双眼鏡を顔から離して、若いジオン男性士官がやれやれと言った顔つきで口を開く。
「はぁ、どうやら奴らは……。木馬は海峡を渡ってイギリス方面へ飛ぶみたいだな」
「く、のんきに言ってないでよニッキ! わたしにザクがあれば! 隊長、わたしに
女性士官の言葉に対し、壮年の男が首を振る。制服の記章からすれば、少佐の様だ。
「いや、我々の任務はあくまでも監視だ。手は出さん」
「シャルロッテ、それに奴らの戦闘見ただろ? 無理だ。
奴らの技量が低いならそれでも、だけどよ。だけど技量も少なくとも性能を十二分に活かせるぐらいはあるぞ。負けるかどうかは知らん。けど勝ってもこちらも半分以上壊滅するぞ」
「弱気な!」
ブチ切れている女性士官には応えずに、男性士官は再度双眼鏡を顔に当てる。その視線の先では、ホワイトベースがドーバー海峡に向けてゆっくりと飛んでいた。
*
ベルファスト基地に到着したホワイトベースだったが、その
「こ、これまでの成果報告書……。戦果だけじゃなしに、その他
「うん、後は実務能力に関する書類か。ええと、身体測定なり運動能力テストなり射撃成績なり……」
「個人用銃火器の扱いとか知るかよ……。
「カイさん、一応これらの能力と貢献度とで、僕らの階級決まるんですから」
「そらそうだがよ、アムロ。……エグザベは、しれっと書類提出済んでやがんのな」
「済まない。皆もやってるもんだとばかり思ってたんだ。僕は余暇があり次第、事前にまとめておける書類はまとめといたから」
「僕らは余暇は全部、身体休めてましたよ」
そんなこんなで日は進むが、更にそれ以外にもアムロとエグザベには別の仕事も入った。
「わたしがモスク・ハン博士だ。君らの報告は読んだが、君ら自身の口からも聞きたくてな」
「はい、オデッサ作戦中に気付いたんですが。ガンダムの操縦系が、うっかり速く操作すると、スパークしてあわやフリーズしそうに」
「僕もプロトガンダムで、同じ現象が」
「ううむ、信じがたいが、コクピットでのログもそうなっているか。まあ、だが安心したまえ。わたしが開発して実験段階ではあるが、マグネット・コーティングという技術がある。間接構造に
要は、油を差すのと大差は無い、と思ったアムロとエグザベではあるが、どうにか口に出すのを避ける事ができた様だ。もし言っていたら、モスク・ハン博士は怒ったに違いないのだし。アムロはともかく、エグザベはよく口を滑らせなかったものだ。
「今ルナ2に置いてあるガンダム3号機も、マグネット・コーティング処理を施してある。G-3ガンダムというコードネームで呼ばれておるがね。プロトガンダムもガンダムも、それと完全に同一の仕様となるわけだ。
それとこの際なので、プロトガンダムは装甲や各部ラッチ、それに各所のシステムなどを更新して、外部形状も含めて完全にガンダムやG-3ガンダムと同一にする事になっている。性能も完全に均一になるぞ。ビームライフルも今までちょっと仕様が違う専用品だったが、今後はガンダムと同じものを使える。Gメカとのドッキングも出来る様になるぞ」
「そこまで変えるとなると、時間がかかるのでは」
「ガンダムともども、ベルファスト基地にいる間中は作業が続くな」
「「その間は……」」
「レビル将軍のビッグ・トレー、バターン号を護っていた量産型のGM、その予備機が4~5機運び込まれているからな。万一の際は、それを借りて運用してくれ」
エグザベとアムロは、顔を見合わせる。これが終わったら、可能な限り早く実機訓練して、感覚をGMに合わせなければ、と2人は思った。まあガンダムでヤバかったのだから、GMも操縦系をショートさせないように注意しなければならないだろう。
*
今まで特務兵だった者達が、各々昇進というか正式な階級を貰った。エグザベ、アムロ、カイが曹長。ハヤトとセイラが軍曹。フラウが上等兵だ。他にも銃座や機関部付きと言った、今まで特務兵だった連中が、伍長~二等兵の位を貰っている。曹長や軍曹になれたのは、戦闘要員の中でも
給与の額が上がる事や、その他待遇が少し向上する事などで皆がそれそれ喜んでいる中、アムロだけが少し悄然としていた。皆はその事に気付いていても、なんとなく声を掛けづらかったが、エグザベだけは無遠慮に話しかける。
「アムロ、給与が上がったお祝いに、せっかく大規模基地にいるんだしPXに何か食べにいかないか」
「エグザベさん……。すいません、そんな気分、あ、いえ、やっぱり行きます」
「そうか。じゃあ行こう。カイやハヤトも来るだろ? リュウさんやジョブ、シイコ中尉も呼ぼうか?」
そしてPXでも、エグザベはアムロに構う。それを見たカイが、ずばり本質を突いてみた。
「エグザベぇ。アムロの様子が変だから、ちょいちょいアムロに話振ってんじゃないの? アムロ相手なら、まわりくどいことしないで直で言った方、いいぜ?」
「そ、そうかい?」
「あ、それで話し掛けてくれてたんですか……。すいません」
アムロは少々引き攣った笑いを
「……例の、命がけで、命を捨てて、情報と指令を伝えてくれた連絡員の人なんです。あの人、二階級特進だそうで。……それだけ、なのかな、って思っちゃって」
「アムロ君?」
「あ、シイコ中尉」
「……軍では、それしかできないのよ。一日に、何人、何十人、何百人、何千人、ジオンとの戦いで死んでると思う?」
「あ」
アムロは唖然とする。シイコ中尉は続けた。
「だからこそ、せめて二階級上げてやることで敬意を表し、周囲に彼の死が無駄じゃ無かったことを知らしめ、そして心の中で彼の死を悼む。それしか軍には、できないのよ。できる事を、せいいっぱいやって、それが限界なのよ」
「……」
「二階級上げて名誉を与えてあげるしか、できない。まあ遺族年金や弔慰金、障害年金や公務扶助料の額も階級に従って上がるし」
「あ。年金とか、上がるんですか」
アムロは年金額とかに、思い至らなかった様だ。少しは報われる、ということを知り、彼はほっと息を吐く。
「ええ、上がるわよ。まあちょっと冗談を言うならば。遺族に対する支払いで政府は青息吐息だからね。それは市民の税金となって
「……そ、っか。ジオンを、どうにか叩かないと、な。そうじゃないと」
「戦争が続けば、スペースノイドもアースノイドも、一緒くたに疲弊するんだ……」
カイとハヤトが、重々しく呟く。いつも軽口を叩くカイの台詞が、何時になく重かった。
*
演習場からエグザベ達が帰って来る。特にエグザベとアムロは、GMを一時的に借り受けてソレに慣れるために、必死であった。ちなみに今日も、操縦系をショートさせて機体を擱座させ、整備班から怒られている。
「はやくガンダム、返ってきませんかねえ……」
「まだプロトガンダムの方が、マグネット・コーティング無しでもショートしづらかったからなあ……」
「あの2人、操縦系ショートさせるってどんな操縦を?」
「なんか操縦ログ見たが、トンデモねえぞ。真似できねえよ。……ん?」
そのときカイは、基地のゲート前にたむろしている人々に目を惹かれる。正確にはその中の、物売りの少女に視線を惹かれたのだ。
(あの娘の視線……。菓子や雑貨なんかの買い手の軍人にあんま向いてねえ。視線、格納庫や整備棟、ドックの方角に向いてねえか……?)
「カイさん?」
「……ん、まあ、うん」
「???」
再度見遣ると、物売りの少女は姿を消していた。カイは釈然としない物を感じつつ、その場を離れる。どことなく、気分は重かった。
*
シイコ中尉、アムロ、エグザベのGM各機がビームスプレーガンを撃ちまくる。
『うわ、くそ! 動きが鈍い!』
「アムロ、練習通りに! 鈍いのはもう仕方がない! ただスラスター推力と全備重量の差から、推進力のパワーウェイトレシオはGMの方が良好だ!」
『わかってますよ! うわ、操縦桿がパチった!!』
「もっとソフトにって、しまった僕も!」
それでも3機のGMは、1機の水陸両用
*
一方のカイは、別の戦線で単独でもう1機のゴッグを引き受けていた。前衛を任せていたガンダムが居ないのは、非常につらい。
「ちくしょうめ、とりあえず相手の足が止まりゃあ……。お?」
港の桟橋の向こうを縦横に遊泳していたゴッグが、メガ粒子砲を撃ちつつ陸上へ上がって来た。ゴッグの俊敏さは水中でこそ、だ。陸上に上がってしまえばハイパワー重装甲ではあるが、鈍重な亀である。
カイはキャノン砲の連打と、狙撃用ビームライフルをゴッグに撃ち込む。キャノン砲はブ厚い装甲により、そこそこのダメージで終わったが、ビームの一撃はゴッグの腹にあるメガ粒子砲の発射口に命中、内部構造を蹂躙する。
その瞬間、カイは生身の少女を見つけた。その顔は、先日のあの物売りの少女だ。あの時の視線の動き、そして今彼女が着用している、ホワイトベース専用のピンクの連邦軍軍服。物売りの少女だという事は、彼女は軍人ではない。軍人ではあり得ない彼女が、ホワイトベースの軍服を着ている。頭の中で、それらの情報が繋がった瞬間、カイの視線の端で爆発するゴッグが『視』える。
カイはその軍服の少女を庇い、ガンキャノンの機体を伏せさせた。爆風が、周囲を吹き抜ける。カイは
「ばかやろう!! 死にてえのか! 戦闘のどさくさに潜入しようってんだろうが、そう上手く行くわきゃねえだろが! どっかでさっさとその軍服捨てて、壊れた塀から出てけ! いいな!? その軍服、ちゃんと捨てるんだぞ!!」
「ひ、あ、あわあわわ……」
腰を抜かして必死に逃げて行く少女を見送り、カイは
(あの女……。訓練とか受けてた動きじゃねえ、よな? あんな素人を
早く戦争が終れば良い、と思う。おそらくあの少女の様な人間は、地球に正式に認可されて住んでいるエリート階級ではないはずだ。当局に『確保』されたなら、宇宙に打ち上げられるはず、だ。
それでも、とカイは思う。重税や有料の空気、水に苦しめられはしても、苦しくても生きていける。地上に不法滞在しているならば、貧困は直接的に死へとつながる。増してや今は、戦争中だ。
どこもかしこも、地獄でしかない。カイはハヤトのコアブースターに追われて逃げ惑う、ミノフスキー粒子をばら撒いていたルッグン偵察機を、狙撃用ビームライフルで撃墜。多少だが、苛立ちは晴れた。
*
そしてガンダム、プロトガンダムの改修が終了し、ホワイトベース各所の修理や再調整も完了。ホワイトベースは南米ジャブロー基地へと向けて出立した。そんな中、カイがハヤトとジョブ少尉に向け、口を開く。
「おーいハヤトぉ、ジョブ少尉、ちょっと付き合えやシミュレーター」
「カイさんなんか最近熱心ですね」
「かまわないけど……。どうしたんだい?」
片方の口角を上げ、カイは語る。
「ちょっとな。ジオン連中にむかっ腹立てててよ。まあ連邦も裏じゃあ何やってるか知らんが。でもな」
「そんなもんですか」
「それにハヤトやジョブ少尉も、ジャブローの後でホワイトベースが何処行くかは知らんが。もし宇宙に上がるんなら、
「ああ、宇宙じゃ支援メカニックの有用性が、って話でね。だったら
そして彼らは、右舷
船窓の外には、大西洋の大海原が広がっている。薄暗い空が、やけに皆の
えー、大検取ったらという話がコメントでありました。現在の現実日本では、高卒認定試験に変わってますねー。ちなみにエグザベ君とシイコさんが、他の面々に色々と勉強とか教えてます。あとエグザベ君は少なくとも高卒認定取るつもりではありますので、進言通りジャブローで試験受けさせましょうかね。アムロとハヤトとカイはどうだろうなあ? リュウとジョブは、いちおう候補生って事は士官学校入ってるはずだし……。どうなってるんでしょうな、その辺。
ミハルですが、ホワイトベースに潜入できずに追い払われました。乗ったら終わりだと思うんですよね。捕まったらアウトだし。カイさん、勘が鋭くなってます。格段に。
エグザベとアムロ、操縦系スパークさせました。どうにかこうにか、騙し騙し使ってましたが、頼りになるモスク・ハン博士が来てくれましたので。でも作業中GM乗ったら、ちょっとヤバかったです。