落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第八章-3「タイム泥棒作戦」

 

「六つのストーンを三チームで一度に取る」

 スティーブが言った。

 全員がタイムトラベルスーツに着替えて、タイムマシン装置である台に立った。ハワードが装置をセットする。

 全員が台の上に立ったのを確認して、スティーブ――キャプテン・アメリカが口を開いた。

「数週間前、我々は負けた。みんなが――友人を失い、家族を失い、自分の一部を失った。今それを取り戻すチャンスだ。各自、任務は分かってるな。ストーンを探し、取り戻せ。タイムトラベルは一回、ミスは許されない」

 私はそっと、深く呼吸をする。みんなを見回し、キャップを見つめた。

「やり直しは効かない。行き先が馴染みの場所でも何が起こるか予測はつかない。気を付けろ。お互いを守れ。これは命を懸けた戦いだ。必ず勝つ。何を犠牲にしても」

 キャップとトニーが顔を見合わせて、頷き合う。そして全員が、円陣を組むようにタイムトラベル用のブレスレットを着けた手を出した。

「――幸運を」

 そう、キャップが締めくくる。

「スピーチうまいな」

「ほんと!」

 ちょっぴり茶化すように言ったロケットに、スコットは感激を笑みに乗せて賛同した。

「よし、始めるぞ」

 トニーが操作盤の前の父親を見る。

「……入力頼むよ、父さん」

「ああ。――追跡装置作動」

 ハワードは頷き、操作を読み上げる。いよいよタイムトラベルだ。

 私は足元のシロに視線を向けた。シロもこちらを見ていて、私は笑みを返す。

 ――じゃあ、一分後に――そう言って笑みを浮かべた〝ナターシャ・ロマノフ〟の姿を思い出し、私は同じように口を開こうとして……やめた。今更だけど、嘘を付くのは嫌だった。

 ……何を犠牲にしても。ただ、その言葉を口の中で唱える。最期にもう一度、みんなの顔を見回した。

 左腕の装置のスイッチを入れる。

 再び、過去へ。

 円陣を組んだ台の中央に量子の穴が開き、私たちの体はそこへ吸い込まれるように小型化し、時空を超えた。

 

 ◇

 

 2014年のモラグへタイムトラベルした私たち。

 私は魔法で格納していた宇宙船を出した。ヴォーミアの座標は、ネビュラが入れてくれる。

 準備が整って、私とシロは二人に別れを告げる。

「気を付けて」

「ストーンを取って戻る。楽勝だ」

 私の言葉に、ローディが頷く。

「これで片付けよう」

「ああ。じゃあ、また後でな」

 ローディは不安を笑顔の下に隠し、私たちを順に見た。

 私たちは二人に背を向けて、宇宙船のハッチへと進む。

「互いに守るんだぞ」

 背中へ掛かった声に、私たちは振り向いて頷いた。軽く手を上げて、慣れた宇宙船へと乗り込む。

 背後でハッチが閉じ、私とシロはそれぞれ操縦席に座る。操作盤をタッチし、操縦桿を握る。宇宙船が浮かび上がって、一直線に近場のジャンプポイントへと飛んだ。

 あとは滅多なことが起きない限り、自動操縦でヴォーミアへ行ける。宇宙海賊に襲われるとか、小惑星にぶつかるとか、そういうことがない限り。

「まさか、世界を救うために時間旅行までするとはな」

 シロが笑った。私も、笑みを浮かべる。

 

 ◇

 

 宇宙船は問題なく、無事にヴォーミアへと辿り着いた。

 球体状の惑星には、ガスが取り巻いているように見えた。

 ある地点から紫色の光がまっすぐに宇宙空間へ放射されていて、惑星の向こうには金環日食のように遮られた恒星が見えている。幻想的で、美しい風景が、宇宙船の窓の向こうに広がっていた。

 暗く、水場の多いその星へ、私たちは上陸した。惑星の中で唯一と言っていい山岳を登る。

「この星はおかしい。太陽がないのに、寒くない。寒くないのに雪がある」

「宇宙の不思議を自分の常識に当て嵌めて考えるなってことなんじゃない?」

 薄っすらと雪の積もる山岳を登りながら、シロの言葉に、私は適当に答える。シロが本気で言っているのか、冗談半分なのかよく分からない。

 そうして山の中腹ほどに差し掛かった時、男の声が響いた。

「よく来た」

 私とシロは反射的に臨戦態勢へ入る。相手に敵意がないと分かっていても、思わずだった。

 声は私たちに呼びかけた。私とシロの名を呼び、私の父の名も、シロの元となったラシューカの魔法使いの名も知っていた。

「何者だ」

「案内人と思うがいい。ソウル・ストーンを求める者たちを導く」

「ならば場所を教えてくれ。自力で行く」

 シロの言葉に、案内人は影の中からその姿を現した。

「生憎だが、そう簡単にはいかない」

 黒いマントを着込んだ赤い骸骨……それが一番分かりやすい説明だろう。歩き方は足を使っているように見えない。私はその姿に、『ハリー・ポッター』の吸魂鬼を思い出す。

 こちらへ来いと言わんばかりに先を行く案内人に、私たちは顔を見合わせ、しかし大人しくついて行った。

 山を登り辿り着いたのは、巨大な二本の石の柱がそびえ立つ、崖の上だった。崖の向こうに広がるのは、オレンジとも紫とも言えない、不思議な色合いの光が雲間を染め上げた絶景だ。

「お前たちが探しているものは目の前にある。恐れているものもな」

 私は崖から数メートル手前あたりで足を止め、その景色を臨む。

「ストーンはこの下」

 足元に来たシロへ言うでもなく、私は呟いた。

「手にできるのは、どちらか一人。ストーンを手にするには――愛する者を手放さねばならん。ソウル・ストーンを得るには……魂と、引き換えだ」

 妙に生温い風が、崖の上を通り抜けていった。

 映画の中では、ここにはナターシャとクリントが訪れていた。そして同じ話を案内人から聞き、揉めに揉めた挙げ句、ナターシャが身を投げた。

 ……さて、この世界、この状況では。

「マスター、君は――こうなるということを最初から知っていたな……!」

 目を大きく見開いて、シロは言った。私はそれを見下ろす。

「正直賭けもあったけどね」

 私は苦笑交じりに返した。シロの言う最初がどこを指すのかは、正直よく分からない。

 私ができる限りみんなを救うと決意したときか、それともサノスの指パッチンで宇宙の生命半分が消えたときか、はたまたこのタイム泥棒作戦の始まりか……。

 何にせよ、私の考えは既に、シロに伝わっているだろう。そんな顔を、しているのだから。

 私は彼が動くより先に、魔力を操った。シロの足元の地面が蠢き、その足を地面に縫い付ける。魔法で、シロが魔法を使えないようにする。

 シロはそれを見、感じ取り、慌てたように口を開いた。

「駄目だ……駄目だ! 俺が行く! 君は生きなければならない! 母君なら、君の、母君なら、」

「仕方ないって言うよ、きっと」

 私は崖へと数歩進んで振り向き、努めて笑みを浮かべ答えた。これが最善なんだ。これが私にとって、〝正しいこと〟なんだ。

「私は、君がいたからヒーローになれたんだ。ヒーローになろうと思えたんだ。君がいなかったら、私はアベンジャーズたりえない。これまでも、これからも」

 魔法のきっかけはシロだった。ルーン魔術や量子魔術も、きっかけであるシロがいなければ使えなかった。

 シロがいなければ、私はただの人間だった。シロがいなければ、アベンジャーズに勧誘されることもなかった。こうして、みんなを救うって決意することも、なかった。

「俺だってそうだ。君がいなければ、ヒーローにはなれなかった。君が魔法の楽しさを教えてくれた! ただの兵器だった俺に、生きる意味を与えたのは君だ!」

「……そんなこと言わないでよ」

 揺れてしまうじゃないか。

 ぐっと喉奥が引きつって、目の奥が熱くなる。こらえるように、私は笑みを浮かべた。

「シロさん、君はいいやつだ。だからきっと、この件が終われば相棒はすぐに見つかる」

 私の言葉に、シロはただただ首を振った。ちぎれないかと心配になるほどに。

「でも……だから、今から君に使う魔法は、私のちょっとした未練もあるんだ。……この戦いが終わるまでは、君の相棒は私だからね」

 手を胸の前に差し出す。手のひらの上、白い花びらが広がり、一輪の花になる。

 この数週間、私がシロにも内緒でこっそりと組んできた、魔法術式。

 花びらは月のような淡い光をまとい、雨粒のような紋様が花びらの表面を揺らす。潮の匂いの入り混じった風が、私の髪を、シロの体毛を撫でた。

 一輪の花は五枚の花びらとなり、風に吹かれてシロの周囲を舞い飛び、そしてシロの体へと入っていった。

 これは私が死んだら発動される、魔法術式。

 一時的に、シロがシロだけで魔法を行使出来るようにする術式だ。魔法核(シロ)に、魔力を作り出す〝炉〟を与える。

 使い方はきっと大丈夫だ。ずっと私が魔法を使うのを感じ取っていたわけだし、日本でマグマへ落ちそうになった時も、ちゃんと使えていた。

 サノスとの戦いが終わり、()()別れのシーンが訪れる程度までは、術式の効果が保つように組んだ。

 その先は、これまでと同じで〝相棒〟がいなくては魔法は使えないけれど、戦いが終わったあとならゆっくりと〝相棒〟を探すことも出来るだろう。

 〝あのシーン〟でどうするかは、シロ次第になるけれど、きっと彼なら察してくれるだろう。また賭けだ。でも今回の賭けは、指パッチンで消えない方に賭けるよりかは勝算があった。

 母が私を信じてくれたように、私も彼を信じよう。

 ――ユーリとシロには、永遠に相棒で、良き友人同士でいて欲しいんだ。

 こんなときに、ソーの言葉を思い出した。でも、大丈夫だよ。私たち、きっと、死んだって相棒で、友達だからさ。

 私の相棒。長く、短い六年間は、君のお陰だ。

「じゃあね、シロさん。君は君のため、正しいことをして。それと……」

 私は、精一杯の笑みで。

「楽しかった!」

 そうして、シロに背を向けて私は駆け出した。

 死ぬのは怖くないなんて、そんなことはない。死ぬのは怖い。死にたくない。

 でも、友だち(シロ)を失うことのほうが、失って後悔することのほうが、ずっと怖い。魔法が使えるとか、使えないとか、そんなのどうでも良くて。消えた人々を取り戻すとか、そんな使命を抜きにして。

 私はただ、君を失いたくないのだ。君が永遠に、私を失うことになったとしても。

 この戦いが終わるまで、どうか私を覚えていて。

 この戦いが終わったら、どうか私を忘れて。

 私が君と一緒で幸せだったように、君も誰かと、幸せになって。

 シロの叫び声が、背中を追ってくる。それを振り払って、私は地面を蹴った。

 体が宙に浮かぶ。目の前を、シロだけじゃなくて、スティーブやトニー、ソー、ナターシャ、クリント……みんなの顔が埋め尽くした。魔法を使ってもいないのに、一瞬体が浮かんで、時間が止まったような感覚になった。

 その直後、体は落下していく。目を閉じると、そこは〝家族〟との思い出でいっぱいになった。

 

 ◇

 

 声が枯れるほどに、叫んでいた気がする。

 シロが気が付いたときには、その体は水の中にあった。周囲を取り巻いていた崖上の風景は、水に覆われた平地となっていて、シロは呆然とその景色を見つめた。

 金環日食のような恒星が雲間に浮かんで見える、ヴォーミアの景色。自分がどうやってあの崖上からここに来たのか、分からなかった。

 ただ、その手にいつの間にか握っていたものが、これまでの悪夢のような出来事が夢ではないことを示していた。

 開いた手に乗っているのは、光を帯びた、橙色の宝石。ソウル・ストーン。シロが、相棒と引き換えで手にした石。忌々しくも、捨てるわけにはいかない石。

 この石が。そしてシロの中に渦巻いた、これまで相棒越しにしか感じ取ることのなかった魔力生成の奔流が。確かにユーリがこの世から去ったことを示していた。

 目を固く閉じる。ぶるりと体を震わせて、体毛から滴る水を落とす。

 立ち止まっている暇は、ない。

 涙を流すのはあとだ。

 シロはしっかりとソウル・ストーンを握り、腕に巻き付けたタイムトラベル装置を操作した。

 ……未来に戻った時、何食わぬ顔で君が隣に立っていればいいのに。

 

 

 

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