偽書・ガンダム機動戦記   作:雑草弁士

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第30話 ドズル・ザビが泣いている

 シイコ大尉が頭を抱えている。

 

 

「け、結婚式の日取りが決まらない」

「出撃が多いですからね。キリマンジャロ基地に応援に来る事になって、大変ですよね」

 

 

 溜息を噛み殺して、アムロ少尉も憂鬱そうに言う。2人はアムロが士官学校を卒業して任官したら、ちゃんと結婚しようと約束をしていたのだ。だが……。第49独立戦隊は結成式直後からいきなりアフリカ大陸へと飛んで渡り、もしも3年もこの地にいたら『俺はスペシャルで2000回で模擬戦なんだよ』を地で言えそうな状況だったのだ。

 いや、分からないとは思うが、要は緊急出撃(スクランブル)を午前と午後の1日に2回はやって、余った時間は練度を保つためにシミュレーターで模擬戦三昧という……。彼らが技量的にも実績的にもスペシャル様である事は言うまでも無く。

 

「しかもそこまでやっても、(テロリスト)は逃げ足が速くて、現場に到着する前に逃げますからね。これまで敵機を撃破できた機数は、両手の指があれば足りる」

「まあ、敵もこちらが出撃すると、何も目的を達成せずに逃走しないとならないので、現地の安全は一応紙一重で保たれてはいるけれど。でも結婚式ができないわ。

 ……まったく誰よ、こちらの出撃情報漏らしてるのは」

「僕らの『感覚』でも『悪意』を掴めませんからねえ……。基地内に裏切者がいるってわけじゃ、無さそうです。となると基地近隣に、民間人スパイによる監視網でもあって、こちらが出撃したら即座にキシリア派連中(テロリスト)に伝えてるのか」

 

 

 2人はとうとう、大きく溜息を吐く。ここら辺の地域は、連邦政府や連邦軍から虐げられてきた者達も多い。連邦軍に好意的な者もそこそこは居るのだが、一年戦争中のブチ壊れた連邦軍たちの暴虐や、それ以前の連邦政府の棄民政策の対象になったりなど、連邦が嫌いな連中の方が多そうだったりする。

 まあだがしかし、そのジオン残党(テロリスト)連中の悪業が広く知れ渡りつつあり、あくまで比較対象としてだが連邦軍の株は少しずつ上がりつつある。若干だが。と言うか、『連邦は嫌いだが、平和維持に来てる連邦軍はそこまで悪く無さそう』『連邦は嫌いだが、もっとジオン残党は嫌い』みたいな感じか。

 

 

「ところでどうして、こんなに残党共(テロリスト)の動きが急に活発になったんでしょうかね」

「そうよね、僻地に隠れ潜んでる残党だったから、前はもっとヌルい襲撃頻度だったんでしょう? わたしたちが応援に来る1ヶ月くらい前から襲撃頻度がとんでもなく上がったらしいけど。というかそのせいで、結成直後のわたしたちが応援に」

「書類を持ってきまし……何頭抱えてるんです?」

 

 

 周囲の人間が中隊長執務室から聞こえて来る恨み節のせいで、誰も部屋に入っていかなかったのだが、書類が溜まればそうはいかない。なので丁度そこに来た、ノンデリの塊が救いの神として段ボール1箱分の書類を持たされて、室内にやって来た。ちなみに書類の中身は、大半が出撃に関する報告書である。

 

 

「あ、エグザベさん」

「エグザベ君、ご苦労様」

「いえ。何騒いでるんですか?」

「え、あ、ええちょっと。出撃が多すぎる件で、ね」

「結婚式がどうとかも聞こえましたが」

 

 

 普通は黙って聞かないふりをするもんだろうとか思うアムロ少尉とシイコ大尉である。仕方なしに、2人はエグザベ少尉に愚痴の内容を語る。

 

 

「ああー。この1週と半分、いやそろそろ2週間になるか? 出撃漬けでしかも成果が無い場合が多かったですからね。でも上手くすれば、終わりますよ」

「「え」」

「スパイ網があるのは、相手だけじゃないって事です。ドズル・ザビのTVでの説得に傾倒した兵員は、キシリア派閥にも居たって事ですね。反省したらしいです。あと撃墜した敵機の数ですが、10に満たないとか言ってましたが、そのうち7機がここ数日に集中してるでしょう」

 

 

 頷くアムロ少尉とシイコ大尉。この2人は、これが戦場に対し兵員が慣れて来たためかと思っていたのだが。

 

 

「その民間人スパイ網ですが、崩壊を始めている模様です。我々の出撃の通報が、間に合ってないらしいんですよ」

「なるほど、そうなると」

「まあですが、もともとの残党ども(テロリスト)の活動活発化が、結局はとうとう物資不足が深刻になったせいでもありますからね。少なくとも組織のうち大きなところが」

 

 

 エグザベ少尉は、書類のうち幾つかを捲りながら語る。どうやらその書類は、そう言った事情が説明された物らしい。持って来た書類の大半は、ここ(トロイホース)に来て押し付けられた戦闘報告書であったが、一部は最初から持って来ようとしていたその手の書類であった様だ。

 

 

「んー、それでもって何か、ジオン残党(テロリスト)の規模大きな奴らの構成員、その一部ですけどね。ドズル閣下に死んでお詫びを、だがこういう想いでいた者がいる事を、知られないのは辛く苦しい、ってんで。で、残党共(テロリスト)どもに対する逆テロ仕掛けて死のうとしたんですが、説得して内部情報漏らさせてるらしいです情報部は」

「それって」

「どうにか助けて、せめて正式な裁判ってわけには」

「そう行かせるために、頑張ってるんですよ。今まで内実を知らされなかった僕らも含めて、ね」

「「あー」」

 

 

 そしてエグザベ少尉は、ブライト艦長から持たされた書類を手渡す。

 

 

「戦闘報告書のチェックと承認は後回しでいいですから、これだけは早くサイン下さい。『次の出撃』に関するブライト艦長からの命令書です。口頭じゃなく書面で来たって事は、『更に上』からの物ですね。許可を得て内容先に読みましたが、改心した連中の脱出と、(テロリストども)の本部を叩く、その作戦関係のモノですよ」

「わかったわ、ありがとう」

 

 

 シイコ大尉はそう言うと、書類を受け取った。そしてエグザベ少尉が再度口を開く。

 

 

「あと、結婚式は仕方ないけどせめて入籍だけして、夫婦別姓じゃないなら職場に於いての改姓申請だけしておかないと」

「そういうところよ、エグザベ君」

「え」

「普通、そこ突っ込まないで黙っててくれてもいいじゃないですか」

「あ、ごめんアムロ」

「「でもまあ、そうするしか無いか」」

「……」

 

 

 結局そうするなら、いいじゃないか、と思ったエグザベ少尉だった。まあだからノンデリと言われるのである。

 

 

 

*

 

 

 

 エグザベ少尉はスタリオンの艦上、自機のジムカスタムから別班のコウ少尉とキース少尉たち、そして彼らを率いるバニング大尉に通信を入れる。シイコ大尉たちトロイホース組は、時間差で既に出発していた。

 

 

「バニング大尉、アレン中尉、ラバン少尉、ウラキ、キース……。『そっちの方』は頼みました」

『おう、若いの。任せて置け。なあに、略奪の実行部隊に対する出撃、と見せかけて……。実は離脱してきた敵のスパイたちを保護する任務、だったな。改心して裁判を受けるってんだ。ちゃんと保護してやらんとな』

『だが、エグザベ少尉よぉ。相手の隊長だけは、モノホンのテロ屋だって話だったなぁ? そいつは』

「ええ、逃がさないで潰してください。……下手に生き残られると返って困ります。『潰して』くださいアレン中尉」

『『『『『『……』』』』』』

 

 

 バニング大尉たちだけではなく、通信を聞いていたスタリオン組の人員たちまでもが、エグザベ少尉の普段とのギャップに黙る。まあ任務に関しては厳しいのを知っている、旧来の隊員たちやコウ少尉、キース少尉のような士官学校の同期組は、動じない。

 

 

『バニング隊長、アレン中尉、ラバン少尉……。エグザベは任務とか訓練とかには無茶苦茶キビシイですから』

『怖いぐらいです。まあ一年戦争で英雄になるぐらいに苛酷な戦いを潜り抜けて来たわけですからね』

『なるほどな。片鱗だけだが、わかった気がする』

 

 

 そしてバニング大尉は、冗談めかして言った。

 

 

『昔の部下たちに応援を要請しようかと思ってたんだがな。やめといて良かった様だ。あいつらだと気性が荒いからな。こういう救出が絡む作戦には、向かん』

『お前さん方は、テロ屋どもの根拠地を相手の大多数ごと叩く任務、だったなぁ?』

「ええアレン中尉。頑張って来ますよ。ではお互い最善を尽くしましょう」

 

 

 そうしてバニング率いる部隊、改ペガサス級強襲揚陸艦スタリオンとそのMS(モビルスーツ)隊は、それぞれ発進して行った。

 

 

 

*

 

 

 

 エグザベ中尉待遇少尉は、部下であるアダム准尉、ゼロ少尉、ゲーツ少尉に語る。

 

 

「相手はかなりの数のMS(モビルスーツ)や、場合によってはMA(モビルアーマー)を隠し持っている可能性もある。オーストラリアで見受けられたライノサラスと言う機体の、別工場で作られたパーツがアフリカ方面に流れた、と言う情報もあるらしいからな。連邦軍から奪取したバストライナー砲は無いだろうから、存在していてもキャノン装備のA型だろうが」

『そいつが現れたら?』

「火力が絶大だからな。最優先で叩く。ただし今回は敵を1機たりとも逃がさないのが作戦目的だからな。それを忘れないでくれゼロ少尉」

『トロイホースは、敵の背後に回り、退路を断つんだったな?』

「ゲーツ少尉、その通りだ。だからまず、時間になったら僕らが攻撃を仕掛けて相手をトロイホースが張っている網に追い込む形になる」

 

 

 そしてアダム准尉が、あえてわざと(ほが)らかに言う。

 

 

『そんじゃあ、いっちょ楽に片付けるとしましょうや! アダム・スティングレイ准尉、発進します!』

「先に行くぞ、ゼロ少尉、ゲーツ少尉! エグザベ、ジムカスタム、出るぞ!」

 

 

 カタパルトのGが、尻を蹴り飛ばす。エグザベの機体は、宙に舞った。

 

 

 

*

 

 

 

 爆発音が響く。あちこち装甲が無く、あからさまに未完成だが、地上用MA(モビルアーマー)ライノサラスだ。装甲が欠落していても、その火力は絶大である。カイは舌打ちした。

 

「シイコ大尉とアムロは、東の戦線だしなあ。サンダースJr.!! カレンさんやい! ちょっとだけでいいから、隙を作れねえか!?」

『済まない、難しい』

『悪ぃ、こっちゃドム2機相手で動きが取れない! あと30秒待ってくれ!』

「コンマ5秒隙がありゃあ、ジムキャノンⅡのビームカノン叩き込んでやれるんだがなッ!! と!!」

 

 

 カイは回り込んで来たザクⅡF2型を、ジム・ライフルで撃つ。最新式の徹甲弾が、ザクⅡ系列の今となっては薄い装甲板を穿った。ジム・カスタムにも用いられているこのジム・ライフルは、ドムの重装甲ですらも貫く威力があり、ビームに対する防護が色々考案されつつあるこの時代ではその汎用性はビームライフルをも超越する。

 

 

『うわあぁ! 申し訳ありません、支援を!』

「ち、サマナちゃん待ってな! 今行く!」

 

 

 ザクⅡF2型に近距離に踏み込まれて焦るサマナ准尉を、カイはビームサーベルで斬り払う事で救った。ジムキャノンⅡは支援機タイプではあるが、それでも相応に近接能力も高い。

 

 

『あ、ありがとうございます!』

「いいって、いいって。次は俺を助けてくれよな」

 

 

 だが遮蔽物の陰に隠れていても、ライノサラスの大火力は面倒だ。エグザベ少尉のスタリオン隊は敵拠点の北側、シイコ大尉とアムロ少尉、セイラ少尉、ハヤト少尉は東側に少し離れた地点。総合力としては東側チームの方が、シイコ大尉とアムロ少尉が揃っているだけ大きい。

 

 

「ライノサラスが、あっち行ってりゃあなあ……」

 

 

 だが、愚痴を言っても仕方がない。どうにかカレン少尉かサンダースJr.少尉が彼らの敵を倒して、ライノサラスの注意を惹いてくれるのを待つしか無い。カレン少尉は30秒と言ったが、予想以上に手間取っている模様だった。

 

 ……その時である。オープン回線で、敵陣から怒声が立ち昇った。

 

 

『うおおおぉぉぉ! ドズル閣下、万歳! 贖罪を! (つぐな)いを!! (あがな)いを!!』

 

 

 そしてカイの視界の中で、ライノサラスの中枢部にヒート剣を突き刺して、周囲のザクⅡF2型やJ型から、ザクマシンガンの集中打を浴びるグフB3型の姿があった。カイは一瞬あっけにとられるが、叫ぶ。

 

 

「ばばば、馬ッ鹿野郎!!」

 

 

 爆散するライノサラス、その爆風で吹き飛ぶグフB3型。だがグフB3型は左腕のシールドバルカンと左手首のハンドバルカンを、周囲のザクⅡどもに向かい撃ち放つ。自身も穴だらけになりながら、叫ぶ。

 

 

『じ、自分には、これしか!』

「馬鹿野郎! ドズル・ザビが言った事はそうじゃねえぞ! (つぐな)いたいなら、(あがな)いたいなら、ちゃんと生き残って裁判受けやがれ!」

『サイド1、2、4、5のスペースノイドたち……!! それにこの地の民衆たちは、スペースノイドとかわらずに、貧困にあえぎ、苦しんでいたではないか……!! なのに、自分は、なのに、わたしは! 彼らを苦しめ、命を奪い! 命の糧である食料や燃料を奪い!』

「わかってんなら、生き残れ! 裁判受けろ!」

『これ以上の、生き恥、耐えられ、ぬ……』

「ドズル泣くぞオラぁ!!」

 

 

 爆発四散する、グフB3型。操縦士(パイロット)の命の火が消えたのを、カイの『感覚』が伝えて来る。絶叫しつつカイは、ザクⅡJ型とF2型に、ビームキャノンを、ジム・ライフルを叩き込んだ。

 

 

 

*

 

 

 

 この地域で最大のジオン残党(テロリスト)本隊殲滅作戦は、成功裏に終わる。だが、何とも後味の悪い終わり、ではあった。




ジオン公国軍には軍人はおらず、戦士や武人だけなのですなー。そして今回も、前半と後半の温度差よ……。

とりあえずアフリカ戦線への出稼ぎは終了です。また主人公陣は、別のところへ行かされます。でもそろそろGPシリーズの話が出て来るんだよなあ。
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