偽書・ガンダム機動戦記   作:雑草弁士

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第26話 とりあえずの日々

 シイコ・スガイ中尉は、本日の10:30をもって大尉に昇進した。そしてゴップ大将の派閥に含まれる連隊のもとで、中隊指揮官を受け持つ事になる。この部隊は基本的に戦後の治安維持、つまりはタケノコの様に湧いて出るテロ化したジオン残党を狩る役割を持っていた。

 それはともかくとして、彼女は今、一世一代の勝負に出るところだ。そして彼女は、ある高級士官の執務室の前に立つ。その高級士官の階級は技術少佐であり、元々技術大尉であったその人物は本来は二階級をすっとばして技術中佐にしようかという話すらもあったほどに一年戦争で貢献したのだ。だが二階級特進はどうかと思うという、極めてまっとうな意見が通り、技術少佐になった代わり、山の様に勲章と一時金を貰ったらしい。

 

 シイコ大尉は、インターホンを鳴らす。すぐに入室許可が下りた。

 

 

『入りなさい』

 

 

 平易な言葉であるのは、軍の上下にユルい技術士官らしい。普通は堅苦しく『入室を許可する』とか言ってくる物だ。シイコ大尉は、遠慮なく入室する。だがその胸は、ある意味で恐怖と、そして期待と、そして焦りと、まあ色々な感情で異様な心拍数を出していた。

 彼女は唐突に口を開く。

 

 

「……技術少佐、いえお義父(とう)さん! 息子さんをください!!」

 

 

 ……ぽかんと大口を阿呆の様に開けて佇む、テム・レイ技術少佐の姿が、そこに在った。

 

 

 

*

 

 

 

 テム技術少佐は、とりあえずティーバッグで紅茶を2人分淹れ、シイコ大尉に差し出す。シイコ大尉は既にやらかした感が目いっぱいありすぎるので、開き直っていつも通りのほわほわした外面を被っていた。まあ貧乏ゆすりをしているので、内心荒れているのは丸わかりなのだが。

 それを見遣りつつ、テム技術少佐が口を開く。

 

 

「うむ、お義父(とう)さんとか、息子(アムロ)をくれとか、そう言うのは置いといて、だ。そもそも慣用表現というのは理解できるが、アムロは『くれ』とか『やる』とかの問題では無いと思うのだよ、わたしは。『あげて』しまったら、わたしとの縁が切れてしまうではないか。そう思ってしまうのだよ。ふふふ」

「あ、申し訳ありません」

「まあ、基本反対することは、無い。わたしからは、ね」

「!!」

 

 

 シイコ大尉の表情に、一瞬喜色が走る。だがまだ油断はできない、と思い直したのか彼女は気合をこっそり入れ直した。

 

 

「ただ、いくつか言っておく事がある」

「はい」

「1つ目。ちゃんとアムロが士官学校を卒業して、成人になるまで結婚は待つこと」

「は、はい」

「法律上は、裁判所で許可が下りれば未成年でも親の承認の元、結婚はできるが、ね。若すぎる結婚は、あまり賛成ができない。アムロに少し、年相応の余裕ができるまで、待ちなさい」

「は、はい」

 

 

 そしてテム技術少佐の、視線が厳しくなる。シイコ大尉は、『ここだな』と気持ちを引き締めた。

 

 

「2つ目。アムロをきちんと尻に敷いて、上手くコントロールしてやってくれ」

「は、はあ? はい……」

「冗談で言っているつもりは無いよ? アムロは、わたしとそういう部分では似ている。少し、風船の様なところがある。自身の目的に邁進し過ぎて、ふわふわ、ふわふわと……。だから、きちんと尻に敷いて、しかし押さえ込み過ぎる事なく、上手くコントロールしてやって欲しい。押さえつけすぎると、あいつ(アムロ)の良い所までスポイルしてしまうから、ね」

「!! はい!!」

 

 

 テム技術少佐は、悲し気な目になる。

 

 

「悪い例が、わたしと元妻、だ。わたしはフワフワし過ぎたし、アレはわたしを上手くコントロールするつもりが最初から無かった。わたしは元妻を、嫌っている。憎んでいる。憎悪している。だが、上手く行かなかったのは、わたしにも責任があるとは、思っては、いるんだ」

「……」

「アレは、わたしがアムロを連れて宇宙へ行く、という時に、アムロと離れて地球へ残る事を選択した。言い方は悪いが、アムロを捨て……いや、ちょっと違うか? 見捨てた? それが近いか。当時既に、間男に気持ちが移っていた事だしな。……わたしは、わたしを裏切ったからアレを憎悪しているわけではないんだ。アムロを裏切ったから、憎悪している。

 ……アムロの成長に悪影響が出たら、そう思って表ざたにしていなかったが、今思い返せばあの時完全に離婚しておくべきだった。そう、悔やんでいる」

 

 

 シイコ大尉は、何も言えない。テム技術少佐は笑顔で言った。しっかりと、何か芯の通った笑顔だった。

 

 

「わたしたち夫婦の失敗を教訓に、君らが素晴らしい家庭を築ける事を、願っている。……実を言うと、アムロからも色々話は聞いているんだ。アムロを、頼んだよ」

「はい!」

 

 

 いい、父親である。シイコ大尉は、そう感じた。

 

 

 

*

 

 

 

 エグザベ、アムロ、ハヤト、セイラ、カイはナイメーヘン士官学校のMS(モビルスーツ)操縦士(パイロット)課程を専攻とする士官候補生だ。そして彼らと共に談笑しているコウ・ウラキとチャック・キースもまた、MS(モビルスーツ)操縦士(パイロット)課程専攻の士官候補生ではあるが、既に実戦を経験して実機にも乗った事のある彼らとコウ、キースはカリキュラムが違う。

 

 

「いいなあ。俺たちも早くMS(モビルスーツ)乗りたいよ」

「僕らだって、感覚を鈍らせないため程度にしか乗ってないよ? あと、飛行機とかMS(モビルスーツ)各種の免許、戦時中は特例で誤魔化してたけど、ちゃんと取得しないと駄目だしさ」

「ま、ドズル・ザビを捕虜にしてギレン・ザビを共同撃沈した英雄サマが、あんなに気安い人物だったなんて思わなかったけどな」

 

 

 コウ、アムロ、キースが笑い合う。特にアムロとコウは、アムロの趣味であるメカいじりとコウのMS(モビルスーツ)オタクが功を奏して、打ち解けたのだ。それ以前は、英雄サマが任官のため士官候補生に入って来た、と噂されて肩身が狭かったのだが。

 しかしアムロとコウ、そしてそれを通じてキース、そして芋蔓式にハヤト、エグザベ、カイが打ち解け、最後にセイラがこっそりとそこはかとなく仲間入りして、今の仲間たちの構図が出来上がったのだ。ちなみにフラウ・ボウは能力的に士官学校の要求レベルに達しなかった事や、本人が任官を望まなかった事、機密であるMS(モビルスーツ)に直接触れなかった事、ニュータイプでは無さそうだと目されていた事などから、民間に降りる事を許可されている。まあ、ある程度の監視は付いているが。

 現在、主要人員の中でフラウとミライは若干の監視、というかある意味護衛の元で、民間人生活を謳歌している。特にフラウはカツ、レツ、キッカを引き取って一緒に暮らしているのだが、伍長(終戦時に上等兵より特進)の恩給では生活が厳しいため、様々な補助金を申請している他、謎の短足のあしながおじさん(どうやらかなり胴回りの太い、カエル面の連邦軍大将であるらしい)から支援を受けて、資格を取って収入を得るべく専門学校へ通っている様だ。短足のあしながおじさんは、ミライにも支援を行っている様だが。

 ちなみに友人知人恩人の類が、短足のあしながおじさんに支援を受けているため、エグザベ、アムロ、ハヤト、カイ、セイラ、そして別の場所で幼年学校に通っているニャアンは、短足のあしながおじさんに逆らえない状態になっている。まあ逆らう気も無いが。

 

 

 

*

 

 

 

 ドズル・ザビは、未だ収監中である。地球連邦政府が主導する裁判に掛けて、絞首刑か銃殺が妥当だろうと当人は思っているのだが。

 

 

「おい監守。さっさと上に伝えろ。俺をちゃんと裁け、とな」

「……す、済まんが。あまり収監者と会話は禁じられている。勘弁してくれ」

「むう……」

 

 

 ドズルはむくれる。まあ仕方のない事でもあるのだ。死んだギレンとキシリアに全て罪を負わせてしまうのが、一番角が立たない方法でもあるし。それにドズル自身にも、心残りが無いわけでは無い。生まれたばかりの娘であるミネバの事もその1つだ。だが……。

 

 

(兄貴の計画に、やむを得ん状況下だったとは言え、公式に合意したのは俺自身だ。スペースノイドの虐殺にも、コロニー落としにも、地球降下作戦にも、全て俺自身が合意し、更にはその遂行に手を貸し、あるいは自ら主導した。この罪は、裁かれねばならぬ)

 

 

 堅苦しい男、である。しかしそう簡単に、『上』も処刑の判断を下すわけにもいかない。旧ジオン公国軍人で、ドズル派の人間はかなりの割合に上るのだ。高級軍人にこそ数は少ない(少ないだけで熱狂的なのは存在する)が、兵士や下級士官などには圧倒的な人気を持っているのがドズルなのである。こういうのをサクっと殺してしまえば、テロリストが乱立するのは目に見えているのだ。

 

 そこに監守が、ちょっとしたサプライズを明かす。

 

 

「ああ、そうだ。これはちゃんと許可を得たから話すんだがな。ガルマ・ザビ……。あんたの弟は、スペースノイド虐殺やコロニー落としへ加担していなかった、意思決定に関与できる立場ではなかった事が証明されたとして、地球からの追放とサイド3ジオン共和国への送還で済んだぞ。今朝の朝刊に載ってた。なんか婚約者のイセリ、なんつったか、それも個人的な私財をはたいてサイド3に行くんだとよ」

「!! 本当か!!」

「うわ!! 恐いんだよあんたは! 監房の扉から、離れろよ!」

 

 

 ドズル・ザビの瞳に涙が溢れる。堅苦しい上に、暑苦しい男だった。

 

 ちなみに、ドズル・ザビの堅苦しさと暑苦しさに、救われている人間が、実は存在した。

 

 

 

*

 

 

 

 ミライ・ヤシマ女史は、かつて地球連邦軍強襲揚陸艦ホワイトベースの操舵手をやっていた元軍曹である。一応彼女は色々な資格を取得していたため、短足の太ったカエル面のあしながおじさんの支援も含めれば、生活に苦労はしていない。

 そんな彼女だが、ふと街角で配られている号外を手にした。彼女は手近なカフェに入り、その号外を読んだ。

 

 

「……ドズル・ザビがソロモン要塞の自室に仕舞い込んでいたザビ家の私文書を、連邦の裁判所に提出。これにより、一部のジオン軍人がサイド2へのGGガス散布を、催眠ガスと騙されて使用した事が判明……」

 

 

 ジオン軍がコロニー落としの際に、GGガスをコロニーに散布してサイド1、2、4、5を皆殺しにした事は、広く知られている。しかしコロニーに毒ガスを散布したジオン軍人の中にも、知っていて毒ガスを撒いた者以外に、知らずして騙されて毒ガスを使わされた者が居た事が判明、騒ぎになっていた。

 そして騙されて毒ガスを使わされた者達が、スペースノイド虐殺の責を全て負わされ、上から命じられた卑劣な作戦、汚れ仕事を強要されたあげく、それが彼らの勝手な独自判断であると偽装されていた事が表ざたになる。ザビ家の私文書には、それらの命令がザビ家に近いアサクラという大佐から出ている事が記されており、しかしてジオン共和国に残されていた書類では、アサクラ大佐は身綺麗なままであった。

 

 

「汚れ仕事を強要され、その責を負わされた悲劇の部隊とその指揮官に対して、ジオン共和国は誠心誠意の謝罪……。そして当初は許可していなかった、ジオン共和国軍への受け入れと、そして各自一階級の昇進を公に発表……。部隊指揮官及び一部の人員は、深いトラウマを抱えており、それに対し特別な年金を創設し、更に一時金と合わせて贈られる……。

 現在ジオン共和国預かりとなっているガルマ・ザビ氏、現時点では無位無官の身ながら、当の部隊指揮官に対して公式に謝罪。ザビ家の一員として、可能な限りの名誉回復と賠償を約束……。アサクラ大佐は、戦争犯罪者として指名手配……」

 

 

 ミライは号外を畳んだ。頼んだコーヒーがやって来る。彼女はその香りを楽しみつつ、それを口に運んだ。

 

 

 

*

 

 

 

 なお、アサクラ大佐はこの事が広く知れ渡り、逃げ込んだ宇宙要塞アクシズを追放されたと言う。

 

 

 

*

 

 

 

 ニャアンは携帯端末での電話が許可されている幼年学校校舎のロビーで、エグザベと話していた。その無表情に見える頬が、僅かながら緩んでいる。

 

 

「エグザベ兄さん、そちらはどうですか」

『ああ、楽しく……とまでは流石にいかないが、充実した訓練鍛練と学習生活を送ってるよ。覚える事が多くて、大変だ』

「同じですね」

『頑張ってるみたいだね』

「はい」

 

 

 エグザベとの会話は、別に楽しいとまでは行かないが、やはりほっとする。安心する、のだ。

 

 

「今度の休みですが」

『ああ、こっちも休みだから、あまり長い時間は無理だけど会えるな』

「……はい。嬉しい、です」

『飛行機の時間、確認しておかないとな』

 

 

 周囲の学友が、目を丸くしている。友人関係になった人物はいるのだが、その人物でもニャアンが明らかに微笑んでいるのを見た事は少ない。ニャアンはそのまましばらく、話し続けた。その様子に、学友たちからニャアンには彼氏でもいるのでは、と噂になるのは仕方のない事であろう。まあ、ニャアンからすればその噂は、別に気になるものでも無かったのだが。




とりあえず閑話的な話です。
シイコさん大尉になって、これで経済的にも! とか踏ん切りがついてテム技術少佐に息子さんください言いに行きました。まあテムさんの親の愛に圧倒されたわけですが。そして反対されなかったので、たぶん親公認の婚約者(笑)。
既に任官済み以外のMS(モビルスーツ)操縦士(パイロット)連中は皆士官学校の操縦士(パイロット)コース缶詰です。エグザベいなかったら、たぶんカイとセイラは無理にでも在野に降りてたかも。まあ原作正史と違い、ゴップ大将のじわる圧力があったので、もしかしたらエグザベいなくとも士官学校行ったかもしれませんが。そして、よりによってコウやキースと同期。
ドズル収監中。だけど、はよ裁けと凄くうるさい。堅苦しくて暑苦しい。そしてその堅苦しさと暑苦しさのおかげで、救われた人たちが一山。地獄に落とされたのが1人。ざまあみろアサクラ大佐、そしてお疲れ様シーマ様。
〆はニャアン。充実した日々。でもそれは、家族になった人のところへ、いつか戻るため。いじらしい。

ごめん、ブライトさん、リュウさん、ジョブ・ジョン。君らの戦後の日常、すっげぇ面白くないんだ。ブライトさんは某マゼラン後期型の副長に押し込まれて、軍務の経験積まされる他、休みの日は山の様な課題(未履修の士官学校の課目を履修済み扱いにするためのレポート)をこなす日々。リュウさんとジョブはブライトさんの乗った艦のMS(モビルスーツ)隊に押し込まれて、そんで休みの日はブライトさんと以下同文。うん、ひたすらツラいだけで、面白くないんだ。
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