落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について   作:緑茶山

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第八章-5「最終決戦」

 

 ――起きて。

 もう覚えてすらいない誰かの声で、シロは目覚めた。誰だったのか分からない。ただ、ユーリではないことだけは確かだった。ともかく、シロは赤い光が照らす暗闇で目を覚まし、一瞬の後、状況を思い出した。

 ストーンで消えた人々を取り返したが、謎の爆発で吹き飛ばされた。そして今、シロはここにいる。おそらくは本部の地下階だ。壁は崩れ、土砂と見分けが付かなくなっている。しかし幸いにも、通路に繋がっている場所へ落ちたようだった。

「建物の耐久性に問題ありだな」

 なんとか体を持ち上げつつ、シロは一人冗談を口にする。答える者はない。

 ユーリがやっていたように、灯火の魔法で周囲を照らす。「誰か!」と声を上げるが、声がこだまするだけで返事はなかった。

 周辺を見回す。答えられないだけで、誰かがいるかもしれない。

 そうしてシロは、自身が倒れていた場所からほど近い場所に、ストーンがはまったままのガントレットが落ちていることに気が付いた。両手でそれを拾い上げる。装置に繋ぐコードは先程の衝撃で外れてしまったようだった。

 何が起きたかは分からないが、おそらくは襲撃だ。相手が誰かは分からないが。何はともあれ、少なくとも、ガントレットはこんな瓦礫と一緒に放置しておいても良い代物ではない。

 拾い上げた時、シロは背後に何かの気配を感じた。ゆっくりと振り向き、魔法の灯火を光の矢に変え、背後へと飛ばす。光が通路を通り抜け、そこにいた怪物たちの輪郭を闇の中に浮かび上がらせる。

 シロはそれを視認した瞬間、魔法で作り出した紐を使い、ガントレットを背中に括り付けた。それと同時に、怪物たちと反対側へと走り出す。その怪物は、数週間前にワカンダの地で戦ったサノス軍の怪物たちと同じ姿だった。

 なぜ。

 サノス軍はあの時倒したはず。残党がいたとして、頭目のサノスも、その直属らしき部下ももういないはず。これほどまでの砲撃を行えるほどの勢力が、残っているだろうか?

 考えながら、シロはともかく通路をひた走った。

 通路の構造から、大まかな場所を把握する。この先へ行けば、地上階まで真っ直ぐ上れる穴があるはずだ。

 シロは通路に、魔法で時限爆弾を仕掛けつつ走る。追ってくる怪物たちがその地点を通り抜けるとほぼ同時に、それは爆発した。

 通路の切れ目へと駆け込むシロの背を、爆風が押した。シロはまたも衝撃波を受け、金網の上に転がる。湖から水が入り込んでいるらしく、体が水で濡れた。シロは間髪入れず起き上がる。

 爆発による炎と煙が残る通路からは、まだ怪物たちが湧き出してきた。シロは上へと目を向けた。地上階まで穴が通じている。シロは迷わず地面を蹴った。体が浮き上がり、地上階を目指して一直線に飛ぶ。

 怪物たちは、俊敏に壁を這ってシロを追ってくる。シロは空中に魔法で作り出した剣を射出し、襲いくる怪物たちを次々に撃ち落とした。

 シロの体はあっという間に地上階へと飛び出した。床に転がったシロは、同じように怪物たちが飛び出して襲いかかってくると想定し新たな剣を作り出したが、先ほど撃ち落としたのが最後だったらしい。怪物の姿も、足音もなかった。

「はぁ、はぁ……」

 床に倒れ込み、シロは紐を一旦解いた。緊張で息が上がっていた。

 何者かの気配に、閉じていた目を開ける。傍に青い肌の女が立っていた。ネビュラだ。

「ああ……君か」

 ほっと息を吐き、彼女から伸ばされる手に抵抗することなくガントレットを渡す。まだ油断は出来ないが、仲間がいるのは心強い。

 何が起こったのか知っているか、尋ねようとしたその時、ネビュラがガントレットを手に、無線機を繋いだ。そして信じられない言葉を口にする。

「父さん」シロははっと目を見開いた。「ストーンを手に入れたわ」

 ネビュラはシロの困惑など無視して、無線機の向こうに語りかける。ネビュラの父はサノスだ。死んだはずの男だ。それなのに、なぜ。

 体を起こそうとするシロを、ネビュラは足で踏みつけ、押さえつけた。そしてホルスターから銃を抜き、シロへと向ける。

「そこまでよ」

 その言葉は、ネビュラの背後から届いた。シロがそちらへ視線を向ければ、緑の肌の女がネビュラへと銃を向けて牽制している。見覚えのある女だ、とシロは記憶を探る。

 写真で見たのだ。たしか、サノスの娘の一人。ネビュラの姉で、サノスにヴォーミアへと連れて行かれ、帰ってこなかった。名前は、ガモーラ。

 ネビュラはそれに対し、シロの体に置いていた足を退け、シロから銃口を離さないままガモーラの方を向いた。

「私たちを裏切る気?」

 ネビュラは問う。ガモーラが出てきた隣の通路から、両手を上げたもう一人のネビュラが現れる。こちらが未来の――シロたちのよく知るネビュラだろう。

 過去から来たネビュラは、シロへと向けていた銃口を未来のネビュラへ向ける。シロはその隙に起き上がって間合いをとり、臨戦態勢に入る。

「こんなことは止めて」

 未来のネビュラが、過去のネビュラへ説得を始めた。部外者であるシロは、黙ってことの成り行きを見守るだけだ。

 ガモーラは、元々はサノスの部下だったそうだ。しかしガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの面々と出会ったことで変わり、サノスと手を切ったとシロは聞いていた。

 未来のガモーラはユーリと同じく、ソウル・ストーンのために犠牲となったはず。このガモーラは過去のガモーラであり、彼女もまた、未来のガモーラと同じくサノスから離反したのだろう。

 未来のネビュラとガモーラは、過去のネビュラへと語りかけるが、過去のネビュラは泣きそうな顔で「父さんが許さない」と答え、銃を下ろしていたガモーラへと銃口を向けた。

 過去のネビュラが引き金を引くより早く、未来のネビュラが引き金を引いた。過去のネビュラの心臓に穴が空き、彼女は背後の壁にもたれるように座り込み、永遠に動かなくなる。

 ガントレットは過去のネビュラの手から落ち、シロはそれを拾い、再び背に括り付けた。……感傷に浸っている暇はないのだ。

 ネビュラとガモーラとともにシロが外へ出た時、煙によってすっかり薄暗く、荒野のような戦場となってしまった本部の土地に、サノス軍が現れていた。

 青い光が空から滝のように降り注ぎ、その中からサノス軍が次々と出てきていたのだ。ワカンダで倒したはずの、直属の部下らしき女や大男たちの姿もある。

 ワカンダで迎え撃ったサノス軍以上であろう、全軍だ。多勢に無勢かと思われたその時、無線が繋がった。

「〔キャプテン、サムだ。聞こえるか?〕」

 無線の向こうから聞こえるのは、指パッチンで消えた内の一人、ファルコンことサム・ウィルソンの声だ。

「〔左から失礼〕」

 その声に促されるように、シロが戦場にキャプテン・アメリカの姿を探した時、真っ先に見えたのは、オレンジ色の火花のような光だった。一点から小さく弾けていたその火花が、やがて大きな円を描き、その円は別の場所とこの場所を繋げる。

 円から現れたのは、ワカンダ王国のティ・チャラ。その両脇を、オコエとシュリが続く。そしてその上を、サムがファルコンの翼を広げて飛び出してきた。

 円はその一つだけではない。次々と魔術の円が開き、ヒーローたちが現れる。タイタン星で消えたドクター・ストレンジやスパイダーマン、ワカンダで消えたナターシャやバッキー、ワンダ、ピエトロ、ロキ。大勢の魔術師やワカンダの兵士たちも姿を現した。クリントやペッパーも、魔術の円を通って駆けつけた。

 そして極めつけに、瓦礫の中から巨大なアントマンが登場した。その手の平から、バナーやローディ、ロケットたちも出てくる。

「アベンジャーズ――」

 戦場に、キャプテン・アメリカのよく通る声が響いた。どこからともなく飛んできたソーのムジョルニアが、彼の手に収まる。

「――アッセンブル」

 その掛け声とともに、この場に集ったアベンジャーズの全軍が、一斉にサノス軍へと走り出した。

 

 ◇

 

「キャプテン! ガントレットはどうすればいい!?」

 ガントレットを背負ったシロは、魔法や自身の腕で敵を薙ぎ倒しながら、無線でキャプテンに尋ねた。

「〔できるだけ遠くへ運んでくれ!〕」

「〔駄目だ! 元々あった場所へ戻さないと〕」

 キャプテンの指示に対し、トニーが反論する。しかし、過去へ飛んだときに使ったタイムマシンの装置は、既にサノスによって破壊されてしまっていた。

「〔タイムマシンはあれだけじゃない〕」

 無線の向こうでスコットが言う。戦場に、クラクションの音で何かの曲のワンフレーズが高らかに響く。それを耳にしたキャプテンが尋ねた。

「〔誰が茶色の汚いバンを見たか?〕」

「〔ええ! とんでもないところにある!〕」

 アスガルトの女戦士・ヴァルキリーが、ペガサスに乗って上空から返事をした。

「〔スコット、あとどれくらいで起動出来る?〕」

「〔十分ってところ〕」

 トニーの問いに、スコットが答える。

「〔続けろ。ストーンを持ってくる〕」

「〔了解、キャップ〕」

 キャプテンの言葉に答えたのは、スコットの恋人であり、ピム博士の娘で助手のホープだ。シロはとにかく、先程クラクションの音が鳴った方向へ向けて駆け出した。

 それを阻もうと、次々に敵が襲いかかってくる。その敵たちを、シロは大きくした腕で、あるいは魔法を駆使しながら退けた。しかしあまりに数が多く、足止めを食らう。ときおり、背中に括り付けたガントレットへ敵の手が伸ばされ、シロは集中しきれずにいた。

「シロ!」

 そこへ、ブラックパンサーが敵を倒し、すり抜けながら駆け寄ってくる。

 シロは呼び掛けに応え、魔法を使った。

「陛下!」

 風がシロの背で渦巻き、ボールを真っ直ぐ飛ばすようにガントレットを包んで飛ばした。ガントレットはブラックパンサーの手に収まる。

「頼みます!」

「任せろ!」

 答えながらバンを目指すブラックパンサーへと敵が殺到しようとするところを、シロが魔法で吹き飛ばした。

 露払いされた戦場を、ブラックパンサーが駆け出す。それを、大剣の柄を繋いで作ったような大きな武器が飛んできて阻んだ。その武器はブーメランのように持ち主の元へ帰る。持ち主――サノスの元へ。

 転がったブラックパンサーへ、サノスが襲いかかろうとする。そこへシロが立ちはだかった。

 ――こいつがいなければ、マスターが死ぬことはなかった!

 サノスはシロの姿に、足を止める。

「俺から全て奪ったお前を、俺は許さない」

「お前が誰かも知らない」

「知ることになる」

 魔力の奔流を感じる。

 空中に時空の歪みが現れて、そこから数多の武器の切っ先が輝いた。

 

 

 

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