偽書・ガンダム機動戦記   作:雑草弁士

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第1話 ガンダム、3機も大地に立つ

 エグザベ・オリベ18歳は、サイド7ノア1バンチコロニーであるグリーンノアの、ジャンク屋住み込みのアルバイトである。元々彼はサイド5ルウム在住のシニア・ハイスクールの学生であった。しかしながら宇宙世紀0079の1月15日、世に言うルウム戦役にて、彼の故郷サイド5は戦火に飲まれる。

 どうにかサイド5を脱した彼であったが、故郷も家族も全て喪失し、難民としてサイド7に流れ着いたのだ。そして今、シニア・ハイスクール卒認定試験取得を目指して勉強をしつつ、ジャンク屋の親父のところに住み込みでアルバイトをしつつ生活をしていたのである。

 

 実は彼は、とある事情があって、けっこうな大金を持っている。というか、大金というよりも高価な貴金属やレアメタルの形で。彼はその財産を地球のとある企業グループ系銀行、それも地球連邦軍支配地域にある本店の貸金庫に送り、貯め込んでいた。これは彼を雇っているジャンク屋の親父も一枚噛んでいて、ジャンク屋の親父と『ある物』で得た資金を貴金属他に換えて山分けしたのだ。

 

 そんなこんなで、今日も彼は大型の作業用重機タイプエレカを解体処分するために、工具を持って車体に取りついていた。と、そこに連邦軍軍事施設の方向から、大きなサイレン音が鳴った。

 

 

「このサイレン……。避難命令?」

「おーい、エグザベ!」

「あ、親父さん。ニャアンも」

 

 

 エグザベは自分が取りついていた解体中の大型エレカの作業用アーム部分から、下方を見遣る。そこにはジャンク屋の親父ともう1人、12歳程度の華奢(きゃしゃ)な黒い長髪の少女が立っていた。この少女はニャアンと言い、姓は不明である。

 彼女は元はサイド2ハッテの住人だった。だがジオン公国と地球連邦の戦争に巻き込まれ、サイド2は事実上の全滅。ジオン軍の毒ガス攻撃を偶然乗り込んだプチモビのキャノピーを閉じる事でかろうじて防いだ彼女は、そのままプチモビを操縦してサイド2を脱出した。その後推進剤が切れ、酸素も残り少なくなったところで偶然にサイド7船籍の貨物船に拾われ、命拾いをしたのだ。

 その後、同情したジャンク屋の親父に拾われたのだが、親父は可能であるならばエグザベもろともに養子に迎えようかとした。しかしながら彼女の心の傷は深く、また戦時中であることも影響して、とりあえず養子入りの説得は戦争が終わるまで待とうと言う事になっている。

 

 ジャンク屋の親父は言う。

 

 

「エグザベ、連邦軍の軍艦が入港するからシェルターに退避命令だそうだ。作業中断して急げ」

「エグザベ兄さん……」

「わかった親父さん。ニャアン、ちょっとだけ待っててくれ。機材の電源落としてすぐ行くよ」

「うん……」

 

 

 ニャアンがエグザベをエグザベ兄さんと呼ぶようになったのは、ここ最近の事だ。宇宙世紀0079の1月に2人がサイド7に到着してより半年以上経過しているが、親父とエグザベの必死の努力で拾って来た野良猫状態めちゃくちゃ警戒だらけだった彼女が、ここまで打ち解けて来ていたのだ。

 それはともかくとして、エグザベ、ニャアン、親父の3人は現場を片付けると、急ぎシェルターへと向かった。

 

 

 

*

 

 

 

「エグザベ兄さん! エグザベ兄さん!」

「……くっ」

 

 

 エグザベが目を覚ましたとき、彼は身体のあちらこちらに苦痛を感じていた。見遣ると、彼に(すが)りついてニャアンが泣いている。そして彼は思い出した。避難したシェルターが破壊され、咄嗟(とっさ)にニャアンを庇ったその直後、ほぼ全身に瓦礫(がれき)がぶつかり、意識を失ったのだ。

 

 

「ニャ、ニャアン。無事かい?」

「うん! うん! だけど、だけど親父さんが見つからない!」

「!? く……」

 

 

 エグザベは苦痛を噛み殺して立ち上がり、周辺を見回す。周囲はシェルターに避難していた人々の遺体でいっぱいだった。周辺で生きているのは、彼とニャアンだけ。エグザベは周囲に転がる遺体を調べたわけではないが、『何故か』全員が死んでいる事を『理解』していた。

 

 

「く、親父さん! 親父さん何処だ!」

「親父さん! どこ!?」

 

 

 叫びつつ、視界を巡らせた2人だったが、次の瞬間煙の中に、エグザベは致命的な『モノ』を見つける。壁が崩れた瓦礫の山の中から突き出した、作業ツナギに包まれた血まみれの右腕。それは力が抜け、ぐったりしていた。エグザベは認識する。その右腕に繋がった胴体、その先にある肉体が、もはや命の無い『屍』である事を。

 

 

「!! ニャアン、『視』るな!!」

「ひ……ッ!! あ、あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

「ニャアン!!」

「いやだあああぁぁぁ!! 『お父さん』!! 『お父さん』が!! 『お父さん』がまた!!」

「く!」

 

 

 エグザベは知っていた。ジャンク屋の親父が、引き取って住まわせていたニャアンやエグザベに、『いつでも『お父さん』って呼んでくれていいんだぞ』と言っていた事を。そして彼も、徐々に懐きつつあったニャアンも、気恥ずかしさと実父への申し訳無さで『お父さん』と呼べなかった事を。

 そしてニャアンが呟く。地獄の底から響くような低い声で、呟く。聞いたものが怖気づくかの様な、怨念の入り混じった声で、呟く。

 

 

「いやな……におい。嫌な……臭い! 消す……。消すッ!! き、え、ろおおおぉぉぉ!!」

「ニャアン!!」

 

 

 ニャアンが疾走した。瓦礫(がれき)の山を越えて、()ぶように疾走した。その姿は、壁に開いた大穴の向こうに消える。エグザベは痛みを訴える身体に鞭打って、必死にその後を追った。

 

 

「待て! ニャアン、待て!!」

(うああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!)

 

 

 エグザベの脳裏に『何故か』ニャアンの叫びにならない叫びが響いた『気が』した。エグザベは心の中に響くその『声』を頼りに、ニャアンを追う。

 

 

(この『声』……。この『感覚』……。何処かで、感じた、聞いたことが。サイド5が滅ぼされた、あの時に……!!)

(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!! う゛な゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!)

(ニャアン!! くそ、走れ! 走れ僕! 追い付かない、と!)

 

 

 そして壁裏の通路、崩落した天井の向こうの空間、床に大穴が開いてその地下へと続く空隙などを経て、エグザベはある大型施設へとたどり着く。そこで彼が見たのは、黒と銀に塗装された1機のMS(モビルスーツ)が、壊れかけたMS(モビルスーツ)ハッチを蹴り開けて出て行くその後ろ姿であった。彼はそのMS(モビルスーツ)に、ニャアンの気配を『何故か』感じ取る。

 

 

「くそっ!」

 

 

 舌打ちし、彼は周囲を見回した。すると崩落した瓦礫の半ば下敷きになった、グレーのMS(モビルスーツ)が目に入る。それは近場で起こった爆発のために半ば(すす)け、左腕を肩口から喪失していたが、もしかしたら動くかもしれない。エグザベはそのMS(モビルスーツ)の、開きっぱなしになったハッチへと駆け出した。

 

 

 

*

 

 

 

ガギイイイィィィン!!

 

 

 ニャアンが駆る黒と銀のMS(モビルスーツ)、その操縦席のメインモニターに、今彼女の機体に蹴飛ばされて吹き飛ぶ緑色のジオン軍量産MS(モビルスーツ)、MS-06FザクⅡの姿が映し出された。視界の片隅には、ニャアンの機体とほぼ同型の、白が基調で赤、青、黄色で塗装されたMS(モビルスーツ)が見える。

 遥か向こうから、もう1機のザクⅡが駆けて来る。ニャアンの鼻に、嫌な臭い、悪意と殺意の臭いが感じられた。白いMS(モビルスーツ)はゆっくりと立ち上がり、駆けて来るザクⅡに向けて頭部からバルカンを撃ち放つ。

 

 

「ふーっ、ふーっ、嫌な、嫌な臭い……」

 

 

 ニャアンが操縦桿の引き金を引き絞ると、彼女のMS(モビルスーツ)もまた、最初のザクⅡに向けてバルカンを斉射した。だが距離が遠い。数発は命中したが、このバルカンは白兵戦用の補助火器だ。弾着はバラけて、致命打にはならない。数秒の射撃で、バルカンが弾切れになった事が、モニターに表示される。

 

 

「う、う゛、う゛あ゛あ゛あ゛あああぁぁぁ!! き、え、ろおおおぉぉぉ!」

 

 

 ニャアンは及び腰になったザクⅡに駆け寄り、蹴りを入れる。ザクⅡは必死でザクマシンガンを発砲するが、ニャアンは半ば無意識に回避機動を取り、わずかな着弾も重装甲に防がれてかすり傷にすらならない。

 

 

ガゴオオオォォォン!!

 

 

 蹴られたザクⅡは吹き飛び、そしてよろよろと逃げ出そうとする。だがニャアンは逃がさない。もう1機の連邦軍MS(モビルスーツ)も、もう1機のザクⅡの顔面を握りしめ、その鼻づらを腕力で引きちぎっていた。そして白い連邦軍MS(モビルスーツ)はその肩口から、アンテナに見えていた白い丸棒を抜く。その丸棒から、ピンク色のビームの刃が伸びる。

 ……ビームサーベル。連邦軍が開発した、MS(モビルスーツ)用の白兵武器だ。その威力は、一撃でMS(モビルスーツ)を溶断できるほどに高い。

 

 

「……そ、うか。これ……」

 

 

 ニャアンも、自機にビームサーベルを抜かせる。そして逃げ出しかけた眼前のザクⅡに向け、自機にソレを振りかぶらせる。

 

 そのとき、心に『声』が響いた。それはジャンク屋の親父さんの記憶と共に、この半年と数ヶ月の間、自分にとって支えになって来た、暖かい『声』。エグザベの『声』だった。

 

 

(ニャアン! そしてそこの『彼』も! 斬るな! 斬ったら、MS(モビルスーツ)が爆発する! 『ここ』だ! 相手の『ここ』を突くんだ!)

 

 

 それと同時に、ニャアンの脳裏に敵機体胸部、そこの『嫌な臭い』が凝縮されていた部位が、強く、強く、『印象付け』られる。ニャアンは反射的に、斬るのではなく、そこを突くように自機の狙いを変えさせた。もう1機、白い連邦軍MS(モビルスーツ)も、わずかな逡巡(しゅんじゅん)(のち)、ビームサーベルを突き出す。

 

 2機のザクⅡは、操縦席(そうじゅうせき)を貫き焼かれて機能停止する。そして嫌な臭いは、眼前から消えた。最後に残っていた遠くの嫌な臭いも、コロニーから脱出して逃げて行くのが感じられる。

 

 

「はーっ、はーっ……。う、ぐ、うええぇぇ……。ひぐっ」

 

 

 ニャアンがしゃくり上げていると、丘の向こうからグレーの連邦軍MS(モビルスーツ)が姿を現す。頭部のV字アンテナは左右とも折れ、左腕は肩口から千切れて激しくスパークを放っていた。あちらのアンテナが死んでいるので通信が困難だが、今のニャアンには、通信ができなくても理解できる。あれはエグザベ・オリベだ。エグザベ兄さんだ。

 

 

「うえぇ……。エグザベ兄さん、エグザベ兄さん……」

 

 

 エグザベの機体がよたよたと駆け寄り、右手をニャアンの機体の肩口に乗せる。接触回線がつながり、エグザベの声が通信機から響いて来た。

 

 

『ニャアン、無事か!? 怪我は!?』

 

 

 そう彼女を心配するエグザベの方が、軽傷の様だがあちこち負傷し、見るからに痛々しい。ニャアンはまた涙ぐむ。傍らに立つ、白い連邦軍MS(モビルスーツ)が、ゆっくりとニャアンとエグザベの機体に向けて、歩み寄って来た。




本作は、エグザベinホワイトベース部隊(第13独立戦隊)だったらどうなるか、を書いてみたいと思った結果の二次創作です。とりあえずエグザベとニャアンはサイド5やサイド2から脱出後、サイド7に難民として流れ着いています。ちなみに他にもジークアクスからの乱入者が今後若干名参戦予定です。

なお現状ではエグザベはRX-78-3(小破~中破)、ニャアンがRX-78-1、アムロがRX-78-2に搭乗しております。エグザベとニャアンはNT覚醒たぶんしてます。どっちも自覚無いけど。アムロはエグザベの叫びを聞かされて、無理矢理に叩き起こされた感じですかな。……このままだと、地上編途中でアムロとエグザベの乗機、操縦系スパークしかねないな(汗)。
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