偽書・ガンダム機動戦記   作:雑草弁士

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第22話 シン少尉、生存

 シャアと白狼、そして青と緑のリックドムが逃げて行く。そのスラスター炎を見遣りつつ、エグザベは思念で言った。

 

 

(アムロ、シイコ中尉、僕らはこのままソロモンへ突っ込む! ハヤトはガンキャノン隊、ボール隊を護っていてくれ!)

(了解!)

(了解よ!)

(了解だけど、ボールが2機、撃墜された。幸い脱出には成功したんで、別のボールが拾って母艦へ向かったよ。あと、残りのボールも残弾少ないんで、いったん艦に帰した方が)

(わかった、ハヤトの判断でいい。ボールは戻してくれ)

 

 

 白兵戦闘力に乏しいのと機動力が低い事、そして残弾数が少なすぎるのがボールの泣き所だ。まあこれに加え、紙装甲、脱出装置の貧弱さなども相まって、もろに丸い棺桶なのだが。

 

 そこへカイの思念が割り込んで来る。

 

 

(ワッケイン司令が危ねえ! キャノン隊はそっちに向かう! まあ俺らが死んでも、とは思わねえから無理はしねえが……。上官と部下って義理の分ぐらいは、な!)

(わかった! だが本当に無理、無茶は駄目だ!)

(おう! ハヤト付いて来てくれると嬉しいが?)

(わかったカイさん! もともとキャノン隊の護りはエグザベさんから言われてたから!)

(じゃあ、行くぜ! ってかハヤトもいつの間にかすっかり念話が……)

 

 

 そしてエグザベ達は、ソロモンへと()ぶ。

 

 

(『()え』るか?)

(『()え』る!)

(わたしも『()え』るわ)

(あの揺らめいているのが、敵の核……。おそらくはドズル・ザビだ。行こう!)

 

 

 3人はスラスターを全開にして、ソロモン要塞へと突入して行った。

 

 

 

*

 

 

 

 赤い高機動型ゲルググ……いや、セイラはそれがゲルググというタイプのMS(モビルスーツ)だとは知らないが、しかし彼女はそれが兄であるシャア・アズナブルの機体だと理解していた。彼女は必殺の念をもて両肩のキャノン砲を撃つ。至近弾に、高機動型ゲルググの機体が揺れる。

 

 

(く、狙撃用ビームライフルのエネルギーを使い尽くしていなければ! はやく回復して! 1発でいいのよ!)

(な……ん、だ? この『言葉』、は)

(!? 兄さんが!? まさか兄さんも!?)

(な! あ、アルテイシア、か!?)

 

 

 赤い高機動型ゲルググと、赤いガンキャノンが、めまぐるしく位置取りを変えて機動戦を行う。セイラの右下側では、ハヤトのガンダムとジョブ少尉、リュウ少尉の量産型ガンキャノンが必死になって青と緑のリックドムを攻撃している。セイラの左側では、カイのガンキャノンが白い高機動型ゲルググと取っ組み合いをしていた。

 

 

(ど、どおだ! 腕を押さえたぞ! これならそのビームのナギナタは使えねえだろ!)

 

 

 カイの思念が届く。白狼の声は聞こえないが、焦っているのは理解できた。その後方では、ワッケイン司令のマゼラン級ハルが必死の後退を行っている。

 セイラは思念で叫ぶ。

 

 

(兄さん! 貴方は何をやっているんです! 家族を捨て、周囲に迷惑を振り撒き、そんなにまでして復讐に全てを! そうでありながら、結局やっているのはザビ家の支配に手を貸すばかり! 貴方は矛盾ばかり!)

(アルテイシア! わたしは、父の、父上(ジオン・ズム・ダイクン)の想いを! 世に! そしてそれを歪めて伝える、父の仇を!)

(ジンバ・ラルが言っていた事を真に受けただけでしょうに! あの男は、わたしたちの世話をしてくれたのには感謝してはいます! ですがあの男は、自分の思想にわたしたちを、貴方を、染めようとした! 貴方を、歪めてしまった! ザビ家が父上を害した証拠など、明確なものは無いのですよ!)

(だが!)

(あそこでデギンが父上を殺して、それでそこまで得になりましたか!? ザビ家にとって!)

 

 

 思念で叫びあっている間も、ガンキャノンと高機動型ゲルググは丁々発止のドッグファイトを続ける。操縦技量では既にセイラがシャアを超えている。ニュータイプ『能力』でも然り、だ。だが機体の機動性では明らかに高機動型ゲルググが上だ。またセイラは狙撃用ビームライフルのエネルギーが、コンデンサーが切れていた。

 

 

(だ、だがわたしは! 父上の思想を! ニュータイプがニュータイプとしていられる世界を! アルテイシア、お前もニュータイプのはずだ!)

(わたしは!! 父上(ジオン)の語った、(かた)った、ニュータイプでは、ないッ!!)

(!!)

(今の世にあるニュータイプは、宇宙に出た人類の進化形ではありません! 単にその頭脳に大古より秘められていた超常的能力を再発現させただけの、単に勘が鋭く、単に他者の心が読み取れるだけの、単なる超能力者(スキャナー)です! 相手を理解することはできる! でも『理解し合い』『思いやる事』はできない! それどころか、『相手が相容れない存在である事』を瞬時に『理解して』しまい、即座に殺し合うような! そんな! そんな存在でしか! ないのです兄さん!)

 

 

 シャアの心が、ひび割れる音がした。少なくとも、セイラには聞こえたのだ。

 

 

 

*

 

 

 

 シャアは必死に高機動型ゲルググを操って、愛する妹の攻撃を避けていた。いや、愛する妹? そんな資格が、妹を愛する資格が自分にあるのか? そんな疑念が、シャアの心を苛む。

 そしてソロモンから発せられた、1つの命令。ソロモン要塞は、再度のソーラー・システムによる攻撃で、再び焼かれている。多数の死人の断末魔が、彼の脳を叩きのめす。

 

 

「……!! ドズル閣下より、ソロモン撤退の命令が出た! シン大尉! ガトー大尉! 撤退、だ! 残念ながら、ここは我々の敗北だ!」

『ザッ無念……』

『おのれ、必ずや捲土重来ザザザ』

「……」

 

 

 シャアは妹が操るガンキャノンに蹴りをいれ、機体を離そうとした。しかしそれより先に、妹のガンキャノンが高機動型ゲルググを蹴り飛ばす。

 

 

「ぐうっ!?」

 

 

 そしてガンキャノンの狙撃用ビームライフルが、ピンク色の閃光を放つ。どうやら長時間の戦闘で、コンデンサーのエネルギーが若干だけ回復したらしい。シャアは必死に機体を回転させ、機体の左腕でビームを受ける。直後左腕を根本から切り離し。

 シャアは高機動型ゲルググの左腕が爆発するのに紛れて、その場を逃走した。彼が操縦席(コクピット)の中を見遣ると、操縦席(コクピット)ハッチがわずかに折れ曲がってパッキンが壊れ、空気が漏れ出している。急いでシャアは、ノーマルスーツを着込んだ。直後圧力差で、ぎりぎりで操縦席(コクピット)ハッチが吹き飛ぶ。周囲は一気に真空になった。

 

 ……間違いなくセイラは、アルテイシアは、兄である彼を殺す勢いでガンキャノンの蹴りを放ったのだ。これがもし、S型のザクⅡやリックドムであったら、ハッチが完全に壊れて着替える暇も無く空気が流出し切っていたはずだ。

 かならず生きて帰る、という願掛けだとか格好つけて、軍服姿でMS(モビルスーツ)に乗っていた自分が、シャアは阿呆に思えた。頬を、涙が伝った。

 

 

 

*

 

 

 

 ソロモン要塞の通路を、シン少尉のGMはビームスプレーガンを構えて進んでいた。脇には同僚の乗るボールが浮いている。

 

 

「な、なんか出そうだな」

『怖気づいたザザザかぁ?』

 

 

 おい、ボールが前に出るな。そうシン少尉は思いつつも、口には出さない。全身全霊で、周囲の気配を探る事に専念する。彼のGMは、ジャブローモデルだ。A型と言われる最初期モデルであり、先日色々な不具合を修理してどうにかB型と同等に持ち込んだ物である。元々はティアンム提督たちと同時期に、ジャブローから打ち上げられて宇宙に上がって来た機体だ。

 そりゃあ、この機体を受領したときは、シン少尉は嬉しかった。ボールより生存率は高そうだから。ただ、ボールを後方に置いて、前でシールドを構えて盾になるのが基本戦術であるが故、恐ろしさはあまり変わらない。

 

 そして、シン少尉の眼前に、絶望の化身が浮かび出た。

 

 

「こ、こいつは」

『て、手柄首ザッぜ!! 撃てよ!』

「わ、わかった!」

 

 

 シン少尉はGMが持つ、ビームスプレーガンを乱射する。だがそれは、巨大な敵機……MA(モビルアーマー)ビグ・ザムの装甲表面で、輝きを四方に散らして消え去る。Iフィールド、だ。この時代Iフィールドとは、本来はミノフスキー・イヨネスコ型核融合炉内部で超高熱と放射線を封じ込める、別タイプの核融合炉で言う磁気ビンの役割を果たすバリアの事を言う。だがこのビグ・ザムは装甲表面にIフィールドを張りめぐらせる事で、連邦軍MS(モビルスーツ)お家芸のビーム兵器を、完全に無効化していたのだ。

 

 

「ひいっ! き、効かねえ!」

『ち、ちくしょう!』

 

 

 そしてビグ・ザム正面の巨大な筒状構造物の中に、光が灯る。ビグ・ザムの巨大メガ粒子砲だ。あれが発射されれば、シン少尉も同僚も、一瞬で蒸発するだろう。シン少尉の脳裏に、その様子がありありと浮かび上がった。恐怖が彼の身体を縛る。

 

 その時だった。

 

 彼らの背後から、青白いスラスター炎を吹かして、黒と銀、青と白、赤と白の、既に連邦軍内部では伝説とまで言われ始めているガンダムタイプのMS(モビルスーツ)が突入して来たのだ。その3機は、それぞれ手にビームサーベルを抜いている。そしてガンダムタイプは、ビグ・ザムの胴中央、巨大なメガ粒子砲の砲口に3機がかりでビームサーベルを突き立てた。

 メガ粒子砲は、基部から炎を吹いて、動きを止める。ビグ・ザムは泡を食った様子で、今度は機体周辺に円環状に配置された多数のビーム砲を撃ち放つ。シン少尉は、必死に機体を低くし、シールドの陰に隠れる。奇跡的にあたらなかった様だが、同僚のボール乗り、その断末魔が頭に響いた。

 

 

(ぎゃあああぁぁぁ!!)

(あんたはそこで伏せてて!)

(生きるのを、諦めないこと! わかるわね! うおりゃあああぁぁぁ!)

(隙があったら、即撤退を!)

 

 

 何か声が聞こえた。そして3機のガンダムタイプは、乱射されるビームを物ともせずに(かわ)し続け、そしてその前腕からせり出したガトリング砲を一斉に撃ち放った。ガトリング砲は、1機につき2門。3機で6門。それが無数の実弾を、ビグ・ザムに浴びせて行く。

 ……穴だらけになって、ビグ・ザムは沈黙した。

 

 だが、その瞬間シン少尉は汗水を垂らす。ビグ・ザムの背後から、何か幽鬼の様なものが立ち上ったのだ。

 

 

『ザッ……やられはせん。やられはせんぞ。たかが3機のMS(モビルスーツ)ごときに。この俺のプライド。ジオンの栄光。やらせはせん! やらせはせんぞー!!』

 

 

 だがその言葉がオープン回線で響き渡った瞬間、別の言葉が、その場にいた全員の脳裏に、冷たく、冷たく伝わって行った。

 

 

(栄光……。プライド……。そんなもののために、そんなもののためにアンタら、サイド1、2、4、5を皆殺しにしたのかい?)

『!?』

(何億もの『ミネバ』を、その父母を、あんたは殺してしまった、んだろ? それが栄光やらプライドやらで、誤魔化せると?)

『だ。黙……』

(あんた自身が分かってるはずだ。コロニー落としに反対して軍を追われ、わずかな資金で部下たちを養ってるランバ・ラル大尉……。あんた、済まないと思ってるんだろ)

『ぐ、うう……』

 

 

 シン少尉は、目の前で何が起きているのか分からない。しかし、ビグ・ザムの残骸の陰から立ち昇っていた幽鬼が、しおしおと萎れて、姿を消して行くのははっきりと感じ取れた。

 

 

 

*

 

 

 

 シン少尉は、チェンバロ作戦を無事に生き残った。あろうことか、敵将ドズル・ザビを捕縛した功労者の1人に数えられ、もしかしたら戦後に勲章か昇進を貰えるかもしれないそうだ。どうやらガンダムタイプの操縦士(パイロット)たちが、報告してくれたらしい。

 

『彼がビームスプレーガンで攻撃を敢行していなければ、あのMA(モビルアーマー)にビームが効かない事がわからず、大変なところでした』

 

 ……だそうだ。その事は、シン少尉はありがたく思う。うん、ありがたい。

 

 だが、あの件の後からシン少尉は、普通の人に聞こえない声が聞こえる様になってしまった。いや、なんか勘が鋭い人には、彼が強く思った事が伝わったりもする。そして彼自身、勘が妙に鋭くなり、偵察に出たときなど、敵の偵察機の位置を『何故か』発見したりもした。

 

 

「俺、どうなっちゃったんだろな」

 

 

 ぼやくシン少尉であった。




祝、シン少尉生存!

そしてシャア、妹に心身ともに叩きのめされてます。下手すると、立ち直れないんじゃないだろうか。妹、力量的にはシャアを超えてますね。でもそんな実感は本人に無いので、ガンダムには乗りません。乗ってたら、シャア死んでましたし。
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