落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第八章 エンドゲーム編
第八章-1「五年後じゃない」


 

 ピム博士たちが量子世界へ行く実験をしていた場所を見つけたのは、指パッチンから二週間ほどが経った頃だ。

 ちなみに、私がハワードを呼びつけ、トニーにタイムトラベルの話を持ちかけたのは一昨日のことである。今はぎこちない様子で(なかよく)タイムトラベル装置の開発を進めている。

 サン・フランシスコにある、とあるビルの屋上に置かれた量子実験の装置――というか、小汚い茶色のバンと、そこに繋がれたモニターとか機械とか。

「これか?」

「たぶんね」

 シロの問いに私は頷く。任務にあたっているのは私とシロだけだ。他の面子は他の仕事があるので。別に私たちが暇だったとかそういうのじゃないんだからね。

 映画では鼠が偶然起動させていた装置を、私が動かす。正しくは、トニーの指示で、だけど。

「見えてる?」

 私はスマホを起動させて、装置にカメラを向けた。トニーはリモート参加だ。

「〔ああ、見えてる。……なるほど、それほど難しい装置じゃない。装置の電源は入っているな? そのレバーを手前に引けば戻ってくるはずだ〕」

「りょーかい」

 装置に電気が通っていることを確認し、私はレバーを引く。

 バンの後部座席部分に設置された量子の装置が光を放って、アントマンが飛び出してきた。

「おい、みんな! 冗談きついって、……え?」

 地面に転がったアントマンは、マスクを外しながら顔を上げた。そして、想定していたであろう顔ぶれがないことに目を見開いた。

「久しぶり、アントマン。私たちのこと、覚えてる?」

 ぽかんとした表情のアントマンに、私はひらりと手を上げた。

 その後、信じられないって様子で右往左往するスコットに、私はざっくり簡単に状況を説明しながら、量子実験用機材をアベンジャーズ本部へと運び込むため、機材をまとめ始めた。

 ピム博士たちがやっていた量子実験、及び指パッチンから二週間くらい経っていると私が教えると、スコットはひどく驚いた様子を見せた。

「量子空間の中にいたけど、体感一時間も経ってないぞ。てっきり、みんながジョークで俺を待たせてるんだとばかり思ってた」

「量子の世界にこの世界のルールは通用しない。あなたはある意味、二週間後にタイムトラベルしたとも言えるね」

「それってすごく微妙」

 だからって五年後でも嫌だろうに。

「機材はこれで全部? 魔法で先に本部へ送っちゃうけど……」

「……なあ、キャシーは?」

 確認する私に、スコットからはその言葉が返ってきた。

「……キャシー?」

「俺の娘だ。キャシー。サノスってやつは、その指パッチンで生物の半分を消したって言ってたよな。俺の娘はどうなった? いや、いい。ちょっと確認してくる!」

 シロが聞き返し、スコットはひとしきり言ったあと、駆け出してビルを下りていってしまった。

「行ってしまったぞ」

「機材を本部へ送って、追いかけよう」

 これはしゃあなし。スコットはアントマンである前に、父親だもんな。

 

 ◇

 

 お家の玄関先で父娘の再会が行われているのを、私とシロは遠くから見守っていた。原作映画と違って五年経ってないので、キャシーはまだ小学生くらいだ。

 どうやらキャシーは実母と義父も指パッチンを免れていたみたいで、スコットは元妻とその現夫からもハグされていた。

 しばらくして私に気が付いたらしいスコットは、キャシーたちに別れを告げて戻ってきた。けど、キャシーたちは玄関先で見守っている。

「悪い、待たせたよな」

「いいや。良かったね、娘さん、消えてなくて」

「ああ、ありがとう。でも、ホープたちは……。……なあ、ほんとに、戻せるのか?」

「理論上は」

 私は頷く。

 頷きながら、本当に取り戻せるのか? 五年待ったほうが良かったんじゃないのか? すべての条件が揃わなければ、タイム泥棒作戦は成功しないんじゃないか? そんなことを頭の隅で考える。

 疑念は尽きない。でも、やるしかない。

 私は笑みを浮かべて、スコットの目を見た。

「大丈夫。ピム博士はいないけど、こっちにはトニー・スタークとハワード・スターク、そしてブルース・バナーがいる。三人も天才がいるんだ。なんとかなるさ」

「ハンクは、スタークは信用するなって言ってたけど……今回は信じてみるよ」

 そうして、私とシロはスコットを連れて、姿くらましでアベンジャーズ本部へと帰還した。

 

 ◇

 

 私たちがスコットを本部に連れて帰り、その二日後にはトニー達がタイムマシンを完成させた。原作映画でもトニーが作っていたあのブレスレットだ。

 アベンジャーズ本部には、ヴィジョンとスティーブ、ローディ、ソー、そしてロケットとネビュラも集まった。キャプテン・マーベルことダンバースは宇宙に戻ってヒーロー活動をしている最中だ。連絡は入れたが、すぐには来られないのだろう。

 そして今日、タイムトラベルテストが行われる。

 白をメインに赤と黒が入ったスーツを身にまとったスコットへ、ローディが声を掛ける。

 スコットの表情は少し硬い。緊張しているのだろう。一度量子空間で置き去りにされかけたし、ちょっと恐いのかもね。

「なあ、丁寧にやってくれよ」

「ああ、やってるよ。ちゃんと気を付けてる」

 ピム粒子の入った容器を、スコットが着たスーツの装置へ押し込もうとするバナーに、スコットは声を荒げた。

「そうか? なんか雑な気がする」

「ちゃんとやってるって」

 バナーとスコットは、水掛け論とも言える言い合いを始める。

「これはピム粒子だぞ。今ピム博士がこの世から消えちまって、残りはこれしかないんだ。もう作れない」

 スコットは神経質な様子で、バナーが押し込もうとした容器を手に強い口調で言った。

「スコット、落ち着け」

 ローディが口を挟んで、スコットは「悪い」と少し落ち着きを取り戻した。

「みんなが一往復する分しかないんだ。やり直しは利かない。あとテストトラベルが二回だけ」

 そう言いながら、スコットはピム粒子の容器を腰の装置に入れる。その途端、「わああ!」と悲鳴を上げて一瞬姿を消した。

「……あと一回だけ」

 誤操作したスコットは、気まずそうに言う。

「ああ、駄目だ。やっぱ俺、怖い……」

 既に量子の世界を経験しているスコットだが、不安は消せないのだろう。あとは純粋に緊張しているのかも。スコットは情けない声を上げる。

 本来ここで代打を名乗り出るのはクリントなのだが、この世界線では指パッチンで消えてしまっている。

「だったら、私がやるよ」

 私は見かねたように口を開いた。その場にいたバナー、ローディ、ネビュラ、そしてスコット、四人分の視線が向けられる。

「量子魔術での移動は経験あるし」

 スコットは迷うように口をしばらく開け閉めしていたが、「頼むよ……」と消え入りそうな声で言った。

 多分年下の女の子に任せるのは気が引けるけど、恐怖には勝てなかったのだろう。私はスコット・ラングの、こういう等身大の人間らしいところが好きなのである。

 私はスコットに代わってタイムトラベルスーツを身に着ける。

「ユーリ、時差のせいでクラクラするかもしれないが、心配ないから」

 バナーの言葉に頷く。姿現しで〝酔う〟のと同じことだろう。

「ちょっと待った。聞いていいか? 過去に戻れるんだよな? ならもっと昔に戻って、赤ん坊のサノスを見つけてさ――」

 ローディは言って、紐で首を絞めつけるパントマイムをする。

「いや、残酷すぎる」

「サノスだぜ?」

 バナーがちょっと引いた様子で言って、ローディは不服そうに言い返した。

「それに、時間の仕組みを誤解している。過去を変えても未来は変わらないんだ」

「サノスより早く俺達がストーンを手に入れればヤツは何も出来ない」

 バナーの言葉に対し、スコットがローディの言葉に同調するように言った。一応、過去を変えても分岐が出来るだけって説明したはずだが、やっぱり理解してなかったみたい。

「あんたたち、分かってないね」

 私の横でホログラムの操作盤を操作していたネビュラが口を挟んだ。

「そう習ったけど」と口を尖らせるスコットに「誰に教わった?」とバナーが尋ねる。

「『スター・トレック』、『ターミネーター』、『タイムコップ』、『タイム・アフター・タイム』……」

 ローディはタイムトラベルものの映画タイトルを次々に挙げる。スコットもそれに賛同し、『タイムマシンにお願い』を挙げる。ついでにタイムトラベルしてない『ダイ・ハード』も挙げていたが。

「タイムトラベルを扱った映画はみんなそうだ。常識だろ?」

「みんなどうして間違った思い込みをしているんだ」

 バナーは嘆かわしいと言わんばかりに首を振った。

「いいか。過去に旅するなら、その過去は君たちの未来になるんだ。そして現在のことは君たちの過去になる。新しい未来が出来ても、変わることはない」

「その通り」

 バナーの説明に、ネビュラも頷く。

「やっぱ……『バック・トゥ・ザ・フューチャー』はデタラメなの?」

 スコットはショックを隠さずに言った。

 まあ、そんなこんなで。そうして準備を整えた私は、私はタイムトラベル装置の円形の台の上へ立った。台の下でみんなが見守っている。

 シロが少し心配そうに私を見上げている。今回、シロは留守番だ。私は安心させるように笑みを返した。

「よし。ユーリ、いくぞ」

 バナーが言って、大きな指でタイムトラベル装置の操作盤を動かした。装置が起動する。台の上部に設置された鏡のような装置が動き出す。

「……三……二……一……」

 ナノ化したフェイスマスクが展開されて、頭を覆う。視界が圧縮されたように歪んだ。

 

 

 

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