偽書・ガンダム機動戦記   作:雑草弁士

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第29話 第49独立戦隊、始動

 第49独立戦隊の人員スカウトは、難航している。とりあえずカイ中尉待遇少尉の隊にサマナ・フュリス准尉、エグザベ中尉待遇少尉の隊にはアダム・スティングレイ准尉という各々下士官がやって来て、少なくともカイ少尉の隊は定員を充足した。しかしこれでもまだ、部隊メンバーの完全充足には程遠い。

 ただし入って来てくれた2人の准尉は一年戦争を潜り抜けて来た凄腕であり、しかしながらその腕前を鼻にかけることは無い人格者であった。そのため、エグザベとカイはとても助かったと言える。これが鼻っ柱の強い事で有名な、どこかの某第四小隊の面々が補充として送り込まれでもしたら、目も当てられない。

 

 ちなみに准尉は『尉』と付いているから士官と勘違いしている人が多いのだが、士官ではなく最上位の下士官、伍長軍曹曹長らの最上位、といったところの地位だったりする。ちょっと気を付けないといけない。まあ軍ごとに、長年勤めた下士官に与える地位だったり、あるいは手柄を立てた下士官を士官に上げるほどじゃないから与える地位だったり、その他諸々で違うのだが。

 

 そんな折、エグザベ少尉はブライト艦長に呼び出された。トロイホースの艦橋(ブリッジ)に出向くと、ブライト艦長の額に縦線が何重にも重なって見える。

 

 

「……ぶ、ブライト艦長。もしやゴップ大将から何か無理難題を」

「よくわかるな。いや、無理難題というほど酷くは無い。と思いたい。俺じゃ無く、エグザベも大変な思いはするだろうが」

「え」

 

 

 そしてブライト艦長は、手元の端末画面に幾つかの履歴書……と言っても軍の資料だが、それを表示させる。それを見て、エグザベは『ああー、来たか』と思った。そこに表示されているのは、ゼロ・ムラサメ少尉とゲーツ・キャパ少尉の人事書類だったのだ。とりあえず一応の軍教育は受けてはいるが、士官学校卒ではない。彼らが少尉であるのは、強化人間を軍に突っ込む際の面倒ごと色々を避けるため、であるという事。その他色々が、記載されていた。

 

 

「……彼らを?」

「ああ。エグザベの隊は、あと2人余裕があった、な」

「まあ、否やは無いんですがね。『大丈夫』なんですか?」

「ゴップ大将とレビル将軍がムラサメ研とオーガスタ研から引き上げさせた各種資料をもとにして、この2年徹底的な治療を行ったらしい。それで現状、彼ら専属の医師があればまともに軍務はこなせるとの事だ。……そこまで持って来るのに、阿呆みたいに多額の費用がかかってはいるんだが、な」

「素直に退役させてあげたら?」

 

 

 ブライト艦長は、首を左右に振る。

 

 

「思い詰めている、らしい。特にゼロの方は、な。彼からの手紙に、何か書いてなかったか?」

「医者のおかげで、頭痛がかなり楽になった、みたいなボカした近況報告ぐらいですね。あとは彼に直接関わらない、噂話の類、とか」

「そうか。何と言えばいいのか、自分たちには戦う以外ない、みたいに思い込んでいてな。だからと言って、説得の言葉も周囲の誰にも無い」

「……」

 

 

 エグザベは、しばし沈思して、そして頷く。

 

 

「わかりました、受け入れましょう。いや、最初から否やは無いんですが」

「助かる」

「まあ知らない仲でもないですし。手紙を時々受け取るぐらいには親しいとも思ってますし」

「2人と一緒に、専属の医師が2人付いて来る。スタリオンの艦長はまだ着任していないが、来たらそっちにも俺から通達を入れて置く」

「おねがいします」

 

 

 これで残るは、シイコ大尉とアムロ少尉の下に就く2名だけとなった。まあそれとスタリオン艦長職も決まっていないが、これは上から言って来ないとどうにもならない。

 

 

 

*

 

 

 

 そして数日後、ゼロ少尉とゲーツ少尉が、2名の医務官を従えてやって来た。

 

 

「久しぶりだな、エグザベ……いや、エグザベ隊長」

「これから世話になる……なります」

「ああ。こちらこそよろしく。同じ隊になる、アダム・スティングレイ准尉だ、仲良くやってくれ」

「少尉さんたち、よろしくお願いするぜ」

 

 

 アダム准尉が差し出した手を、ゼロ少尉とゲーツ少尉は順番に握り返す。どうやら挨拶ぐらいはまともに出来る様に、人間性も丸くなった様だ。

 

 

「じ、自分は医務官のジム・ドゥ特務少尉です。ゼロ少尉担当です」

「わたしは同じく、医務官のアン・ドゥ特務少尉です。ゲーツ少尉担当です」

 

 

 あきらかに偽名ですという2人の医務官が、上手くできてない敬礼を送って来る。エグザベ少尉は、中尉待遇なので彼らの上官にあたるので、きっちりと答礼を返した。礼儀正しく。

 いちおう強化人間関係の仕事に就く上で、本名は伏せるべきだと『上』が判断したのだろう。ちょっとばかり彼と彼女はビクビクしている。

 

 

「スタリオンには、まだ艦長副長が着任していないんで、一応暫定的に僕が責任者を代行してるんだ。あくまで代理で。新任少尉なのにいきなり中尉待遇の上、ひどい話だよな」

「またまた~。そんな自然体で、何言っちゃってるんですか」

「君こそ気安いな!? アダム准尉。いいんだけどさ。とりあえず一番近いPXで、皆で歓迎会でもやろう。一応隊長職も手当が出てるし、艦の責任者としてもこっちは日割りで手当てが出てるから。だからあんまり気にしないで食っていいぞ」

 

 

 アダム准尉は『やった!』と声に出して喜ぶし、ゼロとゲーツはにやりと笑う。まあ2人の医務官は、そこまで砕けられなかった様だが、それはまあ仕方あるまい。でもアダム准尉の歓迎会は、先んじてやっていたはずなのだが……。

 

 

 

*

 

 

 

 トロイホース副長職と、スタリオン艦長職副長職、それにシイコ大尉直卒小隊の残り2名が決定した。

 まずトロイホース副長だが、ヒュー・クレイトン中尉だ。少尉時代になんとか言うサラミス艦の副長をやっていたのだが、ア・バオア・クー戦で沈没し、大気圏突入カプセルを兼ねた脱出艇で脱出。その後はルナ2基地で『地上』任務に従事していたそうなのだが、この度中尉昇進して、トロイホース副長になる事が決まったらしい。

 次にスタリオン艦長だ。エルマー・クルツ大尉で、中尉時代なんとかいうサラミス艦の艦長を務めていたのだが、これもア・バオア・クー戦で沈没。大気圏突入カプセルを兼ねた脱出艇で脱出したのち、大尉昇進して地上でミニ・トレーの艦長職をやりつつジオン残党を狩っていたらしい。しかし先日強力な部隊とかち合ってしまい、ぎりぎりの勝利と引き換えにミニ・トレーは炎上、後に廃棄を余儀なくされた。指揮ミスを疑われたが結果それは無く、無罪判決。その後スタリオン艦長に抜擢されたわけだ。

 スタリオン副長は、コンラッド・カー中尉。エルマー艦長の副長をミニ・トレー時代務めていた人物で、ミニ・トレー廃艦後にエルマー艦長と共に横滑りでスタリオン副長に異動して来た。

 

 そしてシイコ大尉直卒小隊に加わる2名の隊員だ。この2人はもちろんMS(モビルスーツ)操縦士(パイロット)なのだが、ちょっとばかり経歴に瑕疵があったのだ。

 具体的に言うならば、経歴からすれば既に両名とも少尉任官して問題無いほどの実力と手柄を上げているのだが、2人の前隊長がスパイ容疑で軍法会議にかけられていた。前隊長は一応は解き放たれていたのだが、2人はその監視と、裏切りがあった場合の射殺を上から命じられていたのだ。

 そして前隊長は上官からの非道な命令に耐えられず脱走。結局2人は、その際に前隊長を殺害せず見逃したのではないかと言う件について、疑いを掛けられたまま今に至るのだ。無論、上司の監視と殺害を命じるなど、本来は憲兵に任せるべき内容を密命と言う形で指示するのは、手続き上も軍としての常識上も、非難される可能性が高い行いである。

 で、あるが。結局2人が前隊長の殺害に至らなかった事で色々となあなあでその件は終わり、そして2人の人事書類には、昇進の際に考慮すべき事情として、この件についての申し送り書が付随する事になったのである。前例主義が強い地球連邦軍に於いて、こういった申し送り書が付く事は、出世に於いて絶望的だ。……2人の名は、カレン・ジョシュワ曹長と、テリー・サンダースJr.軍曹である。

 

 そしてブライト艦長とシイコ大尉は、この2人を部下に加える事になった際に色々と2人の経歴を調べ、(おもむろ)にゴップ大将に面会する許可を求めた。そしてそれは想像以上に早く実現する。その場では、こんな会話が成されたらしい。

 

 

「面会の許可、ありがとうございます大将閣下」

「ありがとうございます」

「何、かまわんとも。君達には期待しておるからな。……とりあえず面会の要請の際に提出された書類で、うん、まあ。話の内容はざっくりとは理解しているよ。ジョシュワ曹長と、サンダースJr.軍曹の人事書類に付されている、この申し送り書の件、だね?」

「「はい」」

 

 

 そしてゴップ大将は、徐に端末を操作して、2人の人事書類に付随している申し送り書を消去、更に人事部にメールを書き、実際の紙の書類に於いても、申し送り書を破棄する事を命じる。

 

 

「これでいいかね?」

「「ありがとうございます」」

「ふむ。まあ、『貸し』でいいかね?」

「「あ……ありが、とう、ございま、す」」

 

 

 滝の様な汗を流す、ブライト艦長とシイコ大尉。最後はちょっとしまらなかったが、こうして2人は、カレン・ジョシュワ『少尉』とテリー・サンダースJr.『少尉』として第49独立戦隊MS(モビルスーツ)隊に所属する事になるのだった。

 

 

 

*

 

 

 

 とりあえず、あとはリュウ中尉とジョブ中尉が来る時までは、隊の編制に変更は無い。なので、この状態で結成式を行って、その後は隊の絆を強める目的で、大き目のPXを借り切って宴会が催された。

 その宴席での事である。エグザベ少尉に話し掛けて来る者がいた。

 

 

「……あんたがスタリオンのMS(モビルスーツ)隊、エグザベ中尉待遇少尉、かい。一年戦争の英雄の1人」

「……確かに、何処と無く似ている」

「君らは……。ああ、紹介されたね。たしかジョシュワ少尉にサンダースJr.少尉」

 

 

 カレン少尉は挑発的な視線で、そしてサンダースJr.少尉は思い悩んだ視線で、エグザベを見つめる。

 

 

「……僕が何か?」

「いや、アンタちょっと甘さが何処と無く見えて、さ。悪い、前の隊長が、ね。それが重なって見えてさ」

「……彼自身は後悔はしていないだろうが。だが、俺からすれば、それで身を滅ぼしたようにも見えて、しまう」

「心配しなくていいぜ」

「「!?」」

 

 

 割って入ったのは、カイだった。

 

 

「エグザベは甘ちゃんに見えるが」

「ははは、ひどいな」

「甘ちゃんに見えるが、甘いだけじゃない。こいつは目的と優先順位は、きっちりとしている。そして優先順位が高いもののためなら、いくらでも厳しくなれる。覚悟、ガン極まりなんだ。まあだからと言って、仲間を見捨てたりはしないから安心しな。仲間の優先度は、かなり高い」

「ははは」

 

 

 カレン少尉は目を丸くし、サンダースJr.少尉は深く息を吐く。そして2人は言った。

 

 

「そっか、悪かった。ま、似てるように見えても人それぞれだしな」

「確かに。俺は今でもあの人の人となりは高く評価している。あんたも、そう、だな……。言葉が、出ん。すまない」

「気にしないで。さ、食べ物が残ってる内に、食べよう」

 

 

 そして去っていく2人を見送りつつ、カイは言う。

 

 

「ま、人それぞれ色々ありやがんなあ。ブライトさんがよ、かなり苦労したみてえだぜ」

「うん。……だけど結局、士官学校出たてのペーペーは、入って来なかったなあ……。まあ、やりづらそうな人が来なくて良かったか」

 

 

 カイとエグザベも、食べ物を取りにテーブルの方へと歩いて行った。




当初シイコさんは大尉だしけっこう経歴も凄いから大丈夫だとして、アムロ、カイ、エグザベが副隊長や小隊長としてやりづらく無いように、実績のないペーペー士官を集めるかと考えていた彼らでしたが、結局来たのは『実績はあるけれど階級が低い下士官』か『実績はあるけれど士官学校出てないパターンの士官』達でした。まあちょっと尖がってる奴はシイコさん直卒小隊なので多分大丈夫。
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