偽書・ガンダム機動戦記   作:雑草弁士

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第12話 キシリアの二の矢、三の矢

 ブライト艦長が各操縦士(パイロット)に戦闘待機を命じたのは正しかった。待機命令発動から約1時間30分後、補給部隊のミデア輸送機から救難信号が届いたのである。ホワイトベースは即刻そちらへ向けて発進すると共に、Gアーマーとコアブースターを先行して出撃させた。

 

 

「ジョブ少尉! ハヤト! 目標に接触まであと1分!」

『ザッわかったアムロ! 今光ったな!? ザザザ』

『あれは発砲した火線の光だな!? ハヤト、そっちの方が速いから、先に行って敵に一発頼む! こっちは上空をフライパスしながらガンダムを切り離す!』

「『了解!』」

 

 

 ハヤトのコアブースターが更に先行して、Gアーマーを追い抜いて行く。そして数秒後、Gアーマーのメガ粒子砲が火を吹いた。

 

 

『ザザ奴ら、屍食鬼(グール)のマークがある! 屍食鬼(グール)隊だ!』

「わかったハヤト! 今行く! ジョブ少尉!」

『分離するぞ!』

 

 

 Gパーツが前後に分離し、ガンダムがその雄姿を現す。アムロは敵機にシールドを1枚投げつけると、地上に着陸寸前でブーストし、高速ダッシュ。元から無い連携を更に乱され、屍食鬼(グール)隊のザクⅡとグフは浮足立つ。

 

 

「1つ! 2つ! 3つ!」

 

 

 アムロが数えるごとに、1機のザクⅡやグフが()ちて行く。普通の敵部隊であれば、もう少し多少の連携はあるものだが、それであればアムロは苦労しただろう。たとえ個人戦闘にこだわるクセの強いジオン軍でも、最近は若干だけだが連携を見せる様にもなっているのだ。

 だが屍食鬼(グール)隊は個々の戦闘力はけっこう強いが、機体の完熟訓練をおろそかにしているのか、グフをその強みを活かした戦い方をしていなかったり、そして何より最低限の連携どころか味方同士で足を引っ張り合っている傾向もある。

 となれば、味方殺しさえ平然とやる奴らだと屍食鬼(グール)隊の非常識さを学んでしまったアムロならば、そう後れを取るはずも無い。そしてエグザベ達も到着。

 

 

『アムロ、大丈夫ザザザ』

『ザッ見えた! そこだ!』

『ミデアはもう離脱したな!?』

「ええ、離脱し……。そうか、ミデアを襲ったのはホワイトベースをおびき寄せるためだったのか!? だから僕らが来たら、ミデアには目もくれなくなって……」

 

 

 エグザベ、シイコ中尉、カイ、リュウ少尉、セイラたちが到着した以上、もはや屍食鬼(グール)隊には勝ち目は無くなったと言える。そして屍食鬼(グール)隊は、この場の全MS(モビルスーツ)を撃破されたのだった。

 

 

 

*

 

 

 

 屍食鬼(グール)隊とホワイトベースMS(モビルスーツ)隊の戦闘を、双眼鏡で眺めていた男がいた。彼の周囲には、多数の兵員が居り、そしてその傍らには膝立ち状態で美しい少女が控えている。男は双眼鏡を下ろすと、失笑した。

 

 

「なるほど、生半可な事ではあの木馬……。エルランからの情報によれば、ホワイトベース、だったか? そのMS(モビルスーツ)隊、ガンダムにガンキャノン、そしてGMとGMキャノン、支援メカ類は、なんだったかな」

「は! コアブースター、それにGメカと」

「うん、いい子だクローディア。それで?」

「は、そ、それでと言いますと……」

「僕を馬鹿にしてるのかい? 今後どうすべきか、お前はどう考えているか聞いているに決まってるじゃないか」

「も、申し訳……ひ!」

 

 

 男は優し気に微笑む。

 

 

「悲しいなあお兄ちゃんは。この優しい兄が教えてあげよう。まず今のままの戦力ではどうしようもない事は、今見ての通りだ。だから早急に、近場の味方部隊からMS(モビルスーツ)を可能な限り多く、『譲って』もらわないとなあ」

「は、はい、お兄ちゃ」

 

 

ばぎぃっ!

 

 

「がぁっ!?」

「だめだろう? 可愛いクローディア。隊長、もしくは階級で大尉殿、と呼べよ。ああ?」

「も、もうしわけありません隊長」

 

 

 蹴りを入れられた少女、クローディアは必死で平身低頭する。だがそこへもう一度、蹴りが飛んだ。

 

 

「ぐぁ!」

「隊長『殿』だ。愚か者」

「も、もうしわけありません、隊長殿……」

「ははは、そんなに怯えないでくれよ。僕たちは兄妹(きょうだい)じゃないか」

 

 

 周囲の兵員たちは、静かに見守っている。だがその表情はほくそ笑んでおり、少女が暴行を加えられるのを喜んでいる様に見えた。だが隊長の視線がそちらに向くと、すぐに顔を下ろし、知らん顔をする。

 

 

「さて、ここは……」

 

 

ビヒュウウウゥゥゥン!! ゴガアアアァァァン!!

 

 

長距離ビームに爆散するザクⅡJ型。見遣るとガンキャノン2機の狙撃用ビームライフルでの支援の元、黒と銀のガンダムタイプ、プロトガンダムがこれもビームライフルを撃ちながら駆けて来る。そしてまた1機、兵員が乗っていないグフが爆発した。

 

 

「な!? 馬鹿なこの距離で発見されただと!? 総員撤収!」

 

 

 屍食鬼(グール)隊指揮官クロードは、撤収命令を出して自機である最新鋭機のドムに乗り込むと、他の兵員を置き去りにして逃走。その後を副隊長のクローディア、そして兵員たちが必死になって追いかけた。

 

 

 

*

 

 

 

 カイ、そしてセイラが機体の足を止めさせる。

 

 

『追い付けないわね』

『エグザベが明後日の方角にザザッビーム撃ったときにゃ、何かと思ったが』

「うん、なんか嫌な感じがしたんで、そっち見たら『()』えたんだ。4機はMS(モビルスーツ)居たかな。内1機は、まったく見た事ない新型だった。それを狙えれば良かったんだけど、こちら(プロトガンダム)の射程外であたるかわからない上にあたっても撃破できるか心配だったけど……。まあ手前のザクはどうにかできたけどさ」

『俺もどうにかグフはザザザッ撃破したけどよぉ』

 

 

 エグザベもプロトガンダムを停止させた。

 

 

「新型MS(モビルスーツ)か……。ジオンも次々に繰り出して来るなあ」

『足は速いみたザザザでしたね。遠目で観察した感じ、ホバーでしょうか?』

『わからんが、撮影した映像を、ホワイトベースで分析してもらおザザザザッ』

 

 

 上空に、ホワイトベースが降下して来るのが見える。一同は、帰艦の準備に入った。

 

 

 

*

 

 

 

 マチルダ中尉は、ブライト艦長に補給物資の目録を手渡していた。

 

 

「ありがとうございます、感謝しますマチルダ中尉」

「いえ、これも任務ですので。火器の弾薬、そして万が一のための歩兵用の白兵戦用銃火器と分隊支援火器。それと艦とMS(モビルスーツ)他機動兵器の補修用部品(パーツ)類。糧食。医薬品。他にも多数……。更には新兵でしか無いですが、整備兵を5人、用立てて参りました。それと……」

「それと?」

「GM指揮官機用のオプションなのですが、コルベットブースターを2機、持ってきました。お役立てください」

 

 

 コルベットブースターとは、ジオン軍のドダイYSに相当するというか匹敵するというか、GM指揮官機用のサブフライトシステムだ。ただしこれは搭乗員がおらず、ドッキングしたGM指揮官機からの操縦で動かす事になる。

 

 

「これは、助かります。しかし何故2機?」

「コルベットブースターは個別のパイロットが居ませんので。戦場で放棄する事も考慮しての事です。それとサブフライトシステムの有効性のデータを取っていただければとの下心もあります」

「了解です」

 

 

 ちなみにコルベットブースターは、ジオンのドダイYSがMS(モビルスーツ)を上面に載せるのとは違い、GM指揮官機の上半身に頭部を包み込む様な形で、上から被せる様になっている。だが被せる形でのドッキングは、ドダイYSよりも様々に動きなどに制限が出て、扱いづらいとの声も上がっていた。またドッキングする以上、使用できるMSはGM指揮官機に限られる事も、問題視されている。

 

 そしてマチルダ中尉は話しを変える。

 

 

「ブライト艦長。ジオンは、と言いますかオデッサ基地の総司令官マ・クベ大佐の上役であるキシリア・ザビは、エースパイロットである黒い三連星をザンジバル機動巡洋艦でこの地に送り込んで来ました」

「!! あ、あのレビル将軍をルウム戦役で捕虜にした、黒い三連星ですか」

「はい。各地のジオン軍、そして屍食鬼(グール)隊などの刺客を次々に切り抜けているホワイトベース隊に、しびれを切らした模様です。一方で屍食鬼(グール)隊の方も我々ミデア補給部隊の飛行経路を掴んで、それを襲う事でホワイトベース隊をおびき出そうとした模様ですが」

「……敵も味方も、防諜は穴だらけ、ですか」

 

 

 苦々し気に言うブライト艦長に、マチルダ中尉は笑う。

 

 

「それでも、今レビル将軍は連邦軍側のザルの穴を塞ぐべく、動いております。我々のミデアの輸送ルートを知る人間は、そうは居りません」

「作戦前に分るといいのですが」

 

 

 それでもブライト艦長の、眉間のシワは取れる事は無かった。

 

 

 

*

 

 

 

 チューブ入りのドリンクや戦闘糧食のバーガーを、艦橋(ブリッジ)の皆に配って歩く仕事。ニャアンはこの仕事が好きというほどでは無かったが、別に嫌でも無かった。だがドリンクを手渡した際に微笑まれ、バーガーを手渡した時にお礼を言われる。その感触は、悪くは無かった。

 ちょこちょこと歩き回るレツを、フラウが注意している。如才ないカツが、ドリンクやバーガーの大箱を並べて、ニャアンが取り出しやすい様にしている。キッカがニャアンを真似て、ドリンクをブライト艦長に手渡し、引き攣った笑顔でお礼を言われている。

 そんな様子に、ほんの少しだけニャアンの頬が(ゆる)んだ。

 

 

(……!!)

 

 

 その瞬間、彼女の背筋に怖気が走る。彼女はブライト艦長に駆け寄って小声で言った。

 

 

「ぶ、ブライト艦長」

「? どうしたん……いや、まさか『来た』のか!?」

「は、はい。今までとは段違いの、強い『嫌な臭い』です。数まで、はっきりわかります。3つ、です」

「3……。まさか、黒い三連星、か!?」

 

 

 ちなみにおそらく、単純な強さで言えばヴィッシュ・ドナヒューも黒い三連星に勝るとも劣らなかったはずだ。だがヴィッシュには兵士として、軍人として、そして戦士として、武人としての使命感や責任感はあっても、悪意は無かった。それ故に、彼の部下はともかく彼自身はニャアンの『嗅覚』にそれほど強くは感じ取れなかった。

 しかし黒い三連星は違う。強い、強い敵愾心と悪意、それをホワイトベースに叩きつけようとしている。更に言うならば、ネコ科の肉食獣が狩の獲物をもてあそぶ様な残虐さ。いや、どちらかと言えばネコ科よりも野犬かハイエナであろうか。

 

 ブライト艦長は一瞬で決断する。

 

 

「総員第二種戦闘態勢! センサーで感知でき次第、第一種に移行するぞ! オスカ、マーカー! センサーを、アクティブ、パッシブ双方とも最大感度で開け! 敵を感知できなくとも、ミノフスキー粒子の影響が濃い場合は、それをもって敵襲と判断し、第一種戦闘態勢に移る!」

「「りょ、了解!」」

 

 

 そしてブライト艦長は、ニャアンに目礼をする。

 

 

「助かる、ニャアン」

「いえ……」

「いや、お前、いや君のこの行動が、皆を救う。エグザベを救う。よく、やってくれた」

「……はいっ!」

 

 

 いつも暗さを宿していたニャアンの表情が、わずかに明るくなった。




いや、キシリアの部下って互いの連携、個々の戦闘員の間でも、部隊間でも、司令官各々の間でも、まったく無い気がします。気のせいでしょうか。
そしてキシリアの台詞に「男子の面子、軍の権威、それが傷つけられてもジオンが勝利すればよろしい。その上であなたの面子も立ててあげましょう」というのがありますが、男子の面子も、軍の権威も、本来戦争という異常な状況で兵士、士官将官、軍人らをまっとうに戦わせるための必要不可欠な道具だと思うのです。男子の面子とか軍の権威とか戦場の浪漫とか。そういう『欺瞞』が無くなったら、戦場に、戦争に、人間だから耐えられんと思うのですだよ。
だからそういうのを無視して、軍人とか兵員とかを単純に数値としてしか見ていない様に思えるキシリアは、軍司令官としてどうかなーと。そういうのを大事にしないと、軍人たちは数字として役に立たなくなっちゃうのですよ。1として計上していたものが、0になっちゃうのですよ。そして0はいくつ集めても0なのですだよ。
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