薄暗い路地の奥から、湿った風が吹き抜ける。そこには錆びた金属と廃油、そしてどこか甘ったるい腐敗臭が混ざり合っていた。
俺の名はクジョウ。
新マクロス級超長距離移民船団、マクロス7。その居住区画シティ7の最下層、未認可居住区「アクショ」。
地図の上では単なる空白地帯。だが、ここには確かに人間が住んでいる。俺のような、親の顔も知らぬドブネズミたちが。
物心ついた頃には、俺はもうこの灰色の世界の一部だった。今日を生き延びるために残飯を漁り、明日を迎えるためにボロ布に包まって震える。それが俺の日常、俺の世界の全てだった。
かつてここがアニメ『マクロス7』の世界だと気づいた時の衝撃は、空腹の痛みと共にすぐに消え失せた。
銀河を旅する巨大移民船? プロトカルチャー? そんな壮大な設定など、今日のパン一枚にもなりはしない。
俺にとってのマクロス7とは、輝かしいドーム球場や美しい公園ではなく、頭上遥か高くに広がる配管の迷路と、踏みしめるコンクリートの冷たさだけだった。
だが、ある時、俺はこの吹き溜まりに奇妙な「熱」があることに気づいた。
アクショの路上。ドラム缶で焚き火を囲む連中の前や、人通りの多い地下鉄の換気口付近。そこには常に、音を奏でる誰かがいた。
ボロボロのアコースティックギターを抱えた男、壊れかけたシンセサイザーを叩く若者。
彼らは歌っていた。
男たちが唸るように歌うのは、聞いたこともない荒削りなブルースやロック。恐らくは彼らの魂を削り出したオリジナル曲だ。歌詞は粗野だが、切実な響きがあった。
対照的に、女たちが歌うのは決まって「あの曲」だった。
『私の彼はパイロット』
『愛・おぼえていますか』
かつての星間大戦を終わらせた伝説の歌姫、リン・ミンメイの曲だ。
透き通るような高音、センチメンタルなメロディ。この世界では歴史の教科書に載るような聖歌だ。
それを聴いた瞬間、俺の脳裏に前世の記憶がスパークした。
(……待てよ。ミンメイの曲がウケるなら、他の「アニソン」はどうだ?)
前世の俺。
冴えない学生生活、パッとしない成績表。国語も数学も体育も、何もかもが平均以下だった俺が、唯一、誰にも負けなかったもの。
それが「歌」だった。
音楽の成績は常に5。カラオケに行けば、精密採点マシーンが俺を神のごとく称えた。
平均96.2点。最高得点は98.9点。
マイクを握っている時だけ、俺は「俺」でいられた。歌っている時だけが、俺が世界の主役になれる瞬間だった。
俺は震える手を見つめた。
薄汚れて、垢にまみれた手。だが、この喉は、この声帯だけは、まだ死んでいない。
アニソンを歌って銭が稼げる?
最高じゃないか。ドブネズミが這い上がるには十分すぎる切符だ。
俺は広場の一角、廃棄されたコンテナの上に立った。
ステージとしては最悪だ。照明もない、音響もない。
だが、今の俺にはこれで十分だ。足元に転がっていた鉄パイプを拾い上げ、マイクスタンドに見立てて構える。
通行人たちは、また新しい物好きのガキが喚き始めたと、冷ややかな視線を向けるだけだ。
構うもんか。
俺が歌うのは、ミンメイの懐メロじゃない。ましてや、負け犬の愚痴でもない。
この時代の連中がまだ知らない、最高に熱いロックンロールだ。
選んだのは『GET Free』。
前世でやり込んだゲーム『マクロス VF-X2』のオープニングテーマ。
自由を求め、空を切り裂く鋼鉄の翼の歌。
息を吸い込む。
アクショの淀んだ空気が、肺の中で燃料に変わる。
「……よーし、いくぜ」
俺は地面を強く踏みしめた。
始まりのカウントは、自分の鼓動だ。
「GET FREE! GET FREE! GET FREE!!」
いきなりのシャウト。
通行人の数人が、驚いて足を止める。
俺は鉄パイプを握りしめ、見えないバンドの轟音を背に受けるように叫び出した。
「あたって砕けて おしまいだって いいじゃない! 思っていたって やらないなんて 意味ない!!」
腹の底から声を張り上げる。喉が焼けるように熱い。だが、それが心地いい。
そうだ、俺はずっとこう思っていた。
いつか野垂れ死ぬだけの人生なら、当たって砕けたほうがマシだ。
考えてるだけで動かねぇなんて、死んでるのと変わらねぇ。
「あせっても 頼っても ゆがんだ 歯車動かない 後戻り からまわり ここから抜け出したいのさ!」
歌詞が、今の俺の状況と完全にリンクする。
歪んだ歯車のようなこの街。後戻りできないどん底。
ここから抜け出したい。その渇望が、歌声に悲痛なまでの力を宿らせる。
足を止める者が増えてきた。
薄汚れたジャンパーを着た労働者、目つきの鋭いゴロツキ。彼らの瞳に、俺の歌が突き刺さるのがわかる。
「GET FREE 気をつけろ! GET FREE 目をみはれ! GET FREE つかみとれ! GET FREE 今こそ!!」
サビへの導入、リズムを畳み掛ける。
そして、俺は観衆の一人一人を指差しながら、優しく、けれど力強く語りかけるように歌った。
「涙を知っているなら 涙をぬぐえるはずさ OH だから もう一度 GET FREE!!」
アクショに住む連中で、涙を知らない奴なんていない。
絶望を知らない奴なんていない。
だからこそ、この歌詞は響く。
俺の声は、ただの音波を超えて、彼らの荒んだ心臓を直接揺さぶり始めた。
俺の中で高揚感が爆発する。
英語のラップパートが口をついて出る。意味なんて分からなくていい。このリズム、この語感、この疾走感こそが「ロック」だ。
「BEHOLD THE EVERYTHING TOO MUCH IS YOUR FENCES IN THE WORLD...」
見ろよ、この世界を。
障害だらけのこの壁を。
俺たちは戦い続けてる。終わりのない戦いを。
「GET FREE 気をつけろ GET FREE 目をみはれ GET FREE つかみとれ GET FREE 今こそ!」
二度目のサビ。さらにボルテージを上げる。
俺の視界にはもう、アクショの汚れた天井は見えていなかった。
見えるのは、どこまでも広がる青い空。
そして、その空を自由に駆け巡る、可変戦闘機の姿。
「どこまでも 自由が この空にあふれてる OH だから OH OH GET FREE GET FREE!!」
俺の声が、コンクリートの壁に反響する。
誰かが歓声を上げたのが聞こえた。誰かが手拍子を始めたのが見えた。
「青い星がある でかい空がある 欲望なんてない 絶望なんてない GET FREE GET FREE GET FREE!!」
そうだ、絶望なんてない。
俺が歌う限り、俺の声が続く限り、俺はどこへだって行ける。
この掃き溜めから、銀河の果てまで。
「怒っていたって ぶつかったって いいじゃない 祈っていたって 愛を忘れちゃ 意味ない 恐れるな 恐れるな 俺の本性 ぶちまけろ いっていって いきまくれ 俺が俺になるために!!」
ラストスパート。
喉が裂けても構わない。
全身全霊、魂の在り処を叩きつける。
俺はただのドブネズミじゃない。俺はクジョウだ。歌うために生まれてきた男だ。
「輝く光の群れ この世はすばらしいはず OH そうさ OH OH GET FREE GET FREE GET FREE――!!」
最後のロングトーン。
俺の咆哮が、アクショのノイズをすべて掻き消し、空気をビリビリと震わせた。
音が消え、静寂が落ちる一瞬。
俺は荒い息を吐きながら、集まった群衆を見据え、鉄パイプを天に突き上げた。
そして、伝説の男の言葉を借りて、俺は高らかに宣言した。
「俺の歌を聴けェェェェッ!!!」
最後のロングトーンが闇夜に溶け、俺の声が完全に消え入る。
その直後、世界から音が失われたかのような空白がその場を支配した。
荒い呼吸だけが鼓膜を叩く。心臓が早鐘を打ち、全身の血液が沸騰しているようだ。
喉の奥が焼けるように熱い。けれど、それは不快な痛みではない。生きている証のような、心地よい疲労感だ。
ふぅ、と俺は肺に溜まった熱気を吐き出した。
やっぱり、歌は最高だ。
腹の底から声を張り上げるたび、自分を縛り付けている見えない鎖が一本ずつ砕け散っていく感覚がある。
ドブネズミのような出自も、明日をも知れぬ不安も、すべてが音の波に洗われていく。
これが「魂の解放」ってやつなのかもしれない。
一瞬の静寂が破られたのは、次の瞬間だった。
「うおおおおおおっ!!」
「なんだその曲! 最高にイカしてんじゃねぇか!」
「もっとだ! もっと寄越せクソガキ!!」
パラパラとした拍手? そんな上品で温いものは、ここアクショには存在しない。
彼らが俺に投げつけたのは、怒号にも似た歓声と、ドラム缶を蹴り飛ばす轟音、そして野卑な口笛だった。
だが、それでいい。この暴力的なまでの熱狂こそが、今の俺に対する最高の賛辞だ。
俺の歌が、こいつらの荒んだ心に届いた。ただの雑音じゃなく、魂を揺さぶる「音楽」として突き刺さったんだ。
全身の毛穴が粟立つほどの快感が背骨を駆け上がる。
たった一曲で終わらせてたまるか。
この燻っていた導火線に火がついたんだ。爆発するまで燃やし尽くしてやる。
俺はニヤリと唇を歪め、鉄パイプを強く握り直した。
「うっし、ならもう一曲だ! この程度の熱狂じゃ物足りねぇだろ!?」
俺の挑発に、アクショの住人たちが野獣のように吠えて応える。
俺は大きく息を吸い込み、シティ7の空を見上げ――いや、天井に阻まれたその向こう側にある「空」を幻視した。
この船団の名前を冠した、あの曲。
俺たちを乗せて銀河を旅する、巨大なゆりかごの歌。
「次はもっと熱くなるぜ……俺の歌を聴けェェェェッ!!」
俺は足元のコンテナを思い切り踏み鳴らした。
ドン、ドン、と重いビートを刻みながら、俺は歌い出す。
「SEVENTH MOON!!」
『マクロス7』オープニングテーマ。
これから始まる伝説の序曲。
「紫のパノラマ 銀河のハイウェイ 見上げれば 俺の胸を つらぬく SHOOTING STAR!」
アカペラだなんて言い訳はしない。俺の喉がギターで、俺の足がドラムだ。
脳内で鳴り響くファイヤーボンバーのサウンドを、そのまま喉から増幅して叩きつける。
このアクショからじゃ「銀河のハイウェイ」なんて見えやしない。
だけど、歌っている今だけは、俺の視界には無限の星空が広がっている。
胸を貫く流星の煌めきが見えるんだ。
「眠らない
歌詞が現実とリンクする。
シティ7は眠らない。だが、その光の届かないこの場所で、俺たちの心臓もまた加速している。
見えない明日。そう、俺たちには明日なんて保証されていない。
だからこそ、今この瞬間を燃やすんだ。
「聞こえてくるあのメロディー 不思議なあの声が俺を離さない!」
観衆の手拍子が重なり始めた。不揃いだが、熱を帯びたリズム。
俺の歌声が彼らの熱気を取り込み、さらにボリュームを増していく。
「教えてくれSEVENTH MOON! この胸のモヤモヤを 俺をどこへと連れてゆくのか!!」
問いかけるように、叫ぶように。
前世の記憶と、今の俺の現状。
なぜ俺はここにいる? なぜ歌っている? この苛立ちはなんだ?
答えなんて誰も持っちゃいない。
この巨大な移民船だけが、無言で俺たちを運んでいく。
「蒼く揺れる SEVENTH MOON 響いてくるリズムに イカれたダンスで答えを探すだけさ!!」
俺のシャウトに合わせて、浮浪者の爺さんが踊り出した。
若者たちが肩をぶつけ合い、リズムに身を任せる。
そうだ、考えたって無駄だ。
今はただ、このイカれたリズムの中で、イカれたダンスを踊り狂うだけだ。それが俺たちの生き様だろ?
「銀色のドームが 映しだす SUNNY SKY 受け止めて 乾いた心確かめる時」
頭上を覆う隔壁の向こう、正規居住区にある人工の空。
そこにあるはずの「SUNNY SKY」を想像する。
乾ききったこの街に、俺の歌で雨を降らせてやる。
「聞こえてくるあのメロディー 揺るぎない力が俺に蘇る!!」
喉の渇きも、腹の減りも忘れた。
身体の奥底から、無限のエネルギーが湧き上がってくる。
これが歌の力。マクロス世界における「歌エネルギー」の片鱗か。
理屈なんてどうでもいい、俺は今、無敵だ。
「答えてくれ SEVENTH MOON! この力の謎を どんな虹をかけられるのか!!」
鉄パイプを観衆に向け、煽る。
もっと声を上げろ、もっと暴れろ。
俺たちの熱で、この灰色の街に虹をかけてやるんだ。
「闇に溶ける SEVENTH MOON 時は流れてゆく 失くしてしまった夢の続きをいつか」
少しだけ声を落とし、哀愁を込める。
誰もが失ったものを持っている。
夢、希望、家族、故郷。
だが、歌は終わらない。
「パレードは続いてく 新しい朝陽めざして!!」
再び爆発させる。
夜明けのこない地下街でも、俺たちが目指す朝陽はあるはずだ。
「教えてくれSEVENTH MOON! この胸のモヤモヤを 俺をどこへと連れてゆくのか 蒼く揺れる SEVENTH MOON 響いてくるリズムに イカれたダンスで答えを探すだけさ!!」
汗が目に入り、視界が滲む。
だが、俺を取り囲む熱狂の渦だけははっきりと感じる。
彼らの目が、俺を見ている。ドブネズミを見る目じゃない。
「希望」を見る目だ。
俺は最後の力を振り絞り、繰り返し叫ぶ。
「答えてくれ SEVENTH MOON この力の謎を どんな虹をかけられるのか 闇に溶ける SEVENTH MOON 時は流れてゆく 失くしてしまった夢の続きをいつか」
ラストのサビ。
もう俺の声は嗄れかけているかもしれない。
だが、その掠れたノイズこそがロックだ。
「教えてくれSEVENTH MOON この胸のモヤモヤを 俺をどこへと連れてゆくのか 蒼く揺れる SEVENTH MOON 響いてくるリズムに イカれたダンスで答えを探すだけさ!!!」
絶叫に近いフィニッシュ。
俺は肩で息をしながら、天を仰いだ。
アクショの淀んだ空気が、今は震えている。
俺の歌で、世界が確かに震えたんだ。
二曲目の『SEVENTH MOON』を歌い終えた瞬間、そこに静寂が入り込む隙間など一ミリも残されていなかった。
一曲目の後の、あの溜め息のような「間」は、驚きと戸惑いが混じったものだったのだろう。だが今は違う。
俺の歌声がアクショの住人たちの導火線に火をつけ、それが今、特大の爆発となって吹き荒れている。
「もっとだ! もっと寄越せ!」
「おいガキ、その喉どうなってやがる!」
「まだ終わらせんじゃねえぞ!」
降り注ぐのは、怒号に似た狂乱の叫び。投げ込まれるのは小銭だけじゃない。誰かの食料だったろうリンゴや、飲みかけの缶飲料、果ては誰かの着ていたボロいジャケットまでが、俺の足元へと投げ込まれる。それがこのスラムにおける、最大級のチップであり、敬意の示し方だ。
期待、渇望、そして熱狂。
数分前まで「ドブネズミ」だった俺を、彼らは今、一人の「アーティスト」として見上げている。
そんな視線を向けられて、応えないなんて選択肢は俺の辞書にはない。
アドレナリンが脳を焼き、限界を超えたはずの喉が、さらに強固な楽器へと変貌していく。
「……上等だ! 期待に応えねぇアーティストなんて、ただの拡声器だろ!?」
俺は鉄パイプを高く掲げ、群衆の熱気を一身に浴びる。
「持ち歌」のストックはこれで最後だ。だが、最後だからこそ、ここにあるすべての酸素を燃やし尽くすような一曲をぶち込んでやる。
「これが最後だ! ちゃんとついてこいよ!! 『Burning Fire』!!」
肺の中にあるすべての熱を、爆風とともに解き放つ。
「Come on burning fire! Come on Yeh Yeh Yeh!」
イントロのシャウト。激しいリズムがアクショの壁を突き破り、船団の深層部まで響き渡るような錯覚を覚える。
「瞬く星空 切り裂くように 掻き鳴らせ 轟くPower Chord!!」
脳内では激しいディストーション・ギターが唸りを上げている。
錆びついた時空、澱んだ空気、俺たちを縛り付けるこの惨めな環境――そんなものをすべて飛び越えて、俺の歌声は光り輝く。
立ち止まっているヒマなんてない。今日を生きるのに必死な俺たちには、過去を振り返る余裕なんて最初からないんだ。
「未来をつかみ取るカギを今 取り戻すその為に 闘えるなら すべてを賭ける そうネ!? そうだよネ!?」
歌詞に込められた問いかけに、群衆が「そうだ!!」と地を這うような野太い声で応える。
一人一人の目がギラついている。
奪われた権利、失った誇り、見失った未来。
それを取り戻すために闘う覚悟が、この汚れた広場に充満していく。
「Ultimate Ultimate Ultimate Fight!!」
咆哮。俺たちは今、自分自身の人生という名の、究極の戦場に立っている。
「Come on! Jump into the sky 伝説を飛び越えろ 今 Right Now!」
リン・ミンメイ?
そんな「伝説」をなぞるだけじゃ満足できねえ。
俺たちは、俺たちの足で、今この瞬間を飛び越えていくんだ!
「Come on Fighting for your dream 捧げるよ 希望の世界を見つける為に!」
汗が滝のように流れ、視界が白く霞んでいく。
けれど、心臓の鼓動はこれまで生きてきた中で一番強く、速い。
『Burning Fire』――その名の通り、俺の魂は今、真っ赤に燃え盛っている。
「未来に誓う固い約束を 守り抜くその為に 闘えるなら すべてを賭ける そうネ!? そうだネ!?」
サビを繰り返すごとに、熱狂の渦は巨大な竜巻となってアクショを飲み込んでいく。
もはや誰もが、この一時の夢中に、自分の人生のすべてを賭けていた。
金も、名誉も、明日も、この瞬間だけは関係ない。
「Come on! Jump into the sky 伝説を飛び越えろ 今 Right Now! Come on! Scream into the night 輝くよ 無限の闇に!!」
叫べ。この終わらない夜に向かって。
俺たちの叫びが、この巨大な宇宙船の闇を照らす光になるまで。
「Come on! Dreaming for the stars 永遠の キズナ信じて Right Now! Come on Fighting for your dream 捧げるよ 希望の世界を見つける為に!!」
最後の一音。
俺は喉が潰れるのも厭わず、全霊のパワーを乗せて歌い切った。
鉄パイプを力強く握りしめたまま、前を見据える。
そこには、もはや「絶望に打ちひしがれたスラムの住人」はいなかった。
皆、顔を上げ、肩で息をし、俺と同じ「生きている熱」をその身に宿している。
俺は、クジョウ。
アクショのドブネズミだった俺が、今、この瞬間だけは、この街の太陽になった。
「……最高だったぜ。お前ら」
俺は不敵に笑い、自分自身にも、そしてこの世界にも、問いかける。
「次は、俺と一緒にどんな夢を見たい?」