偽書・ガンダム機動戦記   作:雑草弁士

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第27話 士官学校での出来事

 MS(モビルスーツ)での長距離行軍訓練。実のところ、これはけっこう厳しい。MS(モビルスーツ)操縦席(コクピット)の座席は、かなり固めであるのが大半だ。しかも脚部サスペンションの調整が甘く旧式も著しい、倉庫に置きっぱなしになっていた様な機材だと、なおさらだ。

 

 

『さ、さすがに尻が痛いな』

『お前でもそう思うか、コウ。流石のMS(モビルスーツ)オタクでMS(モビルスーツ)の事なら何でも許せるお前が』

「ウラキ、キース、口を閉じて」

『『す、すまん』』

 

 

 エグザベの言葉に、コウとキースは即座に黙る。エグザベは、普段はむっちゃ優しい。むっちゃ甘い。しかし訓練は厳しい。座学のときも厳しい。彼が座学のときの班長になったら、提出物が完璧になるまで何度でもリテイクされる。それ故に、頼むから彼が班長にならないように、と神頼みする候補生が多い。まあ班長になる人間は、班長の経験を積ませるために入れ替えで選出されるから、いつもエグザベというわけでは無いが。

 しかしMS(モビルスーツ)を運用する訓練実習の際は、違う。本物のMS(モビルスーツ)を扱う訓練では、事故は命取りだ。だからMS(モビルスーツ)実習の際にはエグザベ、カイ、セイラ、ハヤトの4人から班長が選ばれる場合がほとんどだ。まれに人数が足りないときにアムロが選ばれる事もあるが、アムロは指揮官経験と指揮能力とが乏しく、戦闘家との評価を教官から受けているため、アムロが班長になる事はほとんど無い。増してや実戦経験の無い一般の学校や幼年学校から入って来た候補生が、班長になる事は来年になって実機経験を多々積んだ後でなければ、絶対に無かった。

 

 そして今、今年度のMS(モビルスーツ)操縦士(パイロット)課程の士官候補生たちは、数班に分かれてRGM-79GMでの長距離行軍訓練を行っていた。しかもこのGMは最初期のジャブローモデルで、欠陥の改修すらも行われていないA型、RGM-79Aのままの機体である。その倉庫の奥から引っ張り出して来たガタガタの旧式機体で、候補生たちは長距離行軍訓練演習を敢行していたのだ。

 なお現状の班は、エグザベ、コウ、キースの3人の班だ。数十キロ先には、先行したカイ班長のアムロ、そしてディック候補生の班が居るはずだ。その更に数十キロ先には、セイラ班長のハヤト、ローリー候補生の班が既にゴールしているはずである。このひたすら厳しい行軍を、彼らは何の助力も無くやり抜かねばならない。

 無論の事緊急連絡、救難信号発信は本当にヤバい場合だけ許可されている。それを行えば、救助用装備のRGM-79G、ジムコマンドG型が3機編制の小隊で出動し、助け出してくれる。くれるのだが……。この場合、本当に事故であっても綿密な精査の結果、『努力と根性で乗り切れるはず』であった場合は容赦なく試験を落とされるのだ。その場合、基本的には数週間後に同様の長距離行軍訓練を受けられるのだが……。運が悪ければ単位を落とし留年、訓練失敗時の行動に問題が大きければ最悪放校処分になる。

 ちなみに班長に任命された候補生にとって、この救難信号発信は、更に厳しい判断対象になる。本当に緊急連絡、救難信号が必要になる場合に、単位惜しさに信号を発信しなかった場合……。その結果は、言うまでも無いだろう。士官学校は、厳しいのだ。

 

 

 

*

 

 

 

 そしてもうすぐ、本日の野営場所という地点まで来たときである。唐突に、エグザベの無線機にノイズが入った。

 

 

『……ザザザッ』

 

 

 エグザベの背筋を、冷や汗が伝い落ちる。彼は確実性を取るために、通信を行った。

 

 

「各員、点呼! 1!」

『ザザッ2!!』

『3ザザザ!!』

 

 

 エグザベはすかさず、リモートでコウとキースの機体の、バーニア回路封鎖を切る。また自機の全システム制限解除を行う。そして命令を下した。

 

 

「ウラキ! キース! バーニアシステムの使用を許可する!」

『ええザザッえ!? 行軍訓練じゃバーニア……』

『何が!? ザザザ』

 

 

 疑問を呈したのはキースで、状況確認をしようとしたのがコウだ。だがエグザベは被せる様に叫ぶ。

 

 

「説明している暇は無い! 『お前たちはバーニアも併用し、可能な限りの速度で『ミノフスキー粒子散布圏内』を突破! 通信が明瞭になったなら、即座に救難信号と緊急通信を本部へ試みろ! 内容は、『敵襲あり!』だ!』……これは、班長命令だ! 復唱不要! 行け!!」

『『!! 了解ザザッ!!』班長は!?』

「全員で逃れる事は不可能と判断する! 遅滞戦闘を行いつつ、救援を待つ! 行け!!」

 

 

 コウとキースは、必死でバーニアを()かして離脱を開始する。一方のエグザベは、久しぶりの『悪意』の感覚に、そちらへ向けて機体を走らせた。……あまりにも、A型で最低限の改修すらしていないGMは、鈍い。

 

 

「だが、産まれて初めて乗った、MS-06CザクⅡよりかは、随分とマシだ!」

 

 

 眼前に、MS-07Bグフに率いられたMS-06JザクⅡが4機と、そしておそらくこの敵部隊のエースなのだろう、MS-09ドムが1機、姿を現す。奴らはオープン回線で苛立たし気に語った。

 

 

『ザザザっかく連邦の素人候補生どもを血祭りに上げて、正義の旗を掲げてザザザのろしを打ち上げようとしたんだが』

『ザッ大丈夫、こいつをさっさと潰して追えば、間に合う』

『ザザッザザザザっさと殺っちまって、ギレン総帥の御霊をお慰めしようぜ』

『そして我らの大義に沿うザザザ達がきっと立ち上がってくれるだろう! 貴様らはそののろしの燃料となってもら』

 

 

 全部を言わせるつもりは、エグザベには無かった。装備品は、無し。ビームサーベルも、ビームスプレーガンも、シールドも、無い。であるならば、奪うまで、だ。彼は彼の感覚で『のろのろと』一瞬の踏み込みをし、グフの操縦席(コクピット)付近を蹴り飛ばしつつ、その左腕のシールドを奪い去る。グフは地面に倒れて、ぴくりとも動かなくなった。だが油断は禁物だ。彼はGMの(かかと)を、踏みつける形でグフの操縦席(コクピット)に落とす。

 

ぐちゃり。

 

 嫌な感じがして、装甲板が凹む。エグザベの脳裏に、断末魔が響く。

 

 

「操縦桿、パチらせたら終わりだ。注意しろ」

 

 

 久しぶりの実戦は、エグザベの手足にバラスト(おもり)を付けたハンディキャップマッチだった。

 

 

 

*

 

 

 

 訓練本部に、コウからの緊急通信と救難信号が飛び込んで来たのは、本来なら野営時間であるはずの深夜だった。

 

 

『緊急! 緊急! エグザベ班長の命で、バーニア機動まで使用しての緊急離脱と、緊急通信を命じられました!』

「何があった! エグザベは!?」

 

 

 教官は驚く。彼の中では、エグザベ候補生は士官候補生としての適性はピカいちで、しかも実戦経験もある希少な人材だ。そのエグザベが、判断ミスを犯すとはとても思えない。はたしてコウの言葉は、深刻な事態を表していた。

 

 

『班長は、ミノフスキー粒子圏内を脱出して、敵襲を知らせろ、と! そして班長は、全員での逃走は不可能と断念、単独で遅滞戦闘を行う、と!』

「……!! 了解だ! おい、救急班を装備緊急で変更! マシンガンとシールド装備で、予定地点へ急行させろ! 更に近隣で動ける部隊に連絡を! 有力な戦闘部隊を1……いや、2ユニット派遣を依頼するんだ!」

「りょ、了解!!」

 

 

 教官は、額から流れる汗が止まらなかった。

 

 

 

*

 

 

 

 救急班、救難部隊の3機のGMコマンドG型が、全速力で疾走する。必死で遅滞戦闘を行う士官候補生を、どうにか救わねばならない。……だが、手遅れだった様だ。

 

 

「……うそ、だろ」

『い、いや。現実を見ろよ』

 

 

 そこにあったのは……。

 

 

『……こちら、ナイメーヘン士官学校士官候補生、MS(モビルスーツ)操縦士(パイロット)課程No.182AAG65639、エグザベ・オリベ。救援、ありがとうございます』

「お、おお。どうやらミノフスキー粒子は、全部散じたみたいだな。通信が、明瞭だ」

『はい』

 

 

 そこにあったのは、左腕の肘から先を失い、そして右腕の拳がもぎ取れ、右足首の装甲板が剥がれている、RGM-79A初期型GMジャブローモデルの姿であった。まさしく満身創痍。

 その失われた左腕を探せば、ドムの腹部、操縦席(コクピット)部分に深々と突き刺さっているし、右拳は倒れ伏している4機のザクⅡJ型のこれまた操縦席(コクピット)、胸部にめり込んでいる。満身創痍のこのGMは、救援部隊が来る前に、グフ1機、ザクⅡ4機、ドム1機を徒手空拳で撃破してしまったのだ。

 

 

『申し訳ありません。もはやこちらは、動く事もできません。操縦系が完全にパチって、じゃない、完全に壊れてしまい、もうハッチを開く事も、機体をこれ以上動かす事もできない状況です』

「そ、そうか。うん。機体ログは無事かね?」

『そちらは大丈夫かと。ただ操作パネル自体操縦系と共に死んだので、修理しないとデータを取り出すのは。通信機が生きているのが奇跡です。

 ……貴重な訓練用の機体を壊してしまいました。申し訳ありませんでした』

『い、いや、それは。なあ』

『う、うん。そうだろ?』

「まあ、なあ。教官には、俺たちからも弁護してやるよ」

 

 

 嬉しそうな声が響く。

 

『ありがとうございます! ところで、脱出方法が無いのですが』

「あー、う、うん。救出機材を持って来る様に頼むから、しばらく待っていてくれ。1時間はいらんと思う」

 

 

 そして、機材の到着まで1時間弱、作業に40分かかって、エグザベは機体から救出された。ちなみに行軍訓練は、あくまで特例という事で再度、次週にすぐ行われたのである。

 

 

 

*

 

 

 

 エグザベは、仲間たちと語り合っていた。

 

 

「例の件、あくまで噂だけどさ。結果が出たらしいよ」

「何だったんだい? 班長さま、よ」

「班長はよしてくれキース。訓練終わったんだから。……やっぱり奴らが言ってた通り、ギレン派。その中でも、親衛隊の生き残りだったみたいだ。ただし機材は地球に潜伏してる、逃走中のジオン兵からお金を払って買い取ったものらしい」

 

 

 アムロがうんざりとした口調で言う。

 

 

「ギレン派かあ。親衛隊って、頭悪いのかい?」

「悪いだろ。特殊な思考に凝り固まってるうちに、別の考え方ができなくなった奴らだ。士官候補生を数人殺したところで、同調して立ち上がる馬鹿がどんだけ出るってんだ」

 

 

 カイの罵倒に、その場の皆は頷く。ハヤトが大きく溜息を吐いた。

 

 

「ほんと、奴らが大きな騒ぎを起こさないといいんだけど、さ」

「下手な事言わないでくれよ。本当になったらどうすんだ」

 

 

 コウの言葉に、しかし返す者は誰もいなかった。そうなるのではないか、との思いが皆、強すぎたからである。




エグザベ君士官学校の日々です。でも今回はイレギュラーな出来事。本気でやばかった話です。さすがにエグザベ君でも、うっかりパチりかねない最初期型RGM-79Aジャブローモデル未改修機で標準以上の技量のザクⅡJが4機、グフ1機、ドム1機と殺り合うのは、骨が折れます。というかパチったら最後。違う、最期。本気でつらかった模様です。
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