……。
[……。]
ダメ……ですかね……?
[ダメ。]
[確かに貴女が何をしたかの情報はあるし、私に聞くのが一番手っ取り早いのは分かるけども。]
[今は少し回り道しながら進んだ方がいいんじゃない? さっきの事だって、本当に全部飲み込めた訳じゃないんでしょ?]
……でも。
[でもじゃないよ。貴女がそうやって最短経路で進もうとするときは、大抵碌なことにならないんだから。]
そう……ですよね。
[今は焦っても仕方ないんだから、とりあえず闇雲にでも動いてみればいいんじゃない?]
[そのうちに心の整理も付くだろうし。]
そういうものですかね……?
[そういうものだよ、貴女は。付き合いが一番長い私が言うんだから、素直に受け留めたら?]
……わかりました。ごめんなさい。
[そこを「ありがとう」って言えるようになったら、教えてあげなくもないけどね。]
……。
[身体、出来てるよ。]
はい。それじゃあ、また。
スゥゥ……
[……あの様子じゃあ、あそこに行くのはまだ早いね。]
[せっかく丸ごと思い出せたんだし、楽しかった頃の記憶にも目を向ければいいのに。]
・・・
スゥオアア……
……。
スッ ッパァン!
っつ……。ヒリヒリ ブルルッ キッ
落ち込んでる場合じゃないでしょ、私。
とりあえず、毒蜘蛛が居ないこのタイミングで上を調べ上げなきゃ。
まずは聖智廟の測量をしながら
・・・
キィィィ……
あの時は詳細スキャンはできなかったから、一気に全部済ませちゃおう。
今の私のお仕事は偵察兵の真似事だけど、この鎧殻の性能を生かさない手はない。禁域はさっきの空爆の時に済ませたしね。
リコン射出っ! パパパシュッ
……フォン、ピピピ、チーッ
速いね、もう測量データが来た。広域スキャンは性能上昇を実感しやすい。
坂の下辺りに微弱な生体反応と自動機械の反応多数。
昨日巻き込まれた爆発は、あそこの成れの果て達のだったのか……。
危ないからマップにチェックしておこう。他の地点はまばらだ。大型の反応も大体が柱の位置に集中してる。
気を付けるべきポイントはそんなになさそうだね。
じゃあ陰になった場所を重点的に回ってから上がるか。
・・・
それにしても、あの時大量に居た飛行型の異形たちは何処へ行ったんだろう? 影も形もなくなってる。
獲物が居なくなったせいか、生存競争に負けて滅んじゃったのかな?
まあなんでもいいか。アレが居たら飛びにくくて仕方ないし。
……あの梁の上に落ちてるのはナズさんの釣り餌か。まだあそこに置きっぱなしなんだ。
アルカンドは狙ってないって言ってたけど、じゃあ誰があんなところの鎧殻に手を出すんだろう?
中層の敗残兵が巡航モードを搭載した飛行タイプを持ってる事なんてあるのかな。
……考えても仕方ないか。
ピピピ
あ、終わった。じゃあ上に上がってデータをチェックしよう。
・・・
キィィ……
それにしても燃費上ったなあ。前の倍くらい時間できたじゃん。
これも技術の進歩って奴だね。ストークの子たちからデータも貰ったりしたんだろうし。
キラッ
? 今の光は……レンズの反射光? 瓦礫に紛れてこっちを見てたのか。
マップにさっきのポイントをマーク。気付かなかったふりしてこのまま通り過ぎよう。
あのポイントに裏取りできるルートは……。
◇
「(っっっべぇ~~~……!! バレたかと思った……! いや、バレてると思うべき! 急いで撤収準備しないと!)」バッ!
「(最近この辺りが騒がしいと聞いたから調査に来てみれば、禁域と聖智廟で例の鎧化兵が曲芸飛行。)」ガチャガチャ
「(巡礼が数人行方不明という情報も合わせれば、もしかしたらアレが噂の『眼』かもしれない……。)」チャカチャカ
「(……『眼』は普段は光学迷彩で姿を隠してるから、実際に捉えられた記録は狙われたと思われる対象の視覚データを除いてほぼなし。)」パタン
「(それを偶然とはいえ映像に収めることが出来たとあれば、超の付く特ダネ! もしかしたら褒章も期待できるかも……!)」ジュル……
「(しかし……夢中でカメラを向けるあまり、肝心の陽の角度の事を忘れてしまったのは痛恨のミスと言わざるを得ない……!)」スコ ギュゥゥ
「(危険を冒した甲斐はあった。後はこの情報を無事送り届けられるかが勝負だ。)」ゴソゴソ
「(いやー観測開始から一日も経たずにこれだけの成果が上がるなんて、下層に配置されて以来初めての大フィーバーですよォコレは!)」スッ キョロキョロ
「(……暗殺に来たにしては少々迂闊すぎる行動なのが気にかかりますが、あの鎧殻で全くの無関係なんてまああり得ないでしょうし?)」ザッ
「(今はこのまま潜伏して、陽が落ちるのを待ってから帰還しましょう……。)」コソ……
「(さて、次のポイントは───)」ヒュゥゥゥ「ッ!?」
バシュウウウッ!! ガタッ ヴィン……
「こ、光学迷彩……!」
バシュン シュゥゥ…… チャキ
「(鎧殻に触れずに外して収納した?! アルカンドはそんな技術も持っているのか!?)」
こんにちは、動かないでね。
「(鎧殻を脱いだ意図は分からないけど相手は殆ど丸腰、でもそれはこっちも同じ……いや荷物がある分不利なことに変わりはない!)」
「あ、あはは~……見逃してもらえませんかね……?」
それは貴女の行動次第になるかな?
「(マズい拙い不味い!! やっぱりバレてた!!)」
「(どうしよう、アルカンドの暗部なんてガーディナの霧くらい容赦ないってのに! ここから離脱する方法は……。)」
まず確認なんだけど、君の名前は……。
「ショコラです!! ヘロス下層配送小隊所属・第2区画担当・クロネコの1番、ショコラです!」
おっとと、うん、ショコラちゃんか。覚えた。
で、そのショコラちゃんはここで何してたの? 配達の休憩にしては大荷物だけども。
「あ、え、え~っと……。」
盗撮でもしてた?
「盗撮じゃないですよ! これはれっきとした諜報活動で、あっ。」
ふ~ん、やっぱりさっきの撮ってたんだ。
「ひいい! 命だけはご勘弁を……!」
いいよ。
「へっ!?」
迂闊にこの格好で飛び回った私にも非が有るわけだしね。
ただし見逃すには条件がある。今この場で私に関する撮影データを消すこと。これは絶対してもらうよ。
「そ、そうなりますよねぇ……。せっかくの特ダネが、トホホ……。」
カチャ、スコッ、ベキッ
チャ ……ごめんね。流石にイーデンに迷惑かけるわけにはいかないからさ。
「!?」
「(ちょっと待ってよ! この人ってまさかライチから報告があったっていう、教会長の……!)」
「(今朝の報告の時点で上層に居たはずじゃ!? なんで此処に居るのさ!)」
「(やべえよやべえよ……粗相したことが教会長の耳に入ったら、本当に『眼』に狙われちゃう~!!)」
? どうしたの?
「ぐぎぎ、ナンデモナイデス……!」
……なんか辛そうだけど、本当に何でもないの?
「オキニナサラズ……!!」
あ、もしかしてハティちゃんと同じ勘違いしてる?
「へ?」
いやぁ、この格好で会いに行ったら粛清しに来たと勘違いしちゃったみたいでね……。
なんでもこれと同じ格好でうちの子達を監視してるひとがいるみたいだから、見かけたら極力見ないふりしてあげてね。それがお互いの為になると思うし。
「アッハイ。」
さて、私の用事は終わったけども……君はこの後また情報収集続ける感じ?
「……はぁ、まあそうなりますけど……。もう取れ高は見込めないかなぁ……。」
じゃあさ……君の仕事見学させてもらってもいい?
「ハァ?」
・・・
へぇ~、じゃあ君たちは配達がてら情報収集とかモノ拾いしてるんだ。
「はい。特に旧時代の遺産……特に熱塵兵器は技術的な価値が結構高くてですね、それらは中層以上では見つからないものなのでこうして下層にも配達しに来てるんです。」
ふむふむ。確かに炭素生物時代の熱塵兵器技術の完成度は、私達では未だ及ばない領域にあるからね~。
「そうなんですよ~。なのでアーヴドに近いこの領域によくガラクタ漁りに来てるわけなんですが。」
という事は配達はメインの業務じゃないんだ?
「いえいえ、勿論それも大事なお仕事ですよ? 直接取引なんで有用な情報も入ったりしますし。」
「ていうか直接配送じゃないと強奪されちゃう可能性あるんで、おいそれと使えない手段なんですわ。ドローン。」
なるほどねぇ、ポイント指定して自動配送にしないのはそういう事かあ。
「上層にあるような非戦闘区域とかならそれもアリですがね。ここは基本戦争ゴッコなんてしてる余裕ない荒廃地域ですけど、それでもひもじさからそういうことする奴は居ないわけじゃないんで。」
「まあここは中層と違ってそういった不届き者もあんまりいないですから、稼ぎは微妙でもガーディナにマークされて異動せざるを得ない状況になっちゃった子には人気の席なんですよ。」
「あ、私は違いますよ? 私は旧時代のガラクタ漁りがしたくてここを選んだんで。上もそっちの成果を期待してここに配置してくれたわけですし。」
へぇ、そうなんだ。じゃあ蟲とか怖くないの?
「蟲が怖い? あっははは! ガーディナの爆破トラップに比べたら普通に視認できるだけありがたいくらいですよ!」
たくましいねぇ……。ところで配送物を狙われるってことは自衛力も必要なんだよね?
それでもちゃんと配達できてるってことは、ヘロスの子達って結構実力ある感じなんだ?
「勿論! 流石に複数小隊で連携されたら厳しいですけど、それでも逃げ切ること自体は難しくないですよ?」
「私らの仕事はあくまで配送であって、相手を撃滅する事ではないですからね。相手だって、こっちを木っ端微塵にしたら物資の強奪という目的を果たせないですし。」
ふむふむ、あくまで降りかかる火の粉を払いのける感じなんだねぇ。
「何なら成績上位連中は、返り討ちにした兵から剥ぎ取って小遣い稼ぎしてたりしますからね。」
「偶に自爆されてボロボロになって帰ってくる奴も居ますが、荷物自体は無事に届けてますし……ウチは基本腕利き揃いで生還率高いんですよ!」
「私も上から数えた方が早い成績なんですから! 配送屋だと思って手ェ出したら痛い目見せちゃいますよ~?」ワキワキ
おお~頼もしいね~。パチパチ
「ふふん! 私も伊達に全層配置制覇してないですから!」
ほほう? という事はアルカンドやガーディナにもお得意さんとか居たりしたの?
「そこは流石に教えらんないですよ。顧客情報はウチらの生命線の一つですから!」
そりゃそうか、不躾なこと聞いてごめんね。
「いえいえ、わかってくれればそれでいいですよ。」
お詫びになんか買って……と思ったけど、今素寒貧だったわ……。
「おやおや、どっかで景気よく使ったんで?」
あはは、降りる前の準備でライチさんにしこたま買わされちゃってね……。
「あー、ライチセンパイかぁ。」
知り合いなんだ?
「私が上層勤務だった時にはもういた大先輩なんですよ。しばらく前に戦闘に巻き込まれた後遺症のせいで配達できなくなったんで、今はストークで店構えてるんです。」
そういう経緯であそこに居たんだね、あの人。
「お財布軽くしたくなかったら、あの人のヨイショは聞き流しといたほうがいいですよ~。って、もう手遅れか。」
ハハハ……。
「あっそうだ、連絡先交換しませんか? これ私の受付チャンネルです。こっちは個人連絡用。」
あ、ありがとう。コレ私の周波数ね。
「……はい確かに! お上との連絡先ゲット!」
「ところでもう陽が沈みますけど、本当に見学していきます?」
うん。とりあえずこの辺ふらふらするつもりだったし、貴女とお話ししながら過ごすのもいいかなって。
「物好きですねぇ~。下層の諜報なんて暇九割の休憩タイムみたいなもんですよ。」
でも何かしら成果が上がりそうだからここで張ってたんでしょ?
「それはそうですが……おや。」
どうしたの?
「境界隔壁に人が……あれはラファさんかな。」
ということは、レキさんに会いに行ってる感じ?
「恐らく。彼女、頻繁にレキさんに会いに行ってるんですよね~。」
成程ねぇ、じゃあポイント変える感じ?
「まっさかぁ! このまま継続ですよ!」
うえ、でもバレたら絶対怖いでしょラファさん。
「バレなきゃいいんですよ! バレなきゃ!」
ええ~……。
・・・
・・
・
・・
・・・
「今日の所はこんなもんですかね。」
……結局全部付き合っちゃった……。
ていうか最後の話、あれって。
「ええ、我々も他人事じゃないです。一度持ち帰って報告しなけりゃならない奴ですねえ。」
「ラファさんの研究加速の為の物資も調達しておきましょうかね。」
後でイーデンにも伝えなきゃ。ハティちゃんにお願いするか……。
「それじゃあ私はこの辺で。」
あ、うん。気を付けて帰ってね。
・主人公
紛らわしいことこの上ない恰好で飛び回っている
とりあえず今は誰かと話すなりして気を紛らわしたい
何を盗聴したのかはこっちでは秘密
・ショコラ
禁域野良のヘロスニンフ 逃げ足は滅茶苦茶早いが、鎧殻無しでは流石に普通の域を出ない
上から順に降りる形で配置換えしてきた歴戦の配達者で、諜報活動はおまけ
熱塵兵器のロマンに魅了され、炭素生物時代の遺産を求めてガラクタ漁りをしている