偽書・ガンダム機動戦記   作:雑草弁士

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第32話 復活のシン

 そびえ立つ、巨大な金属の人型。オーストラリア大陸はトリントン基地の格納庫で、RX-78GP01ゼフィランサスから降りて来たシン大尉は、大きく息を吐いた。

 

 

「……こいつは凄いは凄い。と言うか、俺みたいなのがテスパイやるべき機体じゃねえなあ。あの英雄サマみたいなのが相応しい……機た……い? いや」

 

 

 そしてシン大尉は、首を傾げる。あの二年前にビグ・ザムから彼を救った英雄サマ達とその乗機であるRX-78NT-1やRX-78NT-2を思い出すと、『アレ? なんか違わね?』と思ってしまうのだ。いや、彼がテストパイロットをやって良い機体じゃない、とは思う。これだけの高級機に、彼は相応しくない、と思う。

 だがあのアムロ・レイ、エグザベ・オリベ、シイコ・スガイ……いや、軍広報で最近シイコ・レイになったと聞いたが、あの英雄たちからすると、なんだろう? 違う感じがするのだ。

 

 

「確かに高性能、なんだけどなあ。なんか彼らだと、肌に合わないんじゃないかね……」

「あら、大尉。この機体(ガンダム)に文句でも?」

「おわ! ニナ・パープルトンさん! いやいや、そうじゃねえって。俺ごときには凄い勿体ないって思ってたんだ」

「あら、そうかしら」

 

 

 一転して笑顔になったニナ女史に対し、シン大尉は続ける。

 

 

「ただよ。これはなんて言うのかな。正直に言わせてもらうんだが。俺たちみたいな、いや俺よりもっと強い操縦士(パイロット)含めて……『普通の奴の中での最高峰』の操縦士(パイロット)向けって、そんな気がするんだわ」

「……どういう意味、かしら?」

「俺は、一年戦争で死にかけた事がある。それを、あの『英雄』たちに救われた。俺もおこぼれで勲章貰ったが、彼らはそう、桁が10も100も外れてた。そう感じたんだ。俺はこの機体に相応しいのは、ああいう奴らじゃないかって一瞬思って、でも違うって感じた。アレらは、『外れ値』だ。アレらに合致するのは、『普通の中の超級機体』じゃない。彼らは今思うに、あの伝説のRX-78NT-1、ガンダムアレックスですら、もしかしたら足かせ付けて戦ってたんじゃないかって、感じる。そしてこの機体……」

 

 

 ニナ女史は、上機嫌から一転して目を吊り上げて怒り心頭であった模様だが、しかし今は真摯に意見を聞く顔になっていた。目はちょっと座っていたが。

 

 

「この機体、剛性や耐久性、瞬間最大火力、その他諸々に於いて、二年前の機体であるガンダムアレックスを凌駕している。だが。単純な戦闘力という面では、NT-1とそう大差ないレベル、だと感じる。NT-1が2機とNT-2の戦闘を間近で見た俺が言うんだ。間違いない。

 そしてあの『英雄』たちが操るには、なんて言うのか……。『合ってない』んだ。何処がどう、とは上手く言えない。だけど彼らに『合う』機体じゃない。そしてもし、もしも、だ。彼らに『合う』機体を造ったら、それは普通の範疇にいる操縦士(パイロット)には、致命的に『合わない』MS(モビルスーツ)になるだろうさ。それがどんなトップクラスの操縦士(パイロット)だとしてもな」

「言いたい事は、理解できたわ。そしてこの機体(ガンダム)(けな)してるってわけじゃない事も。でも、微妙に腹が立つわね」

「すまない」

 

 

 ニナ女史は大きく息を吐いて感情を沈めると、もう1機のMS(モビルスーツ)を見遣って言った。……RX-78GP-02A、ガンダム試作2号機サイサリス、である。

 

 

「それでMS(モビルスーツ)ソムリエさんから言わせれば、あちらの機体(ガンダム)はどんなものかしら?」

「意地悪言わんでくれ。そうだな、1号機に比べれば鈍重だ。だがそれは核バズーカのプラットフォームという意味合いから、外せない条件なんだろう。射撃時の圧倒的な安定性、って奴だな」

「それで?」

「能力的なバランスからすれば、正直な話、『核爆弾投射機体』なんてのには乗った事がないから、あまり言えることは無い。ただ、かなりの高性能で高いバランスを保っている機体だ、とは言う。だが、保有する固有火器、いや武器が少なすぎる。頭部60mmバルカンとビームサーベルだけってのは勘弁してくれ。

 ……俺がこの機体で、核攻撃しろって言われたら、その場で辞表を書く。命惜しさに、だ。核攻撃をしなければならん以上、護衛機は無しに等しい。対核シールドを持つ以上、核爆弾投射時に、核爆発に巻き込まれるんだろう。なら護衛機は連れていけない。なのにまともな武器が無いってのは、どういうこった!!」

「きゃ!」

 

 

 唐突にシン大尉はキレた。ニナ女史は悲鳴を上げて焦る。

 

 

「なんだこの機体は! 操縦士(パイロット)を無駄死にさせる気か! よほどのエース中のエース以外の操縦士(パイロット)じゃ、射撃位置にたどり着く事もできずに死ぬ! 無駄死にだ! 誰だこの仕様考えた、戦場を知らない阿呆は! 連れて来い! くびり殺してやる! こんなのに、俺の部下や仲間や、いやクソ上司なら構わんかもしれんが、乗せてたまるか!!」

「ちょ、落ち着いて!」

 

 

 シン大尉は肩を落とし、大きく息を吐く。

 

 

「あんたを責める気は無いさ。仕様書作ったのは、あんたじゃないだろ? 武器選定も。技術力としては大したもんだ。造った技師は、責めるどころか良くやったって褒められるレベルだ。けどなあ……。せめてもっと武器、ビームライフルか、せめてスプレーガン持たせろって話だ。いや、核バズーカ載せるためもあって、他の所で軽量化したかったのかも知れんが」

「えっと……」

「……なんであんた、目が泳いでる。まさか仕様決定に、あんた関わってるとか、言わないよな?」

「ももももちろんよ!」

 

 

キュピーン!

 

 

 なんかニュータイプ感覚が無駄に働いたが、シン大尉は今更何も言わなかった。ただ遠い目で、試作2号機を見遣っただけである。

 

 

「……作業員! 純粋にテストのためだけに試作2号機に実弾の核をいったん装填したが、取り出して秘匿貯蔵庫に戻せ! いますぐに!」

「え、やるんスか」

「あたりまえだ! 規則だ! やれ! いますぐ!!」

「は、はいっ!」

 

 

 シン大尉のニュータイプ感覚は、だが作業員の内心のつぶやきを捉える。

 

 

(どうせ試作2号機運び出す時にゃ、Mk.82核弾頭もいっしょに持ってくんだし、いいじゃねーか)

「聞こえてっぞ!! 俺は大尉! お前軍曹! お前の上長に正式の文書でもってけん責処分申請して欲しいか、ああん!?」

「お、俺口に出てた!? 出てないよね!? いやもしかして、考えてる事口に出すクセが!?」

「いいから、やれーーー!!」

「はいいいぃぃぃ!!」

 

 

 そしてシン大尉は、肩をがっくりと落とす。

 

 

(駄目だ……。戦場帰りが俺以外誰もいねえ……。あんのクソジオンの狂気、誰も理解してねえ。もしも今ここにジオンの残党どもが『遊びに』でも来たら、皆死ぬ、ぞ)

 

 

 そんな彼の背中を、ニナ・パープルトン女史が呆然と見ている。当然ながら彼女も、シン大尉の懸念を共有はしていなかった。

 

 

 

*

 

 

 

 翌週もシン大尉は、ひたすらGP-01ゼフィランサスに乗ってテストを繰り返していた。トリントン基地所属のテストパイロットたちと、パワードGM相手に模擬戦やったり、それなりに、それなりには充実している。だが……。

 

 

「はぁ~……」

 

 

 シン大尉は大きく溜息を吐く。いや戦場帰りが欲しいとは言った。言ったが、問題児が来て欲しいとはついぞ言った記憶は無い。

 

 

「……アルビオン隊、か」

 

 

 ペガサス最終型強襲揚陸艦アルビオンと、それに搭載されているMS(モビルスーツ)隊のパイロット達。いや最終型とは今のところ言われているが、もしこの後にペガサス形式の艦が仕様変更して造られれば、それが新たに最終型の名を冠する事にはなるんだろう。いや、言いたい事はそれではない。

 アルファ・A・ベイト中尉、ベルナルド・モンシア中尉、チャップ・アデル少尉……。一年戦争時代に、サウス・バニング大尉の率いる不死身の第四小隊で、勇名を鳴らしたMS(モビルスーツ)操縦士(パイロット)達だ。それはいい。それはいいのだ。

 核バズーカ搭載機であるGP-02Aサイサリスの試験のため、2週間前にアルビオンがトリントン基地にGP-01ゼフィランサスとGP-02Aサイサリスを運んで来て、別件のためすぐにジャブローに取って返したのはいい。GPシリーズ2機の試験を、トリントン基地に居たテストパイロット中で一番技量が高かったシン大尉が仰せつかったのも、別にいい。

 だがアルビオンが戻って来たとき、これまた別件でいったん降ろしていたベイト中尉、モンシア中尉、アデル少尉の3人を乗せて戻って来たのは、正直頭が痛かった。こいつら、特にモンシア中尉はシン大尉がGPシリーズ、ガンダムのテスパイをしている事に文句たらたらだったのだ。嫌味の1つ2つは当然。それどころか階級無視して喧嘩を吹っかけて来たりもした。あげくにガンダムのパイロットの座を賭けて勝負しろなどと言い出す始末。

 ガンダムのテスパイは、上からの命令でどうしようもない、と言っても聞く耳持たず。仕方ないので、こっちはジム改、あっちはジムカスタムというハンディキャップマッチで、軽くひねってやった。シン大尉はこれでもニュータイプ能力に目覚めた、これでも実戦経験豊かな、ソロモン戦以前はボールで、ソロモン戦ではA型GMで、ア・バオア・クー戦ではGMスナイパーカスタムで、濃密な経験を積んだ凄腕パイロットなのだ。まあ自己評価は、何故か異様に低いが。

 そうしたら、実力では敵わないと思ったのか、それとも認めたくないだけなのか、色々と地味に嫌がらせをして来たりもする。仕方がないので、階級を笠に着て懲罰をほのめかし、ようやっと黙らせたのだ。

 

 

「頭痛え……」

 

 

 今日もシン大尉は、GP-01でビームライフルの射撃テストである。格納庫の端で、モンシア中尉たちが胡乱な表情をしているのが苛立たしい。

 

 

 

*

 

 

 

 その時、シン大尉の脳裏に白い閃光が走った。

 

 

 

*

 

 

 

 シン大尉は叫ぶ。

 

 

「そこの3人! すぐにジムカスタムとジムキャノンⅡ起動しろ! 『来る』ぞ!!」

「んあ!? な、何言ってやがる、っておいぃ!!」

 

 

 既にシン大尉は、GP-01ゼフィランサスのコクピットに飛び込んでシステム起動していた。画面の操作で、テストパターンとテストプログラムを停止し、実戦システムを走らせる。武器、ビームライフルとビームキャノン、ビームサーベルの出力を、ディップスイッチを叩き入れて試験用から実戦用に切り替え。外部スピーカーをONにして、作業員をしている整備兵たちに怒鳴る。

 

 

「作業員!! 緊急事態だ! GP-02Aサイサリスの核融合炉をシャットダウンしろ! 責任は俺が取る! 何が何でも動かないようにするんだ! ……ばかやろう、現場の判断、大尉である俺の命令だ! 更なる上の判断が無い限り、これは覆らん!」

 

 

 基地の司令か副司令でもないかぎり、大尉以上の階級の者はいない。いや、アルビオンのエイパー・シナプス大佐が居た。だが今現在GP-02Aサイサリスの管轄は、トリントン基地。司令と副司令に話が通るまでには、間違いなくサイサリスの核融合炉の火は『落ち』る。

 そして、それまでには確実に……。

 

 

「確実に、襲撃が発生する」

 

 

 そして彼が格納庫からGP-01ゼフィランサスを歩みださせた時、緊急事態を知らせるサイレンが、基地全体に鳴り響いた。

 

 

 

*

 

 

 

 今となっては旧式の部類に入るMS-09ドム。そのコクピットで、元ジオン公国軍兵士にして元グラナダ特戦隊隊員リリア・フローベールは、微笑んでいた。ジャイアント・バズから放たれる砲弾に、トリントン基地の塀が破られた。そこからドムの高速性を活かして敷地内に突入する。後ろから仲間たち、ギュスター・バイパーとユイマン・カーライルの駆る、2機のMS-14G陸戦用ゲルググが続く。

 

 

「親衛隊の馬鹿どもが。せっかくの核攻撃用ガンダムを、そのお株である核による攻撃で破壊し、反抗ののろしとする、だと? もったいないじゃないの。せっかくの核攻撃用ガンダム……。それをもって、あの恥知らずども、ジオン共和国を名乗るクソどもを! ズム・シティを核の業火で焼き尽くし、キシリア様の! マレット隊長の! 隊長の信念を! 思いを! 想いを! 成し遂げてみせる!!」

 

 

 リリアの脳裏には、いや、彼女の視界には、不敵に笑う、不敵に(わら)う、かつてのグラナダ特戦隊の隊長、マレット・サンギーヌの姿が映っていた。その笑みは、連邦を、ギレン派を、ドズル派を……。キシリア派以外、いやキシリアとグラナダ特戦隊以外を全て嘲笑(あざわら)う、そんな笑みだ。しかしながら、リリアにはその笑みは、この上無く美しく見えていた。




モブキャラ、シン少尉(当時・現在は大尉)活躍編です。彼、モンシアより強くなってます。ニュータイプ能力無しでも。そしてニュータイプ能力あるので、更に強いです。

ちなみに今回も、GP-02Aサイサリス、こき下ろされてます。ファンのひと、ごめんなさい。

〆はリリアさん。正史(LEGACY)ではシルバー・ランス作戦で見せた狂気が、此度はガンダム試作2号機へ向かいます。シン大尉の下した、試作2号機核融合炉シャットダウンは、間に合うのか。それとも奪取されてしまうのか。
あと、親衛隊=ギレン派に先んじてキシリア派のリリアさん攻撃掛けましたけど、親衛隊に偶然先んじる事ができた、という方が正しいです。親衛隊も、試作2号機を核で処理してしまうため、急いでます。そして更にそれを追うブライトさんたち。はてさて。

シン大尉の頑張り『だけ』に全てかかってそうな気も。作者はモンシアたち、あんまり信じてません(笑)。スーパーロボット大戦α for Dreamcastでは強かったんですけどね。
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