落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第七章-4「ワカンダ決戦」

 

 次々とバリアの内側に入り込んでくる怪物たちを、銃撃による弾幕が押し止める。

 眼下を見下ろし、私は片手を上げた。〝武器庫〟を開く。周囲に空間の歪みがいくつも出来上がる。歪みから、剣や槍が姿を現した。

 上げていた手を振り下ろせば、その武器たちは一斉に射出された。駆け進んでくる怪物たちを貫き、屠る。

「〔あいつらの歯並び見たか?〕」

「〔戻れサム。翼を焼かれるぞ〕」

 戦場の最前線の上空を機敏に動き、怪物を倒して飛ぶサムにローディが警告し、爆弾をバリアの内側ギリギリに落としていく。

 爆発が起き、入り込んでいた敵は焼かれ、吹き飛ぶが、それでもすべてを倒せるわけではない。爆発の炎すらものともせず、進んでくる奴らが大勢。

 それだけならまだいい。バリアを回り込んでいく怪物たちの姿が目に入る。

「〔キャプテン、後ろに回り込まれたらまずい。ヴィジョンを守る者がいないぞ〕」

 ハルクバスターに入ったバナーがキャップに言った。

「〔なら、回り込ませなければいい〕」

 キャップは低く、冷静に返した。

「〔でも、どうやって?〕」

 オコエが困惑したように尋ねる。

「〔バリアを開けよう〕」

 ティ・チャラは言った。地上の彼は、耳の無線機をそっと押さえ、部下に伝える。

「〔合図したら、北西のセクション17を開けるんだ〕」

「〔陛下、確認願います。バリアを開けるのですか?〕」

 部下の女性の声が返される。その声には、微かに驚愕の色があった。

「〔合図したらな〕」

 ティ・チャラは迷いなく答えた。

 地上から、ワカンダ語でティ・チャラの声が響く。銃撃が止む。兵士たちが構えていた盾による防御が解かれる。

 攻撃に転じるのだと、言葉の意味を知らずとも分かった。

 ティ・チャラが兵士たちの前へと立った。

「ワカンダフォーエバー!」

 そう叫ぶと、ティ・チャラは胸の前で腕をクロスし、その指先から爪を出した。マスクが自動で現れて、頭部を覆う。駆け出した。

 兵士たちもまた、同じように叫んでティ・チャラ――ブラックパンサーに続く。

 充分な距離を詰めたとティ・チャラが判断した時、彼は「〔今だ!〕」と指示を出した。バリアの一部に一本真っ直ぐ線が走り、五メートルほどの隙間が開いた。怪物たちが、その隙間へと殺到する。

 ワカンダ兵の軍団から突出して、最初に敵とぶつかったのは、キャップとブラックパンサーだった。

 キャップはティ・チャラが用意してくれた三角形の盾で敵を貫き、ブラックパンサーはその爪で敵を切り裂いた。彼らが敵と交戦を始めたのから間を置かず、軍団同士がぶつかり合った。

 戦場は一瞬で乱戦状態となる。これでは狙えない。私はホークアイではないので。

「降りようか」

「そうしてくれ。俺も見ているだけは性に合わない」

 引き続き武器を射出しつつ、私は着陸する。足元に落ちていた三十センチほどの枯れ枝を拾い、間髪入れず襲いかかってきた敵へ向けた。

 枝を一振り。ギュルルッと音がして、怪物は捻れるように姿を変えた。宇宙怪物から、赤い樽爆弾へ。

 枝を、今度は引っ張るように振れば、樽爆弾は空中に浮いた。続いて枝を振り下ろす。樽爆弾は、こちらへ近付いていた怪物たちにぶつかって、大きな爆発を起こす。

「変身術と呪文学は(O)で間違いなしだね」

「いや、マクゴナガル先生は怒るだろうな」

 私の『ハ○ポタ』ジョークに、シロはクールに返しながら、体を大きく変えた。そして怪物たちへ肉球パンチする。

 字面は可愛いが、クマの肉球パンチはその爪も相まって相手をズタボロにする。怪物たちもそれにならい、ズタボロになった。

 無線の向こうから、ティ・チャラとシュリの兄妹の会話が聞こえてくる。どのくらいかかるのかという問いに、シュリは始めたばかりだと答えた。

「〔急いだほうがいいかもな!〕」

 ティ・チャラは言った。

 戦いは、まだ始まったばかりだ。

 

 ◇

 

 敵味方入り乱れる激戦に、私たちは苦戦を強いられていた。

 地上にいる戦士たちはもちろん、上空からバリアの入口を砲撃していたローディまで、敵の攻撃によって撃ち落とされる。奴らは遠征軍のはずなのに、圧倒的物量差によってこちらはかなりの劣勢に立たされていた。

 だがもう少し。エンシェント・ワンの言葉が今も有効で、私が何もしなければ、世界が流れのままに進むならば。

「〔相手が多すぎる!〕」

 怪物たちに取り付かれて、身動きの取れなくなったバナーが叫んだ。

 ――その時。戦場に雷鳴が轟いた。

 突如としてワカンダの上空から光の柱が落ち、敵味方構わず、付近にいた者たちを吹き飛ばした。

 近くで戦っていたロキがそれを見て、息を吐くような笑い声を上げる。

 光の柱から、何かが飛び出した。ブーメランのように投擲されたそれは、電撃を纏って戦場を飛び、怪物たちを切り裂き、その電撃で撃ち倒した。

 ブーメラン――いや、斧は、ワカンダの戦士やアベンジャーズの面々を押さえ込んでいた敵を倒し、光の柱の中にいる主人の元へと戻る。

 光が散り、斧を片手に独特の紋様が焼き付いた地面に立っていたのは、マイティ・ソー。以前会った時より髪が短くなっているが、その姿は間違えようもない。

 傍らにはアライグマと、人間のような姿の樹木――ではなく、ロケットとグルートもいる。

「はっはは! どうだ! 観念しろお前ら!」

 バナーがハルクバスターのマスク部分を外して笑った。敵の偉そうな女宇宙人とでかいやつの、悔しげに歪んだ表情が目に浮かぶ。

「サノスを、呼んでこい!」

 文字通り雷神の如く、雷をまとったソーは、敵に向かって空高く飛び上がり、地面に斧を振り下ろした。閃光は何本も広がり、怪物たちを一気に薙ぎ倒した。誰か、レッド・ツェッペリン流してもらっていい?

 アベンジャーズ側の士気は一瞬で上がった。倒し切るつもりで、だが倒し切れなくとも、時間稼ぎは続けられるだろう。

 戦いながら、ロキとソーが再会を果たす。

「ロキ! 生きていたのか!? お前ってやつは! 今度こそ駄目かと思っていたんだぞ!」

 ぱぁっ、と表情を明るくするソーに対し、ロキはちょっとうんざりした表情を浮かべた。見つかっちまった、とでも言いそうな顔だ。

「ハグには早いぞ、兄上」

「照れるな、弟よ~」

「止めろ! 敵が来てるだろ!」

「兄弟愛見せつけるの後にしてくれる~?」

「おお、ユーリ、シロ! 久しぶりだな!」

 ソーは今気付いたとでも言うように片手を上げた。私もひらひらと片手を振る。

 ロキくんさぁ、敵が来てるからハグが駄目なら、そうじゃなければハグして良いってことになるけどいいの?

 そういえば、ソーたちが援軍に来てからしばらく戦っていたけど、もうあれ終わっちゃったかな。「俺はグルート!」「僕はスティーブ・ロジャース」ってやつ。たった二言の自己紹介で笑わせてくれるやつ。

 そんなことを考えながら、引き続き敵を爆弾に変えては敵に投げつけると言う非人道的極まりない戦い方を続けていた私。そんな中、戦場は大きな局面を迎える。

 バリアの下を潜って抜けてきた巨大な車輪が、モグラが地面から頭を出すように戦場へと姿を現したのだ。

「退却! 退却せよ!」

 地面に出てくると同時にワカンダ軍へ向けて転がり始めたのを見て、ブラックパンサーは瞬時に部下たちへ命令を下した。

「〔ユーリ、行けるか!?〕」

「任せて。――シロさん!」

 無線越しのキャップの声に頷いた私は、シロを呼ぶ。意を汲んだシロは駆け寄り小さくなって、私の肩に乗った。それと同時に、私は空へ飛びあがった。

 五つすべての車輪を見渡せる場所へ。

 本来なら燃費重視で〝見えざる手〟を使うところだが、今回は士気を上げるためにも派手さ重視だ。

 空中から、どこからともなく数え切れないほどの白い花びらが姿を表す。小さな花びらが寄せ集まって、太く長く、空に五本の螺旋を描く。花びらの集合体は、車輪のそれぞれに巻き付いた。花びらで出来た五本の手のように、車輪を抑え込む。

 私は更に変身術で、五つの車輪を花びらに変えた。いいこと思いついた。

 大量の花びらを、私はバリアの外側へと向かわせていく。

「マスター、攻撃だ」

 シロが冷静に言った。見れば、私へ向けて斧が飛ばされてきている。勿論ソーの新しい斧じゃない。敵のデカブツが担いでいた斧だ。ソーと武器被ってんじゃーん。

 私は左手を花びらを操るためそのままに、右手を動かした。胸の前からそのまま右側へと手をスライドすれば、斧はその方向へと軌道を変えた。

 右にスライドした手を、再び胸の前へ。今度は勢いを付けて振る。斧はデカブツに向かって投げ返したが、残念ながら寸前で向こうが避けたので当たらなかった。

「ナイスピッチングとはいかんね」

「挑発してしまったのではないか?」

「かもね。――誰か、あのでかいエイリアン、なんとかしてくれない?」

「〔デカブツはデカブツに任せてくれ!〕」

 私の要請に二つ返事で応えたのはバナーだ。自信に満ちた声で言って、デカブツへと飛びかかっていく。

 スーツがかなりボロボロなのに、大丈夫だろうか。いや、なんとかなるか。映画ではなんとかなってたし。

 花びらを、サノス軍の宇宙船の上へと運び終える。立てた右人差し指を一振り。車輪は一瞬で、大量の樽爆弾に姿を変えた。

「大盤振る舞いだ」

 樽爆弾の雨が、サノス軍の宇宙船へと降り注ぐ。細長く聳える宇宙船の頂点から、接地した地面まで。

 連鎖的に爆発が起こり、宇宙船はすべからく燃え上がり、崩れ落ちていく。その中に未だ待機していた怪物たちももろともにして。

 これで無尽蔵のように湧き出していた敵の数も大幅に減っただろう。ここまでド派手に魔法を使える機会ってそうないから、ちょっと楽しいね。

「いっちょ上がり」

「マスター、あれを」

 ひと仕事の余韻に浸る隙もなく、シロがヴィジョンたちのいる建物の方を指差した。窓が割れて、赤い煙のようなエネルギーとともに何かが飛び出して落下していくのが見えた。

「〔こっちにも敵が現れたわ〕」

 無線機を通して報告するワンダ。それに対してすぐに返答したのはピエトロだ。

「〔待ってろワンダ。俺が行く〕」

「〔来なくて良い。もう終わった〕」

 余裕ある返しに、無線を聞いていた誰もが笑みを浮かべただろう。

 原作では、ワンダが席を外したタイミングを狙いサノスの部下はヴィジョンたちを襲撃した。しかしこの世界では私がいたため、ワンダが出るまでもなく車輪の処理は終わった。

 あのサノスの部下も、アベンジャーズ最恐の女には敵わない。

 ……この戦いでサノスを倒すのが一番だ。指パッチンのない世界が最も平和的である。

 五年後に、指パッチンで消えていた人間は戻る。しかしその間に死んだ者たちは戻らない。五年後に帰った人の中には、家族や恋人が自殺していた、なんて人もきっと少なくなかったはずだ。モニカ・ランボーの母が病死していたように。

 いや、そもそも、五年後に状況が転じたのは奇跡が重なったからだ。

 トニーと、彼の心を支えられるペッパーが消えなかったこと。スコットが消えず、量子空間から戻れたこと。

 私という異物がいる上で、同じ奇跡が起こるかはもはや賭けだ。それに、ストーンを集めることになれば必ず、一人が犠牲になる……。

 ……でも、本当に倒せるのだろうか。

 前世で、インフィニティ・ウォー以前のサノスを倒そうとしたことはある。しかし何度やっても駄目だった。エンド・ゲーム前のサノスを倒すことは、〝私〟にはできなかった。

 私にできるのは結果をよくすることだけで、流れを大きく変えることはできないんじゃないか?

「〔もう少しよ!〕」

 シュリの声に、私は顔を上げる。

 すでに指揮官を失い、サノス軍は潰走を始めていた。残党狩りはエムバクを指揮官としたワカンダの兵士たちと火力と範囲攻撃の優れたソーに任せ、アベンジャーズの面々はヴィジョンたちのいる建物に戻っていく。

 サノスの部下は倒した。次に来るとすれば本命であるサノスだ。

 サノスはきっと、ストーンの力でヴィジョンの傍に現れる――ロキはそう読み、スティーブが指示を出した。

 その読みは、正解だった。

 建物の外、シロとともに上空で待機していた私は、不意に空気が変わったのを感じた。

 ぬるい、妙な風が頬を撫でた。

 同じく上空で待機していたローディやサムも同じことを感じたらしく、私たちは顔を見合わせる。

「〔敵が来る〕」

 無線から、スティーブの声が響いた。

 

 

 

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