偽書・ガンダム機動戦記   作:雑草弁士

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第3話 ガンキャノン専属パイロット

 ルナ2への航行の途中、艦長代理であるブライト・ノア士官候補生は溜息を吐いた。ガンダムの操縦士(パイロット)であるアムロ・レイとはどうもファースト・コンタクトを失敗した様で、何か相性が良くない。しかもそれが技術士官テム・レイ技術大尉の息子だと気付くのが遅れ、そちらとも何となく付き合いづらくなってしまった。相手側は大人であるし、気にしない様にしている模様なのだが、それでもブライトは18歳の若年でしかない。

 ……彼の胃が、しくしくと痛んだ。

 

 

「貴方が艦長代理?」

「む? 君、いや貴女は……!? し、失礼しました少尉!」

「いえ、少尉だからって気にしないで。一番大事なときに、ブッ倒れて何の役にも立ってなかったんだもの」

 

 

 柔らかく笑う女性の制服の襟には、少尉の階級章が光っている。士官候補生でしかないブライトにとって、間違いなく上役だ。女性は語る。

 

 

「艦長代理、自分はRX計画ガンキャノン専属テストパイロット、シイコ・スガイ少尉です。船医代理から任務への復帰許可が出ましたので、強襲揚陸艦ホワイトベースMS(モビルスーツ)隊への着任許可、願います」

「きょ、許可します」

「ありがとうございます。……事情は聞いたわ。ほぼ全ての士官や兵員が殉職あるいは重傷で任務が不可能。避難民から協力者を募って、艦を運用している状態だそうね。一応問題にならない様に、特務兵として徴用している様だけど」

「……正直、うっかりしていました。テム・レイ技術大尉から意見されなかったら、民間人をそのまま任務に()けていましたよ。ルナ2に着いたら確実に営倉入り、下手をすれば軍法会議でした」

 

 

 シイコ少尉もまた、溜息を吐く。

 

 

「いえ、特務兵として徴用していても、その危険性は高いけれど……。でもまあ、生き残るには仕方ないわよね」

「……スガイ少尉の方が、階級も正式に貰っておりますし、艦長代理には相応しいのでは?」

「駄目よ。わたしはあくまでパイロット。士官学校でも元々航空機パイロット課程だったし、艦船の扱いはどの科目も履修していないの」

 

 

 そう言って柔らかく笑うシイコ少尉に、思わず見惚れてしまうブライトだった。……まあ、この温厚そうな女性という第一印象は、さほど時間を掛けずに打ち砕かれてしまうのだが。

 

 

 

*

 

 

 

 士官候補生リュウ・ホセイは、コア・ファイターに搭乗して宇宙空間を()んでいた。目的はジオン軍特殊部隊、シャア・アズナブルのムサイ級軽巡洋艦ファルメルが、補給を受けるのを妨害する事だ。

 ブライト艦長代理は罠を疑って消極的だったが、主要人員の多数決でこの攻撃が決まった。そして後方のホワイトベースから、3機のMS(モビルスーツ)が射出される。

 

 

「ガンキャノンは、シイコ少尉か。俺が乗るって話だったが、あのヒトが任務復帰したなら仕方あるまいさ」

 

 

 そしてホワイトベースの左舷MS(モビルスーツ)デッキから2機のMS(モビルスーツ)、ガンダムとプロトガンダムが次々に発進する。また右舷MS(モビルスーツ)デッキから、赤くてキャノン砲を両肩に背負った重厚なMS(モビルスーツ)、ガンキャノンが射出された。

 

 

 

「……? 静かなもんだな? まあ、オペレーターも素人だ。まだ慣れてないのか」

 

 

 リュウは、自分が通信を切ったままである事に、気付いていなかった。

 

 

 

*

 

 

 

 アムロが自機のハンドサインで、機体の進行方向を変える事を提案する。エグザベはそれに感心した。

 

 

「なるほど、太陽を背にして攻め込むのか。頭が回る……。流石だな、アムロ君。シイコ少尉は?」

 

 

 プロトガンダムの頭部をガンキャノンの方に向けると、ガンキャノンも頭部を(わず)かに動かして頷きを見せる。ガンキャノンのあまり動かない頭部であれだけの意思表示ができる事に、シイコ少尉の技量を感じていると、リュウのコアファイターも軌道を変更する。コアファイターは流石に稼働部位がフラップや方向舵とかそれぐらいしか無いので、ジオン軍に気付かれないために通信を制限している状況下では意思表示はほぼ不可能である。

 

 

「……行くぞ」

 

 

 アムロのガンダムはハイパーバズーカを装備し、シイコ少尉のガンキャノンは通常のキャノン砲と狙撃用ビームライフル装備をしている。この2機が対艦装備で、プロトガンダムとコアファイターで護衛をするのだ。

 

 

「僕とリュウさんで、出て来るならシャアを引き付けて、その隙に敵の輸送艦とムサイ艦をアムロ君、スガイ少尉で始末する……。前回両脚を潰してやったから、出て来ないと楽なんだけど」

 

 

 だがそうそう上手くはいかない。アムロのガンダムがハイパーバズーカを、シイコ少尉がキャノン砲を撃ち放つと、赤いザクⅡS型がムサイ艦から発艦して来たのだ。ちなみに両脚は、緑色だ。

 そしてシイコ少尉から通信が入る。

 

 

『発見された! ザザ信封鎖解除! ただしミノザザザザ粒子が濃いからあまりザザザッにはするな!』

「りょ、了解!」

『ザザザかい彗星のシャザザッ、貴様の帰る場所を無くしてやザザザッ!』

 

 

 彼女は正式に任ぜられたわけではないが事実上、ホワイトベースのMS(モビルスーツ)隊隊長だ。だが直接的な指揮能力という面では、何か(きび)しいものをエグザベは感じる。操縦能力は極めて高い様に見受けられるが。

 

 

(!! い、いや、動揺している場合じゃない! シャアを僕とリュウさんで引き付けないと!)

 

 

 エグザベはけん制の60mmバルカンを撃つ。だが彼は、即座に射撃を中止した。

 

 

「!! リュウさん、射線に入らないで! ……!? 返答は!? ミノフスキー粒子で通信不能なのか!? い、いや違う! これは!」

 

 

 彼もリュウが自機の通信を切っていることに、今更ながらに気付く。更にリュウが空戦に夢中になり、ホワイトベースからの射線を妨害している事も。そしてシャアの赤いザクⅡS型両脚だけ緑がザクマシンガンを撃つ。狙いはリュウのコアファイターだ。

 

 

「ちぃっ!!」

 

 

 エグザベはザクⅡとコアファイターの間に割り込み、胴体装甲でザクマシンガンを、シールドでコアファイターの銃撃を受け止めた。リュウの驚愕が『何故か』脳裏に感じられる。

 エグザベは頭部の複合カメラ脇に内装された投光器で、コアファイターに発光信号を送る。数瞬後、プロトガンダムはリュウのコアファイターからの通信を受信した。

 

 

『ザッグザベ、すまん! 失態をザザザ』

「構いません! それよりホワイトベースからの射線に入らないで!」

『わかっザザザ』

 

 

 そしてプロトガンダムのシールドが、シャアのザクⅡS型が振るったヒートホークで斬り裂かれる。エグザベは機体にシールドを投棄させ、その背後から60mmバルカンを斉射した。

 

 

 

*

 

 

 

 シャアは黒い連邦MS(モビルスーツ)執拗(しつよう)な攻撃に辟易(へきえき)していた。

 

 

「ええい! 邪魔だ!」

 

 

 見遣るとガデム大尉率いる補給艦パプアは赤い重装甲の連邦MS(モビルスーツ)に幾たびも攻撃を受け、もはや爆沈寸前である。ガデム大尉は旧型のザクⅠに乗り込んで必死に補給品のザクⅡをシャアのファルメルに届けようと奮戦していた。

 だがそこに白い連邦MS(モビルスーツ)が突入して来る。その機体は撃ち尽くして空になったバズーカ砲を捨て、肩口からビームサーベルを抜き放つ。ピンク色の光条が、(ほとばし)った。

 

 

「やめろガデム! 貴様のザクでは無理……!?」

 

 

 シャアは白いMS(モビルスーツ)がガデムの旧ザクを撃破するだろうと、そう思った。だが白いMS(モビルスーツ)操縦士(パイロット)は、予想以上に任務に忠実だった模様だ。連邦の白いMS(モビルスーツ)は、ビームサーベルで補給品のまだ稼働していないザクⅡを、次々に斬り払ったのだ。

 爆炎に包まれる貴重な補給品のMS-06FザクⅡ。ガデム大尉の叫びが轟く。

 

 

『お、おのれザザザッ! よくも、よくもザザッ!!』

『黙れよ! ザザッわたしの同僚たちを、いやそれどこザザッかサイド7の民間人ごと皆殺しにしやがって! あいつらの所ザザ送ってやるわ!!』

 

 

 赤い重装甲の連邦MS(モビルスーツ)が、その絶大な火力をガデム大尉の旧ザクに集中して叩き込む。瞬時にガデム大尉の機体は爆散した。ちなみに敵への通信は、軍規違反、軍法違反である。赤い機体の操縦士(パイロット)は、かなりエキセントリックな性質の様だ。

 

 

「が、ガデム!」

『ザッア少佐! 木馬型の敵艦からの艦砲射撃! ファルメルは、もうもちませんザザザ!』

「ドレン! く、コムサイだ! コムサイを切り離して脱出しろ!」

 

 

 そう叫ぶや否や、シャアも戦域を離脱しようとする。視界の端に、ファルメル本体から射出されるコムサイが映った。

 

 

 

*

 

 

 

 爆光の向こうに消えるムサイ級ファルメルを見据えつつ、アムロはガンダムの機首を巡らした。エグザベのプロトガンダムが近寄って来る。頭部のV字アンテナは片方が折れているが、あとはシールドを喪失した以外はほぼ無傷だ。プロトガンダムはガンダムの肩に手を乗せる。いわゆる『お肌の触れ合い会話』だ。

 

 

『アンテナをヒートホークで折られたよ。正直肝が冷えた』

「お疲れ様です、エグザベさん。シャアを引き付けてくれていたおかげで、確実に任務を果たせました」

『これでシャアの部隊の追撃はまず無いだろう。ルナ2までおそらく障害は無いはずだ』

 

 

 そこにシイコ少尉のガンキャノンも、話に加わって来る。彼女はアムロのガンダムの胴体にガンキャノンの手を伸ばして触れた。

 

 

『おつかれ様。任務は100%達成ね』

「あ、お、おつかれ様で、す」

『おつかれ様です……』

「うふふ、ごめんなさいね。わたし戦略とか戦術とかそういうの苦手な類でね。以前の上官からは『戦闘家』だって言われてたのよね」

「『は、はぁ……』」

 

 

 エグザベがちょっと引いているのが、声音から理解できる。アムロも少しばかり引いていた。

 

 

『じゃあ、ホワイトベースへ帰りましょう? ああ、あとエグザベ君。貴方、よかったらわたしの教科書で勉強してみない?』

『え?』

『機密になる部分は読ませられないけど、エグザベ君は戦闘指揮の才能がありそうに見えるのよ。まあまだ特務兵、三等兵扱いだから意味は無いけど、将来的に、ね? それと……』

 

 

 そしてシイコ少尉はアムロにも話し掛けた。

 

 

『アムロ君はそれよりも、わたしと同じ戦闘家の匂いがするわね』

「そ、そうですか、スガイ少尉」

『2人とも、シイコでいいわよ?』

「『りょ、了解ですシイコ少尉』」

 

 

 そこへリュウのコアファイターから通信が入る。

 

 

『ザザッそろそろ、ホワイトベースに帰還せんか? シイコ少尉も、ザッザザ還命令出していただけないでしょうか』

『わかったわ。じゃあ皆、帰還するわよ。それと……』

「『『?』』」

 

 

 直後、シイコ少尉は凄みのある声で語った。

 

 

『リュウ君は、帰ったらお説教、ね?』

『は、はいっザザザザザッ!!』

 

 

 アムロは内心で、リュウに手を合わせた。




ファルメル、爆沈しました。原作と違い、プロトガンダムとガンキャノン1機がそれぞれ加われば、こうもなるでしょう。テム・レイが無事でホワイトベースに居れば、確実にガンキャノン稼働可能になりますよね?

そして満を持して、頭に瓦礫(がれき)がぶつかって昏倒していたガンキャノンのテストパイロットさん、目覚めて職場復帰です。そうです、あのヒトです。あの表向き優しそうだけど中身ちょー怖いお姉さんです。
……でも、どっちの顔が本物でどっちの顔が嘘って事は無くて、ちゃんと優しい人なのも本当なんですよ? 本当ですよ???
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