偽書・ガンダム機動戦記   作:雑草弁士

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第11話 サボテンが花をつけている(違う)

 ブライト艦長は、アムロと共にガンダムのコクピットに無理矢理相乗りして、砂漠の中に出て来ていた。理由はこの砂漠のど真ん中で、連邦軍の連絡員と落ち合うためである。ガンダムを選んだのは、砂漠にもっとも適応できるのがガンダムであったためだ。プロトガンダムでもほぼ同等ではあったのだが、ほんのわずか、若干だけガンダムが優越したのだ。

 

 

「アムロ、センサーはどうだ」

「駄目ですね。砂嵐でぜんぜんわかりません」

「くそ、この近くに来ているはずなんだが」

「ブライトさ、いえ艦長。他の人じゃ駄目だったんですか? 艦長が艦を離れるなんて」

「暗号の解凍をできるのが、資格を持っているのが艦長職だけだったんだ」

 

 

 そういう物か、とアムロは納得する。そしてかすかにセンサーに、金属反応が感知された。大きさは、エレカ程度だ。

 

 

「ブライトさ、艦長、この反応」

「……ええい、さん付けでかまわん。いちいち言い直されると……。この反応、オフロード用のエレカ、か? 近くまで行けるか」

「はい」

 

 

 そしてエレカの近くまで行ったガンダムは、ブライト艦長を降ろす。吹き付ける砂嵐に辟易(へきえき)しつつもブライト艦長は、エレカの運転席までたどり着いた。そこにはハンドルにもたれて倒れ掛かった、連邦軍の兵士と見える男が居る。ブライトは彼に話し掛けた。

 

 

「おい、しっかり」

「う、うう……」

「……砂漠に蝶は飛ぶのか?」

「砂漠に、蝶は、砂漠に飛ぶ、のはサボテン、の棘……」

 

 

 ブライト艦長はそれを聞くや否や、懐からトランシーバーを取り出してアムロを呼び出す。

 

 

「アムロ! ビンゴだ! ガンダムでこのエレカごと我々を運んでくれ!」

『砂だらけです。シートでカバー、かけますか?』

「ああ! それで頼む! それと通信可能範囲に入ったら、ホワイトベースに救急班を待機させておくように伝えるんだ! 連絡員が、重傷を負っている!」

『!! りょ、了解です! 今から砂()けにシートかけるんで、座席に伏せててください!』

 

 

 ガンダムは、ブライト艦長と連絡員ごとエレカをシートで(くる)むと、それを持ち上げて帰途についた。

 

 

 

*

 

 

 

 今、必死でホワイトベースにたどり着いた連絡員は、死の淵に居た。ちなみにここは左舷MS(モビルスーツ)デッキだ。旗艦したガンダムが降ろしたエレカの床は、血で染まっている。救急班の主任は、首を左右に振った。ブライト艦長は彼に問いかける。

 

 

「……自分がホワイトベースの責任者、ブライト・ノア艦長です。レビル将軍は、何と?」

「……お、オデッサ・デイは五日後、の予定、です。そ、それまでにホワイトベー、スはカスピ海、を、わた、れ、と、の命令……です」

「オデッサ・デイとは?」

「キシリア配下、のマ・クベの押さえている、こ、鉱山基地、オデッサ基地、を……。た、叩く一大作戦、です。ホワイトベースは、陽動、任務を兼ねて東側、より……」

「東側より、目標を攻撃、ですね?」

 

 

 連絡員は力なく頷く。そして胸ポケットからメモリーチップを、必死の努力で抜き出した。

 

 

「こ、これ、が、攻撃、目標、優先順位……」

「そのデータ、ですね? 確かに」

「さ、作戦、成功、祈、り、ま」

 

 

 連絡員はこと切れた。ブライト艦長は瞑目する。救急班の面々も、それに倣った。ガンダムから降りて来たアムロは、ごくりと唾を飲み込む。

 

 

「アムロ、聞いていたのか。許可が出るまで、他言無用だ。救急班のメンバーも、だ。いいな?」

「は、はい了解、です」

「じ、自分たちも了解です」

「わかりました、了解です」

 

 

 そしてブライト艦長は、連絡員の遺体に見事な敬礼を送った。思わずアムロ、そして救急班も敬礼をする。話の聞こえない距離にいた整備兵たちも、慌てて遺体に敬礼をするのが見えた。

 遺体は死体袋に詰められて艦中央部の霊安室もしくは遺体安置所と呼ばれる部屋に安置され、後日連邦軍本隊に引き取られた。だがこの連絡員の、死も厭わず命令に忠実な姿は、アムロに何がしかの思いを抱かせ、その後に影響を与えたのは間違いなかった。

 

 

 

*

 

 

 

 ニャアンはエグザベ達がたまり場にしている第2艦橋(サブブリッジ)に出向き、操縦席(コクピット)でも飲めるタイプの粘性が高いドリンクを差し入れていた。

 

 

「ニャアン、ありがとう」

「いえ、エグザベ兄さん」

「僕もありがとうニャアン」

「ああ、僕もありがとう」

「俺もサンキュ。……ありゃん? 普通のドリンクじゃねえな?」

操縦席(コクピット)でも飲めるようにって」

 

 

 ニャアンの言葉を聞いたとたん、エグザベは表情を(しか)める。

 

 

「ニャアン、もしや」

「うん。『嫌な臭い』が。まだ遠いけど、だんだん近寄って来る」

「「「「「「!!」」」」」」

 

 

 そしてシイコ中尉が叫んだ。

 

 

「みんな! 自分の機体に走って!」

「了解!」

「ニャアン! 子供らのところに行ってあげるんだ」

「わかった」

 

 

 エグザベは左舷MS(モビルスーツ)デッキの操縦士(パイロット)待機室まで疾走する。後ろをアムロとシイコ中尉、そしてジョブ少尉が走っているのがわかる。エグザベは待機室に飛び込むとロッカーからパイロットスーツを出して、急ぎ着込むとヘルメットを被りシールドを下ろす。そしてプロトガンダムまで走ると着座、艦橋(ブリッジ)に通信を入れた。

 

 

「こちらエグザベ! 艦橋(ブリッジ)、応答を!」

『こちらブリッジです。どうされました?』

「艦長に、ニャアンが『嫌な臭い』だと言っていた、と伝えてください!」

『は……』

 

 

 通信士のフラウが応えるまでもなく、即座にプロトガンダムの通信モニターにブライト艦長の顔が大写しになった。

 

 

『こちら艦長だ! 聞こえていた! 確かなんだな!?』

「はい!」

『第二種戦闘配置を発令する! 実際にセンサー等で確認が取れ次第、第一種に変更!』

「了解です!」

 

 

 直後、ブライト艦長が気づかわし気な表情で、エグザベに語る。

 

 

『……エグザベ。実は以前、ニャアンを軍人では無く、軍属の民間人の扱いで、艦橋(ブリッジ)に置けないかと艦橋(ブリッジ)の面々に相談した事がある』

「!!」

『だが、その時は反対されて、な。お前を始め、MS(モビルスーツ)操縦士(パイロット)連中の反感を買う恐れがある、と。だが……』

 

 

 その、物悲しい表情に、エグザベは息を吐く。長い、長い溜息だった。

 

 

「ふぅ……。そう、ですね。それを言われていたら、僕は怒ったでしょう。でも、現実問題として僕もニャアンの『勘』を頼りにしてしまっている」

『……』

「あの娘が……。いざと言う時……。軍を離れられます、ね?」

『だからこその、軍人ではなく、『軍属の民間人』だ。もっとも、まだ12歳だからな。軍人には天が裂けて地が割れてもならせる事はできないが。それにこの事を、公表はおろか、外に漏らすつもりは毛頭無い』

 

 

 ブライト艦長の後ろで、総舵手であるミライが肩を落とすのが小さなモニター画面に映る。ブライト艦長自身も、やりきれなさそうな表情ではあった。

 

 

「ニャアン自身の意見も、聞いてくださいます、ね?」

『無論だ。それに……!?』

『艦長、来ました!』

『J型と思しきザク9機を主力とする、マゼラアタック12両、ドップ12機との混成部隊です!』

『総員、第一種戦闘配置! MS(モビルスーツ)隊とコアブースター、Gファイターは順次発進!』

 

 

 そしてこの後の戦闘は、何事も無くホワイトベース側の圧倒的な、完膚なきまでに敵を叩きのめしての、完全なる勝利に終わった。だがしかしアムロらの証言では、この後数日に渡りエグザベは、いつも通りの(ほが)らかで温和な様子を崩してはいなかったものの、どこか何時もとは違って何か思い詰めていた様子だったらしい。

 そしてこの日より、ニャアンが艦橋(ブリッジ)に従卒扱いの軍属として詰める事になる。だがしかし、マドラス基地で難民を大量に下船させ、今艦内に居るのは軍人に志願したか軍属として下働きなどをしているかの人間だけだったため、カツ、レツ、キッカの面倒を見る者がいなかった。そのためカツ、レツ、キッカもまた、特別に艦橋(ブリッジ)への出入りを許されて、フラウ・ボウ特務兵とニャアンによる厳重な監視下で世話をされる事になったのである。

 もっとも、ニャアン艦橋(ブリッジ)詰めは、本人以外の全ての人間にとって、不本意であった模様。まあ本人はエグザベのために何かができる事を、喜んでいた節があるのだが。

 

 

 

*

 

 

 

 ブライト艦長は、暗号通信の符丁を表と突き合わせて解読していた。本来これは通信士の仕事なのだが、残念ながらフラウにはそこまでの信頼度は無い。いや人格的にとか忠誠度がとかいう意味合いでは無く、単に能力的な物の話である。

 現在ガンキャノン1番機の操縦士(パイロット)に異動したセイラが通信士のままであったら、迷わずブライトは暗号の解読も任せていただろう。まあ、そういう事だ。そしてブライト艦長は、通信端末に向かって怒鳴る。

 

 

「……操縦士(パイロット)各自、全員パイロットスーツに着替えて各自の機体で待機せよ」

「ど、どうしたのブライト?」

「暗号解読の結果、これよりおおよそ3時間後にマチルダ中尉のミデア輸送隊が、次の作戦前にホワイトベースを腹いっぱいにするために、補給任務に訪れる。今から待機なのは、ミデア隊に万一のトラブルがあった場合、およそ±で前後3時間弱のズレが生じ得るから、だ」

『さすがブライト君ね。わたしの助言、活かしてくれてるみたいね』

「シイコ中尉、あまりそういう事は言わんでくれないか」

 

 

 ブライト艦長は、しかしミライの怪訝そうな表情に白状する。

 

 

「……シイコ中尉に、注意されたんだ。僕、いや俺が命令を下す時に、説明不足のまま強行する傾向がある、とな。俺は生粋の軍人として生きて来たから、軍では命令は上位下達で絶対だ。一分一秒、いや一瞬を争う戦闘時などの判断で、上意下達というシステムを崩してしまえば、壊滅いや全滅は免れない」

「……」

「だがそれは、あくまで軍人としての話だ。この艦の多数は、もともと民間人だ。だからこそ最小限の言葉での命令では、各員に不満が溜まり、反発を呼び、いざと言う時に力を発揮できなくなる危険がある……らしい。

 そしてこうも言われた。命令が絶対なのは、軍人だけの話だ、民間人だった者達に通じる話じゃない、と。だから、時間的余裕がありそうな場合や、相手が不満を溜め込んでいそうな場合には、説明と説得の言葉を惜しんではいけない、と。民兵やゲリラに協力を申し込むみたいなつもりでやれ、とね」

 

 

 そこへシイコ中尉が、更に言葉を重ねる。

 

 

『こっちでも皆に、ブライト艦長が言葉を惜しむ時は、本当に説明してる余裕が無いときだから、素直に従ってね、って話をしてるわ。あと、軍人は命令絶対な代わりに、もしそれで失敗したら全部責任は上の人だから、安心して死なない限りは素直に従って失敗しなさいな、って言い聞かせてるからね』

「シイコ中尉……」

『まあ、そのうち皆、軍人から離れられそうに無い子たちは、ちゃんとそのうち命令に従ってくれる様になるから。じゃ、自機で待機ね?』

 

 

 そうして、シイコ中尉は通信を切った。ブライトは艦長席に身体を沈め、右手で顔を覆い、こめかみを指で揉む。今度の胃痛は、しばらく収まりそうに無かった。




アムロが正史で脱走前に、基地攻撃にガンタンクの方がいいって言って、ブライトのガンダムで出ろって命令に逆らって、勝手にハヤトとガンタンクで出た事ありましたよね。ブライトが戦術眼が無いとかほざいて。
でもブライトには、敵にMS(モビルスーツ)があった場合、ガンタンクじゃどうにもならない、って言うきちんとした理由があったんですよね。作戦前に時間あったんだから、ちゃんと説得すべきだったと思うんですよ。
でも説得も説明もしなかった理由は、たぶんブライトが根っからの軍人だったから。ブライトからすれば、命令はきちんと聞くのが普通。というかソレが彼にとっての常識。根っこからの。でも民間人だったアムロからすれば、説明もなしに頭ごなしに命令されるのはおかしい。これがアムロにとっての常識。根本から。
だから本作では、シイコさんに緩衝役になってもらいました。

あと、ニャアン。とうとうブリッジに来ました。皆にドリンクとかバーガーとか配る、従卒役です。軍人じゃなく、軍属です。ニャアン以外の、全員の胃が痛いです。気も重いです。
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