落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第八章-4「取り戻す」

 

 シロは過去へと向かうときそうしたように、量子の世界を通って2018年の現在へと戻ってきた。

 円形の台の上に、過去へ飛ぶ前と同じようにメンバーが並んでいた。シロの隣にいた、ユーリ以外のメンバーが。

 戻ってきたメンバーたちは、タイムトラベルスーツとマスクを消す。

「全員戻ったか?」

「上手くいったってことか?」

 嬉しそうな顔をするバナーやローディ。他のメンバーも。その中で、シロだけが暗い顔をしていた。

「ユーリは?」

 スティーブが問う。シロはただ、項垂れた。その様子で、その場の誰もが犠牲を悟った。

 誰も、何も、言うことは出来なかった。

 

 ◇

 

「彼女の家族は?」

 アベンジャーズ本部の敷地内にある湖畔。その桟橋の東屋で、トニーがポツリと尋ねた。

 その場には、指パッチンで消えずに残ったアベンジャーズの初期メンバーの面々、そして彼女の息子であるヴィジョンがいた。

「日本に叔父がいる。そして、僕たちだ」

 スティーブが答えるのを、シロは無言で聞いていた。

 ユーリのためにも、先へ進まなければならない。石を使い、消えた人々を取り戻さなくてはならない。

 分かってはいるが、足を止め、思考を止めたその隙間を縫うように、彼女の姿がシロの頭を埋めた。今だけは忘れるべきだと分かっているのに。

 忘れられるはずがなかった。今でも、隣を見れば彼女がそこにいるような気がしてしまうのに、忘れられるはずがなかった。

「ユーリが死んだからって、落ち込むことないだろう。ストーンは手に入った。ストーンが六つ揃えば生き返らせることが出来るんだ。そんな辛気臭い顔はやめろ」

 ソーが、ことさら明るい声で言った。その空元気とも言える声は、皆を励ますためだとシロには分かったが、それでもその声が癇に障った。

 苛立って、苛立ちのまま口を開いた。

「生き返らない」

 シロはきっぱりと言った。

「何を言ってるんだ」

 理解できないという様子で振り向いたソーを、シロは半ば睨むように見上げた。

「元には戻らない。無理だ」

 もう一度言ったシロに対して、ソーは笑い出す。

「理解出来ないかもしれないが、これは宇宙規模の魔法の話なんだ。無理って言い切るのはどうかと思うぞ」

「魔法の話ならば、この中では俺が一番分かっている。〝等価交換〟なのだ。魂の代わりは、魂しかない。その等価を、取り戻すことは出来ない。たとえ、生命の半分を消すほどの力でも」

「そんなことない。今だけだ」

「元には戻らないのだ!」

 声を荒げたシロに、ソーは言葉を失った。

「あそこにいた、赤い男もそう言っていた! 信じられぬなら聞いてくればいい! そのハンマーでなんとかしてみたらどうだ!」

 誰もその悲痛な叫びを、止めるものはなかった。

「……等価に差し出されるべきは、俺だった」

 犠牲になるべきだったのは、自分だ。彼女が飛び降りる前から、今もずっと、シロはそう考えている。

 しかし、彼女の考えが正しくなかったとも思いたくはなかった。――彼女がこの世界に俺を残した意味が、必ずあるはずだ。そう思いたかった。

「母上様は、ストーンを手に入れるため、命を捨てた……」

 ヴィジョンが静かな声で言った。その言葉に、バナーが東屋の柱を殴りつけた。

「……彼女は戻らない。ユーリのためにも、やらなければ」

 バナーは振り向き、その場にいた面々へ言った。椅子に座り、うつむいていたスティーブが顔を上げ、立ち上がる。

「必ず」

 答えたスティーブの目には、悲しみの色が残りながらも、強い光が宿っていた。

 

 ◇

 

 ストーンの力を使うため、トニーとハワード、バナー、ロケットによるストーンのパワーを使用する装置の製作が始まった。

 設計はハワードが主導だ。

「ユーリから頼まれていた。タイムマシンを作りながら、ユーリから受け取ったストーンに関する資料を元に設計を進めていたんだ」

「ユーリが?」

 七割完成した設計図を見せながらハワードが言い、向かいにいたトニーは首を傾げる。

「サノスはストーンの力を一人で使っていたらしいな。そして、タイタン星人というのは地球人より遥かに頑強な種族だとも聞いた。そんなタイタン星人でも二回ストーンの力を使って体がボロボロになっていたと。地球人がストーンの力を使えば、どうなるかは想像がつく。だから、ガントレット以外でストーンのパワーを使える装置を作れないかと相談されていたんだ」

「……僕は何も聞いてないが?」

「……私からトニーに話すようにと言われていた。……タイムマシンを作っていて、なかなか機会がなくてな」

 ハワードは言い訳するように言って、トニーを見た。

「……今更だが、こうして息子と共に研究や開発が出来ることを、とても嬉しく思う」

「……本当に、今更だな」

 二人は、どこかぎこちない笑みを浮かべて見つめ合う。

 そんな親子の感動的な会話を終わらせたのは、「あー」というロケットの気まずそうな声だった。バナーも困った様子で微笑んでいる。

「本題に戻ってもいいか?」

「ああ」

「失礼、お二人さん」

 ロケットの言葉で、ハワードとトニーはパッと視線を切って、設計図へと意識を向けた。

 そうして始まった四人の技術者による装置の開発は、思っていたよりスムーズに進んだ。

 ユーリが遺した、宇宙各所で集めたストーンに関する資料はもとより、ロケットがかつて、パワーストーンの力を複数人の協力で分散し抑え込んだという経験が鍵になった。

 六つのストーンの嵌ったガントレットが一つ。一人がそれを身につけ、他の面々はそのガントレットに繋がれた装置をそれぞれ装着することになる。六つのインフィニテイ・ストーンのパワーを複数人で分散させることにより、負担を減らす作戦だ。

 そして、製作が始まって二日。ラボに用意されたその完成品を前に、全員が集められた。

「装置は準備できた。あとは誰が指パッチンするかだ」

 特殊なライトのようなものが照射された専用の台座に置かれた赤いガントレットを前に、ロケットが言った。

 パワーは分散されるとはいえ、一番負荷を受けるのはガントレットをつけるやつだ、とロケットは説明する。

「俺がやる。大丈夫だ」

 ソーが真っ先に名乗り上げた。酒が抜けているのか、いないのか、ふらついた体でガントレットの方へ近づこうとする。

 しかし、他のメンバーが「待て」と慌てて止めに入った。

「ソー、ちょっと待て。誰がやるかはまだ決めてない」

「じゃあどうするんだ。何もせず、ただ待ってるって言うのか?」

 スティーブの言葉に、ソーは堪りかねた様子で返した。スコットが「せめて話し合おうよ」とソーをなだめる。

「いいか。じっとストーンを見つめてたって、誰も生き返りはしない。――俺は、アベンジャーズで一番強い。だからこれは俺の役目だ。俺の義務だ」

「待て、そういう問題じゃない」

 力説するソーに、トニーが食い気味で待ったをかけた。聞き取れない程度に何事か言い合いかけた時、ソーが「黙れ!」と声を荒げた。その必死な声に、止めていた面々が口を閉じる。

「いいから……頼む。やらせてくれよ。……何か、正しいことをやらせてくれ……」

 ソーは目の前のトニーを真っ直ぐに見つめ、懇願するように言った。

「いいか、ガントレットには莫大なエネルギーが宿る。今の君の状態じゃ、とても無理だ」

 トニーも真っ直ぐに見つめ返し、丁寧に説明して止める。しかしソーは、それでも納得しない。

「今、俺の血管の中を何が駆け巡っていると思う?」

「ビールとブラッディマリー?」

 ソーの言葉に水を差したローディのジョークに対し、ソーは「黙っていろ」と言うように人差し指を立てる。そしてその手を、トニーの肩に置いた。

「稲妻だ……稲妻……」

 熱く語るソーに、トニーは「ああ……」と頷きながら、どう説得したものかと悩むような顔つきをした。

「稲妻じゃ駄目だ」

 ソーを止めたのは、それまでじっと黙っていたバナーの言葉だった。

「僕がやる。ストーンのパワーはガンマ線だ。僕にとっては体の一部――僕の役目だ」

 決意の籠もった表情で言ったバナーに、全員が納得し、その任務を託すことにした。

 

 ◇

 

「用意はいいか」

 トニーが緊張した様子で尋ねる。

 ガントレットを手にしたバナーは「始めよう」と冷静な声で頷いた。

「分かってるな。サノスが指を鳴らして消した人々を取り戻すんだ」

「分かってる」

 トニーの確認に、バナーは頷く。

 集まった全員が戦闘用のスーツを身に着けていた。スコットとローディはスーツのマスクを装着し、トニーはエネルギーシールドを手にする。スティーブも盾をベルトを締め直した。

 そして、まずバナー以外の面々――トニー・スティーブ・ソー・シロ・ヴィジョン・ローディ・スコット・ロケットの八人が、ガントレットに繋がっている装置を装着する。ハワードは、年齢的にやめろとトニーとスティーブに止められ、渋々別室で待機している。

「〔フライデー、バーン・ドア・プロトコルを実行〕」

「〔はい、ボス〕」

 バナーのアイコンタクトを受け、トニーがアベンジャーズ本部全体を管理するAI――フライデーに命じる。フライデーはそれに応え、ラボをはじめとする本部全てのシャッターが閉じられた。

「みんな帰ってくる」

 バナーは言って、ガントレットを右手に近づけた。ガントレットは音を立てて広がっていき、バナーの手を包んでいく。皆が固唾を呑んで見守る中、ガントレットがしっかりとバナーの手を包みこんだ瞬間、ガントレットを六色の光が駆けた。

「ぐ、ぅうっ!」

 電流のような光はガントレットから、バナーの腕へ、体へ、そして繋がれた他のメンバーの装置へと流れていく。バナーの肌に、緑色が混じる。バナーは苦悶の声を上げ、他のメンバーたちもそれぞれ体を襲う痛みに声を上げた。

「……っ、ぁぁあ!」

 バナーは辛そうな声を上げながら、ガントレットのエネルギーに耐えて腕を持ち上げ、ひときわ大きく叫び、親指と中指を弾いた。

 バチン、と光が弾けた。

 瞬間、バナーはその場にくずおれた。分散させたとは言え、莫大なエネルギーによって右腕は焼けて、煙を上げている。ガントレットは外れて床に落ちた。皆がバナーに駆け寄る中、スティーブが安全を考え、ガントレットを蹴飛ばして皆の輪から離す。

「ブルース!」

「動かすな」

 トニーがスーツの冷却スプレー機能を使い、ストーンのエネルギーで焼け上がったバナーの右腕を冷却する。そばに駆け寄ったヴィジョンの腕を、バナーは朦朧とした様子で掴む。

「成功か?」

「まだ分からない。しっかりしろ」

 バナーの問いに、ソーが答えながら、励ましと労りを込めた様子で額を撫でた。

 フライデーが、命じられること無く締め切っていたシャッターを開いた。外の明かりが室内へと差し込んでくる。外で待機していたハワードが入ってきて、バナーたちに駆け寄った。

 近くのテーブルの上で、誰かのスマートフォンが鳴った。外を確認するため窓辺へと近づいていたスコットが、その画面に目を向けた。そこにあったのは、〝クリント・バートン〟の文字。

 指パッチンで家族とともに消えた彼は、戻ったことで異変に気づき、連絡を取ってきたのだ。

「成功したようだ……」

 シロもスコットと同じように窓辺へ向かい、小鳥が飛ぶ様を見、差し込んでくる日差しを浴びながら言った。

 シロは顔を上げる。そこにいたのはスコットで、たまたまこちらを振り向き、目の合った彼は嬉しそうに笑っていた。その笑みに笑みを返しながら、シロは視線の先にユーリがいない事実に愕然とし、絶望した。

 ――この景色の中に、君もいて欲しかった。

 その絶望も、何もかも。全てを吹き飛ばすように。

 シロの目の前のガラスが衝撃波によって割れ、シロの体は吹き飛ばされた。

 それだけではない。砲撃による爆発で、アベンジャーズ本部の建物はあっという間に煙と炎に包まれて、崩壊を始めた。

 

 

 

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