落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第七章-5「敗北」

 

 スペースストーンの青い光と煙の向こうから、サノスは姿を現した。

 映画の中では森の中に登場していたサノスだが、ヴィジョンの()()が中断されていないせいか、ラボの中に現れた。

「キャプテン、サノスだ」

「いいか、みんな。油断するな」

 バナーの言葉を聞き、現れた大男がサノスだと判断したキャップが指示を出す。

 真っ先に急襲を掛けたのはバナーだ。あのデカブツのエイリアンとの戦いで片腕を失ったハルクバスターで殴りかかる。

 しかしストーンの力でハルクバスターの姿は一瞬半透明となり、サノスの体を通り抜けた。そうして攻撃を躱したサノスは、返す刀でハルクバスターを壁の中に埋め込んでしまう。

 映画通りの展開だ。まるで相手にされていない。

 スティーブやブラックパンサーを始め、次々にこちらが攻撃を仕掛けるが、サノスはその全てをまるで意に介していない様子で撃退する。

 ストーンを五つ手に入れたサノスの前には、無力に等しい。味方のほとんどが、強力な攻撃を受けたり、アーマーの動きを封じられたりと、戦闘不能に陥っていく。

 私も魔法で攻撃を仕掛けるが、ストーンの力の前では無駄だ。火力で押して、その場で釘付けの状態にするしかない。今はとにかく、ヴィジョンからストーンを切り離す作業を成功させるのが先決。

 エネルギー切れ覚悟の、魔力の光線を放つ。ワンダもそれに合わせて光線を放った。さすがのサノスも、これにはガントレットを構え、防ぐ一方となる。

「……っ、終わった! ストーンを取り出したわ!」

「ワンダ、破壊を!」

「えぇ!」

 待ちに待っていたシュリの声が聞こえる。緊迫した声で、ヴィジョンがワンダに言った。ワンダは頷き、片手でサノスへエネルギー波を発したまま、もう片方の手を取り出されたマインド・ストーンへと向けた。

 映画と違い、躊躇いなく向けられたその強大な力。それによって、マインド・ストーンは爆発した。

 瞬間、マインド・ストーンに込められていた強力なエネルギーは爆風となって消散した。その爆風によって私の体は吹き飛び、ラボの床に転がる。

 爆風の衝撃に痛みを訴える、ほとんどエネルギー切れに近い体で、私はなんとか立ち上がろうとする。

「――正直なところを話そう」

 窓が割れ、乾いた風が吹き抜けるラボで、一人立つサノスが口を開いた。

 ワンダはストーンを壊したことで疲れ切っている様子だし、ヴィジョンは怪我で動けない。

 他の面々も、先程の爆風を受けて立ち上がれる状態になかった。

「驚いている。まさかお前たちがここまでやるとは思っていなかった。敬意を表そう」

 サノスは悠然とした足取りで、先程までマインド・ストーンのあった場所へと進んでいく。

「お前たちは時間を稼いだつもりだろう。だがその時間稼ぎも無に帰す。時間は、我が手にあるのだから」

 サノスはそう言って、吹き飛んだマインド・ストーンのあたりへとガントレットを着けた手を向けた。

 親指の付け根あたりにはめ込んだ緑の石――タイム・ストーンが輝いた。手首に、石と同色の魔法陣の環が回転する。広げた手の平に魔法陣が浮かび、サノスが反時計回りに手を捻ると、黄色い輝きがそこに再び現れた。

 時間が、巻き戻された。

「やめて!」

 ワンダが叫んで立ち上がり、駆け寄ろうとするが、サノスはそれを片腕で振り払った。ガントレットを嵌めていない右手でストーンをつまみ上げると、サノスはガントレットの最後の空白、中央のくぼみを埋める。

 全ての力が備わったガントレットのその膨大なパワーは、それを装着した本人であるサノスにまで及ぶ。六色の光がサノスの体に走り、サノスはその力に耐えるように天を仰ぎ咆哮する。

 そうしてサノスがガントレットを見やったその時。窓の外から雷撃が飛び込んできた。ソーだ。

 体勢を立て直したサノスは、飛んでくるソーへガントレットを向けて強力なエネルギーを放つが、ソーは両手で斧を思い切り投げつけて返す。

 斧はサノスが放つエネルギーを切り裂き、サノスの――胸に、突き刺さった。

 ソーはサノスの前に降り立った。サノスは胸に斧が突き刺さったまま、片膝をつく。

「言ったはずだぞ。お前を殺してやると」

 ソーはサノスの頭を押さえ、その胸に突き刺さった斧を押し込んでいく。サノスが苦痛に呻く声を上げるのを気にせず、心臓を目指し押し込んでいく。

「ううう……甘いな、甘い……」

 苦しみながら、サノスは呟く。その口元に、微かな笑みを浮かべる。

「頭を狙うべきだったな」

 カチン、と金属同士のぶつかる音。ソーが「やめろ!」と叫ぶ声。強大なパワーが使用されたことによる衝撃音と衝撃波。

 それらが同時に私を――私たちを襲った。

 たったの一瞬の出来事。勝敗は、その一瞬で決まった。

「何をしたんだ」

 サノスのガントレットは煙を上げていた。鈍い金色の美しいデザインは、融解して黒く焦げ付き、今や見る影もない。

「何をした?」

 呆然と尋ねるソーの前で、サノスは答えることなくガントレットをかざし、スペース・ストーンの力でその場から消え去った。

「ヤツは?」

 キャップが満身創痍の様子でやってきた。あたりを見回しながら、呆然とした様子のソーに尋ねる。私はなんとか身を起こした。シロが心配そうに、私を見上げる。

「ソー? どこへ行った?」

「スティーブ?」

 キャップが再び尋ねた時、バッキーの声がした。

 そちらを振り向いた時、バッキーの体はすでに手足が灰のように崩れ出しており、そのまま体全身が崩れ落ちた。ラボの床に、黒い灰と彼の持っていた武器だけが落ちる。

 スティーブがその場に膝をつく。映画(げんさく)を見ていなかったら、私にも何が起こっているのか分からなかっただろう。

 私はラボの中を見回す。

 オコエに手を差し出したティ・チャラが消え、ロケットの眼の前でグルートが消えた。ヴィジョンの腕の中で、ワンダが灰に変わる。ローディがサムを呼ぶ声が響く。

 そして。

「ナターシャ」

 壁にもたれていたナターシャに、私はよろよろと近付いた。

「ユーリ、」

 ナターシャがこちらへ手を伸ばす。その手を掴もうと、私も手を伸ばす。

 彼女の細い指が私の指先に合わさった瞬間、それがぼろりと崩れた。指先から、その崩壊が前身へ広がる。ナターシャが、灰になって、消えた。

「何なんだ? 何が起きてるんだ?」

 ローディの声が、背後で響く。

「マスター」

 足元から、シロの声がする。私はナターシャだった灰の前で、糸が切れたように座り込んだ。

「……これが――」

 ぽつり、誰にも届かないほどの声で、私は呟く。

 ナターシャだった灰のひとすくいを握る。固く握ったその拳を額に押し当て、背を丸めてうずくまった。

 やっと分かった。

 私が、ここに存在する意味を。

 

 ◇

 

 ヒーロー側で消えたメンバーは、ほぼ原作通り……というか、増えていた。

 バッキー、サム、ティ・チャラ、ワンダ、シュリ。そしてそこにナターシャとクリントが加わり、更にピエトロとロキも名を連ねていた。

 ヴィジョンは消えずに残った。額のストーンはなくなったが、力は問題なく扱える。ワンダを腕の中で失ったことにショックを受け、落ち込んでいるが、足を止めている暇はなかった。

 私たちはアベンジャーズで、ヒーローだから。ヒーローに立ち止まっている暇は与えられない。

 サノスに敗北した私たちアベンジャーズのその後は、『エンドゲーム』冒頭で描かれていた通りと言って良い。ローディを中心に、伝手を使って世界の状況を把握しようとした。

 私は宇宙へ向かったトニーたちの行方を探るために、ロケットとともに自前の宇宙船で救難信号のチェックをした。

 そのうちに、消滅したフューリー長官が最後に通信を取ろうとしていた何者か――キャプテン・マーベルことキャロル・ダンバースが地球に帰還して、宇宙を彷徨っていたトニーたちを救出した。

 ともにいたネビュラから話を聞き、サノスがいると言う〝農場〟へと向かう。

 全て、流れ通りだ。

 サノスはその星にいたが、ストーンは全て破壊された後だった。

 ロキを二度亡くしたソーは、怒りに任せサノスの首を切り落とし、戦いは終わりを告げた。私たちの負けだ。

 ――けど。

「トニー、量子物理学で量子魔術を再現することって、出来る?」

 アベンジャーズ本部の医務室のベッドで横になっているトニーに、私はベッド脇の椅子に腰かけて言った。

 トニーは数日前まで栄養失調状態でかなり衰弱していて、今だって万全の状態とは言えない。

 ……ちょっと病人に鞭打つような感じがして申し訳ないんだけどさぁ。ちなみに、ハワードは消えてなかったから、すでにアベンジャーズ本部に召喚して知恵を絞らせている。

 老体に鞭を打って働かせているのだ。病人に鞭を打つのも大差ないので何も問題はないな、よし。

「過去に戻ってサノスを倒すって話なら、無駄だぞ」

「知ってる。新しい分岐が出来るってだけで、今は変わらない。でしょ?」

 体調は万全でなくても、頭は回っているらしい。私の質問を、トニーはすぐに、私が量子魔術で過去へ行った経験があることと繋げてくれたようだ。

「量子物理学のパワーで過去へタイムトラベルして、石を集める。で、消えた人間を戻してほしいって指パッチンする。簡単でしょ?」

「言葉で言うのはな」

 トニーは肩を竦める。でも平気だろう。なんと言ってもトニー・スタークは天才だし。

「君の量子魔術は使えないのか?」

「使えるならこんな話、してないよ」

「だよな」

 苦手なんだよな、行ったことのない場所に移動したりするの。練習しても苦手だから、たぶんほんとにダメなんだと思う。ちなみに、過去へ行けたのはあれ一回きりだ。

 エンシェント・ワンは指パッチンで消えてしまったから、助言を求めることも出来ないし。

「アントマンのこと、覚えてる? 空港で大きくなったり小さくなったりした」

「ああ。ピム博士が作ったスーツだったか」

 私は頷きながら、そこまで知ってんだ、とちょっと驚いていた。

「今、そのピム博士たちを探してる。量子物理学をよく知っている人がいたら、心強いでしょ」

「心遣いありがたいね」

 トニーは皮肉っぽく返した。

 ピム博士やスコットのことは現在捜索中だ。ただ、映画通りなんじゃないかと思っている。希望的観測だけど。

「キャプテンたちには話したのか?」

「一応ね。……あれ、トニーとスティーブ、今喧嘩してたっけ?」

「してない。そんな言われるほどしてないだろ」

「えっ」

「なんだよその反応は」

「いや、なんでもない」

 アイアンマンとキャプテンの喧嘩とかアベンジャーズのお家芸みたいなとこあるじゃん。

 でもまあ、この世界、シビルウォーが比較的円満に終わったからな。二人とも原作映画内に比べたらギスギスしたりする可能性は減ってるのか。

「まあ、じゃあそんな感じだから。私たちはピム博士たちの捜索を続ける。トニーはパパ・スタークと一緒に、頭脳労働にいそしんでね」

「……待て、父が来てるのか?」

「呼んだよ。そろそろ父子二人、見つめ合って素直におしゃべりできるようになってよ」

 こいつら永遠に思春期の息子と、そんな子供との接し方が分からない父親をやっている気か? トニーとスティーブの関係が穏やかになった分のしわ寄せが、こっちに来ている気がする。気のせいかしら。

 私はトニーから文句や嫌味や皮肉を言われる前に、さっさと退室した。

 時間があったら、『見つめ合って素直におしゃべりできるようになるまで出られない部屋』を作る魔法でも考えようかな。そんな時間なさそうだけど。

 

 

 

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