ヴィジョンを頼むよ。また弱音吐いたらケツを引っ叩いてやって」

 私がいたずらっぽく笑んで言えば、ワンダはちょっと目を瞠った後、くすっと笑った。「ええ、任せて」と頷く。

「プログラムの再構築中はやめてよ? 繊細な作業なんだから」

 シュリが笑み混じりで口を挟む。私はワンダとともに笑い、「じゃあ」とワンダに声を掛けて歩き出した。

「母上様、」

「ヴィジョン、君は諦めることを諦めな。私たちは諦めが悪いからアベンジャーズなんて呼ばれてるんだ。なんか難しい手術受ける仲間のために、規模の分からん予測不能な宇宙人と戦う。上等じゃないか」

 ベッドの上でこちらに声を掛けてきたヴィジョン。私は足を止めて言い聞かせるように言った。

 なんか説教染みてる気がする。我ながらいやだわ。

「……論理的じゃない」

「何だよ、人間のそんなところが好きなくせに」

 やっとこさ思いついた反論とでも言うように呟いたヴィジョンに、私はニッと笑ってみせる。その笑みを見て、ヴィジョンも微かに笑った。

「……あなたには敵わないな」

「ママだからね。そのうちワンダの尻に敷かれればいいさ。――それじゃ、今度こそ私は行くよ」

 声を掛け、シュリにも目を合わせ、「頼むよ」という意味を込めて頷き、頷き返されるのを見ながら私は歩を進めた。シロが少し先で待っている。

「もうすっかり母親だ」

「母さんが聞いたらきっとひっくり返るよ」

 言って、シロのことを受け入れた母さんなら驚きもしないかも、と思った。

 

 ◇

 

 サバンナと呼んで然るべきワカンダの草原の上を、何台もの空飛ぶ輸送機が走る。

 輸送機が運ぶのは、ワカンダの戦士たちと、アベンジャーズだ。ただし、アベンジャーズの中でも空を飛べる者や自身の足で走っていける者は除く。

 サムやローディは上空を飛んでいるし、私は大きなクマサイズになったシロの背に乗って地上を行っている。

 そしてバナー博士もその一人。彼は今、ハルクみたいなでかいやつ用のアイアンマンスーツ『ハルクバスター』に乗っている。

 ニューヨークでハルクに嫌がられたんだ、とバナーはしょんぼりしていた。イヤイヤ期ってやつじゃない? とからかい半分に言ったら、ヴィジョンにもあったのかと聞かれた。あるなら私も見てみたいよ。

「〔スーツはどう? ブルース〕」

「〔ああ、コツが分かってきた〕」

 無線の向こうで、バナー夫妻が話している。

 そのすぐ後、視界の端でハルクバスターがぴょんと飛び跳ねて、無線越しにバナーの至極愉しげな歓声が聞こえてきた。

「〔すごいよ、これ! 変身しなくてもハルクになった気分で……〕」

 言うが早いか、ハルクバスターが石に躓いて転ぶ。その上を、輸送機が飛んでいく。

 今頃オコエがバナーに、呆れたような――いわゆるゴミを見るような――目を贈っていることだろう。

「〔大丈夫だ。大丈夫……〕」

 戦う前から地面とキスして砂の味を味わったバナーだが、ちゃんと一人で立ち上がってあんよが上手しているので大丈夫だろう。

 スターク社の技術力は世界二ィィ――! なので、転倒した程度のダメージはきっとノーダメだ。ちなみに技術力世界一は多分ワカンダだ。はっきり分かんだ(ワカンダ)ね。(なお、異論は認める)

「〔赤外線反応が二つ。侵入した〕」

 ウォーマシンのスーツを着て、サムとともに上空を行くローディが、無線で短く報告した。

 バリアによる境界線が見える場所に、輸送機が到着する。ワカンダの兵士たちは、機敏な動きで輸送機を降り、隊列を組む。すでにジャバリ族は集結しており、特有の掛け声が響いていた。

 ティ・チャラとジャバリ族の族長であるエムバクは、握手を交わす。

 まずは話をするらしく、キャップとナターシャ、そしてティ・チャラがバリアの境界線へと向かっていく。敵側も、女の宇宙人とハルクみたいな大男の宇宙人がバリアの傍に立っていた。

 私はシロから降りて、兵士たちの組む隊列の先頭より更に前に立った。シロはいつもどおり、犬くらいの大きさになって隣に立つ。ロキもいる。

「人間は未だ交渉の余地があると思っているのか?」

「知的だからね」

 ロキの言葉に冗談交じりで言えば、鼻で笑われた。「まあ、奴らよりはな」と、バリアの向こうの森に着陸した宇宙船へ目をやりつつロキは頷く。

 宇宙船は五つ。細長く、縦に聳え、空へと伸びていく。

「ロキこそ、交渉の余地はないってわかってる割に武器とか持ってない――ああ、持ってんのね」

 指摘をした瞬間に、彼はその手の中に剣を出現させた。ロキは得意げに「魔法使いなんでね」と笑う。

「君、幻術以外は物理で戦うこと多いよね。ガンダルフみたい」

「ガンダルフ? 誰だ」

中つ国(ミドルアース)の魔法使い」

「は?」

 そんな会話をしていれば、スティーブたちが隊列へ戻って来る。相手が降伏、こちらの勝利、とはいかなそうだ。

「シロさん」

 私は足元に声を掛ける。シロは私の意思を理解し、更に体を小さくして私の体に飛びついた。肩に乗るのを感じながら、私は浮上する。

「イバンベ!」

 下方からティ・チャラの掛け声が響く。ジャバリ族を含め、すべてのワカンダの戦士がそれに応え、草原の風を揺らす。

 私は魔法でオペラグラスを出し、敵陣を見た。

 聳えた宇宙船から、大量の敵が飛び出して来るのが見える。その敵の姿は、地球人からするとモンスターと呼ぶにふさわしい。

 奇妙に腕が何本もある割に、脚は二本。知性ある宇宙人の兵士なのか、ただの飼いならしたモンスターなのか、知識のない私には分からない。

 そのモンスターたちが、森を抜け、草原を駆け抜け、バリアへと殺到する。バリアに衝突すれば弾かれる、だけならばまだいい。無理矢理に押し入ろうとすればすぐさまバリアが穴を修復するため、モンスターたちの四肢や体の一部が切断されて、バリアのこちらがわにボトボトと落ちている。

「決死隊か何かか?」

「もしくはそう作り出されたか」

 シロの呟きに、私は返した。

 あの生物が自然に生まれたようには見えない。あの生物たちには、恐怖があるように見えない。すべての生物が生きるために備えた本能の一つである、恐怖が。

 モンスターの何体かが、やがてバリアの隙間を縫ってこちら側へと侵入してきた。

 それを見て、地上のワカンダ兵たちが羽織ったマントを翻し、盾状の小型バリアを構えた。盾越しに槍を構え、ティ・チャラの合図とともに、槍の先から光線が放たれる。

 ついに、宇宙の命運を決める戦いの、戦端が開かれた。

 

 

 

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