落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第八章-2「タイムトラベル作戦会議」

 

 いつだったか、本で見たミクロの世界を彷彿とさせる量子の〝道〟を進み、私は体への負荷がマックスになると同時に別の場所に立っていた。

 そばの棚に手をつき、揺れる頭が落ち着くのを待つ。

 ゆっくりと正常に戻ろうとする体を立て直して、私は周りを見回した。見慣れた、懐かしい風景だった。

 清潔感に溢れた、ちょっと近未来的な内装。大きな窓から、マンハッタンの景色が一望できる。

 今はもう空き家となっている、アベンジャーズタワーの中だ。

 高い天井。階段の手すりのガラスが割れたままだ。バーカウンターのお酒の瓶やグラスが割れて、中身と一緒に散らばっている。その中で、割れずに残ったウイスキーの瓶をなんとなく手に取る。

 ここはヒドラの残党から杖を奪い返したあと、戦勝パーティが行われたペントハウスであり、ウルトロンと最初に戦った場所だろう。多分今は、ソコヴィアでの戦いが行われているか、終わったか。そのくらいの頃のはずだ。

「――ですから、報告は彼らが戻ってきてからまた。それでは」

 声が聞こえて、私は慌ててバーカウンターの陰に身を隠した。ヒルだ。

 電話を切りながら、足早に部屋の中を横切り階段を上っていった。私には気付いていない。すぐにエレベーターの止まる音が響いた。エレベーターが開き、複数人の足音が聞こえてくる。

「お疲れ様、みんな。キャプテン、ロス長官が報告しろって」

「飽きないわね、彼も」

 聞こえてきた声に、私はピクリと顔を上げる。

 そっとバーカウンターの陰から顔を出して、エレベーターの方を見た。スティーブの横に、ナターシャがいた。

 その後ろから、ピエトロに支えられてクリントが降りてくる。ワンダの姿もある。

「大丈夫か、クリント」

 気遣うスティーブに、「ああ」とクリントが短く頷く。

「おっさんは殺しても死ななそうだな」

「黙れクソガキ」

 笑うピエトロに、クリントが苦い顔をして、ワンダが小さく笑う。

 ぐっと喉奥が詰まる。今すぐ駆け出して、彼らが生きていると確かめたい衝動に駆られる。

 でもそれが出来なかったのは、手元から響いた電子音によって引き戻されたからだ。

「なんの音だ?」

 スティーブの声が聞こえる。

「誰か、タイマー掛けたまま忘れた?」

 ナターシャが言う。こちらに近づいてくる足音がする。だが、私が見つかることはなかった。

 彼らが音の正体を確かめる前に、私の体は量子サイズになって、その場から消え去ったのだろう。

 再び体への負荷を伴い、私は時間を超えた。気付いたときには荒い息を吐きながら、床で四つん這いになっていた。

「マスター! マスター、大丈夫か?」

「母上様!」

 シロが真っ先に駆け寄ってきて、私を見上げている。それに頷き返し、シロとともにやってきたヴィジョンに手を借りながら私は立ち上がった。

 心配そうにこちらを見つめるトニーを見つめ、私は頷く。

「成功だよ」

 言って、過去から持ってきてしまった年代物のウイスキーを渡した。

 

 ◇

 

「よし、次は実践だ」

 スティーブの声と同じくして、ディスプレイに〝タイム泥棒会議〟の文字が浮かぶ。それに続いて、六つのストーンがそれぞれ映し出された。

「行く先をいつどこにするか。みんな六つのインフィニティ・ストーンの内、少なくとも一つと遭遇している」

「いや……〝遭遇してる〟っていうか、〝殺されかけた〟って言ったほうがピッタリくる」

 スティーブの言葉に、トニーがペーパーカップを片手に茶々を入れる。

「俺は遭遇してない。何の話かさっぱりなんだけど」

 スコットが口を挟んだ。

「とにかく、ピム粒子は各自一往復する分しかないが、ストーンはいろいろな時代や場所に出現してる」

 スコットのことはあとにして、バナーが説明をする。

「そういうこと。で、どこにタイムトラベルしたら一番有効か……」

 トニーがバナーの説明に頷いて続けた。

「的を絞るということだな」

「ご名答」

 シロがトニーの言葉を更に引き継いだ。トニーが頷く。

「まずリアリティ・ストーンだ。ソー、情報は?」

 スティーブがソーに声を掛けた。ソーは片手に持っていたビールを呷り、緩慢な動きで立ち上がった。ビッグ・リボウスキにはなっていないが、このまま放っておけば時間の問題だろう。

「あー……何から話す?」

 ソーはディスプレイの前に立った。その体はふらついていて、彼の精神状態そのもののようだった。

「エーテルは、そもそも石じゃない。ストーンと呼ばれちゃいるが、まあ、なんというか荒ぶるヘドロみたいなもんだ。だからリアリティ・ストーンと呼ぶのはやめろ」

 ソーはそこで一旦言葉を切り、目薬をさす。

 話を続けるソーは、エーテルは元々、ソーの祖父――確かボーだっけ――がダーク・エルフから隠したものなのだと話した。

 そして元恋人であるジェーンがそのエーテルを取り込んで病気になってしまい、治療するためアスガルドに連れて行ったことを話した。

「その頃俺たちは付き合ってたから当然彼女を母に紹介した。母はもう死んだけど……。ジェーンとももう会ってない……とっくに別れてしまった……弟のロキも……ロキ……」

 ソーの声が涙声に変わっていく。精神状態が既に五年後。心は全然マイティじゃないんだよなぁ。

「……いいや、よくあることだ……永遠に変わらないものなどない」

「座ったらどうだ?」

 見かねたトニーが声を掛け、席を勧めるが、ソーは「まだ話してる」と拒んだ。

「唯一変わらないのは、永遠などないってことだ。だから……だからな、お前たち……」

 ソーは何故か、私とシロに視線と指を向けてくる。私たちは揃って首を傾げた。

「そうだ、お前たち。ユーリとシロには、永遠に相棒で、良き友人同士でいて欲しいんだ」

「ああ、どうも……?」

「なんというか……痛み入る」

 涙ぐんでいるソーに、私とシロは一応礼を言う。

 ソーは「当然のことさ」と妙に感激したような顔で、私たちの肩を叩きに来ようとする。それを見かねたトニーが、横から割り入ってソーの肩を叩いた。

 トニーはソーの大きな体を、椅子へと導いていく。

「名言だ。感動的だね。卵食べるか?」

「いや、いい。ブラッディ・マリーを貰おう」

 ソーは首を振って、イングランド女王の異名を冠したカクテルを求めた。カクテル言葉は「わたしの心は燃えている」「断固として勝つ」。

 今の状況にぴったりだネ。

 

 ◇

 

「パワー・ストーンはクイルが盗んだんだ。モラグからな」

 今度はロケットが背テーブルの上に立ち、説明を始めた。 みんなは食事をとりながらその話を聞く。

「人の名前か?」

 ローディが〝モラグ〟という名について尋ねた。

「モラグは星の名前だ。クイルが人の名前」

 ロケットが答える。

「星って宇宙にある星のこと?」

 スコットが首を傾げた。

「おいおい。なんにも知らないワンちゃんは可愛いねぇ~。宇宙に行ってみたい? なあ、行きたいか? 連れてってやるよ~」

 ロケットは犬猫を撫でるようにスコットの頭を撫でる。なんとも奇妙な光景だな。

 パワー・ストーンについての情報を聞き終えて、食事も終えて、話し手はネビュラに代わった。ソウル・ストーンについての説明だ。

「サノスはソウル・ストーンをヴォーミアで手に入れた」

「惑星のヴォーミア?」

 尋ねた私に、ネビュラは頷く。

「そう。宇宙の中心に存在する、死の惑星。そこで……サノスは姉を殺した」

 ネビュラの感情を押し殺した声に、聞いていたメンバーは表情を曇らせた。

「……そんな石、ムリだろ」

 スコットが絞り出すように呟いた。

 そして次にタイム・ストーンの話になる。話し手は私。

 ついでに言うとこれまでの話し合いと情報のまとめでみんな消耗しきっていて、その場にいたのは私とトニー、バナーだけだった。三人とも散らかったテーブルの上で横になっている。

「タイム・ストーンの持ち主がドクター・ストレンジになったのは、2017年くらいから」

「それ以前は? まさか悪い魔法使いじゃないよな? 名前を言っちゃいけないあの人とか……」

 私の説明に首を傾げたのはトニーだ。ヴォルデモートがタイム・ストーンを持っていたら流石にダンブルドアも勝てなかっただろうな。

「エンシェント・ワン。ドクター・ストレンジの師匠で、私も知ってる。博士もね。敵ではないよ」

 言いながらバナーに視線をやれば、バナーも頷く。ちょっと苦笑気味なのは、エンシェント・ワンの修行が大変だったからだろう。

「家は、グリニッジだ」

「ああ、サリバン通り?」

「ブリーカー通りじゃなかった?」

 バナーとトニーが言い合う。

「ブリーカーとサリバンの角」

 首を傾げたバナーに、私が答える。そして続けた。

「つまりある時期、ニューヨークに三つのストーンが存在していた」

 私が話をまとめると、バナーとトニーが上体を起こす。

「マジ?」

「マジ」

 二人は声を揃えて尋ねた。私は頷く。

 2012年。五月の初め。アベンジャーズの始まりの場所。ニューヨークの戦い。

 キューブの中にあったスペース・ストーンと、杖の中にあったマインド・ストーン。この二つは、戦いの中で鍵となった二つだ。

 そしてもう一つの石は、当時はエンシェント・ワンが持っていた、タイム・ストーンである。

 

 ◇

 

 計画は定まった。

 ホログラムの画面に、六つのストーンが映し出される。それらは時間及び場所ごとで三つに分けられている。

 2012年のニューヨークにあるスペース・ストーン、マインド・ストーン、タイム・ストーン。

 2013年のアスガルドにあるリアリティ・ストーン。

 2014年のモラグにあるパワー・ストーンと、ヴォーミアにあるソウル・ストーン。

 ソウル・ストーンに関しては五年前にサノスが取った以前は移動していないはずなので、宇宙繋がりであるパワー・ストーン組と同じ時間にタイムトラベルすることとなる。

 2012年へ行くのは、トニーとスティーブ、バナー、スコット。

 2013年へ行くのはソーとロケット、そしてヴィジョン。

 2014年へはローディとネビュラ、私とシロだ。ローディとネビュラがモラグへ、私とシロが、ヴォーミアへ行く。

 ハワードは現代に残り、機材の操作。

 あとは、実際に石を集めるだけだ。

 

 

 

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